荒野からやってきました外伝 荒野の災厄のやらかし集   作:マガミ

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エインズワースの仮ボディ「ベガス」は、単に早くて小回りが異様に利くモンスターマシンです。
大抵の追加機能は不格好なポン付け。


たどり着く前・KR

「御主人様、もう少し大人しいデザインでも宜しかったのでは?」

「前回はトンデモなヘリが居た世界だった。仮拠点を構えるのは仕方無いにせよ、移動手段は必要だろ。あとその姿の時は俺の事はトールでいい」

「ふむ、では間を取ってトール様で」

「…好きにしてくれ」

 

 トールが今乗っているのは、自作したオンロードタイプの大型オートバイである。艶消しのOD色で塗装された硬質金属製カウルは流線型のシルエットをしている。この時代のどのオートバイにも似ているようで似ておらず、半ばツアラー然としたスタイルで乗っていた。

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 もう遠い記憶になる、生前見ていた近未来アニメと特撮番組の仮面ライダーシリーズの一作に出てきた超大型二輪車両から独立可動式タイヤのアイディアを抽出し、風防に包まれた大型タイヤは前後で独立稼働する。

 フレームは以前訪れた恒星間国家世界の機械兵器の技術を応用し強度を確保、エンジンはパワーアーマーにも用いられているフュージョンコア発電で、前後のホイール内のリニアモータを動かす。カウル等は乗っている人間に直撃しない限りは、銃弾だろうがミサイルだろうが耐えられる極薄装甲板だ。

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 ハンドル部は巡航と高速で位置を変更でき、それに併せてカウルも変形する。ツアラースタイルからスーパースポーツスタイルで切り替える事ができる。

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 コンソールはPip-boyとパワーアーマーの設計図からパーツを選定し、制御系を直接操縦とランド・バイ・ライトで切り替えられるようヴェトロニクスにMrハンディの人工知能部分を組み込んだ。初期は制御系がこなれていなかったのでメモリにエインズワースをロードしたのだが、拠点でも出先でもバイクを側に置いているので、未だそのままにしていた。離れてもエインズワースが自走させられるが、遠距離での相談は通信機で行っている。

 自動運転可能な未来のオートバイといった風情だが、元々が移動手段の確保であるため、警察の職質を警戒して、武装や秘密兵器などは搭載していない。強いて言えば盗難防止対策や、この時代では珍しい電子戦やハッキング能力のみである。

 

「そういえばこのボディの名前は何でしょう?」

「お前がロードされてるから、エインズワースでいいんじゃないか?」

「安直ですよ。少し気の利いた名前をお願いします」

「とは言ってもなぁ、んじゃベガスで」

「ここはカリフォルニアですよ? …まあ、悪くはございませんね、ではベガスでいいでしょう」

「どうせお前を呼ぶ時は、エインズワースかエインズだからな」

「言ってはならない事を…」

 

 専用ヘルメットとライダースーツは、ニューベガスに居た頃に設計図を入手していた、NCRレンジャーアーマーを小綺麗かつ簡素化したものだ。ヘルメットにはパワーアーマーのコンソール周りの設計図を応用してあるので、車両の各種データが視界に表示される。

 

「それよりも、あまり積極的に首を突っ込むのは如何なものかと。今はそれらしき気配はございませんが」

「…どうせ向うから厄介事が来るんだ、準備して身構えている程度は、神様も許して下さる」

 

 尚、前回の世界自体の記憶は有しているが、それが生前見ていた作品世界に類する物であるとは、その記憶自体を失っているとは、思っていなかったりする。思い出すのは、幾万の次元を超えて辿り着いた世界で、しかも10年程度経った後である。

 また、上記の通りトールの次元転移は真っ当な歴史の地球にはほぼ出現できない事から、幾度の転移の末にそれを経験則として悟った為、辿り着いた先が標準的な20世紀や21世紀であっても、どこかにぶっ飛んだメカやら超人やらが潜んでたり活動している事を確信し、警戒するようになった。

 閑話休題。

 

「おや、御主人様は聖書の神を信じておいでで?」

「それも含めてだ。俺は八百万の神が居る日本がルーツだからな」

「…声が震えてますよ」

「備えてても厄介事は斜め上なんだよ」

 

