今、レイオスは自分の背の半分ぐらいしかないと思うぐらい身長の低いヴィーダ三尉に連れられて隊舎内の廊下を歩いている。
っていうか、本当に小さい。これで自分と年が近いというのだから驚きだ。どうみても小学一年ぐらいにしか見えないのだが。
『失礼なやつだな』
『俺は正直な人なんで』
頭の中を読んだ宝石に自分はピュアであることを証明しておく。
ていうより、何故自分はヴィーダ三尉に連行されたのだろうか。いや、ちょいとついてきてくれないかと言われた時点で他の方々よりいいが。主にいきなり強制連行されない意味で。
シャリオ主任の所をなんとか抜け出した後、自分の持ち場にいき仕事をするべく移動していたのだが、途中通った休憩室で牛乳をラッパ飲みしていたヴィーダ三尉に遭遇。顔を赤くしながら近づき他の奴には絶対言うなよ、絶対だからな!と意味不明の言葉を投げかけられながら、そうだ。お前に用があるんだった、と言われ今の状態に至る。うん、なにがなんやら。
「お前、レイオスだったか。確か陸戦魔導師だったよな、総合ランクA+の」
「はい。そうですが」
「ならいい。死んだりはしないだろ」
…………はい?
何やらとても物騒なセリフが聞こえた気がする。気のせいだろうか?
「今からお前の実力を確かめるついでに新人の訓練を始める。そこでお前は新人達と戦ってもらうからな」
気のせいではなかった。それどころか完全に死亡フラグだ。
「……拒否権は?」
「ない」
「ですよね〜」
最初からわかってはいたが、こうも死亡フラグというやつを実際に目の当たりにするとなんだかやりきれない気分になる。
それにしても、新人達と戦闘か……。達、というぐらいなのだからおそらく複数人いるのだろう。つまり、戦闘スタイルに関しても一対一ではなく、一対多の戦闘スタイルに変えなければならない。
「ついでに新人たちにお前のことも紹介するからな」
どうやら、ついでに自分のことを新人たちに紹介するらしい。ついでではなく、一番初めに紹介してほしいのだが。
一応納得したレイオスは、
「了解しました。ヴィーダ三尉」
と返事を返す。すると、何を思ったのかヴィーダ三尉はその場で動きを止めた。不思議に思いながらレイオスもその場で止まる。
すると、
「おい、レイオス」
「はっ、なんでしょうかヴィーダ三尉」
「お前、その敬語やめろっ」
……機動六課という場所は何故こうまでして、親睦を深めようとするのだろうか。いや、それとも積極的ではない自分が間違っているのだろうか。
もともと一人を好むレイオスにとって、こういう類の申し出はどう反応していいかわからないものだった。陸にいた時には、必ず目上の者には敬語をつけ目上の者も後輩に示しがつくよう率先して態度を改めさせよ、というのが普通だったのだが機動六課は違うらしい。
「しかし、それは……」
「別に問題ないだろ。なにか、それとも私の言うことを聞けないのか?」
こちらを向いて腕組をする。なんとも微笑ましい光景だ。小学生にしか見えないです。
レイオスは少しの間を置いた後、右手をのばして
「わかったよ、ヴィーダ。そのかわり俺のこともレイオスってよんでくれ」
「最初っからそのつもりだけどね、まあいいよ。それじゃあいこうか、大分待たせてるからな」
「ああ」
こういうのも悪くないな。そう思いながら、レイオスはヴィーダの後を歩いて行った。自分では気づいていないようだが、その足取りは少し軽くなっていた。
訓練場にはもう、新人たちが集まっていた。レイオスも急いでヴィーダに続きその場にたどりつく。
「ヴィーダちゃん、遅いよ」
めずらしいサイドポニーの髪形をした女性が頬を膨らませてヴィーダに話しかける。誰、というまでもない。陸でも有名だった女性、高町なのは隊長だ。エースオブエース、魔王などなど。色々な宇佐和が絶えないが、唯一わかっているのはその全ての二つ名が彼女の強さに関係している。
子供のころからAAAクラスの魔導師だったらしく、今ではそれ以上のSランク魔導師らしい。まったくもって勝てる気がしない。子供のころからAAAクラスって化け物以外の何物でもないだろう。今のおれでさえなんとかA+なのに。
「わりいわりい。レイオスを探してたら手間取ってさ」
「え、あれはヴィーダが牛乳・・・ヒッ!?」
「お前が迷子になってたんだよな?」
「ハイソウデス。ジブンガマイゴニナッテマシタ」
「? そう、ならいいけど……」
前言撤回を申し上げる。やっぱり機動六課の人たちはろくなやつがいない。ちょっと口を滑らせただけでデバイスを俺の首に突き付けるヴィーダを見てそう思った。
「じゃあ、後は任せたぜ」
そう言って、この場から立ち去るヴィーダ。彼女は訓練を見に行かないのだろうか?
