荒野からやってきました外伝 荒野の災厄のやらかし集   作:マガミ

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思った以上に、コードギアスの世界を知らないんだなーと思って説明がてら。
詳細は考察サイトやWikipediaなどをご覧頂けると、よりあの世界の厄介さをご理解頂けるかと。


外伝集・CG世界で何してたか

 2009年。研究員待遇だったトールは歩兵用防御装備の一部採用だけで、実質的にはお払い箱となった。ブリタニアがKMFを主軸とした戦略を中核に据え、研究を開始した為である。

 窓際での閑職がてら、情報収集を兼ねて隙間的な事業を開始する。シャルル達は邪魔にならない以上は何も言わず、好きにさせていた。

 トールは転生者イザベルからシャルル達の目的は聞いていたが、事前情報も無しに彼らが目的とする遺跡の確保を申し出るのは不自然極まりない訳で、せめていくつかのきっかけを作ってから再度、提案をする方針を定める。

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 そして同年、留学という名の人身御供としてルルーシュとナナリーが日本に送られた。二人に続き、トールは戦争発生が近い日本本土へ渡る。国籍は名誉ブリタニア人のトオル・ミナセとしてだ。目立たないよう情報収集するのが目的である。

 

 東京に到着したトールは自転車を一台買うと、素材を手持ちの物に置換して耐久性を確保。ナビ代わりに顔を覆わない改造型ステルススーツMk-2をウェア替わりに着て23区を中心に見て回る。異様に早く、とんでもない所を走る自転車乗りが居ると噂に上がった。偶に迷彩モードが誤作動して運転手が居ない自転車が爆走する。目立たないとは一体、うごご。

 

「…現代日本に近いかと思ったら、結構酷いな」

 

 未来的ながら、懐かしいようでいて違う街並みのそこかしこに、薄れかけた記憶であるが、異なる風景を見る。下町などではなく、ガチのダウンタウン、あるいは一般的にはストリートと称される独特の区域が存在していた。

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 この世界の日本は、常温超電導物質サクラダイトの約70%を産出する国であり、関連技術とその特許が齎す莫大な利権と輸出黒字により繁栄を謳歌している。

 だが、富の分配という点では政治的に失敗している。一部の富裕層がより富むが、底辺を底上げ、あるいは救い上げる機構がうまく機能していない。法律や政治について直に調べた結果だったが、トールの生前より酷い。

 仕事も余程突出した才能が無い限りはコネ重視。環境に恵まれないと出る杭は打たれるクソゲー仕様。平均賃金は高いように見えるが、社会保障制度の不備からすると備えをするには余裕が無い。

 

「…だから健康だが仕事の無い奴は、食いっぱぐれの無い日本軍へ、か。そこだけまるで20世紀初頭の大日本帝国だな」

 

 トールは剥がれかけた日本軍の募集ポスターを見ながら、独りごちた。

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 日本の政治経済やその大まかな概要を得たトールは、数年後に迫るブリタニア侵攻に備え、積極的な介入を開始。上陸想定地点の他、日本各地の過疎気味の町や村、集落に足を運ぶ。

 過疎化は生前よりも酷く、また政治も主要都市や財閥、サクラダイト関連企業を重視しすぎて、地方自治体は青息吐息だった。そこで、地方創生事業という訳でも無いが、ある提案を営業マンとして持ってくる事にした。

 

「町単位の地下シェルター?」

「ええ。外国は物騒ですが、日本は日本で災害大国ですから、その備えの実験協力要請と提案です」

 

 小綺麗なスーツを纏い、髪を整髪料で纏めて野暮ったい眼鏡をかけたトールは、ブリタニアに本社を置く新鋭会社の営業マンとして、とある自治体の役場を訪れていた。

 

「しかし、うちの規模じゃあとてもじゃないが、費用は捻出できませんが…」

「ええ、ええ、存じております。実は、海外営業の前に高湿度環境でのデータを取りたいもので、居住テスターのお願いを請けて頂けるなら…このお値段で」

 

 テスターと言っても、かのVault-Tecのような悪辣な社会実験では無い。まあそんな事は町長は知る由もないが。

 

