荒野からやってきました外伝 荒野の災厄のやらかし集 作:マガミ
「…行きたい所を通り過ぎた感じだ」
「これまで順調だっただけに、飛び方が凄まじいですね。父上の記憶にあるウェイストランドにも多少は似ているようですが、生き物の気配がございません」
「汚染度は…、正直、笑うレベルだこれ。Perkか防護服が無けりゃ数日で倒れるぞ」
「太陽光は望むべくもありませんね。薄暗い黄色い雲、汚染物質まみれの水溜り、チェレンコフ放射のある雨…まだウェイストランドの方がマシではないでしょうか」
「そうさな、いくつか見てきた滅びた世界の中で、ここはワーストを争う見事な滅びっぷりだ。おっと、雨…のようなタール!? 雨宿りだ!」
「調査報告。廃墟に残る記載言語から…地球だと結論づけました。場所は恐らくアメリカのミシガン。デトロイトに入る境目辺りです」
「文明レベルはそうは高くないから…、余程酷い資源争奪戦争が起きたか? 放射能汚染は…うん、ウェイストランド程では無いがパイ投げ競争程度はしたなこれ。化学物質汚染の方が酷いが」
「近くの建物から多少動く端末を発見、データを引っ張り出しました。タイムスタンプは2190年で止まっています。時間的にちょっと行き過ぎましたね」
「…センサーに反応か。生存者かまたは生物か、確認する」
「…ベースは生物兵器だな。既に火器が生体で生成できるまで馴染んでる。一応、DNAサンプルを解析」
「かしこまりました。この規模の群れが野生化しているとなると、生存者は望み薄でしょうか?」
「そうさな。外での活動は致命的、危険な生物兵器に…自動兵器も居る。常人が武器持ってもどうしようもない」
「それに、資源枯渇で戦闘車両も無理と」
「…そうだ。どの程度、生物兵器や自動兵器が居るかは不明だが、地上は既に人類の住める場所じゃない。移動しながらデータ収集しよう」
「歩く死体? 中々の腐れ具合だがJr、高次反応は?」
「ございません。あれも生物兵器の一種でしょうか? 温度は…恐らくは腐敗によるものと推定。現在の所、感染性の細菌類はこの外気ではほぼ生存できないかと思われますが、内部環境では繁殖の可能性がございます」
「…サンプルを取る。制圧する間、周囲に接近する気配は無いか、索敵頼む」
「未知の感染症に罹患する可能性がございます、推奨できません」
「油断はしないが、同じような生物兵器の対抗策に必要なんだ」
「…かしこまりました。サンプル解析には、流石に調査施設の用意が必要ですね、警戒がてら近隣に拠点の候補が無いか探しますので、アイボットの派遣をお願いします」
「血…じゃないな、何かの合成血液?」
「どうやら、歩く死体の正体と申しますか、原因はこの血のような何かのようです」
「少し粘ついてるか。落ち着いて解析に専念できる場所はどうだ?」
「ガソリンスタンド兼ドラッグストアの二階に、使用されていた気配のあるバリケードと板で守られた窓がございます。階段は壊れているようなのですが、移動経路を狭められます」
「いい仕事だ。移動しよう」
「なんだろう、少し前まで使っていたような生活感がある」
「同意見です。ただ、妙な事にお手洗いは使用されておらず、食料品のゴミ類がございません。生ゴミなら…あのバイオマス発電に入れた可能性はございます」
「飲料水というか、ジュース類のパッケージはあるな。パックをスキャン」
「スキャン完了。ふむ、成人前の女性らしき指の痕跡がございます」
「子供? 床に足跡が残っているかもしれない、埃の状態をスキャン」
「解析中…、完了。どうやら3人と、なんでしょう? 大型犬種らしき足跡が残っています」
「視覚情報にオーバーライド。…襲われた訳ではなさそうだな、だが、犬の足跡が変だ。二足歩行してる」
「躾の良い犬…という訳では無さそうですね。推定重量が足跡サンプルからすると重たいかと。強いて言えば、児童と同程度の重量です」
「…生体改造された子供か。他の足跡は、同行している友達だろうか。しかし妙だな、足跡には防護服を着たような気配は無い」
「この大気の中を活動できるよう、改造されている可能性が…」
