これは一体どういうことだろう……
辺りを見渡すと人気のない鬱蒼とした森であり、わずかな木漏れ日だけが僕を照らしている。
見慣れた場所だから分かる、ここは‘実家’の近くの森だろう。
なぜこんな場所にいるのか、それも疑問の一つではあるが、それよりもさらに大きな問題がある。
僕自身だ。
自分の小さな手、そして‘孫’と書かれた衣服に包まれた胴体と、自分の体を順々にじっくりと見つめ、一つの推測が頭に浮かぶ。
……子供になっている?
理由なんて分からない、けれど、状況から判断するにそうとしか考えられない。
頭にかぶっていたドラゴンボールがちょこんと乗っている父さんが‘昔’にくれた帽子を手に取り見つめながらそう確信する。
……。
分からないことが多くあるけれど、とりあえず誰かと合流しよう。
そう思い、意識を集中させ辺りの気を探る。
するとすぐによく見知った気を感じることができた。
これは父さんの気、家にいるのかな?
それにしても、このお父さんの気……
あまりにも小さくないだろうか?
普段は気を押さえているから気が小さいのは当然なのだが……。
仮に気を押さえていても潜在的にどれくらいの気を隠し持っているかは、ざっくり分かるものだ。
それを踏まえても父さんの気はあまりに小さく感じる。
別人だと疑いたいくらいだが、この優しく穏やかな気は間違いなく父さんの気だ。
疑問は残るが、父さんの元へ向かうべく空に向かって飛び立つ。
「わっ!? お、遅い!?」
ノロノロという効果音でも出ているのはないかというくらいの速度しか出せなかった。
そうか、子供になっているせいで気が全然ないんだ。
これはちょっと時間がかかっちゃうな……。
数十秒後、ようやく僕は父さんの元へたどり着くことができた。
すぐそばには、食事の用意をしている母さんもいた……けど。
「え……か、母さん…だよね??」
僕は驚きを隠しきれずに、ワナワナと震えながらそう尋ねざるを得ない。
だって、目の前にいる母さんはあまりも若かったから。
父さんは見た目は変わりなかったけど、やっぱり気の量が絶対的に少なくなっている。
「ご、悟飯、おめえ、いつの間に空を飛べるようになったんだ??」
「悟飯ちゃん! 誰が母さんだべ! お母さんだ!!」
驚いたように、しかし、どこか嬉しそうにそう聞いてくる父さん。
鬼のような形相と化した母さんに、どこに行っていたのかとこってり怒られた後、僕達3人は食事を摂った。
久しぶりに3人で食べるご飯は、すごく懐かしい味がした。
食事の最中に、母さんと父さんにさりげなく聞いた情報をもとに整理すると、
どうも僕は、過去にタイムリープをしてしまったようだ。
気や肉体は当時のままで、記憶だけが過去に来てしまった状態。
だから父さんの気が小さく、僕が子供になってしまい、母さんが若い、ということらしい。
驚いていない、と言えば嘘になるけど、トランクス君がタイムマシーンで未来から過去に来た位だし、取り乱すほどの衝撃はなかった。
ちなみにだけど、このことは父さんと母さんには話していない。
信じてもらえるか分からなかったからね、特に母さんには……。
僕は食事後、一人考えていた。
どうしてこんなことになったんだろう……。
僕がこうなってしまう直前の記憶を探ってもその原因を突き止めることは叶わない。
僕以外にも同じようにタイムリープした人もいるのだろうか?
しかし、それら以外にも考えるべきことがある。
これからどう生きていくか、だ。
僕が経験してきたことがそのまま起きるのであれば、これから先、地球には何度も危機が迫ることになる。
そこまで考え、僕は自分が送ってきた人生を改めて振り返ってみる。
僕は幾度となく押し寄せる地球のピンチの度に父さんたちとともに戦ってきた。
しかし父さんと違い、戦いが好きではない僕はいつもどこかで戦いにおいて消極的な部分があった。
最終的には、毎回ドラゴンボールで犠牲のほとんどは解消されたとはいえ、その中には 僕が強ければ死なずに救えた命だってあった。
それにいつだって地球を救ってきたのは父さんだ。
僕は何もしていない。
それどころか僕の愚かな行動のせいで父さんを死に追いやったことすらある。
もし、父さんがいなくなればどうする?
僕は地球を守ることができるだろうか?
この先の未来、これまで僕が出会ってきた敵より強い敵が現れない保証はあるだろうか?
その時も父さんとドラゴンボールによって、すべてが丸く収まる保証はあるだろうか?
いや、そんな保証はどこにもない。
現に未来から来たトランクス君が言っていたではないか。
ドラゴンボールがなくなり、父さんが心臓の病気で死んでしまった未来の世界では、人造人間によって地獄のような世界になったと。
その時、僕は人造人間の前になすすべなく殺されてしまった、と。
再び僕が同じようにこれからを生きてくと、将来学者として愛する家族を養うことになる。
しかし、それは正しいのだろうか?
本当に戦いの場から引退しても良かったのだろうか?
どこかで父さんとドラゴンボールがあれば大丈夫と、甘えていなかったか?
真になるべくは、誰をも守ることのできる絶対的な強者ではないか??
それに父さんもよく言ってくれていた。
僕には、誰にも負けないとんでもない才能が眠っていると。
であれば……
「お~い、悟飯~、おっ、いたいた! そろそろ亀仙人のじっちゃんのとこn」
「父さん!」
「えっ……どうしたんだ?」
僕を呼びに来た父さんに対して、自分でもびっくりするくらい大きな声で父さんの名前を呼ぶ。
父さんも驚いてるようで、目をパチクリさせ、こちらを見ている。
「僕……、強くなりますっ!! 大切な人たちを守れるような強い人に!!」
この僕が放ったセリフに対し、最初父さんはポカンとした表情を浮かべていた。しかしすぐに4歳児には似合わない真剣な表情を浮かべる僕を確認すると、何かを納得したように、ニッと嬉しそうな笑みを浮かべ
「そっか、よく言った!」
と言い、そのたくましく大きな手で優しく僕の頭をポンポンと撫でててくれるのだった。
つづく
第一話読んで頂きありがとうございます!
ドラゴンボールが大好きですが、以前より悟飯について、凄く強いのに修行をしていない時期があったり、学者になってしまったりと、勿体ないな~と思っていたのが今回の作品を書くきっかけになっています。
次話も良ければ読んでみてください!