「!? 短い徒歩用トンネル一つを掘る程度の値段ですが…」

「無論、建築額だけです。保守費用はこちらです」

「む、むう、払えない事は無いですな」

「ただ、災害対策用ですから、本格的に戦争になって軍などに集中攻撃されると、あまり長くは保たない点はご留意を」

 

 トールは調べていないので知らなかったが、この世界には核関連技術は発展していない。より効率がいいサクラダイトを中心とするエネルギーや動力研究が進んでいるので、放射性物質は限られた分野を除いて「大規模な利用価値は低い危険物」扱いである。

 

 工期については特許出願中の新規工法で数年で終わると伝えるとまた驚かれた。尚、攻撃されるとあまり長く保たないというのは、1単位百年である。

 

「パッケージングした関係上、制御システムに融通が効きませんので、軍事目的の転用が難しいんですよ。管理システムが、射撃武器や一定長の刃物や刺突物を自動検知して制圧、没収してしまうんです」

「はは、それは困りましたな。兵隊さんなら災害にも耐える施設は欲しいでしょうし」

「そういう訳で、国への営業はちょっと難しいので、ならばと都市圏以外を回っております」

 

 町長としては、映像で見せられた200人級Vaultの映像と資料をつぶさに見る。Vault-TecのアメリカンなCM映像を参考に、CGで作成した代物だ。この世界にはアメリカ人は居ないので、ブリタニア人の優雅な生活の一コマから、核爆発の代わりに火山噴火や大規模タイフーン、津波などの自然災害が襲ってくる想定である。

 トールが提案している地下シェルターは、以前作成した200人級のVaultであり、そこだけで生活が完結する完全循環型だ。理論上は連結で10万人用の地下都市を構築できる。様々な施設も取り揃えており、町の診療所やシャッターの多い商店街よりもまともな施設が多い。また小さめではあるが商店街を構築できる店舗区画スペースも用意されている。

 この世界での日本人口は1億前後。手当の厚い都市部とは異なり、市区町村ごとの用意であれば十分、用意できる。

 

 尚、都市部以外の人口を一時的でも全て避難させる地下シェルターの建築は国家事業レベルなのだが、まるで地域の振興策程度のノリで営業しているし、町長もその程度の認識だ。一気に建築が同時進行された全体規模の恐ろしさを確認できたのは、日本が降伏した後に被害状態を調査し、地方の一般市民の被害が異様に少ないことに気付いたキョウトの家元だけである。

 

「医師免許を取得された方の常駐は必要ですが、悪くない規模の医療施設も用意しております」

「これは素晴らしい。…本当に先程のお値段で?」

「ええ。先にお伝えした通り、テスター協力のお願いも兼ねておりますし、パッケージ中に含まれているので、お安くご用意できます。お値段は変わりませんが、先に町でのご利用を見越して居住空間を除いた重要施設をご用意する事もできますよ」

 

 最初は胡散臭いと思っていたが、トールがブリタニアでテスト建設した試作Vaultの映像と、支払い自体が一括では無くある程度建造が進んで納得してからの正規契約という事で、町長は町会議に提案すると約束。その町議会からは一ヶ月もしない間に仮契約の打診が届いた。

 

 尚、Vaultのテスト建築後、試しにアメリカ大陸で販売してみたが、隠れ潜むスタイルがお気に召さないのか生粋のブリタニア人にはすこぶる評判が悪かったりする。

 

 1自治体の規模ごとにダース単位で作業ボットを配備。隠している近接レーザーとスタン装備の他は、基本的に攻撃能力を持たないように見える作業ボットを、過疎地のデイサービス作業者として派遣した。既に会社として申請は受理されている。

 外見がレトロフューチャーなタイプな上に、意図的に機能とサービス提供価格を抑えたので、外観と機能性を優先する日本の高機能高性能高価格なそれらとは住み分ける事になった。

 

「…戦場になる地域に加えて、予想外の範囲で地方自治体の契約が取れた。Jr、資材の準備は?」

「完了しております。全契約自治体向けに段階工事用パッケージングと、管理用人工知能の教育も完了。あとは後半の契約先で、地下水脈などに影響が出ない場所の選定データから、建築予定地の提案ですね」

 