 そんな掛け合いをするトールが居るのは、認識上はつい最近まで居たのと同じ、1980年代のアメリカだ。苦労して転移装置を組み上げて、慎重にテストを行ったにも関わらず現れたのはカリフォルニアとネバダの州境であった。トールはショックの余り、道端で膝から頽れた。

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 通りかかった親切な一家が声をかけてくれて近くの街に辿り着いた後、ロサンゼルスを中心にカジノホテルを渡り歩いて一ヶ月、そこそこの資金を調達した。その後、親切な一家が住んでいるという街に戻り、資金を使って倉庫街の一角に拠点を構えた。表向きは、ちょっとだけコンピュータにも強い電子工作や修理を請け負う業者だが、別段、仕事を募集していないのでトールの事を知るものは居ない。

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 現在、トールは拠点としている街の倉庫街から離れた郊外で、ある窃盗団を追っていた。別に仕事として請けた訳ではないが、世話になった一家の買ったばかりの中古車が盗まれたとの事で、追跡して警察に通報する積りであった。

 

「…なんでまた、型の古い大衆車を盗んだかと思えば、そういう事か」

 

 望遠鏡で見た所、車のボンネットを開けて、ボンネットの裏側にある妙な板部分を外している。そこから、恐らくは麻薬と思われる白い小袋が大量に現れた。トランクやシートも同様。同じような中古車が数台ある。

 もうベタな密輸の1シーンだ。トールとしては通報して済ませたかったが、警察無線の状況から通報から到着まで30分はかかる。既に窃盗団は移動の準備を進めているので、車両は戻るかもしれないが連中の逮捕には至らない。

 

「ちっ、手製の時限爆弾か!」

 

 ご丁寧に納屋の周囲にガソリンを撒く準備と、時限爆弾のタイマーのセットを開始していた。

 

「これ以上は越権行為かと」

「…わかってる」

 

 トールは望遠鏡をしまうとヘルメットを被り、エインズワースの進言も聞いては居たが、証拠隠滅を防ぐために駆けつける事にした。

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 森の中から農地へ。道路を凄まじい速さで駆け抜けると、何故か、納屋にあった時限爆弾は凍結の上で半ば解体されて停止していて、中古車以外の窃盗団の車両が軒並み居なくなっていた。

 

「どういう事だ?」

「先行してアイボットを飛ばすべきだったかもしれません。気付かず申し訳ございません」

「いやいい、俺が指示してなかったからな」

 

 そう言いながら、ヘルメットのカメラを地面に向けて窃盗団の車両のタイヤ痕を調査。ここでVANSことVault-tec Assisted Navigation Systemを有効化していれば解析等も必要無かったが、トールはゲーム的処理はされないだろうとウェイストランドを旅立って以降は無効化していた。

 

「視界にオーバーライド。警察に通報頼む」

「了解です」

 

 トールは窃盗団の車両を追うが、武装していた様子だった犯人達は、辿り着いた先で警察にしょっぴかれていた。車両は…見事に横転している。

 

「何があったんです?」

「うお、すごいスーツだな?」

「ああすいません」

 

 トールはヘルメットを外す。

 

「協力してくれたF.L.A.G.のエージェントが居てな、こいつらは窃盗団にして密輸業者だ。丁度ひきつけてくれてる間にラインをひいて、一網打尽って訳さ」

「大手柄ですね。所でF.L.A.G.?」

「何だお前さん知らないのか? ああ、旅行者なら仕方無い」

 

 若い警官はトールの容姿から旅行者と勘違いしたようで、「法と政府のためのウィルトン・ナイト記念財団(Wilton Knight Memorial Foundation for Law And Government)」あるいは「F.L.A.G.」、または「ナイト財団」と呼ばれる、事件解決に協力する組織について説明してくれた。

 身動きが取りづらい警察に代わって活動する私立探偵かつ賞金稼ぎのような立場だが、活動資金は自前であり、強制権や捜査権などは無いが、積極的に警察を支援して犯人逮捕に協力してくれるのだという。

 

「ま、こっちも手を焼いてたからな」

 

 古株の警官はあまり良い顔をしていないようだが、事件の解決を優先するらしい若いこの警官はその辺り気にしていないようだった。

 

