荒野からやってきました外伝 荒野の災厄のやらかし集 作:マガミ
追記:行間を区切りで直す
「…どういう要因で地球以外に来るのやら。一度、転移周波数の選定に大幅な見直しが必要だな」
「そこのお兄さん、じゃが丸くんはどうだい!」
「じゃがまるくん? すまないお嬢さん、この街には初めて来てね、換金できそうな物はあるけど、すぐ使える持ち合わせが無いんだ」
「それは残念…。あ、もしも質屋に用があるならあっちだ」
「ほう、そいつは重畳。手持ちがもし換金できたらあらためてその、じゃがまるくんを頂くとしよう」
「まいどあり!」
「…どれだけ買うのさ!?」
「御礼も兼ねてだよ」
「ありがとねお兄さん! …旦那とどっこいぽいけど」
「まあ若くは見られないからな」
「ヘスティアちゃん、今日はもう上りでいいよ。バイト代ね」
「こんなに!?」
「いいお客を釣り上げてくれたからね!」
「よぉし、君のお陰でいつもより沢山貰えた! 一品位なら屋台で奢ってあげよう! …どうしたんだい?」
「ヘスティア、ヘスティア…あれか、オリンポス神族におけるクロノスとレアの娘、ゼウス達の姉、竈の女神にして処女神。そしてのんびり風味の神様」
「ふむ、最後は余計だけどよくボクの事を知ってるね。そう、ボクこそがヘスティアファミリアの主神にして女神、ヘスティアその人さ!」
「…なんだって? ちょっと失礼」
「むむ、それは何だい? 複雑なからくりに見えるけど」
「うっわ本当だ、制約封印による高次特性の抑え込みで低次世界へ降りてきたのか…ええと、少し突拍子も無い話をするが、そこの喫茶店で聞いて頂けるかな、神ヘスティア?」
「な、ナンパならお断りだぞう?」
「何言ってんのこのロリ巨乳!? 嫁さんが居るのにそんな事するか!」
「!?」
「え、嘘?みたいな顔しないで頂けるかな!?」
「…嘘は、言ってないみたいだね。次元を渡る者だとして、戦争を起こす積りなのかい?」
「そんな物騒な存在と一緒にしないでくれ。旅というか研究で、友人の故郷へ渡る座標を探しているのですよ」
「堅苦しい話し方はやめてくれないかな?」
「(女神のお望みとあらば!)」ドイツ語
「何語!?」
「友達の元いた世界を探しにねぇ。神の力の気配も無いし、それでいて離れた他の世界とはいえ、人の技術の積み重ねでそこまでできるなんて」
「元理論のいくつかは天才達の気づきで、俺自体は凡才に過ぎないよ。まあ俺の話はこれだけ。所で、眷属だっけ? 拠点に戻らなくていいのか?」
「まだ余裕はあるよ、ベルくんもダンジョンだろうし。そうだ、調査が終わるまで、私達のホームに来ない?」
「そうさな、ちょっとした宿と同じ額を払うからお願いできるかな。流石に文化が違うと、設備やら支払いやらで難儀しそうだ」
「…これは酷い。廃墟じゃないか」
「なにおう!? これでも地下は、立派なボクとベルくんの愛の巣なんだからね!」
「まあ零細ファミリアというのは聞いてたから、少し手を入れようか。ベル君が帰って来たら、要望も含めて聞いて、明日、作業をしよう」
「え、いいよ、ただでさえお代を貰うのに」
「つかぬことを聞くけど神ヘスティア、俺が寝る所はある?」
「あ…」
「こんにちは、僕はベル・クラネルって言います! …さっきは血塗れで失礼しました」
「やあベル君、俺はトール・ミナセ、トールでいい。旅の研究者だ。これはお近付きの印にね」
「わっ、何もない所から…あれ? 着替え?」
「神様とはいえ女の子と一緒に暮らしてるんだ、清潔にしないとね。という訳でとっとと湯浴みにいってこーい!」
「ありがとうございます!」
「何か今のホームでこうだったらいいなとか、あるか?」
「こうだったらいいなって」
「ボクはこうだといいけど、流石に狭くて…」
「ほうほう、こういうのはどうだい?」
「あはは、これが本当だといいですね!」
「この大きさのお風呂か、あったら嬉しいね」
「僕も頑張って、広いホームに引越しできるよう頑張ります!」
「という訳でお早う、やっといた」
「「なんだこれー!?」」
「何って、リフォーム? 上の教会は借り物だってから補修と掃除だけね。2LDKの間取りだったけど、風呂場はちょっと大きめにした」