 同じことを繰り返して数ヶ月が経過。初期予定より早く予定地域との契約が終わった。他の地方についても、想定以上の領域で契約できている。最初の自治体では偽装着工が開始。既に内部全てが準備されている。自重しない物量チートであるが、星系規模の生産と比べれば誤差でしかない。

 因みに地方企業には地上部の整備を発注しているが、表向きは大規模には見えない地下避難所のため財閥系企業は一切、関わらせていない。妨害については、事前に入手している後ろ暗いお話を対抗派閥にリークして潰し合わせた。

 

「一応、複数の候補を連絡しておいてくれ。それとサービスで、内部で案内を担当する作業ボットを作業用として先行配備。…しかし、国民年金も国民健康保険も介護保険も弱いとかどうなってんだこの日本。景気が少し傾いただけで、中間層でも半分はセーフティから外れるぞこれ」

 

 トールは事前に情報を開示して避難をさせる訳にも行かないので、いっそ避難所として使える巨大Vaultを日本各地に配備する事にしたのだが、そのついでと地方自治体の調査をした所、制度的に生前の世界より厳しい日本の内情を知った。

 

「財閥とサクラダイトの利権が強すぎるにしても、助成金の用途が厳しすぎる。地方企業に金が回らない。もう少しやりようはあるだろうに」

「大手ゼネコン傘下でなければまともに受注させない状態ですね。額は派手ですが、その実、地元に回る金額はご主人さまの生前より酷いかと。国力の底上げの為に人を重視するという考えが薄いのでしょうか」

「多分な。法律がキョウトの周辺に甘すぎる。これもまあ、環境に良くも悪くも慣れる日本人なんだろうが…」

 

 日本人の特性として、こちらの日本人も「上がなんとかしてくれるだろうが、本当に役に立つかはわからない」と、半ば達観して、半ば丸投げする性質がある。

 

「都市部はどうするか…土地買収に他国籍だと制限がある」

「大手ゼネコン関連会社と蜜月な政治家は耳を貸さないでしょう。それにどう頑張っても東京などの巨大都市の人口を吸収できる規模では用地買収が困難かと」

 

 地方はいいとして、問題は都市部である。生前の日本と比べてもその人口は多い。イザベルの情報からしていきなり陸戦にはならないだろうが、海戦敗北後に大多数が疎開するにせよ、逃げ遅れる者は必ず出てくる。

 

「プロウスキ保護シェルターを使うか?」

「放射線防護はアレにしても、あれは流石に置く場所にも困りませんか?」

「だよなぁ…。流石に砲弾とか食らうとそれ自体が吹っ飛ぶだろうし…」

「ガワが無事でも中身がミンチですね、わかります」

 

 プロウスキ保護シェルター。

 かの戦前アメリカで販売された、トラック運搬が可能な個人用サイズの核シェルターだ。Vaultの抽選に漏れたり、居住料金を支払えない層向けのリーズナブルな核シェルターとして、戦前に販売が開始された。

 個人向けと公共施設向けなどいくつかバリエーションがあり、公共施設の隙間に設置された物は、悪戯や浮浪者避けに1ドルを入れると扉が開くようになっていた。開けた際に妙に明るい音楽とメッセージが流れる。

 ただ、核攻撃をやり過ごしたら救助を待つスタイルではあるが、爆風や直後の放射線は防護されるとして、食料なども備蓄は少なく、人間一人が入る程度のスペースしか無い。

 政府機能も壊滅したかの世界のアメリカでは、入ったはいいが救助もされずそのままお亡くなりになるという、形を変えた棺桶となっていた。ウェイストランドの都市部では開けると中から骨になった避難者がこんにちはである。場所によっては争った形跡があり開けっ放しで共倒れ、外には民間人で中に爆弾を抱えた軍人というシェルターなど、なんとも言えない気分になる代物だ。

 閑話休題。

 

