外の喧騒はここでは遠い。決して無音ではないけれど静かな空気が満ちている。他にも人がいないわけではないけれど、休み時間にしては人気のない、どこか乾燥した独特の空気感は好ましい。
安っぽいパイプ椅子がリノリウムの床を擦ってぎいと引く音と、ぺらぺらと図書委員の誰かが資料をめくる音、ぺたぺたと上靴を鳴らす誰かの歩く音……それだけが、ただ静かにそこにある。
新しい物語を追い求めてあちこち見て回る。ずっと前に大好きだった低学年向けのシリーズの棚の前をふいと通り過ぎて、ふと目に留まったのは表紙が取れかけたような古い本ばかりが並んでいる図書室にしては珍しい、真新しいハードカバーのシリーズ本だった。
業者から卸されたばかりなのか、本棚の下の方に並んでいるそれをしゃがみ込んで確認してみると装丁は統一されているものの、タイトルは統一感もなくバラバラ。短編集だろうか。背表紙には作者の名前も見当たらない。一冊抜きとって目次を開いてみるとやはりそのようだった。そんな本のタイトルの横には、「SFセレクション」という馴染みのないワードが躍っている。
SFは……読んだことのないジャンルだけども、そんなことを言っていては新しく胸の躍るストーリーと出会うことなんて出来やしない。むしろどんな物語なのか気になるから気に入ったくらいだ。
真新しく、ぴかぴかとつややかな装丁。ほとんど開かれたこともないような白く綺麗な折り目のない頁。印刷所で縫い付けられてから一度も動かされたことのない栞の紐。この古い学校にあるにしては随分いい備品で、それだけで嬉しくなった。もちろん新しいものだってあるのだけど、私が卒業するころには間違いなく校舎ごと「真新しくなる」ことが決まっているのだから、今のうちはなんというか、いろんなものを古いままにしがちだ。きっとここにある開くだけでばらけてしまう古き良き童話や、角がすっかりすり減ってタイトルをマジックで上書きしている絵本なんかが処分の対象になるのだろう。
とりあえず抜き出した本を両手に抱えて、貸出カウンターに向かう。短編集なのだからどれが面白いのかはわからないが、なんだろう、良き出会いのきっかけというのはたいてい言い表しようもない勘によるものでもあるから。きっとこれは良き予兆だ。
足取り軽く、私は古びた立て付けの悪い引き戸からほこりっぽい廊下に出て。スキップ気味に教室に戻っていった。
それこそが。十数年私が愛してやまなかった本との出会い。