Fate/COVID-19   作:辺境官吏

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第1話

───その日、人類は思い出した。

 

 

病こそが人類の天敵なのだと───。

 

 

 

 

 

 

 

 

2020年 冬。

 

中国は武漢にて初観測された新型コロナウイルス(後にWHOからCOVID-19と名付けられることとなる)は瞬く間に世界に伝染病の恐怖を思い出させた。

 

 

 

───初め、人々はそこまで問題視していなかったという。

 

死亡率がそこまで高くない事に加え、所詮は中国などという衛生後進国の一部地域で発生した伝染病であり、中国全土に広がることはおろか、他国に飛び火するとは思いもしなかった。(当時、中国共産党による情報統制が行われていたという話もあるが、よしんば情報公開していたとしてもそこまで大きく変わりはしなかっただろう)

 

人類の歴史は病との歴史であり、知の蓄積があった。

 

かつて人類は天然痘を撲滅し、SARSを封じ込め、抗生物質を生み出した。

 

故に人々は慢心し、こう考えた。

 

 

「まあ、今回も多少は被害が出るだろうが、すぐに収束するだろう。中国は災難だったがどうせ変なモノでも食べたんだろう。マスクでも送ってやって恩でも売っておくか。」

 

 

事実として、中国国内でのみ感染が観測されていた当時ではまだインフルエンザによる死者の方が圧倒的に多く、世界中の人々にとって中国の一部地域での感染拡大は対岸の火事でしかなかった。

 

一部メディアがセンセーショナルな見出しで報じてはいるものの、実数としては小規模であり、過剰な演出として捉えられていたのだ。

 

世界の投資家にとっては、中東で発生している蝗害(サバクトビバッタによる食害)による食糧難の方が世界経済に与える影響は大きいと考えていた。いや、もちろん蝗害の影響も甚大なのだが───。

 

 

 

 

───風向きが変わったのは、世界同時多発的に感染者が観測され始めてからだ。

 

まず、中国と深く貿易で結びついていた国々で感染者が見つかった。多くは中国からの旅行者や帰国者からだが───とにかく、南極以外のすべての大陸で感染者が観測された。(もちろん日本も含む)

 

感染者の中には重症化する者もいたが、ほとんどは持病を持つ者や高齢者であった。

 

世界中の医療従事者、研究者、科学者がSOSを発信する中───しかし、それでも人々は楽観した。

 

人口比でいうと感染者は0.001%以下であり、更に無症状や軽症者が圧倒的多数なのだ。過去の世界大戦中に猛威をふるったスペイン風邪と比較するには文明が、科学が進歩しすぎていた─────故に見誤った。

 

 

人が進歩しているのと同様、ウイルスも進歩・変異するものだと知りつつも甘く見積もっていたのだ。

 

 

『とりあえずニュースになっているし、ウイルスは怖くなくても差別や世間体が怖いからマスクをして気を付けよう。病気になるのも嫌だし。まー、コロナの話をしていれば場は持つし、不謹慎だけど少し楽しみにしている自分がいるのも否定できない。』

 

 

当時の人々を責めることは出来ないが、このように考える人が大多数であったのは否定できない事実だろう。

 

戦争がニュースという娯楽として消費される時代、当事者意識を持つことは難しい。

 

 

 

 

 

 

 

───2020年 夏。

 

東京オリンピックは延期ではなく中止となり、世界の感染者数が1億人を突破した。ウイルスは変異を繰り返し死亡率は10%まで上昇。国内死者が100万人を超え、医療従事者の多くが感染したことにより医療崩壊が世界中で発生。平時では助かる糖尿病ですら治療を受けられず死亡。人工透析など行っている余裕はどこの政府にもなく、健康弱者は切り捨てられた。

 

それもそのはず。医療物資は有限であり、医療従事者もまた有限なのだ。少しでも助かる見込みのある者を優先するのは自然の理であり、人々もまた他者を気遣う余裕などとうに無くなっていた。

 

 

───各国が感染拡大を阻止するため国境の完全封鎖を決定。

 

 

ヨーロッパ諸国やアジア、自給自足のできるアメリカやブラジルなどの国々とは異なり、海を隔てた島国である日本は一気に窮地に陥った。

 

物流が寸断されれば食料はおろか原油、肥料、機械部品が入手できない。

 

既に時代遅れの炭鉱は閉じていたし、自然エネルギーで全世帯の電力を賄うことなど不可能。

 

原油や食料の備蓄はあるが、平時の3か月分。節約するにしても半年後には完全に枯渇するのだ。

 

政府は輪番停電を実施するも、病院や医療キャンプ(院内感染を防ぐため、屋外のテントで感染者を隔離していた)に優先的に割り当てられ、食品加工や医薬品工場を稼働させるのがやっとであった。

 

 

 