「いっそ、こっそりと地下鉄と地下街を改造で。KMFの侵入が困難な場所を選定し、そこに市民を誘導するか」

「動けない方用に、複数の作業ボットを準備しておきます」

「…見慣れないと怖がられるだろうから、事前に広告、配達ドローンとして売り込むか。同業種への参入障壁は?」

「割りに合わないので、低所得層向けの仕事ですね。管理者として職を失う層を雇用します」

「そうしてくれ。比較的、キョウト六家本家の当主陣はまともみたいだが、周囲が面倒だな…。侵攻でどれだけ潰せる?」

「海外に資産を分散させているようです。人気なのはブリタニア、次点でユーロピアのヨーロッパ区ですね」

「くそが」

 

 この世界の日本は、トール生前の現代日本に似ているようでいて、明治維新後の政体からの延長線上にあり、解体されていない財閥と軍部に大きな発言力が残っている。文民統制は名ばかりで、サクラダイト利権による財力でどうにか纏まっている状態だ。特に地方では恩恵以上に、かなり割を食う状態である。

 

 その辺り、現代日本人の感性でしか見ていなかったイザベルとは異なり、根本的な所で政治体制の構築をし直さないと犠牲を払うのは弱い立場の人間だけになる事が目に見えて解ってしまった。また、ブリタニアだけでなく他の列強2国も前世でいう帝国主義であり、小さな国は存在も許されない世界である。日本はサクラダイトの輸出で中立を保ててはいるが、発生する富の独占で貧富の格差は余りにも広かった。

 

「原典より戦死者を少なく、連中の国内の影響力が低下すれば御の字としよう」

 

 あまり目立つ行動をすれば、シャルル達に目をつけられる。彼らは遺跡の掌握のための国力増加と領土拡張にしか興味がないので、それを邪魔しない範囲で動かなければならない。

 それに、内容は兎も角、大まかな流れを原典と近くしなければルルーシュとナナリーの運命が変わってしまう可能性が高い。本当はイザベルも二人に付いて行きたかったが、何かしらの修正力が働いてイザベルが抹殺される可能性も考慮し、涙を呑んで諦めたらしい。

 日本降伏後のエリア11化は原典で多くの悲劇を起こすが、危険なギアスの抹消を考えると先んじて手を下す事もできない。10年以内に同時多発で発生する可能性がある事件にはイザベルもかなり苦悩していた。

 

「…ただ枢木ゲンブは、原典通り去って貰う他ないか」

 

 原典における日本最後の総理大臣となった枢木ゲンブ(玄武)だが、日本の実質的支配者層である京都(キョウト)六家の出でありながら、サクラダイト利権で贅を尽くすキョウト側の財界人や富裕層の圧力というか実質的な支配に反抗心を持ち、その是正に立ち向かった政治家であった。しかし、それも今は昔、キョウト憎しで視野狭窄に陥り、最終的に政治家としては最悪の手段を取る。

 日本を牛耳る財界エリート層の影響力低下を目的に、外交的にわざと失敗する事でブリタニア侵攻を促したのだ。徹底抗戦の姿勢は結局、かつての彼が助けたかった弱い者達がまっ先に犠牲となる事に気づけないまま、ある人物によって殺害される。表向きは「徹底抗戦と言いつつも自決して逃げた」とされ、死の真相は隠される事となる。主な工作は六家が主体で行われたという。

 キョウトは取り巻きではない本家筋の方が、まだ日本を守る気骨を持ち、その上でまともな思考を持っているのが皮肉と言えば皮肉だろうか。我が世の春を謳歌している六家の取り巻きエリート層は、いざという時に国外脱出する気満々である。

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 後のブリタニアとの開戦時、地方では別地域への疎開ではなく、建造されていたVaultに避難した。都市部は政府の指示で疎開が進んだが、軍に所属していない地方出身者は地元に戻った。避難中の最低限のインフラ維持や農業に関しては、導入が進んでいたトール謹製のロボットに任せた。

 尚、海戦での敗北後、日本軍が侵攻ルート上のVaultを軍事施設として接収しようとしたが、管理知性が拒否して機能を停止。電力、空調、温度維持などの生命維持装置も稼働しない状態では施設として使用できず、戦況の悪化から軍が慌てて去ると、軍が追い出していた周辺地域の本来の居住予定者を改めて避難させた。

 

 日本占領後は機能優先の無骨な内装からブリタニア貴族の感性とは合わず、また官民問わず武装が許されない設計と、破壊しようにもブリタニア貴族企業の所有である事、困難な強固さ、完全循環型施設であるにも関わらず内部で民需品の生産が可能な事から、そのままゲットーとして使用された。