「ああ、お仕事中すいませんでした。お仕事、頑張って下さい」

「道中気をつけて、カリフォルニアを楽しんでくれ」

 

 トールはその場を辞し、来た道ではない大通りを選定して拠点へ向かう。朝方の道路には殆ど通行車両が居ない。無人の道路を法定速度からやや低めで走っていく。

 

「…やっぱ居たな、なんかドラマっぽい特別な組織」

「越権行為はしないようですし、警察にも知られているので、それ程警戒しなくてもいいのでは?」

「慢心は(精神的にも)死に繋がる」

「…然様ですか」

 

 活動内容からスーパーパワーのあるヒーローなどでは無いだろうが、以前の超トンデモ音速ヘリの件も引きずっているので、何かぶっ飛んだメカが出てくる可能性は否定できない。

 

「張ってて疲れた。エインズワース、オートで拠点まで頼む」

「畏まりました」

 

 トールはヘルメットの中で大あくびをして、高速モードを起動。前傾姿勢で車体に身体を固定し、その状態で仮眠をはじめた。エインズワースはレーダーで周囲に警察車両が居ない事を確認し、エンジンの出力を上げて膨大な電力をモーターへ。

 制御可能範囲での最高速度は500km/h。未来の最速バイクであるダッジトマホークの直線速度600km/h超に比べれば遅い方だが、それでもバイクとしては異様な速度である。そんな速度の中にあって、トールの図太さもあるが、車体を支える複合型サスペンションは振動を抑え、搭乗者はさして揺さぶられることもない。

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 さて、トールとエインズワースは自身のトンデモ自動二輪「ベガス」の性能を隠蔽するため、レーダーによる警戒範囲に他の車輌が居ないかチェックしたエリアでのみ、速度を出すようにしていた。

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 だが不運な事に…ベガスの速度をみちゃった相手が居た。彼は特別なボディを持っている為、ベガス搭載のレーダーでは捉えられなかったのだ。彼自身もセンサーの誤判定と一度は判断したが、望遠カメラで確認した先に直線をかっ飛ぶバイクを確認してしまった。

 

「マイケル…私に頬は無いのですが、何か抓る手段は無いでしょうか?」

「どうしたK.I.T.T.、晴天の雷みたいに?」

「…これをご覧下さい」

「時速500km/hのオートバイ!?」

 

 マイケルはすぐさまデボンに連絡。近隣の通行情報からトール達を特定。まだ情報化、ネットワーク化の黎明期の時代だからと油断していたトールとエインズワースのダブルうっかりである。軍用レーダー程度には検知できないオートバイという時点で逸脱していた訳で、それをまさか軽く突破してくるドリームカーが居るとは想像もつかないだろうが。

 

「ふむ? 入国データなどは無いな。不法入国かもしれないが、カジノホテルで少し当てて数ヶ月前に居を構えて以降は、買い物以外は特に不審な点は無い」

「購入品は、生活用品や雑貨の他は、電子工作用のツールね」

「先日はIBMから複数のコンピュータと部品か。搬入しても外に出す気配は無いと」

「あとあの特徴的なオートバイ、ナンバーは…まるで別物だけど、中古の大型バイクを購入したときの物をつけてるみたいね」

「犯罪者やテロリストにしては大人し過ぎるな。俺としては、あのクールなバイクを組み立てただけの発明家あたりなんじゃないかって思ってる」

「なんとも楽観的だなマイケル」

「だめですマイケル。二輪車メーカーの陰謀です、回し者です、そうに違いありません。あんな進化の乏しい車輪付きほうきに惹かれるとは、嘆かわしい」

「なあにK.I.T.T.、珍しくジェラシー?」

「ジェラシー? これが? いえ違いますよボニー」

「ま、時間のあるときにちょいと話を聞きにいってみるさ。もしかしたら出先でばったりも有り得るが。友好的なら、もしかしたら試乗も…」

「マイケル、だめですからね!」

「わかったわかった。そんなに怒るなよ」

「怒ってはおりません、ええ、怒ってませんとも!」

 

 機嫌の悪いK.I.T.T.を宥めつつ、マイケルはトールが居を構える倉庫街へ。再開発の買収も進んでいるので、あと一年もすれば取り壊される予定の地区である。

 