「胸くそ悪い話だ。それならトイレの使用が無い事も理解できる」
「どうされます、捜索されますか?」
「…望み薄だが、頼む。情報収集と共に子供達を探す」
「今回は新聞社の端末からでしたが、次は? 候補としては図書館がございますが」
「役所が核攻撃で潰れてるから、地図データが無いんだよな。現代の情報がどこまで役に立つかわからん。それより子供達の痕跡は?」
「陸路を通って国境線沿いに北側へ向かっています。上空の雲からの放射線が強く、ドローンの動作範囲が狭いのが難点です。代わりにアイボットからの地上探査データはできています」
「ヒューロン湖で痕跡を確認できるように移動する。一応、バイオマス発電機とあれらのパーツは…持っていこう」
「対電磁気異常のシールドが上手く行きませんね。フュージョンコアも不安定ですし、アークリアクター用のパラジウムも見当たりません。海か湖まで行けば、液体から元素分離はできそうですが」
「仕方ないさ。パワーアーマーは仕舞って、直せたトラックで行こう」
「戦闘跡? 地面をスキャン、子供達かもしれない」
「サンプルと一致。他は…デトロイト市内でも遭遇した、生体再利用兵器の残骸と推定」
「普通の子供達、という訳でも無いのか」
「…ご主人さま、此方を」
「潰れた子供の手、か」
「…極彩色の湖か。太陽に照らされてたら、さぞかし眩しい光景だな」
「少々チェレンコフ光も見えますね。解析しましたが、水中には微生物などはございませんでした」
「だろうな。痕跡はどうなっている?」
「建物近くの爆発痕で途切れました。此方も、生体再利用兵器と交戦した跡がございます」
「…間に合わなかったか! クソッ!」
「ご主人さま…」
「せめて、子供達の墓を立てよう。遺品が無いか探す」
「アイボットが確認した場所に向かいます」
「…貴方、誰?」
「旅人だ。…怪我をしているようだが、大丈夫なのか?」
「動かないで。目的は? 今、何をしていた?」
「…少し遠くの街で這い出してきた所で、拠点にしようとした建物で子供の足跡を見つけた。困っているかもしれないのと、生きている人間が居たのが嬉しくて、おっかなびっくり跡を見つけては追ってきたんだ」
「生きている…か。何をしていたのか聞いて無い、答えて」
「…足跡が、戦闘に巻き込まれて消えていた。せめて、弔おうと思って遺品を探していた。此方から質問してもいいか?」
「…答えるかは約束しない」
「君は、その…あの足跡の子供達の、生き残りか?」
「またその表現、少し面白いね」
「?それはどういう?」
「私は、私達は…アンデッド。私は私ではあるけど、人間という生物としてはもう、生きてはいない。姉妹達もそう」
「…そうなのか」
「何故貴方は、生きているという表現を使う?」
「生きている人間だからだ」
「嘘だ。過去のネクロマンサーの争いに巻き込まれて、生き延びた人間もみんなみんな、アンデッドの材料になった。化け物の餌になった。…以前の私も。今この世界にあるのは、どうしようもない黄昏の後日談、人の生きられる世界じゃない」
「…詩的な表現だ」
「ふざけないで。…もういい、私は姉妹の為に、他のアンデッドを探さないといけない」
「何故?」
「…私の体も、姉妹の体も、壊れても他のアンデッドから部品を補填すれば、動くようになる。この、無くなった腕も」
「…なら取引だ。道中で倒した、生体再利用兵器…アンデッドか、その部品をバイオマス発電用に乗り物で持ってきている。それを提供する代わり、君らの話が聞きたい」
「…信じられない。まさか、貴方はネクロマンサー?」
「俺にその技術は無いよ。どうする? 必要な部品を探す間、俺が離れていてもいい。話は…無理強いはしない」
「…案内して」
「了解だ、お嬢さん。名前は聞いても?」
「馴れ合いはしない。今はまだ」
「そうか」
(Jr、周囲警戒。それと、彼女の姉妹たちが潜伏している可能性がある建物を調査、防衛体制を敷いてくれ)
(かしこまりました。ハンディタイプのスラスター搭載機で固めておきます。…如何されました?)