事態を重くみた政府は非常事態宣言を上回る特別非常事態宣言を発令し、緊急時生活衛生特別措置法が与党賛成多数で可決、即日施行された。

 

生活必需品は政府の命令で配給制となり、自衛隊は治安維持軍として各都市に配備され国民生活が完全に軍の管理下におかれた。

 

無断外出は問答無用で懲罰対象となり、防毒マスクをつけた巡回官吏によって配給が行われた。

 

これは感染者を封じ込めるという目的のほかに、暴徒化した人々から農業・医療従事者、感染者を守るためのものであった。

 

もっとも、日本人の多くは銃を所持しておらず、国民のほとんどが上からの命令を素直に受け入れる気質であったため予想していた混乱は起こらなかったが──。

 

 

───諸外国の惨状を既に知っていたからかもしれない。

 

 

アメリカでは州兵が農地を占領して連邦政府との内戦状態になっていたし、アフリカでは呪術師による根拠のないデマが蔓延。EUは首脳陣の多くが命を落とし、新政府が乱立。ブラジルでは刑務所から凶悪犯が脱走し、治安が急速に悪化。中国は各国から莫大な賠償金を請求されるもこれを拒否。世界はまさに一触即発の状態といえた。

 

 

 

 

 

 

 

 

───2020年 秋。

 

世界人口の10分の9が死に絶えていた。(もっとも政府は既に死亡者数の公表を行っていない。単純に把握できていない理由のほかに、これ以上国民にストレスを与えることを嫌ったと考えられる。)

 

死体を燃やす燃料にも事欠く有様であり、記録では阿蘇山が死体処理場として使用されるようになったという。

 

───コロナウイルスのいやらしい所は、人以外の動物に感染することだ。

 

死体を放置した場合、鼠がウイルスをばら撒く事となりイタリアを初めとするヨーロッパはそれで滅んだ。(渡り鳥や蚊が媒介したとする説やハグ文化が直接の原因だとする説もあるが、どちらも同じことだ)

 

かつて平和であった時代であるなら豚コレラや鳥インフルエンザ、口蹄疫が発生すれば根切を行うことで拡散を防いでいたが、現代では出来ない。それもそのはず、人々は飢餓に直面しているのだ。感染するリスクは勿論あるが、餓えには勝てない。故に感染しない望みをかけて食べる。感染する。この繰り返しだ。

 

この頃になると医薬品の開発を行う体力を持つ企業はなくなり、富裕層の中には自身の体を冷凍しコールドスリープを試みる者もいたらしい。もっともソレは誰がどう見ても形を変えた自殺であったが…少なくとも希望をもった自殺であったのだろう。

 

悲惨なのはISS(国際宇宙ステーション)であった。地上からの補給を受けられず自身の生存可能性を絶望視。錯乱したエリート宇宙飛行士は全世界を口汚く罵った挙句、ステーションを手動操作に切り替えて地上へ堕とした。

この衝撃でアメリカにはクレーターと共に大量の死者が生まれることになる。ロシア出身の宇宙飛行士らしい最後であった。(中国に落とさなかった理由は不明。)

 

 

 

その点、日本は恵まれていた。

 

感染拡大し大量の死者が出ているものの、四方を海で囲われているため漁業を行うことでなんとか餓死者の数を抑えていた。(もちろんガソリンが尽きているため、漁業の大半が人力だし餓死者は出るのだが。)

 

配給も夏の中旬には無くなったため、人々は山で山菜を積み、海に魚を求め、週1回のラジオが流れるのみの日々。

 

 

───誰もが終末を予見していた。

 

 

『どう生きるか』ではなく、『どう死ぬのか』が生きる目的となっていた。 

 

 

 

 

 

 

 

 

2020年 秋の暮れ。

 

既に地上は人の住めない地獄となっていた。

 

コロナウイルスは異常変異を繰り返し、目視できるまでに膨れあがったウイルスは死の霧と呼ばれる状態となっていた。

 

触れれば最後、肌は爛れ眼球は零れ落ち、耳から血を噴き出して死ぬのだという。

 

幸いなのは目視できるようになったおかげで、緊急回避が出来るようになったことぐらいだろうか。(毒性が弱いものはまだ不可視だが、ここまで生き延びた極少数の人類はそのぐらいでは死なない免疫を備えている。)

 

人類の大半は死滅したが、それでも生き残りはいるのだ。

 

 

 

 

 

 

******************

 

 

 

 

 

「───で、なんでそんな昔話を今更いうんだ?」

 

『なに、お前を見ていたら昔を思い出してな。』

 

「ふーん。俺にとっちゃこれが普通なんだけどな。そもそも、人間が何十億も存在していたなんて信じられねぇわ。」

 

『たった20年ほど前のことだがな。あれから自然エネルギーだけで地下シェルターを作るのがどれだけ大変だったことか…。』

 