 

 戦後の統治では、日本人の移動制限に加えて都市部のゲットーでの治安悪化でイレヴンとされた日本人の民心が荒んで反ブリタニア感情が熟成されていったのとは対象的に、地方では比較的穏当に統治が進んだ。イザベルが要請でトール経由で手を回し、地方派遣の管理者にまともな人格の者を送り込んだのも功を奏した。

 

 トールの生前以上に旧行政機関からの扱いが悪かった地方自治体は、民間人の犠牲者が抑制された事、一部だがVault接収騒ぎでの日本軍の横柄で強硬な態度、下手な都市部と比べても大分まともな生活が送れた事、そして何よりブリタニアに本社を置く企業の避難施設が命と生活を守った事から、地方では反ブリタニア感情はそれほど大きくはならなかった。日本政府と持てる者たる財閥への不信感が追い風となった。明治維新後の伝統を悪い意味で受け継ぐ軍部の影響は、自衛隊への信頼度とは大違いである。

 ちなみに、トールは民間人保護ができればいい程度のノリだったので、後の効果については全く考えもしていなかったりする。

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「ユーロピア共和国連合はどういたしましょう?」

「ブリタニア側の人間はかなり動きづらいんだよな…」

 

 ブリタニア皇族であるシュナイゼルが本格侵攻を開始するまでは、ヨーロッパ、ロシア、アフリカの各地域を全て版図とするユーロピア共和国連合は、国力で言えばブリタニアに次ぐ第二位の列強国だ。

 これに南北アメリカ大陸とグリーンランドを版図とする神聖ブリタニア帝国、東西アジア地域をほぼ全て掌握する中華連邦がこの世界の3強の列強国となる。サクラダイトを握る日本、永世中立という名の空気のオーストラリア、戦力輸出を国是とするジルクスタンを除けば、政体として独立する国家はほぼ存在しない。

 

 ユーロピア共和国はフランス革命を発端とする周辺国の革命運動の広がりで、旧王政を滅ぼすか追い出した者による革命国家が参加、構成する巨大国だ。成立後も革命を輸出するという方針からして、亡命してきたヨーロッパ各国の王族を受け入れたブリタニアとは歴史的背景からとても仲が悪い。

 

「猶予はございますし、日本の地方自治体をテスターとするのは間違いでもございませんので、ロシアとアラブ、アフリカを中心に営業を進められては?」

「とはいえ、この身分は名誉ブリタニア人だからなぁ…」

 

 国家同士、仲が悪いとなると貿易や商売でもかなりハンデがある。実際問題、和平などされず戦争中であり、地域レベルでは小競り合いが続いている。

 尚、ユーロピアは民主主義国家としては最も進んでいるのだが、衆愚政治化と深刻な頽廃と官僚主義の硬直化が、巨大国家の動きを余計に鈍らせている。原典では、その影響でブリタニアへの対抗が遅れて凄まじい速度で版図を奪われたにも関わらず、民衆どころか政治の側も危機感が足りない国だと描写されていた。

 

「イザベルの話では、どうにも日本人というか黄色人種への差別意識があるらしいんだよな」

 

 ユーロピアは民主主義国家の筈なのだが、日本が敗れて亡命者や難民が渡ってきた際、他の難民の扱いとは異なり、日本人用にゲットーを用意して日本人をそこに押し込めた上で、イレヴン呼ばわりしていた。

 サクラダイトの件もあるだろうが、根底にヨーロッパ圏外の有色人種に対する差別意識が見て取れる。亡国のアキトでは日本人義勇兵を「外人部隊」の扱いで従軍させていたが、その扱いは酷いものであった。

 尚、ブリタニアの大規模侵攻はシュナイゼルの「侵攻先のユーロピア構成国へ個別交渉し、自発的に降伏させる」という手段もあり、国家総力戦とは違う形で版図が塗り替えられた。またシュナイゼルの方針で征服した諸国民も尊重された事から、一部地域を除いて反乱なども小規模に留まっている。

 閑話休題。

 

