ある少年の高校生活   作:マニルマ

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初色々

 「ふぁ〜。」

 急激な眠気に襲われる。それもそうだろう。現在は始業式の真っ只中、それも、全生徒に強烈な催眠術を施すことで有名な校長先生のありがたいお言葉なのだから、少しくらい眠くなってしまっても俺に非はないだろう。

 こういう時間はなぜか長く感じてしまうものだ。俺は朦朧とする意識の中ひたすら意味のない問いについて答えを考えることに興じていた。

 

 

「....というわけで、これから自己紹介をしてもらう!」

 クラス中から「えー」だの「まじかー」だの不平を言う声が聞こえてくる。

 気持ちは分からなくもない。なぜなら、これから行われる自己紹介によって1年間がほぼ決まると言って過言ではないからだ。どうする。ここは無難にやり過ごすべきか? それとも一発かますべきか? まあ、結局俺は無難に自己紹介を終えるのだろうが。

「......です。出身は緑中学です。よろしくお願いします」

 ひとつ前の席の男の紹介が終わったようだ。次は俺の番だ。しかし、面識のない人達の前で話すというのは中々緊張するものだな。あー、緊張緊張。だが、俺はひとつ呼吸を整えると、クラス中に聞こえるくらいの声量で語りだした。

「青山 翔太です。出身中学は北中学です。1年間よろしくお願いします!」

 俺が自己紹介をおえるとパチパチと拍手の音が聞こえてきた。どうやら無難に発表を終えることができたらしい。ふぅ。一安心だぜ。

 その後、皆聞いているのかいないのか分からないような調子で次々と自己紹介は進んでいく。

 おっ次は白石さんか。俺はそこでようやく聞く耳を立てた。

「白石 雪奈です。出身中学は南中学校です。趣味はピアノを演奏することです。1年間よろしくお願いします!」

 パチパチと心なしか他の人より大きな拍手が聞こえてくる。しかし、本当に可愛いな。髪型はボブカットというのだろうか。まあそんな感じだ。顔立ちは美人というよりも可愛いと評する方が適切だろうか。俺はこんな可愛い子と隣の席になることができたという幸運を神に感謝することにした。神、グッジョブ。

 

 

 放課後となった。初日ということもあり、午前中で終わるらしい。

 俺は教卓に置いてある課題提出ボックスなるものに課題を提出すると、下校する準備を始めた。

「なあ、お前北中の青山だろ? 俺覚えてるか?」

 唐突に後ろから声をかけられた。はて、どちら様だろうか。

「俺、中学のときお前と試合したことあるはずなんだけど......」

 俺は中学のときにテニス部に所属していた。彼とはその時のどこかで試合をしたのだろう。

 そういえば、どこか見覚えが、ある。確か名前は......

「緑川君。だっけ?」

「おっ! 当たり! 俺、『緑川 亮』っていうんだ! よろしくな!」

 こんな遠い学校で、面識のある人物と出会えるとは。

 今日はやっぱ運がいいなぁ。

「ああ、よろしく」

 俺は彼に返事をした。彼は俺の返事を聞くと、ニッと笑った。彼の笑顔はどこか柴犬のような印象を感じさせた。

「青山、お前この後ヒマか?」

「親睦会もかねてどっか食べにいこうぜ!」

 彼はきさくな人物なのだろう。俺を食事に誘ってきた。俺はどちらかというと自分から話しかけるのは苦手なタイプだ。だから、この誘いはとてもありがたい。

「ああ、空いてるよ。行こうぜ」

 そういって俺達は教室を後にした。俺の高校生活は順調なスタートをきれたようだ。

 今の俺の心に不安はどこにもない。あるのは、これから始まる高校生活への楽しみただひとつである。

 

 




初日が終わりました。
ぜひ彼の高校生活を気長に見守っていってあげてください。

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