マユのコミュニティを崩壊させた女性との戦いを終えたあとアルトは2時間ほど意識を失っていた。陽の光で目を覚ましなんとか食料を調達することができたあとは、直ぐに回復し今では体調は完全に元通りになった。
「マイクラのプレーヤーとしての回復力なのかな……だとしたらやっぱりプレーヤー異常だよな……」
現在のアルトはスーパーやコンビニから食糧を(無断で)調達しつつ自衛隊が民間人を保護している施設に向かっていた。夜になれば身を潜めることができそうな建物や車などでやり過ごしなんとか今まで食いつないできた。
河川敷を歩いている間に自身の能力について考える。
「(それにしても……俺はなんでこんな体になったんだ?)」
「(直ぐに体力は元に戻るし、血はすぐ止まるし……。)」
「(マイクラは確かに結構プレイしていたが……でもそれが理由になるか?)」
「(マユさん達のコミュニティでもマイクラは知ってても能力を持ってない人はそれなりに居た、マイクラを知っていることが条件じゃ無さそうだ)」
突然、動物の鳴き声が聞こえて思考を打ち切られる。周りを見渡すと住宅街であるにも関わらず公園の草を食べる牛、羊、他にも豚や鶏などがいた。
「あれは……動物園から逃げ出してきたのか? 確かに近くにあった気がするが……。」
「でもマイクラでゾンビやらスケルトンやらが夜に現れるなら動物が居てもおかしくは無いのか?」
アルトは自身のバッグの中身を確認する。食料が心もとないため、彼は妙案を思いついた。牛に近付いていき、持っていた空のペットボトルの中に牛乳を搾り出す。
「(初めてやるはずなのにしっかりできてる……不思議な感覚だ、ちょっと気味が悪いかもしれない……)」
あらかた搾り終わったあとは鉄の剣を取り出し、思いっきり牛に切り掛る。かなり大きい切り傷ができて、牛は逃げようとその場から走ろうとする。
アルトは牛が逃げるよりも早く即座に剣を牛に切りつける。たった2撃与えただけで牛は倒れてしまった。
「動物にもしっかりマイクラのルールが適応されてるのか」
ふと手元へ視線を向けると手が震えていた。
「(……今まで生きるために襲ってくるMOBは必死になって倒してたけど、無抵抗のMOBを殺したのは初めてだ……生き物を殺すってなんか嫌な感じだな……)」
そんな考えをしていると倒された牛は徐々に消えていき、スーパーに並んでいるような食べれそうな部位だけが残っていた。
「嘘だろ、どうなってるんだ?」
ともかくそれを回収し、辺りを見渡す。
「今の感覚をまた味わう気にはなれないな……」
そんな言葉を零しつつ目的地に向けて歩き出そうとする。しかし日が沈みだしたため今夜は放棄されたキャンピングカーの中で一夜を乗り越えることにしたのだった。
〜19日目〜
日が明けてヘルメットなどの装備で消滅することのなかったMOBを倒しつつ、また自衛隊の保護施設までの道のりを歩き出したアルト。そんな中で高速道路へと繋がる非常用階段を見つけた。なんとなく視線を追っていくと見慣れない建造物があった。
「なんだあれ……?」
明らかに高速道路には無かった木製の塔のような物。
「もしかして……前線基地か?」
マインクラフトの中に置いて低い確率で現れる略奪者、その前衛基地と思われる建造物を見つけたアルト。略奪者はクロスボウを持っているため、相手をしたくないためにと大きく迂回するルールを考える。
そこで立ち止まっていると後ろから矢が飛んできた。
「なっ!?」
後ろを振り向くとそこにはマイクラの中で見た略奪者とよく似た装備をした鼻の大きい男たちがクロスボウを向けていた。喋りかける余裕すらなく略奪者達はアルトに対してクロスボウの矢を撃ち込む。
即座に盾を取り出して矢を防ぐアルト。しかしかなり使い古していたために矢を何本か受けた後に割れて砕けてしまった。すぐに身を隠すように3階建てのビルの中に入ると、ビルの日陰に逃げていた3体程のゾンビたちが襲いかかる。
略奪者よりマシだと考えて即座に2体倒して建物の奥へ進む。
少し進んだ先には薄い光が見えた。特に深く考えずに部屋のような場所に入ると、6体ほどのゾンビとチェストが設置されていた。
「スポーン部屋か!?」
アルトが入った部屋はスポーン部屋、スポナーとも呼ばれる場所であり、ゲーム内ではスポーンブロックとアイテムが入ったチェストが設置された遺跡のような部屋であり、基本は部屋を制圧したあとチェストの中身を回収することでゲームを少し有利に進められる場所である。
柵のような箱の中には普段、接敵しているゾンビが少し小さいサイズで収まっており、その周りを小さい火が回転して燃え盛っている。
スポナーを観察している間にゾンビがもう一体増えて襲いかかってきた。
「ヤバい!」
自身が今持っている剣も酷使していたせいでボロボロであり、もう壊れてしまう寸前である。
持ち物を確認し、砂と少量の火薬、矢をクラフトするために持っていた火打ち石が視界に入り、妙案を思いついた。ゾンビたちの合間を縫ってチェストの近くに作業台を設置して、火打ち石と打ち金をクラフトして辺りに適当に火をつける。
ライターほどのサイズからは想像できない火力で燃え上がり、ゾンビたちは近づけない。
作業台に向き直り、砂と火薬を並べてマイクラ最高の破壊力を持つと言っとも過言ではない『TNT』をクラフトした。
チェストの中身を確認すると荒らされた跡があるものの火薬と金のヘルメットを見つけた。火薬だけ頂戴して作業台を回収しTNTを設置する。着火した直後にゾンビたちを近づけさせないために着火した火をハードルの如く飛び越えてスポーン部屋を出る。
持っていた土を数個積み上げて耳を塞ぐ。直後、TNTは部屋ごとゾンビたちを吹き飛ばした。
振り返ってスポーン部屋だった場所を見つめるアルト。
「はは、こりゃすごい…。」
ゾンビもスポナーも跡形もなく消えており、ビルの壁も壊れて外に出られそうになっている。
「入口には略奪者が居そうだしなぁ……そっちに進むか……。」
アルトは壁を乗り越えて草木が生い茂る森林のような場所を進んでいった。