荒野からやってきました外伝 荒野の災厄のやらかし集 作:マガミ
「…キモい」
トールが転移した先、空間座標としては地球である筈の所でファーストコンタクトをしてきたのは、一種の生物機械だった。生物としては破綻した構造をしている。
穏便な接触? デカい口でぱっくんちょとやろうとしたのにどう頑張ってもそんな悠長な事は言ってられなかった。
「場所は九州だが…、これは人類の兵器じゃないな」
停止させた後、インベントリに格納して分解したが、解析不能な元素がある。トールは襲いかかる生物機械を片手間に撃破しては分解する。所々に人っぽい意匠があるのがどうにも癇に障る。
「随分厄介な世界に来たな。アイボット、生存者の確認を急げ。こいつら、人間を食うぞ」
かのFASの平和維持機にも似た敵だが、よりトールの嫌悪を招く要素として、人間を積極的に材料として確保する生物機械群の姿は、その醜悪な外見も相まって、よりトールの敵愾心を想起させた。
「局地的ならいいが、世界中となれば全部掃除しないと気分が悪い」
トールは高次元素材で強化された、一発が衛星軌道質量投射に匹敵するガウスライフルを手に、顔を歪めた。
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荒野の災厄が転移で降り立ったのは、BETA(Beings of the Extra Terrestrial origin which is Adversary of human race)、人類に敵対的な地球外起源種の侵攻真っ只中の地球だった。かの原典世界では、一人の少年と一人の少女が、次元を超えて過酷な運命と絡まった因果のループの果てに、全ての記憶を失って平穏な世界に戻るまでが描かれる。
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だがこの世界の記憶が無いトールは培った経験と人類(笑)の能力を遺憾なく発揮して周辺を制圧。放置されたり撃破されていた兵器の情報から断片的な情報を得ると、降り立った九州の逆制圧に乗り出した。
調査の結果、既に「人類」は九州には残っていなかった。居たのは人間を材料にしたBETAの群れ。トールは表情を消してロボット軍団を生産し、片っ端から蹂躙を開始した。
第一弾の構成は、頭部はプロテクトロン、脚部はMrハンディスラスター、ボディはロボブレイン。腕はセントリーボット。ふよふよと浮かぶ一見ユーモラスな姿。だが武装は特化させた分だけ凶悪だ。
武装はレーザー系に複合効果を付与。脚砕き、ノックバック、一時反重力、凍結の効果が一度に襲うという、拠点世界では自分で禁止武器指定にした凶悪なレジェンダリ群だ。一発目は耐えてもそこはガトリングレーザーなので、判定数が蓄積すればいずれ確定で状態異常になる。
凍結し、転倒し、浮揚し、弾かれたBETAは、移動速度はそのままに地面や建造物の残骸、あるいは他のBETAに激突して砕け散る。停止した個体が他のBETAの盾になることもない。人の居ない大地に突如出現した最初の6万機の浮遊ロボットは、大小問わずBETAを駆逐していく。
硬かろうが素早かろうが関係ない。当たった時点で構成質量に状態変化が起きる。まさに理不尽。
途中、トールは撃破された人類の大型人型兵器、戦術機の情報を得つつ、生存している日本人に接触しようと戦力を展開する。
「…この徹底ぶりは機械そのものだな」
強襲、蹂躙、殲滅、制圧、そして生産と陣地構築。何処と無くトールのドクトリンに似た戦術にも嫌悪を覚える。
市街地から平野、山林まで、虱潰しにBETAを文字通り潰していくトールのロボット軍団は、あるエリアだけ攻められず、マスターのトールに指示を仰いだ。強力な重レーザーにより接近ができないとの報告だ。空中用ドローンもそのせいで展開できない。
トールはいくつかの防御手段を講じ、数少ない非制圧エリアに端から侵入。一瞬で航空機を撃破する生体レーザーを、物理法則外の魔道具の力で事も無げに無効化しつつ、動きの鈍いレーザー級を屠った。近くには肉薄しつつも果たせなかった戦術機の残骸がある。
「…敵は取った。安らかに」
作業用ロボットに命じて、破片でも構わないと戦術機のほど近くにパイロット達の墓を造り、埋葬を行う。
「Jr、制圧状況の再確認」
「ドローンによる空中偵察と、アイボットによる地上ローラーにより確認、九州はご主人さまの制圧下にあります。生産設備も構築完了、対馬の防衛ライン構築もできました」