「か、神様、トールさんって神様なんじゃ?」
「おおお落ち着けベル君、これは夢、きっと夢だ…」
「…トール君、君のこの力はその魔道具のものなのかい?」
「概ね正解。誰だって慣れたら使える。この世界で広める気は無いけどね」
「絶対他の神々にバレるなよ!? 彼奴等と来たら、面白そうとか言って絶対に追い掛け回すから!」
「それについてはちょっと残念なお知らせが。多分、一人というか一柱には半ばバレてる」
「ぬぁんだってぇ!?」
「遠くを見る魔法だか権能で覗かれてね、対抗魔法が発動したから俺の容姿とかはバレてないだろうけど、悪戯が効果が出てるとすれば、怒って報復に来るかも」
「…悪戯の内容は?」
「探知系の力で覗くと、相手が解らない上に、一度だけ家具の角で小指をぶつける呪い」
「地味に痛そうだねそれ」
「…! …!」
「ふ、フレイヤ様!? 何やら叫び声が聞こえましたが」
「なんでも…ないわ」
「凄い汗ですが…」
「何でも無いわ。汗をかいたから湯浴みをするわね、用意しなさいオッタル」
「はっ…」
「へぇ、向うでもガネーシャに会った事があるのか」
「同一神物かはわからないけどね」
「ベル君もダンジョンだし、次のバイトまで時間あるし、面会の話だけでも出してみるかい?」
「いいのか?」
「構わないよ。ま、ボクは君を会わせたらすぐにバイトだけど」
「や、ガネーシャ、ちょっとだけいいかな?」
「俺がガネーシャ…!? …だ…」
「お、地上に居る時は人の似姿で仮面を被るのか。こんにちは、神ガネーシャ」
「珍しいね、いつもは騒がしいのに。ボクは研究者の彼を紹介したので、風のように去るぜい!」
「改めまして、俺は…」
「知っている、父と同一の父が試練を課し、乗り越え、しかして祝福を拒んだ唯一の人間。そして…」
「あれ? あの世界に神界が繋がってるのか?」
「鼻フックをキメられ逆上した神々の王に呪いをかけられ、それを跳ね除けた男だ。親子揃ってガネーシャ大爆笑!」
「だいたいあってる」
「成程、俺の会った貴方では無いが、同一の存在でいくらか共有がされていると」
「うむ、だが父は我らの側でも殊更大笑いされてな。あの神々の王が不機嫌になった事もある。違う件で睨み合いになった際は、父は意趣返しに鼻フックを決めて、インドラと大喧嘩になった」
「あー、インドラの性質って向うと変わらないんだなぁ。まあこっちでも見かけたら鼻フックだけど」
「残念ながら降りてきてはいない。俺も見たかったがな!」
「ここの天界に移動できればすぐにでもやりたい所だが…」
「流石にそれはガネーシャもドン引きする。あれでも我が神族の王、止めて差し上げてくれ」
「残念。まあ今日はお近付きの印に、これを送っておこう」
「ほう、供物とは殊勝な。…む、中々いいではないか!」
「わかるか? 友人の子が安定供給用に作ってる酒でな…」
「お、俺がガネーシャ…だっ…ぐう」
「朝っぱらからでしたけど、楽しい宴、ありがとうございました。追加の酒代は置いていきますね」
「え、ええ、ありがとうございます。大丈夫なのですか? 日も傾くまで飲んで」
「身体が頑丈なので。あ、ファミリアの皆さんにもこちら、よければ飲んで下さいね。それでは」
「お? 隅に置けないなベル君も。俺も腹が減ったし入るか」
「いらっしゃいませ、一名様ですか?」
「ああ。知人が先に入ったのを見てね、丁度いいと思って」
「そういう事ですか、ではご案内します」
「あ、トールさん!」
「どしたの、追い詰められた兎みたいな顔して?」
「え、ええと…」
「あはは、それでそんな困った顔してたんだ。量からしてリーズナブルだけど、駆け出しには厳しいのかな」
「なんだい、湿気た話をしちゃって。あんたは余裕あるんだろう?」
「多少はね。彼の分は持つから、オススメをお願いできるかな、お姉さん?」
「あいよ!」
「す、すいません…」
「稼ぎからしてままならないもんだが、若い間はどんどん食って動かないと身体ができないぜ。さあ食え食え!」
「ごめんなさい、厳しいとは思わなくて…」
「そこはまあ、ジル嬢の色香に迷ったベル君の敗北だな」
「まあ」「と、トールさん!?」