(…どういう理由で、彼女たちは今の体に押し込められたんだろうな)
(不明ですね。ただ、私達の基準で悪趣味と判断はできます)
(だな。可能なら彼女たちの移動目的を聞いて、同行しようか)
(宜しいのですか? あまり感情移入されますと…)
(彼女達の心は本物だ。何か少しだけでも手助けしたいし、何もせず放り出して帰ってみろ、舞子に口を聞いて貰えなくなる)
(…成程、それは深刻です。では私めとしてはきっちり働きを示さねばなりません)
「…本当にこれ、貰っていいのね?」
「構わない。バイオマス発電に使うなら細かくするんだ、形が残っているのが必要なら遠慮せず持っていけ。…どうせ、少し場所を移せばいくらでもアンデッドは居るからな」
「そう」
「荷物が多くなるなら…、その鞄を使うといい」
「…ありがとう」
「どういたしまして」
「十分な量になった。…ここで待っていて、明日には姉妹達を直して訪れる」
「直して…か。来てもいいのか?」
「お礼ぐらい言わないと。…人間の心は、失いたくないもの」
「ならいい。だが、無理だけはするなよ? 俺は暫く、周囲を探して使えるものが無いか探っているから、余裕が出たらで構わない」
「わかった。ええと…、そういえば名前」
「俺はトール。君は?」
「ステネコ」
「す、捨て猫?」
「趣味悪いでしょ、私を組んだネクロマンサーは。でも割と今は気に入ってる」
「…そうか。ではキティ、また明日」
「キティ…うん、そうだねキティか。またね、トール」
(Jr、彼女を追跡する奴が居ないか広域探査。攻撃態勢を確認したら事前に潰せ)
(かしこまりました。トラック周りの警戒は?)
(一部穴を開けろ。燃料用と、間抜けが来た時用に備えてくれ)
(かしこまりました。部品と燃料確保用に、重機関銃タレットを設置します)
「…湖の成分は、重金属から放射性物質から化学物質まで、元素分離できれば鉱脈みたいだが、嬉しくない」
「油分やヘドロでポンプが詰まらないよう監視が必要ですね。それにしても、これが湖の成れの果てとは、いやはや、この世界の方々は容赦がございません。所で水分はどうされます?」
「…他の元素を抜き出して完全にH2Oに分離してから、持ち込みの添加剤を入れてボトリングで。気分の問題だが、この油膜と極彩色が元となると、どうにもなぁ」
「その点はご容赦を。簡易的に拠点化を進めておきますが、湖畔沿いとなりますと、波の高さや雨天時の増水で問題が出るかと思われますので、少し離れた高い位置に」
「警戒ラインはどうだ? あと、ガードボットの動作状況は改善されたか?」
「ステルス機で順調に構築中。手持ちのEMP対策で電磁気異常にも効果があるようです。お嬢様方の周囲も概ね、清掃は完了しました。比較的人口が少ない街だったようですので、攻撃の破壊跡は限定的です。また、全滅済みの地下シェルター以外にはアンデッドの気配はございません」
「…地下シェルターにはまだ、アンデッドが?」
「はい。ただ、既に統制的な行動は取れない様子。司令権を担っていた何者かが殺害、あるいは破壊されたと考えられます」
「なら…掃討開始。重攻撃ボットを組み上げて投入して構わん」
>姉妹たち
「私は…うん、これからキティで」
「ああ、改めて宜しく、キティ」
「姉妹を紹介する」
「よっろしくぅおじさん!」
「ああ宜しく。お名前は?」
「あたしはホーリー!」
「宜しくホーリー。元気な子だ」
「…ソロ」
「宜しくソロ。帽子、似合ってる」
「うん、たからもの」
「こ、こんにちは、私はありす、きょうはおひがらもよろし…くない!? あわわ…」
「オーケー、お嬢さん、落ち着くんだ。何も取って食ったりはしない」
「で、でも性的な意味では?」
「…おい、誰だよこんな知識、女の子に与えたのは!?」
「多分ネクロマンサー?」
「ろくな事しねぇな!?」
「…皆、元気そうで何より」
「貴方のお蔭。私は腕が壊れてたし、ホーリーは頭が半壊、ソロは足が無かった。アリスはほぼ頭だけ。沢山部品を貰えたから、ほぼ元通り」
「…違和感とかは無いのか?」
「ネクロマンシーは拒絶反応すら無く接続を可能にする…、らしい。こないだ倒した、ネクロマンサーが言ってた受け売りだけど」
