荒野からやってきました外伝 荒野の災厄のやらかし集 作:マガミ
ユーラシア大陸を取り囲むよう、初期の理想的な想定でBETAの封じ込めが続いている。沿岸部には国連主導で橋頭堡たる基地が設けられ、内陸部にあるハイヴ攻略に戦力が集められていた。
大陸側の基地には、大陸側で生産されたロボット軍団が既に接触し、人類側と共闘を開始している。
トールと言えば、九州に作った拠点を破棄解体し、元港湾施設に潮力と風力発電設備を設置、日本本土に展開するロボット用のメンテメックを製作した。
既に日本軍は攻略戦力を大陸側に設けた基地に移動させており、BETAに蹂躙されなかった日本本土には防衛戦力以外のロボットは必要無くなっていた。そのため、日本を巡回してロボットを修理、改修するメックを作った。改修といっても、Mrハンディのアームを追加するだけである。
「うちのロボちゃんがちょっと変に!?」
「あ、便利なんだなそのアーム」
一斉に一般人達の手伝いをロボット軍団が開始したため、市民生活は少し混乱したらしい。
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トールは複数の拠点要塞を作ってロボット軍団を生産させては、安全が確保された方面の要塞の内部だけ解体、格納して移築するのを繰り返していた。
外部を残すのは、人類の一時拠点にできるようにとのちょっとした配慮だったが、現場経由で国連に上がった「ロボット軍団を作る謎の存在」と「謎の存在が残した拠点跡地」に会議が紛糾した。
残したテクノロジーは、どう見ても1900年代中盤の代物かそれに毛が生えたようなものだけで、明らかに人類が使う構造であるのに、どの国の文化にも似ているようで違う様式だったためである。強いて言えばアメリカ軍の様式に近いが、アメリカは関与を否定した。
そんな各国上層部の混乱事はつゆ知らず、トールは今、久方ぶりの昼寝をしていた。
現在のBETAの間引きと投射の阻止は順調だ。今後の戦略を見直す段階に来ているとJrに言われ、一度、頭をリセットするつもりで久方ぶりの昼寝と洒落込んだのだ。
だが休むトールの部屋に、緊急を告げるアラートが鳴った。
「ご主人さま、撤収中の末端要塞に日本軍の戦術機が接近しています。恐らく、内陸部の強行偵察と思われます」
「随分大胆な軍人さんだな。既に縮退炉は無いから、案内役を残して移動開始。物資はそのままで構わない」
「そのように指示しておきます。埋設ケーブルは最後に回収する予定でしたので、内部映像が確認できるかと」
「ほいほい、Jrは新造のロボ達の指示を頼むな。こっちは俺が見とく」
トールはインベントリに仕舞ってあった無地の缶を取り出すとプルタブを引いて戻した。缶入りのナザリックブレンド、アイス用である。
「さて、こっちでは初めて見る人類だ。どんな肝っ玉を持ったマッチョ達かな」
トールは知らない。
この世界、特に日本においては男性軍人の人的資源が払底しつつあり、女性の従軍可能年齢が大幅に引き下げられた事を。そして、戦術機に乗るパイロット達のスーツ、衛士強化装備がトールの目から見て途轍もなくエッチな装備である事を。
大胆にも武器を持って戦術機から降りてきた女性衛士の姿に、カメラでこっそり見ていたトールはコーヒーを噴く羽目になる。
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九州と四国で確認された、謎の存在によるロボット整備施設。日本軍は速やかに接収するも、壊れたロボットの修復の他には強固な防衛拠点としての能力しか持たない空っぽの要塞。
朝鮮半島にも存在が確認され、同様の施設である事が調査の結果解った他は、誰が作ったか全く不明であった。
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だが日本軍は、撤収からまだ時間が経っていない施設を発見した。設営範囲からして100km先に同じ施設か、まだ撤収をしていない本来の姿の施設があるものと推定、偵察部隊を派遣することにした。
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その強行偵察部隊の隊長、篁唯依は、本土沿岸防衛戦を、嵐山中隊の第2小隊長として参加。他部隊の同期や先輩を失いつつも、元訓練生であった親友達と共に生き残り、以降も経験を重ねて今では一端の精鋭と呼ばれるまでになった。
『あれが、撤収前の施設?』
『まだわからないよー、また同じかも』
『未確認よね? 隊長、指示を』
「センサーと目視で確認後、施設の防御壁を利用して全周警戒。中は私が確認する」
『隊長!?』
「山城少尉、いざという時はお願いね?」
『全くもう…了解』
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「どんな強心臓のマッチョが来たかと思いきや、全員が女の子でものっ凄いパイスー着てたでござる」
トールは驚いて床に撒き散らしたコーヒーをモップで掃除しつつ、100km離れた基地から送られてくる映像を見ていた。色々な角度で見ている件については他意は無い。固定カメラの追随の都合で、角度が合わずに胸とか尻とかが真ん中に映っているが、他意は無いのだ。マルチモニターのサブに色々な角度からの映像が並んで出ているが、他意は無いのだ。