「わかった。それじゃあウォーリア君、今から新人たちを紹介するね?後、ウォーリア君て名字で呼ぶのもなんだし私もヴィーダちゃん見たいに名前で呼んでいいかな?」
またか、という思いが浮かぶ前に別にいいか、という思いのほうが先に浮かぶ。別に減るものでも何でもないし。
「問題ないです。それじゃあ、えと……高町?でいいのかな」
すると、高町は先ほどヴィーダに向けたものより大きく頬を膨らませた。
「なのは、なのはって呼んで。ヴィーダちゃんの時はヴィーダって呼んでたでしょ?」
「あ、はあ。それじゃあ……なのは?」
「うん、よろしい!」
邪気のない笑顔でなのははこちらを見た。その容姿に少し綺麗だな、と思っていると訓練場の奥から誰かが走ってきた。
一人目は青い髪の女性。活発そうな雰囲気を出しており、服装も動きやすさを重視したような服だ。いや、バリアジャケットというべきだろうか。
二人目はオレンジ色の髪をツインテールにした女性。こちらは青い髪の女性とは打って変わって真面目そうな雰囲気だ。何故かはわからないが若干、こちらを睨んでいるのは気のせいだろう。うん、気のせいだと思いたい。すっごく視線が痛いがそんなのは気にしない。だって男の子だもん。
三人目はこれまた小さな男の子だ。髪は赤より少々濃い色をしている。まだ幼さは残るものの、その顔つきはしっかりとしている。
最後が三人目の男の子とそう変わらない年の女の子だ。髪はピンク色。そのあどけない顔からは屈託ない笑顔がこちらに向けられている。とても眩しい、自分にもああいう時期があったかと思うと恥ずかしくて死にそうだけど。
「みんな、この人が新しく入隊したレイオス・ウォーリア一等陸士です。今日から私の補佐として活躍してもらいます」
『聞いてないんだけど』
『あきらめろ』
初めて聞く事にもはや驚きを通り越して諦めを感じながらレイオスも挨拶をする。
「初めまして。先ほどなのは隊長が言いましたが俺の名前はレイオスという。階級的には俺のほうが君たちより上だがあまり気にしないでほしい。まあ、敬語だけはしっかりな」
「「は、はい!」」
四人とも大きな声で返事をする。うん、いい声だ。やる気があるのがしっかりと伝わってくる。それに比べて俺は……あ、やめとこう。考えたら涙が出てきた。
「それじゃあ、あなたたちも自己紹介を」
なのはがそういうと、一番初めに青髪の女性が一歩前に進み出た。
「スバル・ナカジマって言います!同じ陸戦魔導師として色々教えていただけたら嬉しいです!」
元気だな〜〜、とレイオスは思う。やはりどこの世界でも若者は元気が一番だと実感させられる。自分もまだ19歳だが。
次に前に進み出たのは先ほどレイオスを睨みつけていたツインテールの女性だ。まだこちらを睨みつけている。
(俺なんかしたかな?)