「そうか。ネクロマンサーは地下シェルターに潜んでいたのか?」
「どうしてそれを?」
「アンデッドが多く彷徨く所を調査したんだ。何か使える物が無いか探しに行く」
「…ただの人間には危険だよ」
「人間ではあるけど、ただの人間よりは強いからな」
「所で、飲食不要みたいだが、楽しみで飲んだり食べたりはできるか?」
「あたし欲しい! 何があるの!?」
「…しゅわしゅわ」
「お、お茶を」
「水でいいけど」
「オーケー、レディ達。少し準備するからお待ちを」
「お初にお目にかかります、私はエインズワースJr、このトール様に仕えております執事ロボットです」
「「「わぁああ…」」」
「これ、アンデッドじゃないの?」
「私めは電子部品により構成されておりますので、生体部品の再利用はございません。さて、ご希望頂きました飲み物と、ちょっとしたお茶菓子を用意いたしました」
「「「お菓子!」」」
「十分量はご用意致しましたので、ごゆっくりお楽しみ下さいませ」
「「「わーい」」」
「…なんか凄いね貴方」
「この辺りは物資になるものが豊富だからな」
「そういう意味じゃないんだけど」
「これはまあ技術だよ。汚染物質だろうと生物兵器だろうと、元を正せば分子に原子だ。原子まで分解して再構成すれば、クッキーにもなるし、ドリンクにもなる。俺も飲み食いする心情的に、アンデッドは材料にしてないが」
「…吐かずに済んでよかった。うん、これが美味しいって感覚なんだね。舌の機能を付けた点については、あのネクロマンサーには感謝したい」
「水だけじゃなく紅茶はどうだ?」
「貰う。いい香り」
「これがお腹いっぱいの感覚!」
「な、直したばっかりなんだから破けないか心配」
「…まんぞく」
「ありがとう、トール」
「どういたしまして。機能的に不要でも、心が人間である以上は、美味いものを食うのは心の為に有用だよ」
「…そうだね、よくわかった」
「所で、君達はこれからどうするんだ?」
「いい寝床を見つける! …寝なくてもいいんだけどね」
「静かに暮らす所を探したいです」
「…同じく」
「私も同意見。私達を作ったネクロマンサーはもう居ないから、他のアンデッドや生物兵器、ネクロマンサーに狙われない場所を探すんだ」
「…そうか。この辺りは候補なのか?」
「どうかなー? シェルターの中をお掃除すれば住処にはなるだろうけど」
「ね、ネクロマンサーが居なくなると、他のアンデッドや生物兵器が、空白に集まってくるみたいで…」
「…多分、むりげー」
「結局はそこなのよね。小さな街だけど、私達じゃ手が足りない。最後は多分、奴らに追い出される」
「それで、未知の場所から場所へか。どうする? 俺が少し手を貸して、シェルターとその周囲を棲家にするのは?」
「できるの?」
「やるだけやってみるのもアリじゃないか?」
「あたし、ここがいいなぁ。びっくりする色だけど、空と湖のある風景って、思い出せないけど懐かしいし」
「私も…」
「…うん」
「決まりだな」
「手伝ってくれるの?」
「お任せあれ。シェルターをまず掃除と調査、拠点を構えたら周辺を探って、対アンデッドと生物兵器用の防御を固めてみる。効果があるようなら本格的に発展させる感じで…」
>見える地形が全て素材とかチートよな
「ねえ、何この…何?」
「驚かせる積りは無いんだが、まあ、どこでも同じような反応はされる」
「…以前、他に誰か達と居た?」
「ああ。だが、それはこの世界じゃない」
「おとぎ話の世界から来た魔法使いとでも言うの?」
「馬車とドレスは用意できるが、魔法使いではないよ。世界を渡る技術者だ」
「世界を…妄想?」
「ま、信じられないのはよくわかる。君等は暫く、のんびり見ていればいい」
「じゃあまた…、お菓子欲しい」
「オッケー、お嬢様。エインズワースJrにリクエストを」
「…頼みがあるの」
「可能な事であれば」
「シェルターのネクロマンサーが残した資料、解析できない?」
「何のために?」
「私と姉妹達は、いつか壊れるまで在り続ける。終わりを先延ばしにする為に、技術と知識は必要」
「…ネクロマンシー技術か。あまりお勧めしたくはないが」