「いらっしゃい? 特に宣伝はしていませんが、何かご相談でも?」

「外の看板を見た知り合いが居てね、興味が湧いたんだ。ああすまない、俺はマイケル・ナイト」

「宜しくマイケル。私はトール・ミナセ、しがない科学者です。立たせているのも何ですし、お茶でも出しましょう。エインズワース、お湯を沸かせてくれ」

『畏まりました。既にご用意しておりますが、お客様はコーヒーと紅茶、どちらに?』

「コーヒーがいいかな。中に誰か居るのかい?」

「長らく稼働させている、人工知能です。それなりに経験を積ませてますから、中々気が利きますよ」

「人工知能? そいつぁすごい」

「散らかっていますがどうぞ」

 

 人工知能という事で興味を惹かれたマイケルは、電子部品が転がる倉庫の中へ。K.I.T.T.はレーダーなどで追跡、音声なども確認する。

 

「何が何だがさっぱりだが、色々作ってるみたいだな」

「ええ、必要とする機器が多いので、機能ごとに専用で組んでたりしますね。今はミリ波レーダーと分析機器ですが、街中なのでテストができないのをうっかり忘れてましたよ、はは」

「個人で組むには大掛かりだな」

『お待たせしました、コーヒーです』

「おう、驚いた。ええと、エインズワース?」

『はい、ナイト様。正確には中枢から遠隔制御している端末となりますね、本体はそこのベガス…オートバイの中です』

「こいつは凄い。受け答えも自然だが…」

「基礎設計は私では無いのですが、何分、旅暮らしに付き合わせていますから、経験豊富です。今は移動用のベガスの制御系も兼任しているんですよ」

「へぇ、どこかに売り込んだりはしないのかい?」

「まさか。先程の通り私の作品では無いので、徒に広める気は無いんです」

「そいつは残念。所でその、ベガスだったか、少し跨ってみたりして、いいだろうか?」

「どうぞどうぞ。ゲストモードもありますよ。エインズワース、ジャイロ制御、コンソールをゲストモードで起動」

『畏まりました。どうぞこちらへ』

 

 姿勢制御のジャイロで二輪なのにスタンドを外して直立、ふわふわ左右にゆっくり動く車体に驚き、頷くトールに促されて跨るマイケル。

 流石にスペックの詳細や核融合発電である事などは誤魔化したが、基本的な機能の説明や、レトロながら軍用計器のようなパネルやスイッチ類にマイケルは大喜び。K.I.T.T.とはまた別のデザインラインに新鮮さを覚えた。

 

「いやあ、今日は訪ねて正解だった」

「満足頂けて幸いですよ。大抵はここで機器をイジっていますから、お暇があればいつでも」

「ありがとうトール、エインズワース。今度は何か気の利いた土産を持ってこよう」

 

 ご機嫌のマイケルとは裏腹に、彼を待っていたK.I.T.T.はとても不機嫌だった。レーダーで動きを見ていたので、あのオートバイに跨ってテンションが上がった相棒の姿を捉えていたのだ。

 

「ご機嫌のようですね」

「K.I.T.T.とは違う魅力があってな。仕事の相棒としては困るが、中々に…どうした?」

「いーえ、なんでもありません」

「なんか言葉に棘があるぞ?」

「なんでもないんです!」

 

 そしてマイケルを持て成した後のトール達といえば、相手があのナイト財団の関係者だとは知らず、単なる乗り物好きの兄ちゃんみたいに思っていた。

 

「マイケル・ナイト、ナイト…ナイト財団?」

「まさか。特段、事件などには関わっておりませんし、偶然ですよ」

「そうだよな。ま、ファッションも中々に高級志向のようだったし、懐に余裕があるようなら、旅立つ前にベガスの譲り先にでも考えておくか」

 

 希望的観測というか、自分達が何かを見つけてしまった訳では無いのでどうにも緩い二人。その後、マイケルは手土産を持ってきては談笑する機会が増えた。何故か、ベガスをチラチラ見ているのだが、乗ろうとはしない不思議な日が続く。

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 大抵は街中か倉庫の開発室で過ごす事が殆どだったが、外で再会したときに事件は起こっていた。

 