「腕を磨いて強くなって、気兼ねなくここで飲み食いできるようにしないとな」
「はい…」
「どした、暗い顔して?」
「…成程ね。それで最初、上下真っ赤な状態だったと」
「僕、強くなれますかね?」
「わからん。…まあ聞け、俺は最初からある程度は力があったけど、地元の友人達には負け越す男達が居る。とはいえ、この歳でこの身体で成長が望めないかというと、そうじゃなかったんだ。色々重ねて工夫して、以前は負け越してたのが五分と僅差にまでこれた。これも成長だと考えれば、君はまだまだ先があると思いなさい」
「はい!」
「うん、いい顔だ。お姉さん、オーダー追加!」「あいよ! てかアンタよく食うね!」
『雑魚じゃあ、アイズ・ヴァレンシュタインには釣り合わねえ!』
「ベル君!?」
「ごめん、なさい、僕は…!」
「…後で説教だな、ヘスティア様に頼むとしよう。
さて、ちょいと躾の時間と洒落込むか」
「歓談中すまない、ロキ・ファミリアの方々」
「あん? なんやねんおっさん?」
「神ロキ、私の用事はすぐ済むので、どうかご容赦を」
「え、ああうん…」
「さて…おいそこのワンコ、退治の不手際で駆け出し達に迷惑をかけといて、挙げ句、余波で血を被った他人をよくもまあコケにできたもんだ。神と仲間に余計な敵愾心が行くとは思わんのか?」
「てめぇ、俺を犬だと…!?」
「そこしか捉えられんか、短絡的だな。
…表に出ろ、店に迷惑がかかる。ああ、お代はそこに」
「あいよ、またどうぞ」
「覚悟はできてんだろうな!?」
「酒に酔い自分に酔い血の気に酔うか。反面教師としては合格点だ…さて、教育してやろう、いや躾かな、負け犬!」
「またいいやがったな!?」
「対人戦、対魔物戦、どちらでも構わんが不用意に跳ねるな」
「がっ!?」
「有効打なら油断するな、無効であっても隙を見せるな、増長するに足る力だが、有効に使わねば…こうなる!」
「てめっ…がふっ!?」
「少しは頭を冷やせ。過去に何があったかは知らんが、お前のそれ聞くに耐えない負け犬の遠吠えだ」
「また言いやがったな!?」
「狼ならば、吼え方がある。誇り在る群れの一匹なら、負け犬の遠吠えの仕方なんぞ真似をするな!」
「ぐ…う、る…せ……」
「気を失ったか」
「お、おいぃ、ベートをあしらうってあいつ、どこん子や!?」
「見覚えは無い。だが確実に、強い」
「体術だが、ベートのそれを全て地面へ流しとるのう。反撃すら自身の力は使っておらん」
「まじかいな…」
「それにあれは魔術か? どうやって石畳を直した?」
「少し説教臭くなってしまった。神ロキ、宴の場を壊してしまった事を謝罪する。手持ちが今はこれしかないが、ささやかな飲み食いの代金には足りる筈だ」
「いや、これは受け取れへんで。口喧嘩と痛い指摘に逆ギレしたのはうちんとこの子や、最初に手を出したのもな。多少はダメージいっとるやろが、これでも冒険者や、すぐ治るから気にせんといてくれ。うちからも少し話はしとくで」
「そうか、ありがとう」
「んで自分、どこのファミリアや?」
「無所属だが? 恩恵も無いぞ」
「冗談も大概…に、え、まじで!?」
「強いて言えばヘスティア様の所にお世話にはなっているが、眷属ではない。元々は旅人で研究者だからな」
「まじかー、ほんと、まじか…」
「そろそろ行っていいか? ああそうだ」
(ブスリ)
「何この注射器みたいなの!?」
「ベートの傷が綺麗に治ったけど、白目剥いてビクビクしてる!?」
「…ちょっと面白い」「アイズたん辛辣ぅ!?」
「速効性の回復剤がそのスティムパックしかなくてな。治る過程で痛みが走る。手合わせで罅が入ってたようだな」
「自分、怒ってるな」
「まあな」
「待って。貴方は何故、そんなに強い?」
「強くはないぞ? 強いて言えば、初心忘るべからずだ。仲間含めて、生き残ってこそ今の強さのその先は見えてくる。孤独や孤高の強さなんざ、呆気ない程に脆いもんだよお嬢さん」
「独りの強さは、脆い…」
「曲がっちまうのは論外だが、靭やかに強かに、だ。オッサンから若い子への助言だよ」
「人間としては長じているだろうが、我々からすると年下とはいえ、含蓄深いな」
「俺は人間だが、見た目以上に結構長生きなんだよ、エルフのお嬢さん」
