荒野からやってきました外伝 荒野の災厄のやらかし集 作:マガミ
その男との出会いは、ちょっと刺激的だった。道すがら、矢の材料を採取しようとして道を外れた際、運悪くサンダージョーとストームバードに追っかけられた。逃げているその最中、呑気に道を歩いてくる男が居たのだ。
「おい、死にたくないなら逃げろ!」
「おー、ゾイドっぽいなぁ…えーと、あれはお友達?」
「そんな訳あるか! 早く!」
「ですよねー。まあいいや、申し訳ないけど、壊すか」
「何を言って…」
背中から取り出した四角いとも言えないゴツゴツした棒を構えると、男は近づいてくる機械獣に対してそれを向けた。
「VATS起動」
そして、物凄い勢いで何かが無数に飛び出して二体の大型機械獣は一瞬で穴だらけにされ、大地に激突して沈む。
「あんたは…その、何なんだ?」
「トール。はは、警戒されてるな。まあ強いて言えば、研究者か?」
「…そんなゴツい、妙な武器を持ってるのに?」
「護身用だ。こっちでは珍しいのか?」
「そりゃね、バヌークともカージャとも似つかない格好は珍しい。そんな感じの機械が背負ってる武器とか、矢玉が尽きたらもう使えないし」
「矢玉…あーうん、成程、わかった」
複雑な表情を浮かべた男は、自身の謎を探るアーロイに旅の案内を依頼する。そんな暇は無いと断ったのだが、各所を巡る事になるアーロイに勝手に付いていくと言う。
鬱陶しいとオーバーライドした機械で引き離そうとしたが、同じ速度で走れる時点で諦めた。
「邪魔をするようなら、手足を刺して集落に置いてくるからな」
「おお怖い怖い。まあ、足手まといにはならんさ」
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謎の協力者サイレンスはアーロイと会話の際、トールの存在を警戒する。
『…センサーの探知ができない。誰か居るのか?』
「居るよサイレンス。妙な奴だが、悪い人間じゃない」
「ん? ああ、フォーカスのネットワーク通信か。悪いな、個人的事情で隠蔽措置をしてるから、フォーカス程度の探知能力じゃ確認できんよ」
『貴様は何者だ?』
「基本的には研究者なんだが。此方での目的はそうだな…強いて言えば、墓守だ」
「墓守? 随分と大仰な肩書だなトール、伝説の存在だとでも言いたいのか?」
「何の話だ?」
『墓守というのは、特別な意味を持つ名前だ。各地に残る碑を立てて死に絶えた古の者を埋葬し、大いなる母を生み出した叡智の人の最期を看取ったとされる、な』
「…そういう事か。まあ世界については、自分の目で確認するといい。俺は必要以上に教えはしないから、そのつもりで」
『アーロイ、こいつは危険だな』
「はは、サイレンス、お前ほど油断ならない相手じゃないよ。腕も立つしとても強い」
『サンダージョーを投げ飛ばすとでも言うのか?』
「見てたのか?」
『っ…本当に投げ飛ばしたのか?』
「まあな。相手の力を利用したんだ」
『…』
「サイレンス? おーい?」
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古の者の遺跡を探り、アーロイは一つの真実にたどり着いた。
「どういう事だ、私は…! なあトール、私は何なんだ、エリザベト・ソベックとは誰なんだ!」
「君は、ガイアが一縷の望みをかけて生んだ、エリザベト・ソベック博士のクローンだ。遺伝子的な点だけ、彼女のコピーと言える。ソベック博士は、世界崩壊の危機に地球再生の為に命を捧げた科学者だった」
「…私は、機械から生まれたって事?」
「それを嘆くなら、現世の人間の祖は全て、機械から生まれている。同じだよ」
「同じ…なのか?」
「同じだ。人間は、究極的には生物的素材の自動機械だ。だが構造的にアーロイ、君はどうしようもなく人間だ。生んだのは機械だろうが…、育てたのはとても強く、そして愛情深い人間だ。実際の所、君はソベック博士の娘だとも言えるかな」
「…そうか」「ああそうだ」
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「…トール、あんたは本当に、墓守なのか?」
「そうだな。ソベック博士の最期を看取ったのも俺だ」
『どういう事だ? 古の者が滅びてから千年、どうやって?』
「俺の手法を開示する積りは無いが、古の技術でも、冷凍睡眠、脳情報保存からのクローン再生と手法はいくつかあるぞ。まあ、千年の間を維持できる、大規模な装置保全措置が必要になるが」
『…可能な事は理解した。それで、助力はするのか?』
「当然だ。あのテッド・ファロのクソバカのせいで、この世界の人間は無知で無謀だ。挙げ句は人工知性に操られて、あのチャリオットラインを再起動させる? マジでクソだ。容赦なくぶん殴って滅ぼしてやる」
「お、おう、頼もしい…のか? どうだろうサイレンス」
『此方に聞かないでくれ。少なくとも、エクリプスとハデスは、敵対する相手を間違えたのは確かだ』
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「…ちょっとハデスが可哀想とか思った」
「機械ってのは極端だからな、流儀に合わせただけだ。アーロイも中々容赦なかったぞ」
「今までの事もあるからな、仕返しさ。それで…行くのか? 月の民の所へ」
「ああ。少し残念な報告になるだろうが、彼らは彼らで上手くやっていくさ。お別れだ、アーロイ」
「ああ、さようなら、トール」