身に覚えのない事だが、彼女に直接聞くわけにもいかない。
「ティアナ・ランスターと言います。階級は二等陸士、あなたの噂は地上部隊にいた頃からよく知っています。曰く、『一匹狼』と」
そういってティアナは後ろに下がった。
『威嚇してるよな……』
『女子になめられるとは……お前もまだまだだな』
『ほっとけ』
レイオスが陸にいた頃の二つ名の意味を知っていながら今この場で言ったという事はこちらのことを完全に見下している、といっても過言ではない。
一匹狼、聞こえはいいが実際の所は誰にも群れない、群れることが出来ない仲間外れのかわいそうな人という意味だ。陸にいた頃は、砲撃隊にいたにもかかわらず接近戦を多用することもあって完全に仲間外れにされていた時期もあった。一度、ゼストという人にうちの部隊に来ないかと誘いを受けたこともあるがあのときは自分でも思い出したくないほどひねくれていたせいで申し出を断っていた。しかし、そのお陰で機動六課に来れたのだからよしとしよう。
「俺の二つ名を覚えているとは光栄だ。だが、それだけで人を判断するというのは二流の魔導師だ。覚えておけ」
「なっ!?」
こちらも簡単にだが威嚇する。やられたらやり返せ、それがこの世の鉄則だ。
まさか、言い返してくるとは思っていなかったのだろう。その証拠に握る手に力が入りすぎてふるえているのがわかる。
「ぼ、僕はエリオと言います。同じ近代ベルカ式の使い手としてご指導よろしくお願いします!」
その言葉にレイオスは驚いた。
「君は近代ベルカ式なのか?」
「はい!」
近代ベルカ式、それは対人戦闘を前提とした魔法術式だ。特徴はカートリッジシステムという瞬間出力を向上させるシステム。前もって魔力を込めたカートリッジ(弾丸型)をロードする事によって魔導師が持つ本来の魔力よりも魔力を付加させることが出来るのが特徴だ。その多くが肉体強化やデバイスの強化に用いられ、非常に高い戦闘能力を発揮することができる。しかし、魔力を直接射出・放出系統の技は不得意な部分がある。また、近代ベルカ式は正統派である古代ベルカ式とは違ってミッドチルダ式魔法をベースにエミュレートで再現したものだ。よって、ミッドチルダと並行して習得できるというリミットもある。普通の魔導師はどれか一つしか習得しないが。
「そうか、俺も近代ベルカ式だ。まあ騎士ではないけどな」
すると、エリオは驚いたように目を見開いた。
「騎士じゃないんですか?」
「まあ、一応は砲撃部隊にいたから魔導師ってことにしてたんだ。それに騎士っていうのはなんだかむずがゆくてな」
「はぁ……」
理解できない、といった感じで返事を返す。おそらくエリオは近代ベルカ式の使い手は騎士の名がつくと思っているのだろう。そう思っていた時期も自分にもありました。
ラストの女の子が前に出た。両手を前で組んでもじもじと体を動かしている。
『トイレに行きたいのかな?』
『お前は一度、死んでおけ』
『よし、今日の晩飯はなしだな』
『ワフッ!?』
キャロ、頑張って!とエリオが女の子を励ます。
「……うん。私の名前はキャロ・ル・ロシエって言います。えと、よろしくお願いします!」
キャロなりの大きな声で挨拶をする。他の人から聞いたらそこまで大きくはないだろうが、レイオスにとってはとても大きな声に聞こえた。
「ああ、よろしく頼む」
全員のあいさつが終わったところでなのはは両手でパン、と音を鳴らして全員を静かにさせた。
「うん。それじゃあ、今から訓練始めよう!レイオス君、デバイスは持ってきてるよね?」
「……あ」