「お、おじょ!?」
「まだ堅物になるには、お嬢さんは早いって事だ」
「なんや自分、数百年生きるハイエルフより長生きしとるん?」
「まあな。さて、御暇する」
「…どうしたロキ、妙な顔して」
「あの男、長生きしている事に嘘は無かったんや」
「お、おお? もしやと思うたけど、ええ感じにステイタス伸びとるやん!?」
「…くそっ、俺の鼻も利かねえとは」
「んで、起きて頭は冷えたんか?」
「ああ、わぁってるよ。…とんでもねぇ野郎だ、殴り返す山を殴ってる気分になったぜ」
「ベートにしては冷静な評価やな、びっくりや。ま、今後は精進せぇや? 言うてたやろ、負け犬の吼え方なんぞ真似するな」
「…ああ」
「おーす相変わらずボロっちい場所…に…なんやこれぇ!?」
「昨晩見た未知の技か」
「なんだいロキにリヴェリア、ボクはこれからバイトなんだけど?」
「おいチビ、なんで外がボロいまんまで、教会の中がこんななんや!?」
「これかい? 眷属じゃないけど、親切な子が今滞在しててね! 世話になった御礼って言って綺麗にしてくれたのさ!」
「劇的なビフォーでアフターってレベルじゃないやろ!?」
「それより朝から何なんだい、大手ファミリアの主神様がいきなりうちみたいな零細ファミリアに来るなんて」
「そっちに妙なおっさん来てるやろ、アイツはどこや? てか何なんあれ?」
「トール君かい? いやー、話せないなー、彼もうち以外には殆ど用事が無いって言うし」
「ヘスティア様、キッチンの整備終わったぞ」
「おおありがとー」
「おや神ロキ、昨晩ぶり。入り口で立ち話も何だ、お茶の一杯は飲んで行ってくれ。隣のレディもどうぞ」
「単刀直入に言おう。ロキ・ファミリアに入団しないか?」
「断る」
「即答かいっ! なー、色々便宜図れるでー、なー?」
「ことわーる!」
「理由を聞いていいか?」
「ダンジョンに興味が無く、冒険者になる理由が無い。元々、神ヘスティアの所に世話になってるのも、調査が終わるまでの約束だからな。詳細は話せないが」
「その調査、私達が手伝えないものか?」
「魔法的な物ではないからな。専用の道具は俺にしか扱えない」
「ヘスティア様、見せても?」
「トール君が構わないならいいけど…」
「これは?」
「時空間周波数と座標を抽出、調査する為の探知機」
「??? ロキ?」
「嘘は、言っとらん。なあ自分、次元を渡る者か?」
「世界は渡るが、少なくとも魔導師ではないね。マナの概念は知っているし扱えもするが、俺自身にはグリモアやデッキを用意する意志も力も無い」
「さよか、あの厄介者と別ならええ。…いくでママ、残念ながらこのおっさんは、必要以上に関わると色々面倒な事になるで」
「いいのか?」
「ああ。…自分、あの時聞いた通り、少なくとも見た目よりは長生きやな?」
「まあね、数えるのもだいぶ前に止めた。だけど人間だよ」
「そら見ればわかるで。でもな、理を歪めず重ねて、何処まで行く積りや? 果てに至る積りかいな?」
「適当な所で安住の地を作るさ。仲のいい友達も嫁さんも居るし、余計な心配はかけたくないからな」
「…」
「どした?」
「「いるんか(のか)!?」」
「驚く所なのかそれ!? …なあヘスティア様、酷くない?」
「の、ノーコメントで。ボクはバイト行ってくる!」
「まあ加入は無理としてどの位、こっちにおる積りや?」
「データは半分ぐらい集まってるから、あと一ヶ月は大人しくしてるさ」
「さよか。まあなんや、気が変わったら来てもええで?」
「覚えておくよ」
「…しかしまあ、あれと同じ呼び名しとる割に、脳筋やないんやな」
「宝物の為に女装して巨人相手に暴れるような神と一緒にしないでくれ」
「お、よー知っとるなぁ。…あれ? もしかして向うのうちん事も良く知ってたり?」
「ほほう、異説の神話に詳しいのだな。いくつか聞いても?」
「あかーん!? 聞いたらあかーん! 例え同一で別のうちの事でも、それは勘弁してや!?」
「尚更聞きたい、いいかなトール?」「いいぜ」「あかーん!」
「…中々に酷いな。だが調子付いてしっぺ返しを貰う所は、なんというかロキらしいというか」
「うう、だから知られとうなかったんや…もうお嫁にいかれへん、ママの子供になる」