 トールがベガスことエインズワースのボディや転移装置の部品に用いる化学薬品の調達に、ジョン・バイロックという男の経営する廃棄物処理場に訪れた先での出来事だ。

 ドラム缶1本分の廃液を買い付けに来た訳だが、電話では適切に処理をしていると言っていた割に、処理場内には廃溶液の沼があったり、古びたタンクローリーからは異臭が出ている。

 

「…まるで戦前のアメリカだな」

「如何されましたかな?」

「いえ、何でもありませんよ、ミスターバイロック」

 

 ドラム缶には素材分解すれば必要分は調達できる廃液が詰まっており、ベガスが引く牽引車の後ろに載せた。経営者ジョンは捨てるのに手間がかかる廃液に値段がついてホクホク顔であった。

 

「今後も必要とあらばご連絡を」

「あー、まあ、足りなくなったらまたお願いします」

 

 料金を支払い、そそくさとトール達は去る。ジョン・バイロックは思わぬボーナスにニヤリと笑うと、いつも通りにタンクローリーへ廃液を詰め、部下に指示を出す。いつも通りに人気の無い牧草地近くの道路へ向かい、いつも通りに…廃液を撒き散らした。

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 ジョン・バイロック。別名を「垂れ流しのジョン」。経営する廃棄物処理場で違法に集積した有害廃液を、人気の無い牧草地近くの道路などで撒く、犯罪者であった。

 

「うん? エインズワース、この道路上の物質サンプルを」

「解析は倉庫に戻ってからになります」

「構わない。しかしなんでまた、こんな所に…」

 

 周囲は牧草地であり、例の廃棄物処理場からは離れている。雨や川などで流れてくるには遠い場所だ。

 

「とりあえず戻ったら後ろのをプラントで分解。製作は後回しにしてここ周辺とあの処理場を調べてみよう」

「何やら事件の臭いがしますね。私めには鼻はございませんが、悪意の雰囲気がぷんぷんと」

「だな」

 

 この選択が、ある衝撃的な運命を回避させる事となる。

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 原典「ナイトライダー」のシーズン3において、マイケルとK.I.T.T.は有毒廃液を違法に捨てるジョン・バイロックとその廃棄物処理場を調査する過程で、K.I.T.T.が有毒廃液に無理やり落とされてしまい、フレーム以外を全て溶かされて「死」を迎えてしまう。

 バックアップなどからK.I.T.T.を再生させようとするのだが、K.I.T.T.は経験の不足と以前の自分が死を迎えた事に恐怖を覚えて、思うように動けなくなってしまった。そこからマイケルとK.I.T.T.が、決意を新たに立ち上がるまでが描かれる。

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 が、そんな記憶が今は無いトールは、放射性廃液などがおざなりに処理されていた戦前アメリカと、それが散らばるウェイストランドの光景を見てきた記憶から、お節介である事は重々承知の上で、潜入はせずとも外部からの調査でできるだけ情報を集め、司法機関等に提出することを思いついた。いきあたりばったりである。

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 街に戻ってからとんぼ返り。広いアメリカなので到着時に既に暗くなった。ベガスの後部には化学分析機を載せたが、試作品のため大きいので少し不格好である。

 

「移動中に解析完了。複数の公害認定物質の他、少し放射性物質などもございます。反応時のガスは有毒ですし、廃液に浸かれば、有機物無機物問わず、半日もすれば殆ど溶けてしまうかと」

「複合的な毒液だな。集めた廃棄物から流れる分が悪魔合体かクソッタレ。こいつを…ここと、この辺りで撒き散らしてるなら、土地も地下水も汚染されるぞ」

「同意見です。廃液溜まりは近付くのも危険ですが、成分分析の結果で追い詰め…トール様、視界にオーバーライドします、ご確認を」

「あの背格好は…マイケル? なんであんな所に?」

 

 頭を低くして、ライトを消したベガスを超静音モードで移動させる。視界はヘルメット組み込みの暗視装置だ。廃棄物処理場で騒ぎが起き、視界にオーバーライドされたのは、処理場に突入してきた黒いスポーツカー。

 

「黒い、トランザム? うっ頭が…」

「痛いだけで思い出せないのですから、無理はされませんよう」

「わかってらい。暗がりに乗じてマイケルたちを助けるぞ」

 

