森林の中へ入り、約2時間が経過した頃。流石に空腹とか疲労を感じたアルトはかまどを設置して上に狩った牛の肉、下に採取した石炭を置いて近くに座った。
ライターなどで火をつけなくとも勝手に肉が焼かれていく様を眺めながら、思考に耽る。
「(こんなマイクラそのまんまな世界になっちゃったけど……どうすれば元に戻るんだ?)」
「(マイクラではエンダードラゴンを倒せばゲームクリアだけど……この世界でもそうなのか?)」
「(仮にエンダードラゴンを倒すにしても今のままじゃ装備がな……)」
「(地下に潜ってダイヤを見つけるべきだろうか?)」
牛肉が焼きあがったのを確認する。子どもの頃に家族で行ったバーベキューの時に食べたような大きい牛肉を頬張る。
味付けなどしていないにも関わらずとてもおいしく感じたアルトは驚く。
「マイクラのプレイヤーってこんな美味いもん食ってたのか!」
空腹を満たし再度、森林へ進んでいくアルト。もうそろそろ夜になるタイミングで後ろから何かが飛んで木に突き刺さった。
「ッ!?」
後ろを振り向くとクロスボウを構えた鼻の大きい男、略奪者達が居た。三体の略奪者の内、一体は背中に旗を背負っていた。作り直した盾と剣を構えて略奪者を見据えるアルト。
「あのビルの入口から追ってきたのか!?」
クロスボウから矢を放つ三体の略奪者。アルトはその矢を盾で防ぎ、左にいる略奪者がクロスボウに矢を装填する隙を突いて一気に近付いていく。
相手にしている略奪者がクロスボウを構える暇なく剣で切りつける。三、四度程切りつけるがもう一度剣を振り下ろそうとしたところで思わず攻撃の手をやめてしまう。
「(コイツらは…本当に殺していいのか!?)」
その迷いがアルトの手を止めてしまい、後ろにまわっていた二体の略奪者がクロスボウから矢を放つ。とっさに回避を取ろうとしたアルトだがギリギリ間に合わず背中に一本の矢を受けてしまった。
「ぐぅっ!」
三体から距離を取って考えるアルト。
「(コイツらは他のMOBと違ってほぼ人間だ……コイツらを、俺は殺せるのか……!?)」
アルトの葛藤を他所に略奪者達はクロスボウを構え、矢を放つ。アルトは盾でそれを防ぎ続けるが略奪者達は盾を構えていない位置に移動してアルトを狙う。三体が複雑な動きをして段々と防げなくなっていったアルトは太ももや腕にまで矢を受けてしまった。
「(クソ……クソッ!!)」
アルトは略奪者を倒すのかこのまま殺されるのかで葛藤していた。逃げることは今のダメージを負ってしまった体では逃げ切れないであろう。
このまま略奪者に殺されてもアルトはリスポーンすることができる。しかしそれは、死ぬということはあの公園での記憶と同じことが起こるということだ。
辛く、痛く、苦しいだけのあの記憶が。そしてアルトにとってあの殺害されるという記憶は二度と触れたくないトラウマでもある。あんな経験をするのはごめんだと考えていたが他に道はなかった。
ある一つを除いて。
「(略奪者を倒す……いや、殺すしか道はない……)」
「(でも略奪者を殺して本当にいいのか!?自分が死ねばアイツらを殺さなくて済む……でも死ぬのは嫌だ、アレは二度と味わいなくない!!)」
そんな葛藤の間にも略奪者は関係なしにクロスボウの矢を放ってくる。頭を掠めたところでアルトは決断した。
「うわぁぁぁ!!!」
絶叫に近い声を上げながらアルトは目の前の略奪者に剣を突き刺した。何度も何度も切りつけて倒れた略奪者は煙のように消えた。左右から挟み込むように略奪者が現れるが左に土のブロックを積み、即席の壁を作る。右から迫ってくる矢を盾で弾き、近付いていく。
略奪者はクロスボウに矢を装填しているがアルトがそれを待っているはずもなく剣を下から振り上げる。先程何度も切りつけた方の略奪者であったソイツはその一撃で地面に倒れ消滅した。
土の即席壁から現れるのは旗を背負った略奪者。背中を向けていたアルトは盾を向けて矢を防げるようにする。クロスボウから放たれた矢は既にボロボロになっていた盾を破壊するがアルトに反撃のチャンスを与えた。
旗持ちの略奪者はクロスボウに矢を装填しようとするがアルトは剣でクロスボウを弾いて略奪者の体を突き刺す。地面に倒れ腕を伸ばしてアルトを振り払おうとするがアルトは剣を深くに突き刺してそれに抵抗する。
「うわぁぁあ!!」
ほぼ半狂乱になりながら剣をさらに突き刺して略奪者は消える。
「ハァ…ハァ…ハァ…ハァ……ウッ!」
よろけながら立ち上がるも急に湧いてきた嫌悪感で思い切り近くの木で吐いてしまったアルト。しかし湧き上がる嫌悪感は全く消える気配がなかった。
「ウゥ……?」
ひとしきり吐き出して幾分か楽になったアルトは自身に起こっている変化に気がつく。体からグレーのような煙が上がっていたのだ。しかし炎で燃えているようなものでもなく焦げ臭い匂いもしない。
考えを巡らせてアルトはすぐに思い至った。旗持ちの略奪者を倒した際に現れる効果として「凶兆」というものがあり、これはマイクラ内に存在する村に入った時のみに効果が現れるものであった。
「これ、凶兆か……でも今までマイクラの村を見かけたこと無かったし……大丈夫かな?」
自身に刺さった矢を抜いて持っていた焼いた牛肉を食べてアルトは再度、自身から溢れる煙のようなものを気にしつつも森林の中を進むことにした。
ダイア集めって大変ですよね