「誰がママだ。相手も子も沢山居たのに? 馬とか」
「思い出させんといてや!?」
「…え、こっちのロキも?」
「あれはノーカン、ノーカンなんや…」
「おお、ロキが今迄見たこともない程、沈んだ表情に。…なあトール、他には無いか?」
「まだ聞くとか鬼かいなっ!?」
「あるぞ」
「自分、大概容赦無いな!?」
「目的は果たせなかったが、有意義な時間だった」
「うう、暫く立ち直れへん…」
「昨日の事もまあ含めて水に流して貰えると有難い。ああそうだ、ガネーシャ神の所にも渡したが、友人の所で作っている酒だ、よければ飲んでくれ」
「酒やて!? お、いい香りしとるなぁ」
「今は呑むなよ?」「…おほっええやん!」「ああもう!」
「後で配達人に箱で届けておくから、ファミリアで好きに飲んでくれ」
「おっほぉ! 自分、ええやつやな!」「甘やかさないでくれ…」
「ここでは異物だからな、できるだけ関わる神や人は少ない方がいい。ロキ・ファミリア程の所なら、面識があるだけで牽制には十分だ」
「成程、道理だ。では失礼する」
「貴方…何?」
「オーケー落ち着け、敵対の意志は無い。ロキ・ファミリアの子だな、これでわかるか?」
「!? あの時の人。それで?」
「友人の姿が見えてね。レディ、貴女はこんな所で何の用事?」
「今日は、知り合いの冒険者に、戦いを教える」
「ありゃ、訓練の邪魔になるな。…って、ベル君?」
「トールさん?」
「成程ね。邪魔はしないが、見ていても?」
「構いません」「構わない」
「べふぅ!?」
「…頑丈だなぁ冒険者」
「~♪」
(なんだか男女の膝枕のそれじゃなくて、モフモフを愛でる女の子?)
「(声にならない悲鳴)」
「(´・ω・`)」
(初心だなーベル君)
「…楽しい?」
「もふもふ…」
「(声にならない悲鳴)」
「(´・ω・`)」
「…楽しそうね」
「もふもふ…」
「(声にならない悲鳴)」
「(´・ω・`)」
「ありがとう、ござい…ました」
「お疲れ様、また明日」
「大丈夫かベル君や。ちょっと痛いがこれをこう…」
「痛っ…いだだだだだだ!?」
「やっぱり全身万遍なく痛めてたな。我慢しなさい」
「我慢って、痛い、いたたたたた!? …はれ?」
「治ったろ? 定着してなけりゃ胴体だって生える」
「…この傷でこれだけ痛いのに、全身とかだと?」
「すげぇ痛い」
「トールさんの前で怪我をしないよう気をつけます!」
「手応えは感じているんですが…」
「ふむ。少し俺と手合わせしてみるか」
「ええっ!? トールさんは冒険者じゃないでしょう!?」
「ふふん、ならばこれは避けられるかな?」
「その速度は冒険者な…らぁあああ!?」
「反応も早い、膂力も上がった、アイズ嬢のお陰で対人戦の心構えもできた。だけど、自分の目で見ての格下格上不明も含め、油断だけはするな。こうなるぞ?」
「…はい」
「少しだけ手解きといこう。ただし、教える技は人体のような生き物の構造をした相手だけに特化している。モンスター相手に応用するなら、観察して力の流れを見るようにな」
「はい!」
「動き、良くなった…貴方が?」
「まあね。…って、何で恨みがましい目で見てるんですかね?」
「モフモフ時間が減った…」
「あ、そういう事?」
「(声にならない悲鳴)」
「(´・ω・`)」
「~♪」
「…ふむ」
「どうしたの?」
「遠くから見られた気がしてね。まあ覗き魔には、小指を角にぶつける呪いがかかるようにしてる」
「痛そう」
「ちょっと痛いと思う」
「!? …!」
「フレイヤ様!」
「…なんでもないわ」
「ですが…」
「何でも無いったら!」
「お邪魔します。神タケミカヅチ、不躾な願いで恐縮ですが、一手、ご指南頂きたい」
「…この技は、子の成長の為に振るっておるのだが」
「なれば、眷属の方々に恩恵があれば良いのですね?」
「う、うむ。しかしお主は、ファミリアに入る積りは無いのだろう?」
「ええ。…という事で、色々入り用でしょうから此方を。なぁに、手持ちの素材を売った売上です、何ら後ろ暗い物ではないですよ」
「む、しかし…!」
「タケミカヅチ様、これだけあれば仕送りに大分余裕ができます!」
「ぬう…!」