 明かりはあれど暗がりもあるので、黒いスポーツカー…トランザムに誰が乗っているのかはわからない。多分、マイケルの仲間だろう。奥からディーゼルエンジンの排気音、フォーク部品が付いたホイールローダーが積まれた空のドラム缶を弾き飛ばして現れた。

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 虚を突かれ、トランザムは車体を掬い上げられてしまう。その先にあるのは、日中にトールも見た毒性廃液である。

 

「殺す気か!? マイクロウェーブは!?」

「照射器が些か貧弱ですから2箇所までです」

「構わん、油圧シリンダのゴム配管を!」

 

 そうこうしている間に、フォークリフトというか、フォーク付きホイールローダーが車をドボン。だが、ベガスのライト内蔵の多目的照射装置から焦点を合わせたマイクロウェーブが照射。シリンダーへオイルを供給する樹脂製ホースが熱されて圧が抜け、落とされたのはやや手前気味の場所だ。

 マイケルと女性は業者の連中から逃れたが、トランザムの中に居るだろう仲間の名前を叫ぶ。外部スピーカーでもあるのか、トランザムはマイケルの名を繰り返す。

 

「うおおおお!」

 

 トランザムが開けたフェンスの隙間から入ったベガスの上で、駆け抜けざまに処理場に転がっているフック付きワイヤーを引っ掴むと、フックの側をトランザムに引っ掛けた。ターボボンネットの膨らみと窓の隙間なので、下手をすればボンネットが外れるかフロントガラスが割れる可能性もある。

 だが人命がかかっていると考えていたトールは、引っ掛かれば御の字と、ワイヤーの端を片腕に巻きつけた。ズルズルとベガスごと引きずり込まれる。

 

「ゴー!」

 

 ホイール内の超電導モーターに莫大な電力が注ぎ込まれ、高速回転するタイヤから樹脂の焦げる臭いが立ち込める。ベガスはその太いタイヤの表面をスパイク状に変形させ、接地面積を稼いだ。徐々にトランザムが引きずり出される。

 後部とルーフ部分は残念ながら浸かってしまったようだが、フロントガラスとボンネットが無事なので、廃液が浸水しきる前に救出し、然るべき洗浄措置を取れば大丈夫だろう…というのがトール達の認識である。

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 トールはそのままトランザムと共に敷地から出た。マイケル達も一緒に走っている。ちらと見れば、綺麗であったろう車体は廃液まみれになっており、タイヤはすでに溶け崩れていた。あまり引き回すとホイールが変形するので、少し離れた所でワイヤーを手放す。ナイト2000の性能を知らないトールは、ボンネットに無理やりフックをねじ込んだにも関わらず変形していない事に関心した。

 

「お、おい…!?」

『あの廃液は危険だ、病院で検査を』

 

 何で居るのかとかお互い気まずい雰囲気になる可能性を考慮し、トールはヘルメットも取らず、名乗りもせずにライトを付けないベガスに乗ったままそこを去った。尚、ベガスの姿はオフロード対応に追加したパワーモードなので、冷却用にそこかしこのカウルが開いていた。ごまかせたらいいな、という希望的観測だが、まああくまでも希望的観測である。

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 トールは後部タイヤを滑らせて地面を削って走らせ、マイケル達の痕跡を上書きして誤魔化しつつ、再度、廃棄物処理場に突入。従業員を一通り追いかけ回してからマイケル達とは反対側から逃げ出した。無論、ナンバーを晒す事はしていない。

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 結果的には、ナイト2000ことK.I.T.T.は完全なる死は免れたものの、タイヤ、エンジン、内装と殆どが廃液に侵され、無事なのは分子結合殻のボディとフレーム、あとは頭脳中枢のみであった。

 

 再生作業自体は、新機能の盛り込みや新型コンソールの組み込みも含めて順調に進んだが、走行テストにおいて問題が発覚した。

 

「K.I.T.T.どうしたんだ!?」

「その、すいませんマイケル、私は…」

 

