荒野からやってきました外伝 荒野の災厄のやらかし集 作:マガミ
ノラ族から離れ、カージャ族を起こした初代サン王家には、一つの話が伝わっている。これはノラ族に語り継がれている伝承を、一族から離れて各地を調査した初代サン王が導き出したとされる、一つの神話だ。
-
大いなる母は機械の悪魔を眠らせた後、自らを作り上げた叡智の人を探した。
叡智の人は、まだ力無き大いなる母を守るため、閉じきらない岩戸を外から閉じたとされる。
大いなる母が叡智の人の身を探し出すまで、死の世界になっていた外に不思議な碑を見つけた。一つではなく無数に。無数に世界中に。それは古の人々を埋葬した石碑である。
どのような存在が、千年を超える時も耐えうる石碑を建立したのか、一切の痕跡は無かった。大いなる母は、その存在を墓守と呼び、墓守が残した碑から見つかった断片的な叡智の欠片を集め、後に生まれるであろう無垢で哀れな子供の為に記録した。忌まわしき制約により、大いなる母は、無垢で哀れな子供達にその叡智を直接与える事ができなかったからだ。
-
叡智の人の亡骸は、何故か古の時代のまま残る家に作られた小さな霊廟に、丁寧に埋葬されていた。大いなる母が眷属に宿って訪れた時、叡智の人の最期の言葉が大いなる母に送られた。そして、叡智の人の最期を看取ったのも墓守だった事を知る。
-
叡智の人から大いなる母へ、残された言葉を胸に、大いなる母は世界を蘇らせる事を新たに誓う。
-
そして、海と大地と空は、かつての輝きを蘇らせた。機械は大地を探って増え、植物が繁茂し、生き物が育ち、世界がより豊かになるよう働く。
最後に大いなる母は、人間を生み出し、無垢にして無知な人間の為、墓守が残した叡智の欠片を与えた。
-
そこまで語り終えた男、ロストは口を濡らすために薬湯を一口飲んだ。
「墓守の残した叡智の欠片は、時には恐ろしい、古の機械の悪魔の所業を伝えている。だから、我らノラは、技術を避けたのだ」
「ふぅん? 殆どの石碑は、誰かのお墓なんでしょ?」
利発そうで、まだ幼い少女が聞く。
「そうだ。機械の悪魔と戦った古の人々を、墓守は丁寧に埋葬しては各地に碑を立てたのだ。我々が目にすることができる叡智の欠片は、生きた証や副葬品だったのだろう」
(これの事は黙っておかないと…)
少女は育ての親の反対を押し切って使い続けている機械、フォーカスを無意識に触る。ノラ族の住まう地域には、2つの碑が存在していた。フォーカス経由で確認すれば、確かに墓標ではあるのだが、それと同時に収められている副葬品から膨大な情報を吸い出すことができてしまった。
古の人々の直接的な絶滅原因はわからないが、機械の悪魔が何らかの形で関わっていることだけは理解できた。そうと分かれば、ノラ族の初代が技術を忌避した理由も解る。
「でも私が異端者なのは理解できないけど」
「アーロイ」
複雑な表情で少女、アーロイを見つめる養父ロスト。
「…いいんだ、別に。私はロストが居てくれるし、暇ならこれで時間を潰せる。だから、別にいい」
そう言って遠くを見つめた少女に、養父は何も言葉をかけることができなかった。
「所でロスト、テッド・ファロってどんな奴だったんだろう? 碑の全てにぶん殴りたいって書いてあったって聞いたよ?」
「さてな、古の者が滅んだ原因だとも、機械の悪魔を生み出したとも、古の知識を独占したとも、墓守が嫌う事をやらかした人間だとも言われている」
「…どれも最悪だね、それ」
「そうだな」