「流石は武神の眷属だ、不必要な無駄も無く、丁寧に鍛え上げている。まだまだ強くなれるな」
「余裕で…言われても…!」「もうだめ…」「此程とは…!」
「なぁに、俺はちょいとズルをしているようなものさ。君等ならばまだ若い、恩恵も併せれば飛躍的に成長できる」
「それまで。トール、お主のその技、どれ程の?」
「先も申しました通り最適の動きを導き出すまでいくらかズルをしましたが、理想の動きをできるよう、文字通り身体に叩き込むには骨が折れましたよ」
「…成程な。その先には手を伸ばしてはおらんのか」
「世の理、人の身の限界で良いのですよ。さらに鋭く早くできるような手段も持ち合わせていますが、身体に悪い」
「ふふ、身体に悪いか。恩恵を受けぬ人の身の限界までとするならそうであろうな」
「ここまでとしよう…、これで恩恵を受けていないとは誰も思うまいて」
「ありがとうございました。改善点がいくつも見つかりました、これでより刀で扱う技が増えます」
「ほう、お主が扱えぬ技があったと?」
「真似事でしたが、剣筋にブレがあって手合わせなどでも使った事が無いのです。動いていない巻藁ならいいのですけどね」
「興味が湧いた。見せて貰っていいか?」
「…御意」
「偽・飛天御剣流…、九頭龍閃」
「偽・飛天御剣流奥義、…天翔龍閃」
「偽、ということは真なる担い手、流派があったのだな」
「ええ。実在したかは解りませんが、俺のこれは、伝え聞く大まかな理を元にした偽物です」
「ふふ、伝聞と理だけで再現とは。積み上げればその域に届くか! 素晴らしいな!」
「ご満足頂けましたか?」
「ああ、感謝する。我らが眷属達も、より高みを目指して精進するであろうよ」
「ええ、貴方の眷属達は更に伸びます。期待していますよ」
「…如何された?」
「覗き見が好きな御仁がいるようでして。誰かは知らないけど飽きないな、また小指をぶつけるのに」
「ふむ、呪いの類か?」
「友人に頼んだ、悪戯です」
「…! …!」
「ふ、フレイヤ様?」
「…なんでもないわ」
「ですが!」
「何でも無いの!」
「…おい、面貸せや」
「ふむ、良い顔になったのは別として、俺には男色の気は無いぞ?」
「ちっげーよ!? …アンタは体術使いとして俺より遥かに強い、それで…その」
「向上心、大いに結構。ただ頼み方は落第点。ま、いいだろう、少しだけ付き合うぞ」
「ダンジョンに入った事は無いが、モンスターも生き物とすれば、力の流れ、かけ方がある。戦場では悠長に観察はしてられないだろうから、戦いながら見極める目を持つといい。多分、このファミリアの幹部勢はその辺り、いい目を持ってる筈だ」
「…ぐふっ、簡単に言うなよ」
「切り込み隊長な立場なのはいいとして、単なる戦力であるより、情報を抉り取って来るというのもアリなんじゃないか?」
「そうか…よっ!」
「お、今の隙狙いはいいぞう。打った後に油断しないのも素晴らしい」
「余裕顔で言うんじゃねぇ! ぬぉお!?」
「団長、あの人、本当に冒険者じゃないの?」
「ロキとリヴェリアから聞いた限りではな。信じられないが」
「へー、ベートの動きが疲れてるのに良くなってる」
「混ざってきてもいいよ」「やったー!」
「ふっざけんなこのクソ女! 俺が頼んだんだぞ!?」
「頼んだとは言い難い誘い方だったけどねー。いいぞお嬢さん、好きに打ってくるといい」
「よぉし、いっくぞー!」
「…アイズ、ガレス、君達は駄目だからね? 訓練場が持たない」
「え」「ケチくさいのう」
「なんでそんなに残念そうなんだ」
「お疲れ様、流石に最大手ファミリアの冒険者だ」
「もう動けない…」「…くそ、動けよ俺!」
「これ以上はオーバーワークだ。とある伝説的な国の王が言いました、ベストコンディションで動けるのは当たり前、バッドコンディションでの動きを学びましょうと。その点、君等はバッドコンディションとの付き合い方が不足してる。今後の課題の一つにするといい」
「わかったよー…」「ふん…」
「ああそうだ、ポーションだと自然回復による身体の強化に繋がらないと聞いたから、これを使う」
「げ、まさか!?」「何だ?」
「痛いけど痛くないよー、ほらプスリ」
((!!???!!!))