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過度の緊張もなく、訓練された動き。女性パイロットは自動小銃を油断なく構え、末端拠点を探っていく。問題はその姿であった。
「…有用で何かの意図があるんだろうけど、エッチ過ぎませんか?」
思わず素になるトール。
トールが回収した戦術機の残骸の中には、殆どの場合、パイロットの姿は無かった。破片らしきものやドッグタグが残れば良いほうであった。積極的に人類側に接触していなかったのもあり、戦術機の仕様は兎も角、パイロットがどのような姿で搭乗しているか知らなかったのである。
身体の線が出ていることに加え、ある程度の伸縮性から特に胸と尻がやや抑えられつつも強調されている。緊張からかB地区が自己主張していた。
そして施設内を移動する度、階段を上下する度ににぷるんぷるんしよるのである。探索する女性パイロットの胸が豊かなのも拍車をかけた。日本人らしく黒髪であるのもトールとしてはとてもポイントが高い。そんな子がシルエットが裸同然のスーツで堂々と歩いている。
心の中で、髭の総統閣下のようにおっぱいぷるーんぷるーん! と叫んではたと気づく。
「ごめんよ舞子、エロスが唐突すぎて、知らない若い子の姿をガン見しちまった…」
トールは壁に手をついて、拠点世界に残してきた嫁に謝罪した。尚、訓練用衛士強化装備の情報を得た時、トールは再びコーヒーを噴いた。
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偵察小隊の隊長、篁唯依中尉は自動小銃を手に施設に侵入する。構造は九州などで発見されたそれらと同じで、今のエリアを抜ければ、ロボットの整備用工房に入れるだろう。
電子音を出して、篁中尉の前に見慣れたロボットが一体、ふよふよと近付いてきた。お辞儀をするように上下する。
「この施設は、お前たちの整備施設か?」
肯定された。今迄と同じと落胆する。
「この施設を作った者に逢えるか?」
否定された。だが、今までの情報とは異なり、施設を作った何者かがどこかに居る。今までは、施設の作成者については曖昧な返事しか返されなかったのだ。
「独白でもいい、聞いていればなおいい。私達は彼らのお陰でここまで来れた、ありがとう。できれば、これからも一緒に戦って欲しい」
ロボットは勿論だとばかりに大きく上下。篁中尉は歳相応の微笑みをすると、施設を後にした。
『どう? 見た限りでは他と同じだったけど』
「変わらず、だな。座標を記録して撤収、野良に気をつけて」
『了解です』
『戦力経由地としても有用だからね、安全確保できたらすぐに稼働できるね』
『副隊長、戻ったら甘味、甘味ですよ』
『もう、帰還するまで私語は慎みなさい?』
そんな会話をしつつ、遠ざかる戦術機隊。ロボットは周辺の哨戒をしつつ、人類が来るまでの間、撤収済み拠点の防御をすべく行動を再開した。
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衛士強化装備の衝撃からここ数日、夢に見るのは衛士強化装備を纏ったやまいこの人化した姿。暴発すると恥ずかしいので、投薬と神経調節をして性欲を抑えるがいつまで抑えられるか不安なトールである。
天の川銀河からBETAを消し去るには、大体予測として500年程かかるとされている。以前、同じようなSF世界で駆逐に精を出したときと同じ計算だ。新技術を手に入れているのでもっと短縮できるだろうが、その間、ずっと愛しい人と離れる訳で、太陽系内の駆逐と防御システムが構築された時点で一度、戻ろうと考えている。
そんな感じでトールは大まかなプランを造りつつ、ロボットの展開状況をつぶさに確認していた。
「…EU方面は、ソ連の影響でモロに離れてるな。特に元東ドイツ系が酷い」
謎のロボット達は人類同士の争いに介入しない。人間相手に武器は向けず、ただ命を守るのみ。
何処からか囁かれ始めたその噂と考察は、遠く離れたヨーロッパ方面でも流れている。ソ連の影響を受けて秘密警察やらの人民統制、弾圧組織を持つ国々の部隊では、BETAとの戦いの側にロボットはとても少ない。
その影響で前線は有利であっても士気が上がらない。深刻なのは東ドイツを筆頭に、ソ連の影響が殊更強かった国の部隊である。大抵は国連軍に編入されて分散させられたりするが、使い勝手から元の国の部隊編成のままの所も多かった。
「…あの極端な国民性はどうにかならんかね」
日本人にもあるような、決められた型枠に杓子定規に当て嵌める悪癖。ドイツ人の血なのだろうか。
トールとしてはあまりロボット達に敵愾心を持って貰いたくは無いが、生前から社会主義と共産主義が反吐が出る程嫌いなので、人命救助の優先を除いてロボット達の好きにさせることにした。
ヨーロッパ方面は1993年に一度、完全にBETAに制圧されている。それを考えれば、2000年を目の前に橋頭堡の確保のみならず、いくつかのハイヴ攻略ができているのは行幸だと思うのだが、どうにも主導ではなく脚引っ張りの政治がお好きな連中は多い。そういうのは、せめて地球上から駆逐し終えてから存分に殴り合って欲しいと思うトールであった。