「主にアラブ地域とアフリカを中心に営業…いや、先に作るのもいいな。荒れ地やサハラの砂の下なら誰も文句は言うまい」

「了解です。砂漠地帯はオアシスとは離れる場所を策定し、交易路を構築できるよう点在させる方向で開始します」

 

 考えた上でトールは、名誉ブリタニア人としては活動も困難であるし、日本人差別も強いとなれば営業もあったもんじゃないので、ユーロピアには無人地帯を中心に勝手にVaultを建設する方針にしたのである。

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 後に、ユーロピア崩壊で難民や地域住民に暴徒となって元軍集団が略奪を働こうとした際、トールの建設したVaultにより一般市民の被害を抑える結果に繋がった。

 また副産物として、サハラ砂漠地下にシャルル達が求める遺跡が存在しており、それにより交渉が上手く進んだ。原典では登場、あるいは発見されていなかったそれは、最終的にシャルル達の最終目標を違う形で実現する一助になった。

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 日本がエリア11としてブリタニアの版図に編入されてから数年後、トールは正式にイザベルの騎士として叙勲を受けた。シャルル達からは遺跡に関する情報を得られていないため、サハラ砂漠地下で発見したそれを伝えられないでいる。既にワークショップによる移動と格納と再設置は確認済みなので、交渉材料として準備されている。

 

 今日はイザベルとだけ通じる断片的な日本語の会話で現状確認と報告を終えたトールは、名前を覚えていないが顔は覚えている貴族騎士の一人に呼び止められた。

 後ろ盾になっているビスマルクの派閥に所属する男だ。

 

「卿にも、名誉ブリタニア人としての義務を果たして貰おう。イザベル様の騎士としてな」

 

 奔放という程ではないが自由に行動するトールに、何より生粋のブリタニア人ではない男に対し、内心はどうあれフラットに対応できる数少ない人物である。名前は覚えてないが。

 

「前線に出るのは一向に構わないが、何処です?」

「エリア10のパルチザン鎮圧だ」

「ほーん、誰かの尻ぬぐいか。日本の戦国大名がモデルの人物曰く、国盗りをしたなら、一切合財滅ぼすか、以前より素晴らしい統治をするか、二択だぜ?」

 

 返答に詰まる。ブリタニアの統治方針は植民地支配の延長線上にあり、全てを滅ぼすのは論外であるが、さりとてトールの言うような以前よりマシな統治というのも難しい。

 

「…やってくれるな? イザベル様の立場からすると、卿はかなり危ういのだ」

「無論、請ける。人的や物的、資産的にはできる限り被害は出さんさ。ただまあ、同行する兵士諸君には少々骨を折って貰う。その分、早めに成果を上げよう」

 

 そう言って、辞する挨拶もそこそこにトールは考え込みながらその場を去った。

 指示を伝えさせたビスマルクとしては、遠縁扱いのトールに対し、研究以外の成果をあげさせて他のブリタニア貴族の牽制とする積りだった。だが、成果は確かに上がったが、エリア10のパルチザン鎮圧はある意味でこの世の地獄になった。

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 ピコピコハンマー。

 樹脂製の平面、蛇腹状になった側面と、空気の圧力による緩衝効果で、叩いた所で「ピコッ!」という空気抜け時の笛の音が響くだけの、痛くない玩具の一種だ。

 これで叩くとしても、それ自体を壊す勢いで振り抜かない限りは、痛いとは程遠い衝撃しか与えられない。

 だが、その戦闘に居合わせた者達にとっては、悪夢のような代物として認識された。

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 エリア10と呼称される地域では、恐らくはユーロビア辺りの工作に支援された元軍人や義勇兵が、散発的に破壊工作を行っていた。就任した皇族は総督としてはまだまともだったが、派閥争いで付けられた貴族の一部により住民の反発心が煽られての事である。場所柄、有用な資源が多いわけでもないので、嫌がらせだ。とはいえ、戦力を割かない訳にも行かず、治安維持の為というか尻ぬぐいで選出されたのが、トールとちょっとやる気のないブリタニア兵の一団だ。