「ベートさん達が白目剥いてびくんびくんしてるっす!?」
「あれは大丈夫だ、先日、ベートが身を持って体感してる」
「あああ、女性がしちゃいけない顔にぃ!?」
「大丈夫、多分」
「あの件もあったのに、訓練に付き合ってくれてありがとう」
「俗な打算もあるから気にしないでくれ。所で神ロキは?」
「…君から貰った酒を半分飲んでな、二日酔いで呻いてる」
「もうそんなに飲んだの!? 箱で結構入れといた筈なんだが。てか、ドワーフも居るのに独り占め?」
「おや、ファミリア宛に送ってくれてたのかい? …そうか、後でリヴェリアに頼んで説教だな」
「あー、程々にな? こっちに来ていい感じに身体を動かせたし、もう一箱、置いていくから好きに飲んでくれ」
「どこから出したかは聞かない。でも感謝する。中々、ロキの酒代はバカにならないからね」
「神のお眼鏡にかなう出来なら、俺も持ってきたかいがあったというものさ、友人も喜ぶ」
「おーい、ヘスティア様、そろそろ時間だ」
「あれ、トール君、わざわざ来たのかい?」
「ヴェルフ君とベル君も来てるよ。迎えついでに外食しようかだってさ」
「そっか。ヘファイストスー、そろそろあがっていい?」
「…まあいいでしょ。所でそこの子、初めて見る顔ね?」
「トールと申します旅の学者です、神ヘファイストス…って、どうしました?」
「…ちょっとこれ、ふざけてんの?」
「何の話?」「わからんですよ」
「これよ、このナイフ! 形が意図された不思議な形なのはいいとして、なんでこの素材でその程度の造りなのよ!?」
「普通に使っても、誰が使っても余計に切らない為ですよ」
「ナイフなのに?」「ええ、道具ですからね。頑丈ですが」
「確かに不壊属性並の頑丈さではあるだろうけど、勿体ないとは思わないの?」
「そこは意見の相違ですかね。使い熟せば切れるなら、それで十分なんです。それに…ほらね?」
「おー、鋼鉄のインゴットがスパっと来れたね」
「スキル? …成程、使う武器を選ばないか」
「使い慣れて頑丈で、不必要に斬れないのはとても有用なんです。まあ切るだけならこういうのもありますし」
「見せて貰っても?」「いいですよ」
「なんかもの凄い顔してるんだけど、あの刀、そんなに凄い物なのかい?」
「旅先で会った、群雄割拠の乱世で一角の人物だった方の物を参考に、俺の知る量産用の手法で複製した物です」
「へー、量産できるんだ。あれを商売の種にしたり?」
「いや流石に、手入れが自分だけですから、旅をして売りっぱなしなのは無責任でしょう?」
「おい、鍛冶スキルではないどんな手法を用いた。この素材の振る舞いは地上ではありえない!」
「どうどう、ヘファイストス、どうどう…」
「まあ地上で作って無いですからね。大地の力の及ばない領域で合金を造り、硝子の振る舞いをさせて硬化、星を飲み込む重力の圧で押し固めて形作りました」
「…なんてこと。でもそれなら…」
「まーた長考かい」
「しかし…、此方だと女性なんですね」
「どういう事だい? 他だと男神だったり?」
「そうですね、聞いた話だと…」
「神様、お迎えに来ましたよ」「よう」
「やあ二人共」「どうしたんです一体?」
「トールの旦那、あれ見せちまったのか…」
「それよりも、さっきの話、ちょっと聞かせておくれよ」
「お、トールの旦那の所での伝承か。男女変わってたりする」
「えーと、ヘファイストス神、オリンポス神族の一柱。ゼウスとヘラの子にして、神話の神器を誂えた鍛冶の神。一時、ヘラの仲介で…」
「ぎゃー!? あっちの私だけどやめて!?」
「アテナが仕事場に来た時に…」
「いやー!? ほんとやめてってば!?」
「…苦労、されてんすね、ヘファイストス様」
「アフロディーテもアレスも何やってんだい。少し事情は異なるけど、12神であの時、こそこそしてたけどそういう話か」
「…若気の至りよ。ほんと、君は何者なのよ」
「旅の研究者ですよ。ちょっと物知りなだけの。異説だと、アポロンとヘルメスはかの女神と閨を共にできるなら巻かれてもいいとか言ったそうで」