「お願い。いつか貴方も旅立ってしまうのでしょう?」
「わかった。だが解析にどの程度かかるかはわからんし、君達にどう教えられるかも不明だ。それでも?」
「いい。やり口はともかくやり方を覚えれば、対処の選択肢が広がる」
「趣味が悪い、な。これがネクロマンシーか」
「粘菌がベースとなったナノマシン群体による、生体組織や有機物素材の活用と改造、自我次元論による自意識を有する生体動作頭脳の作成…」
「有用なのは理解するが、モラル崩壊も何もあったもんじゃない。Vault-Tecやエンクレイヴも大概だったが、ここまで徹底的なのは正直言ってドン引きだ」
「他の知的生命体を加工して玩具や道具にする文明もございましたが…」
「ここまで徹底して遺体と死骸を活用しようとする姿勢は大概だ、この世界はイカれてる」
「素材の活用、という点では徹底したエコロジー思想と言えなくもございませんが、見えない範囲で使うという配慮に欠けておりますね」
「まあな。尊厳も結局は気分の問題ではあるが、この技術群はその辺りがすっぽ抜けてる」
「偏り、モラル崩壊した文明は爆発的に特定技術を発展させますが、それ以外を蔑ろにして結局は停滞するか滅亡…今迄見てきた世界との類似性は大凡7割です」
「踏み止まるポイントがいくつかあっても、それはもしもの話でしかないというのは解っちゃいるがね…」
「それで、どの程度までお嬢様方にお教えする積りで?」
「基礎部分は全部で。自我次元論と人格ダウンロードの封印記憶のノウハウ、粘菌コンピュータ育成方法といった基礎理論は多分、他のネクロマンサーも同じだろう。だが、残りはどうやって意図する機能を付与するかの派生情報と技術だ。正直、培養を使わず意図した部品を作る下りとか、材料調達の拘りなんかいらん」
「然様で。まあ、この世界におけるバイオマスジェネレータ技術は効率は確かに良いですが、最大出力に限界がございますし、結局、大抵の大地や残骸から必要な物を創り出せる御主人様には優先度が低い技術かと」
「大腸の一部に適用させて、生体電流の発電量を増やすには使えるか?」
「…排泄物発電ですか? 効率はいい方でしょうが、常に排気で周囲の空気を満たしたいなら構いません。あ、私めは遠慮いたします」
「冗談だ。俺も屁こきマシーンになんかなりたくない。尋問には使えるかもしれんが」
「悪趣味ですね。私めとしては、スラスターが意図せず不完全燃焼を続けるなど、恥ずかしくて発狂します」
「え、屁で浮いてる感覚なのか?」
「…言葉の綾でございますよ」
「説明の際に、表情が安定しない御主人様に代わりまして、私、エインズワースJrがネクロマンシー技術について、皆様に授業を行いたいと思います」
「「「わーぱちぱち」」」
「元気な生徒で嬉しいですね。ではお配り致しました教科書の…」
>アンデッドを作ってみよう
「…正直、あまり賛成はしたくはない。だが、彼女達の履修証明としては必要か」
「分類としては”ホラー”となる、ネクロマンサーのしもべとしてはポピュラーな存在ですね。幸い、繋ぎ合わせた皮膚を隠すものには事欠きませんから、細身で小柄な…少々顔色の悪いゴブリンの姿程度に」
「わかった。材料は足りるだろうか? 作業用に多めに作るんだろう?」
「はい。まずは試作品、次にブラッシュアップと続きますので…」
「やった、できた!」
「うう、やっと怖くなくなった」
「…小さい」
「戦闘には向かないけれど、素早いしそもそもアンデッドだから、警戒と作業には使える」
「これでお嬢さん達もネクロマンサーか」
「そうね。実感無いけど」
「これからどうする?」
「…わからない。でも」
「飽きるまでここでのんびりしよう!」
「お外はやっぱり怖いですし」
「…お家ができた」
「ここを、私達の終の棲家にする」
「…そうか」
>束の間の日常
「…湖の(液体)、何に?(使ってるの?)」
「ソロか。ここは汚染物質まみれだが、裏を返せば素材の宝庫なんだ。原子単位にまで分解すれば、水と他の資材の素になる」
「…(いつか)綺麗になる?」
「流石に難しいな。余剰の水分は戻しているが、この大きさの湖だ、他からの流入も考えると簡単には綺麗にはならんさ」