「ありがとう。…生存者は」
「…おりません」
少し瞑目して、トールは次の目標へ向かう。マザーシップを浮かべてもいいが、流石に全方位で集中されるとダメージが大きい。
解析の結果、重レーザー級の個体は近辺の個体全機による5時間の照射で撃沈の恐れがあるとJr報告を受けた。
「こんな事なら、シールド関連技術を追加で研究しておくべきだったか」
「今はできる範囲で考えましょう。現在の取得情報では、あと2日で四国が失陥、京都での迎撃戦が始まります」
「わかった。高次素材を使用して構わない、四国を経由して近畿と東海の避難民の退路確保を終えたら、西日本のベータ共を片端から砕くぞ」
「了解です。許可武装範囲は?」
「次元、重力、核、生物と毒以外は全力で構わん。特に毒と生物兵器はやめとけ、効果が多分微妙だ」
一週間を経過し、トールとBETAの戦いは続いている。物資については、現地で基礎を構築した後、フォトニックレゾナンス技術により要塞化され、地下に設置された無数の縮退炉と試作型元素変換プラントにより無尽蔵である。地中からの侵攻も検知と空間座標の特定後、凍結させられて空間転移で空中に放り出される。
現地生産と数を頼みにするBETAにとって、此程までに相性の悪い相手は居ない。何せ、相手は同じ手段を取り、総体としては古い技術の塊で、補給の自己完結と自己増殖で無尽に戦力が増えていくのだから。
もし、BETAのそれぞれに意識があったなら、自身の消滅が確定した領域に、命令だからと進ませる指示に文句を言ったかもしれない。それ程までに、これから巻き起こる圧倒的で執拗な火力は、BETAを大小問わず徹底的に打ちのめした。
荒野の災厄は、災厄の通り名を、自重しない暴力を解き放ったのだ。
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朝鮮半島ハイヴ内の、人類に反応炉あるいは頭脳級と呼ばれる司令中枢は混乱していた。事前の策定では、その狭い陸地は既に制圧している筈なのに。可能な限り情報を集めようにも、あらゆる手段を講じようとも、通信どころか現地のBETAによる情報も全て、一瞬で溶けて届くことが無い。
他ハイヴからの応援も受けて戦力を偏らせているが、想定制圧エリアはマイナスだ。海まで押しやられているし、海中だろうと謎の攻撃で端末群はバラバラにされている。攻撃手段の詳細すら解らない。
何故光線が到達した時点で、保存エネルギーを無視して状態が一瞬で変化するのか。何故G元素由来ではない炉心反応が無数にあるのか。何故事前想定を上回る敵の姿があり尽きぬのか。
頭脳級にはついぞわからなかったが、この時から、明らかに異常な信号が駆け巡るようになった。
その名は恐怖。生物であれば本来持ち合わせている原始的で基本的な情動。それは本来、仕様上はありえないものだった。
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混乱は人類側も同じだった。どのような技術で浮かび続けているか不明な一見ユーモラスなロボットが九州を起点に目撃されるようになった。
ある時は避難民を連れて、ある時は戦術機や戦車に追従し、ある時は兵士級、闘士級を前に奮戦する生身の兵士達を援護するようにを攻撃し始めた。だが何者かと訪ねても電子音しか帰ってこない。
逸った軍関係者が一体を捕獲して分解しようとしたが、悲しそうな音を出してから自壊し、内部も破損して何もわからなかった。唯一、装備していた光線兵器の詳細が判明した程度で、これも「何故この出力で物理的にありえない効果が起きるのか」不明だった。
幸いにして、人類側の技術で武装をそのまま修復できる事は判明。戦術機用の搭載兵装として用いられ始め、前線の維持や押し返しに使われ始める。
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それは奇妙な光景だった。
浮かぶ二本腕という共通点以外は千差万別なロボット達。壊れても別のロボットがいつの間にか現れ、常に人類に寄り添うように戦線を支える。
いつしか戦友に似た気持ちを抱いた末端の兵士達からは上層部の鹵獲命令に抗議した。
日本軍上層部は調査を断念。そこかしこで兵士と肩を並べてBETAを倒そうとする以上は、偶に音楽を鳴らして人間を慰撫しようとする以上は、人類の味方だと推定し、諦めた。
ちょっとだけ続くんじゃよ