「「言いそう」」
「12神集団監視羞恥プレイの最中は皆笑うのを我慢してたけど、アポロンが、アレスと位置交代して貰ったら?とヘルメスに言ったら、私のはショボいからなーとヘルメスが言って、笑うのを我慢してた神々が大爆笑したとか」
「なにそれ、ボクも見たかったな!?」
「アンタ処女神でしょーが」
「…僕、ヘルメス様とか、一部の神様を変な目でみちゃいそうです」
「俺もだ」
「もしかしなくとも俺のせい?」
「「ですよ」」
「…しゃーない、詫び兼ねてミア姉さんとこで奢るわ」
「「っしゃ!」」
「なんで椿の姉さんがいるんだ…」
「この人数なら誤差だけど、こちらの方は?」
「おう、手前は椿・コルブランド、ヘファイストス・ファミリアにて団長なぞ仰せつかっておる。聞いたぞ、鍛冶ではない手法でヘファイストスが悩むような刀を作ったとな」
「…相応の対価は出すから、あれと同じの、一振り譲ってくれない? 今後の参考にしたいの」
「いいですよ、量産品ですからね」
「…どうした?」
「あれを量産品と言い切った事に嘘が無いの!」
「まー、そういう話は後にして、今は食べようぜい!」
「そういやベル、リリスケは?」
「用事があるとかで」
「あっはっは! 面白いのうお主! さあ飲め飲め!」
「飲みますけど、出来上がってるなー」
「嫁が居るというのは残念だな! 居ないなら手前が率先して孕んでたというに!」
「…なあヴェルフ君、彼女、こんなに厄介な性格だったん?」
「鍛冶好きを長じてモンスターぶん殴る人だからな姉御は」
「おう、主も飲めい! わはは!」
「がぼぼぼ!」
「べ、ベルくーん!?」
「脱退金、これ以上の加算は無いな?」
「ああ、払えるならなぁ?」
「そうか。冒険者ギルドの職員立ち会いのもと、引き渡しとしようか。書面を寄越せ、二通用意だ」
「ふん、これでいいのか?」
「…では、私エイナ・チュールが立会人となります」
「よかろう、金額の交渉には応じないがな」
「するか。ではこれを確認してくれ、インゴットの形だがな」
「どこに隠し持っていた!?」
「拝見します…。はい、確かに」
「バカな!?」
「さあ団長さんよ、お前の言う通り用意した。ソーマを呼べ」
「…お前に任せると言ったが、これについては手打ちにせよ」
「な、何故です!?」
「既に、リリルカ、リリルカ・アーデは神酒の誘惑を振り切った。取り決めた額が払えたなら、それ以上の干渉は止めておけ」
「神酒の誘惑を振り切った!? ありえない!」
「付け加えるなら、あのトールという男に害を成せば、関わった者は様々な意味で死ぬ。神々の王が向う千年、笑われたと同じ様にな」
「意味がわかりません!」
「解らぬなら、それでいい。関わるな、私は止めた」
「なんだろ、ある意味ひでぇなこれ?」
「重罪じゃ無いのが無数にバレるとか、俺なら首を括りたくなるね」
「まー、団長やってたってけどこれで終わりだろ。取り巻きも」
「「最後に全裸でオラリオを駆け回るとか」」
「…リリが言うのも何ですが、容赦無いですね?」
「殺すのは実は楽なんだよ、でもね、社会的にも精神的にも殺さないと復讐にはならんでしょ」
「でもこれ、えげつないにも程があります」
「友人に比べれば可愛い方だがなぁ…」
「ま、すっきりしましたが」
「ならいい。これからヘスティア様とベル君の為、頑張れるかい?」
「それは無論。でもいいのですか、リリの為にあんな額…」
「金持ちの道楽さ。そう思って気楽に受け取ってくれ。ベル君が土下座をしてまで頼んできたんだぜ?」
「…ベル様」
「色々大変だろうが、ヘスティア様と彼、そして何より自分の幸せのため、がんばれ?」
「調査も終わった。長居したな」
「いえ、僕達こそお世話になりっぱなしでした…」
「君のお陰で厄介事が拗れる事無く終わったものも多い。ファルナは無くとも君はボクの眷属だ、いつでも遊びに来給え?」
「ありがとう、ヘスティア様。こちらの厄介事が片付いたら、嫁さんや友達も連れて遊びに来るよ」
流れは概ね原作通り。