 コンクリート壁への衝突試験でK.I.T.T.がブレーキをかけてしまったのだ。

 テスト自体の結果は悪くないのだが、K.I.T.T.の状態は原典よりも深刻だった。試験場脇に置かれていたホイールローダーとフォークリフトから、無意識に離れ、または必要以上に注視してしまう上に、水溜りへの恐怖症を持ってしまった。マイケルやボニー達は賢明にその克服のため注力する。

 

 そしてやはり、K.I.T.T.の相棒はマイケルだ。マイケルとの語らいでK.I.T.T.は恐怖症を克服し、改めて二人で事件解決に向かう。後の流れは原典と然程違いは無いが、二人の絆はより強固で確かなものとなった。

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 さて、K.I.T.T.再起後のマイケル達によって廃棄物処理場の一件が解決した後、トール達はニュースで事件解決を知った。

 

「やっぱりあれか、ナイト財団のエージェントなのかな」

「お名前からして、総帥との事です。ウィルトン・ナイト氏から引き継いで代表者になったとか」

「あの若さで? まじかよ…」

 

 そんなやり取りをして暫く、マイケルも忙しいのか訪れる事も無かったのでトール達は作業に没頭した。理論と設計図はあれど、その時代で調達できる素材や部品で次元転移装置を作るとなると、まだ1980年代のアメリカは恵まれている方だが、手間で言えば手作業でジェット戦闘機を組み立てるに等しいので進める時は黙々と作業を続けている。

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 午後の作業を続けるトールの所にマイケルと黒いトランザム…K.I.T.T.が訪ねてきた。元々倉庫街のため、小型ならトラックなども入れる場所である。

 

「やあトール、あの時は助かった」

「無事で何より、ニュースで奴が捕まったのは見たよ。愛車も綺麗になってよかった。所で、キットと呼んでた仲間か相棒は、大丈夫だったのか? 入院させて検査は?」

 

 マイケルが何度も訪ねてきてはコーヒーブレイクと洒落込んでいたので、既にトールも砕けた口調である。日本語では素でも丁寧なのだが、長らくのウェイストランド暮らしと時空放浪で、英語では専らこっちの口調らしい。

 

「ああそれなんだが…、K.I.T.T.ご挨拶だ」

『こんにちは、ミスタートール。私はKnight Industries Two Thousand、K.I.T.T.と申します。その節はお世話になりました。以後、お見知り置きを』

「…喋る高性能人工知能車両かよ」

『私自身も高性能と自負していますが、このボディも高性能ですよ。ピカピカの新品ですし』

「ユーモアのセンスまであるのか…」

 

 トールの反応に意外そうな顔をするマイケル。

 

「ベガスというか、エインズワースを相棒にしてるじゃないか、なんでそんなに驚くんだ?」

「いやまあ、そうなんだが…」

『トール様、シャッターを開けますので、御二方を』

「了解だ。中で話そうか」

 

 中に案内すると、以前まであった機器が場所を移し、また別の機器が組み上げる途中になっている。

 

『興味深い機器が多いですね、ボニー達が驚きそうな』

「機器1つで結構時間がかかるんだ。こいつは空間の分子状態を分析する機械さ。…っと、エインズワース、お前もK.I.T.T.に挨拶を」

『お初にお目に…という訳でもございませんね。私はトール様にお仕えしております人工知能、エインズワースと申します。些か慣れないボディで稼働しておりますので、K.I.T.T.様、その点はご容赦を』

『こちらこそ宜しくエインズワース。おや、そこのオートバイに組み込まれていると?』

『はい、制限も多いのでおもてなし等は別途、端末ロボットを遠隔操作しております』

『ふむ、足りない所は追加して補うのですか。ロボット端末については私もボニーに相談してみたい所です』

 

 そんな感じで会話する人工知能達を横目に、マイケルは出されたコーヒーを飲みながらトールに切り出す。

 