「それで本題は何だよ。魔術師って奴は回りくどくて仕方ない。」

 

『───私はそろそろ死ぬ。』

 

「……そうか。暇になっちまうが…まー随分保ったんじゃねぇか?その半身、もうほとんど変異してるんだろ?むしろなんでまだ生きてるんだよ。」

 

『そうだな。コロナウイルスの最も恐ろしい点の一つが驚異的な変異速度だ。そしてコイツは魔力を喰う。故に純粋な魔術師は一般人より先に死んでいったが………私の起源は<停止>でな。病の進行を遅らせることが出来た。もっとも、コイツは<停止>ですら学習したようでそろそろ抑えるのが難しい。平気にしているように見えるが、実は激痛を我慢しているだけだったりする。』

 

「……無理して生きなくてもよかったんじゃないか?」

 

『阿呆。お前を育てなくちゃいけなかったし、このまま死んだら人類の負けだろうが。私は諦めが悪い女でな。確かに私自身はコロナウイルスに負けはしたが、最後に切り札を育て切った。結末を見れないのは残念だが、この勝負は私の勝ちで終わると確信している。人類に勝ったウイルスに私が勝つ。痛快だろう?』

 

「………。」

 

『ああ、返答はいらんから聞いてくれ。あまり長くは保たない。残念だが私の魔術刻印をお前に譲渡することは出来ん。そもそもコロナは既存の魔術を学習済みだし、もはや戦う意味もない。お前は出生が特殊だし、<再生>の起源を持つから生半可なことでは病理に侵されないだろう。』

 

「待て。捨て子を拾ったんじゃなかったのか?」

 

『返答はいらんというのに…。阿呆。捨て子を拾って育てるなど効率の悪いことを誰がするものか。お前は正真正銘私の子だよ。最も、コロナに耐性を付けるため、わざと感染した状態で出産するのは至難の技だったが……なに、私にかかれば造作もない。ちなみに父親はいないぞ?人間なぞ脆いだけだからな、複数の魔獣を掛け合わせて作ってみた。』

 

「………。(大丈夫かな俺の体)」

 

『そもそも、そんな異常な膂力をただの人間の子に出せるとでも?比較対象がいないのは仕方ないが…少しは文明を理解しろ。』

 

「育てたのはアンタだろ。」

 

『確かに。最後に一本取られたか。…まあいい。最初で最後の母の願いだ。聞いてくれ。』

 

「どうせ生きる以外にやる事もないしいいぜ。俺の人生の指針にしてやるよ。」

 

『…そうか、安心した。………かつて冬木で聖杯戦争が行われた事は知っているな。聖杯を探索しろ。そして可能なら病を駆逐することを聖杯に願え。次善策としては医療特化のサーヴァントを召喚することだが…これは難しいかもしれないな。ナイチンゲールを召喚したとしても焼け石に水だ。それにどうもきな臭い。このウイルスは自然発生したと思えるが…それだけではないように思える。何者かの手がかかって…いや、悪意に触れたような…。まあ、根拠はないが直観だな。こういうのは大体当たる。』

 

「ふむ…。」

 

『間違っても聖杯に平和な世の中など望むなよ?そんな存在しないモノは聖杯だって叶えられはしない。……さて、こんなところか。最後に質問は?』

 

「いや、やることは分かったし、冬木の場所も学習済みだからいいんだが…何か注意点は?なにしろ俺って外に出たことないし。」

 

『そうだったな…力加減には気を付けておけ。生き残りがいるかどうか知らんが、人類はお前みたいに強くない。私やお前は特殊な事例だ。あと、魔術師らしからぬ物言いかもしれんが人助けはなるべくしておけ。特に女だな。お前との子なら恐らく耐性も引き継がれるだろう。』

 

「人を種馬みたいに言うのは止めろ。」

 

『アダムとイブがよかったか?ま、どうでもいいが。せいぜい人生を楽しめ。地獄には地獄の楽しみ方がある。最後に私の死体は焼却してくれ。』

 

「喰っちゃダメなのか?」

 

『この体は20年モノの呪いの塊だからな。いくらお前でも腹を壊しかねん。』

 

「そっか。それなら……分かった。ならもう休め。安心しろ。俺が終わらせてやる。」

 

『まったく…最後まで阿呆だな。お前は終わらせるんじゃない。始めるんだというのに…ふぅ、我ながら…悪くない最後だな。まさかこんな私が人並みの最期を送れるとは……じゃあな、シロウ。私は地獄に行くだろうが、お前はこっちにこないでいいぞ。』

 

「ああ、わかったよ。お休み…タイガ。」

 




過去作を更新してないのは許してください。
どうしても本気になったギルに勝てるイメージが出来なくて塩漬け。
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