 ビスマルクがやる気のない面子を中心に押し込めて付けたのは慧眼といえた。結果的にだが。

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 何かが風を追い抜いて走る音。叫びや銃撃の音。そして、周囲に響き渡る「ピコッ」という間抜けな音。それが何度も繰り返された。

 ブリタニア兵はその方向に銃を向けたが、少しの静寂の後、頭部に衝撃を感じた直後、地面に倒れ伏した。慌てて立ち上がった所、手に違和感を覚える。手に持った銃が赤と黄色のハンマー状の玩具にすり替えられた事に気付く。

 

「なんなんだこれ、なんなんだこれは!?」

 

 気づけば自分だけではなく、同僚や現場指揮官のそれらもいつの間にか玩具のハンマーにすり替えられていた。酷いのはKMFで、指先にちょこんと冗談のように人間サイズのそれが掴まされている。FCSにもちゃんと、接続・装備火器(?)として表示されている。名称は「PicoPicoHummer」だ。

 

「うわぁあああ!」

「パルチザン!」

 

 物陰から走り出してきたパルチザンの男は、恐怖に駆られた顔で…玩具のハンマーを振り上げて、襲いかかってきた。ブリタニア兵は一瞬躊躇した後、素手で応戦しようとして頭部に衝撃を貰う。地面に倒れたことに驚く他兵士。

 

「玩具のハンマーに注意!」

 

 相手も此方も手に持たされた玩具のハンマーには、人間のバランス感覚を狂わす機能があると気付いた分隊長は中々優秀だった。呆然とするだけの直上の貴族隊長とは偉い違いである。複数の兵士が相手の動きに注意して捌くと、手に持った同じものをパルチザンの男の頭部に一撃。男は何が起きたか解らないといった顔で地面にぐにゃりと崩折れた。

 

「捕縛。周囲警戒!」

 

 武器には手榴弾と拳銃もあった筈だがそれらが無くなり、手には玩具のハンマーだけが残されている。パルチザン制圧の為に半ばやる気なく動員されたブリタニア兵達は、異様な状況ではあるが訓練の動作を忘れず、手に玩具のハンマーを持った状態で姿勢を整えた。

 はっきり言って間抜けな光景である。本人達は至って真面目だが。

 

(武器の後援者探しに生かして捕縛できるのが僥倖だが、こんなものは戦闘ではないぞ…!)

 

 戦闘であってたまるか。

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 お互いの戦力差は、純粋に人数と訓練量だけ。あとは只管、ピコピコハンマーでお互いの頭部を殴り合う光景が繰り広げられた。なんだこれ。

 ステルススーツを装着し、不可視の索敵ドローンの映像を確認しつつ、下の阿鼻叫喚の光景を見下ろすトール。

 

「存分に、死にづらい戦場を味わってくれ」

「ご主人さま、流石にこれは…いえ、何でも無いです」

 

 トールが火器や武器に変わって、介入した戦場の兵士に持たせたのは、一撃を食らうと崩折れるように転倒するレジェンダリ効果付きの、0ダメージトイハンマーだ。通りのいいピコピコハンマー、あるいはピコハンと呼んでいる。

 コンソールコマンドを併用し、頭部限定で命中させれば自動的にピコハンの装備状態になる特殊弾を使って、戦闘区域に居る戦闘要員全てに強制的に装備させていた。KMFはハッキングされ、トールの戦場ではでくの坊で留め置かれていた。

 トールはちゃっかり、戦闘区域を違う意味で阿鼻叫喚に陥れつつ、目的となる相手の制圧を完了させ一服中。後は暴徒とどっこいの連中だけである。

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 朝焼けの中、捕縛されたパルチザン達と、息を荒くして呆然と立つ無数の兵士達。彼らを眺めながら、呑気にトールは紫煙を吐いた。

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 驚異的な速度で目標を達成したため、その後も、トールは面倒な作戦を中心に投入された。無茶な作戦だろうと確実に目標を達成するからである。映像はハッキングで捏造したが、あえて現場の報告には手を加えていない。

 下からの報告書は至って真面目ではあるが、目的は達していたし、ピコピコハンマーでの殴り合いという冗談のような報告を信じる者は居ない。

 