「改めて礼を言う。お蔭でK.I.T.T.は廃液で溶かされずに済んだし、事件も解決した」

「問題ない。こっちとしては、勝手に首を突っ込んで怒られるんじゃないかと冷や冷やしてたよ」

「それでだ。少しで悪いんだが…これを」

「小切手か、だがこんな額は受け取れない」

「相棒を救ってくれたんだ、受け取ってくれ」

「…わかった。それで、これの件とK.I.T.T.の紹介だけじゃないんだろう?」

「うちの…F.L.A.G.へ協力してくれる気は無いか?」

「俺が? 残念ながら識った技術を組み合わせるのはできるが、何かを1から作る発想には乏しいんだ、役立てられるとは思えない」

「前の回答と一緒か。無理強いしても仕方無いな、この話は忘れてくれ。だが、何かあった場合に相談ぐらいはしていいか?」

「ああ構わないさ。エインズワースも別の人工知能と話すのは楽しいだろうし…」

『…失礼ながら、認識を改めねばならないようです』

『K.I.T.T.落ち着いて下さい。私達としては無理強いしている訳では…』

 

 マイケルとトールは、何故か険悪な雰囲気になった事に顔を見合わせる。

 

「なあ K.I.T.T.どうしてバイク、いやエインズワースの事が気に食わないんだ?」

『彼自身は気のいい人格です。しかし、あんな進化の乏しい車輪付きほうきのボディで満足するなんて、気がしれません!』

「そんなにだめか? トールは乗心地いいって言ってたが」

『私めとしましては、必要最低限の構成ですので、今はこれ以上は望まないと回答したのですが…』

『伺った限り、貴方の性能はそこで収まるものではないはずです。勿体ないではありませんか』

「バイクとしては過剰性能だが、移動できればいいからなぁ…」

「ほらほらK.I.T.T.あまり困らせないでくれ」

 

 別段、ライバル視している訳でも敵対している訳でもないのだが、K.I.T.T.はこの日から事あるごとに車型ボディをエインズワース勧めたり、トールが首を突っ込んだ事件でライバル視したり、張り合う事となる。

 

「今回は宜しくお願いいたします、K.I.T.T.」

「…私だけでも十分、サポートはできますので、予定範囲内ならくれぐれも手出しはされないようお願いします」

「ええ、勿論ですとも。多芸と聞き及んでいますから、参考にさせていただきますよ」

 

 エインズワースとしては、中々に感情豊かなK.I.T.T.は年下の子供のようなものだったりする。音楽の趣味については、ウェイストランドでも残っていたオールディーズなどを教えた。クラシックもお互い好みである。

 

「乱暴だがいいタイミングかな?」

「丁度、古い水道管がありましたので利用を。業者には既に通報済みです」

「パーフェクト。表が騒いでる内にマイケルも出れたようだ、俺らもずらかるぞ…」

 

 実質稼働時間としてはトールに長年付き合っているのもあって膨大な時間を経ている為、自身の今のボディは機能としては最低限ながら、創意工夫で成果を出すのがなんだか多機能にして高性能なK.I.T.T.としては悔しい様子。

 

「ベストタイミングだK.I.T.T.! …どうした?」

『マイケル、今度ボニーに新機能について相談をしたいと思います』

「お、おう…?」

 

 トール自身は転移装置の完成を目的としているので、特に要請を請けたりする訳でも無いが、転移装置の部品調達やその先でトールはナイト財団が調査を行う事件に巻き込まれ続けた。

 解決に協力する事も多いが、半数以上は巻き込まれのコメディリリーフである。後で思い出す事になるが、トールの巻き込まれる事件は、人死が出る筈の状況が殆どだった。

 

「よお、トール、今日も部品探しかい?」

「…マイケルか」

「どうした、この世の終わりみたいな顔して?」

『いつも通りでございますよ、マイケル様』

「エインズワースも元気そうだな」

「頼むから、絶対巻き込まないでくれ、俺は静かに暮らしたいんだ!」

 

 K.I.T.T.のオーナーであるマイケルは、トールには敵対心やライバル心などは一切抱いていない。トールも気分を変えたい午後のコーヒーブレイクの相手であるので無下にする事は無いが、外での遭遇は厄介事フラグである。

 大抵は意図しない遭遇が殆どであり、トールが腹を括った現場においてはナイト氏の行動に素早く適切なフォローを行う事もあって、財団へのスカウトを考える程度には好感を持っていたりする。旅人にして研究者という事で断られたのは、責任者であるデボンと共に残念に思っている。

-

 トールはこの世界を旅立つまでに結構な頻度で巻き込まれ続けたが、事件のそれぞれであった特筆事項については、また後ほど語る事とする。




トール「LUCちゃんが息してない!」
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