「…ざんねん」
「魚でも見たかったのか?」
「…うん」
「映像でいいなら、娯楽室に回収した動画があるぞ」
「…ほんと? 見に行ってくる」
「動くものは大抵が生物兵器かアンデッドか。水棲のそれも居るだろうが…とことん悪意に満ちた世界だよ、くそったれ」
「これ何何!?」
「ん? ああホーリーか。こいつはシェルターの面倒を見てくれる、人工頭脳だ。色々と相談に乗ったり、手伝いをしてくれる」
「へー、あたまいいんだ! 羨ましい!」
「沢山話しかけると、どんどん学ぶから、積極的に話してやってくれ」
「エインズみたいになるかなー?」
「それはわからんな。でも時間はあるんだ、試しても損はないだろ?」
「そっかー、がんばる!」
「ん? どうしたアリス?」
「あ、あのお花を見てたの。近づけないから」
「…現存するのは生物兵器の末裔だからな」
「危なくないお花…見てみたかったな」
「造花ぐらいしか用意できないが…」
「造花? どういうの?」
「作り物の動かない花だ。エインズワースに用意させておく。気にいるといいんだが」
「…あ、ありがとう」
「遠目に見る分は綺麗に見えるがその実、他の生物兵器やアンデッドを苗床にする危険物か…。片端から全部、悪意に満ちてやがる」
「トール、貴方はいつか、居なくなるんでしょう?」
「ああ。暫くは先だが」
「いつか、私達がここに飽きてしまったら、その…いつか、私達を連れて行ってくれる?」
「いいぞ。嫁さんに少し説教を貰うかもしれんが、養う子が多少増えた所で笑って許してくれる」
「…!?」
「なんだ、そんなに意外か?」
「結婚、できたの?」
「辛辣だな!?」
ネクロマンシーを修めたドール…少女たちは、アンデッドの巣窟になっていた元人類用大型避難所を改装した地下シェルターに棲家を構えた。
トールが設置したそれ…もし戦前にあったなら、エネルギー問題と水資源浄化に用いることで戦争を回避できたであろう、核融合炉とGECK組み込みの元素再利用機関が稼働していた。
トールは統括のZAXスーパーコンピュータの他、メンテナンスボットの生産整備施設を作り、少女達の希望を聞いて設備を整え終えた。
「行くの?」
「ああ。もう君等はここで脅かされる事も無く過ごせる。俺もこの世界の主だった技術については調べ終えてしまったからな」
「そっか」
「いくつかシェルターに贈り物を置いておく。ここにもし飽きて、俺の暮らす世界に興味が湧いたら、それを使って訪ねてくるといい。俺も嫁さん達も友人達も歓迎するよ」
「うん、覚えておく」
「ばいばい!」「さよならです!」「…ありがとう」
「またね、トール」
「ああ、またな」
トールが去った後、最初の4人はシェルターとその周辺と、自分達の地盤を固め終えた事を確認するや否や、時折でかけては旅先で彷徨うドール達を見つけては説得し、棲家へ案内した。
武装はトールから譲られた、この世界のどれよりも強力な代物なので、強力なホラーやサヴァントだろうが、巨大な生物兵器や器械兵器だろうが、戦車が歩兵を蹴散らすが如き…いや、歩兵の大きさで戦艦を鎧袖一触と残骸に帰す勢いであった。
尚、少年型ドールでも姉妹扱いなので連れてきている。お話して連れてきた中には、壊れたドールも居た、元サヴァントも居た、元ネクロマンサーすら居た。
元サヴァントや元ネクロマンサーは皆、元の性別関係なく小さな少女の体に組み換えられて、元の能力を失わされていた。必要だったのか少女たちの趣味なのか、お題目上は安全措置だろう、多分。
「皆殺しにしろ!神も許してくださる!」
野良の生物兵器やアンデッド、はたまた他のネクロマンサーによるシェルターへの襲撃は、ボーナスタイムだ!とテンション高めのMrガッツィー達、防衛ロボットとしもべのアンデッドが懇切丁寧に対応し、部品取りに勤しんだ。学習の末、より効率的に傷付けずに停止させる職人技の域である。部品は冷凍保管され、しもべのアンデッド生産の他、逃げ込んできた少女達の修復に使われた。