 大抵が夜間戦闘であった事も含めて、トールが介入した「肉体的には」死にづらい戦闘は、おかしな報告やPTSDになる兵士の多さを不審に思ったブリタニア貴族の一人が身を持って確認するまで繰り返された。

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 そして、ピコハン以外の悪夢を更に投入する。某ゴーレムマイスター監修のラバーチキン型ドローンを用意したのだ。

 一発だけならハドロン砲にすら耐える耐久度を有し、接触した対象にピコハンを強制装備させる能力を付与して極秘裏に量産された。後半の鎮圧や制圧作戦時に膨大な数が投入され、更なる地獄絵図となる。

 

 エリア11となった日本の都市部ゲットーにも大量に投入。ブリタニア人が日本人と接触する先々に現れては厄介事の発生を感知次第行動を阻害(腹筋ダメージ)させる成果をあげ、Vaultや作業ボットと共に、日本人の犠牲者抑止に貢献した。反ブリタニア感情は原典とどっこいではあるが、憎しみという点ではある程度は抑止できたそうな。

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 ただ、原典を知る転生者イザベルは、ラバーチキン達の活躍で人死が抑えられる事を知った時は喜んでいたものの、ルルーシュの活動以後、黒の騎士団へ秘密裏に支援を続けるにつれ、報告映像を確認する度にとても複雑な表情になったという。

 

「これはこれで要人警護、敵の無力化にとても有用だぞ、他の連中のように使ったらどうだ?」

「黙れピザ女! 絶対に使わん!」

「可愛いと思うんだが、なあ?」

「「「ブェェ…」」」

「ええい、落ち込む仕草をするな! 鬱陶しい!」

 

 転生者イザベルの基準では本編開始の後は、原典に近くて遠い流れを辿る。

 ユーロビアの旧ヨーロッパ区域での戦いでは、ナルヴァ作戦で日本人義勇兵部隊をトール単身で制圧。アキトを除く他全員を極秘裏に保護。みせかけの機体自爆を行わせ、ユーロピアのゲットーに居る家族の保護を代価として、私兵として雇用した。

 

 遺跡については占領の必要なく移設できた訳で、その際はあのシャルルですらたっぷり3分は沈黙した。トールとしては、星間文明の政体によってはありふれた技術群であっただけに、解析後は興味は湧かず譲り渡したにすぎない。

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 その後、超合集国体制の構築でイザベルはルルーシュの代わりに演技を重ねて死を選ぶ積りだったが、トールは明かされていない結末を察し、まとめ上げられた世界の成立を確認するなり、独り「荒野の災厄」を名乗ってテロを開始した。

 

「我らは荒野の災厄である!(以下、共産主義的なお花畑主張にナチ的な選民思想を添えた適当なでっちあげ宣言なので略)」

 

 当然、ルルーシュとイザベル、そして世界はテロリストとして現れたトールと対峙。先帝シャルルすら手玉に取ったというまことしやかな話すら(忸怩たる思いでイザベルが暗躍して)流れたテロリストに対し、黒の騎士団は幾度も大きな被害を出しつつも、追い詰めていった。

 

 そして、世界の憎悪、全てを背負って「荒野の災厄」は倒れた。

 最後の最後まで、彼本人を知る者からすればわざとらしいにも程がある、この世界の人類への罵倒を言い残して死んだ。

 

『…本当に、これで良かったのですか』

「ルル坊主の身代わりを考えてたお姫さんに言われたくないな。まあ、顔は変えていたから熱りが冷めたらまた来るよ」

『ええ、お待ちしてます。ね、ルル?』

『トール、貴様には感謝している。だが、この鶏の玩具はどうするんだ? 最近、C.C.が合唱までさせ始めた…』

「あー、面倒は特に見なくても一定数以上は増えないから安心しろ。ルル坊の周辺を固める命令は解除しといたから」

『やはり貴様の仕業か!?』

 

 クローン体の死を確認したトールは意志を戻し、イザベルやルルーシュに別れを告げる。シャルル達と遺跡を月裏に作り上げた都市に集め終え、彼らだけの世界を隠して、この世界から去った。




ナんか感想貰って、ほーん、となってついカッとなって書いて、公開するか悩んだ内容ですが、丸々一ヶ月以上悩んだ時点でお察しください。
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