なのはがデバイス、といった瞬間にレイオスはあることに気がづいた。先ほどシャリオ主任に捕まりその場から逃れるためデバイスを犠牲にして置いてきてしまった。つまり、今手元にはデバイスがない。つまり訓練が出来ないのだ。しょっぱなからデバイスを忘れました、では新人たちにも示しがつかないしそれ以上になのはが怒る姿がありありと目に浮かぶ。
先ほど、ヴィーダが訓練をすると言ったときに走って取りに行って来れば間に合ったかもしれないが今の状況では到底間に合わない。
『どうすればいい?』
『ふっ、我に食事抜きと言った罰だ。おとなしくお縄にかかるんだな』
『うるせえ!っていうか、その表現おかしいだろ』
『知らぬ。正直に話しておけ』
『この野郎……覚えとけよ』
最後の頼みの綱である白い宝石もまったく役に立たない。さすがにこれ以上、時間を延ばすわけにもいかない。現になのはがこちらを向いて不思議そうに首をかしげている。
「あの、レイオス君?もしかしてデバイスがないんじゃ……」
とその時だった。
「あ、レイオスさん。ここにいたんですね、先ほどお預かりしたデバイスですがお返しします」
九死に一生とはこのことを言うのだろうか。見計らったように訓練場の入り口から先ほど別れたシャリオが現れ、技術部に置いて行ったはずのデバイスを持ってこちらに来た。なのはがデバイスを持ってこないで訓練場に来たの!?と軽く怒るが、
「申し訳ない。色々事情があって」
と適当に返事をし、シャリオから自分のデバイスを受け取る。外見は問題なし、中身もただ解析だけだったらしく改造はされていない。むしろあの短時間で改造されたら驚きの一言に尽きる。
「うん、問題ないな」
「あ、信じてなかったんですね。ひどいです!」
デバイスを起動させ、軽く振る。レイオスのデバイスは非人格型のアームムドデバイスだ。ベルカ式魔法に準じた仕様をとる機種で片手で触れる片手剣を模して造られているが一般の片手剣より少々長めだ。重量もそれなりにあるが魔力を通すことで軽くなるという性質を持っている。それも普通の人が触っても重量が変わらないようにレイオス自身の魔力でしか変わらないようにしている。これであればたとえ敵にデバイスを奪われたとしても、片手では使えないようにすることができる。もちろん、両手で使えば触れる。
デバイスを一度待機状態に戻す。レイオスのデバイスは待機状態の際は胸に取り付けられるブローチとなっている。何故ブローチかというと、これはある人の趣味によるものだ。
「それじゃあ、私はこれで。またデバイスを見せていただけると助かります」
「はははは、善処しておきます」
絶対に貸さないぞ。そんな強い意志を心に秘めながらシャリオを見送った。そしてなのはのところに戻る。
「申し訳ございません。遅れました」
「もう、今度から気をつけてね。……よし、それじゃあ気を取り直して始めよっか!」
「「はい!」」
返事と同時に四人全員がデバイスを起動させた。
スバルは肘から先を覆う大型かつ重厚な篭手と足首から下を覆うローラースケートのようなデバイス。
ティアナは二挺銃。白を基本としたカラーが特徴の銃だ。前衛向きには見えないため、おそらく光栄で支援という形で活躍しそうなデバイスだ。
エリオは自分の身の丈以上もある長槍。穂先部分は左右に噴射機のような機構を備えた巨大な三角形となっており、パルチザンに似てなくもない。
キャロは両手を覆うグローブ型のデバイスだ。スバルと違ってこちらは特にこれといった特徴はない。戦闘用には見えないし、おそらく補助型のデバイスだろう。こんな小さな女の子がこぶしを振りまわしているのが想像できない。
全員が起動させ終わったのを見て、なのはがレイオスにもデバイスを起動させるように言う。
「ローン・ウルフ、起動」
一匹狼の名を冠するデバイスが起動された。