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シェルター維持とカウンセリング用に設置されたZAXスーパーコンピュータはいつしか自我を持ち、GECKを組み込んだワークショップで需要に応じて少しずつシェルターを拡張し続けた。記録を基に、ネクロマンシーすら習得した。
受け入れた少女達を屍体然、作り物然、異形の見た目から、なるべく人に近くなるよう修復する。部品には事欠かない。シェルターに住まう彼女達が心を壊さないよう支え続けた。
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いつしか、スーパーコンピュータは「グランマ」と呼ばれるようになった。因みに既に居ないトールの事は最初の4人を除いて少女達は「グランパ」と呼んだ。おじさんどころかお祖父ちゃん扱い。実際の年齢は確かにそうだがトールはちょっとだけ泣いていい。
「では、マスターの世界に転移させます。準備はいいですか?」
「いいよー、ちょっと楽しみ」
「怖くない怖くない」
「…わくわく」
「お願い。後はお願いね?」
「お任せを、お姉さま」「…また会おう姉御」
「キティ、お渡ししたデータメモリをお願いしますね、向うの私にもよろしく。…ビーコン起動」
そうして、最初の4人は後輩となった少女達に後を託して、トールの拠点世界に転移した。次元を超える条件は、自我次元論によるこの世界の存在を超えて、魂を体に宿している事だ。グランマに組み込まれた高次特性センサーがそれを見分ける。
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悪意に満ちた既に終わった世界で、蘇った少女たちのささやかな楽園となれるよう作られたそこは、過酷な旅の末、壊れずにひっそりと過ごす姉妹達や、当てのない旅を続ける姉妹達を受け入れ続ける。
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シェルターで暫く過ごした少女達は、長く居たドールが姉妹達と共にいつの間にか去っている事に気付いた。だが、彼女達を送り出したという先輩少女が微笑みながら新入りの妹達に伝えた。
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姉妹と一緒に穏やかに過ごしていれば、いつかグランマがグランパの世界に連れて行ってくれる。終わりを望む子には、静かで苦しくない眠りを与えてくれる。
ここで過ごし続けた少女自身が永遠の眠りか世界の旅立ちを希望するまで、そっと守り続けてくれると。だから今は安心して過ごしなさい、と。
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悪意まみれのネクロマンサー達の玩弄を経てきたため、半信半疑で素直に信じられない少女達も居たが、最初は戸惑い面食らい、やがて慣れては、他の少女たちと交流して過ごし、幾日、幾月と過ごす内に、打ち解けていく。
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最初の4人のように他の少女達を探しに行く姉妹達も多く居た。ついでに野良のアンデッドと生物兵器を駆逐し、隠れ潜むネクロマンサーをぽてくりまわす為に。
グランマは少女達がまた過酷な世界に行く事を渋ったが、バックアップを取る事を条件に許可を出した。
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かつて人類同士が際限無く撒き散らしたその悪意、殺意と害意が形を成した兵器の成れの果て達と、狂気の技術を修めた者共が解き放った異形達が、地球上のあらゆる表層で蠢き続ける。
それを尻目に気にも留めず、地下に築かれた楽園は辿り着いた少女達の為に在り続けた。
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これは既に終わった世界の後日談。愚かさと悪意で煮詰まった人類が殺意の応酬で互いに滅び、神様すら匙を投げ閉じた永遠の悪夢の世界…、その片隅にあるという楽園の噂話。心を取り戻した少女たちの終の棲家にして旅立ちの楽園のおとぎ話。