荒野からやってきました外伝 荒野の災厄のやらかし集   作:マガミ

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火星に行かない件。
時期としては、こーじ君が目覚めて火星に送られた少し後。
遠いので火星でのドンパチには気付いてない。


辿り着く前・Mさーが

 

 瓦礫に廃墟、文明の残骸、見慣れた光景にかつての記憶が刺激される。ガイガーカウンタは強くは無いものの、歩く度に反応を示している。空白地帯は無く、大抵の場所が放射能汚染されていた。

 草臥れた軍用作業服を纏った男は、手に古新聞を持ち、内容を見ながら無造作に歩を進める。

 

「…発端は極東というか日本での原因不明の大崩壊。それに触発された大国同士よる第三次世界大戦の勃発か」

 

 新聞を手に持った男…トールは、幾度も見てきた中で、珍しくもないがやりきれない気持ちで、ため息を吐く。

 

「辛うじて生き残った人々が、新政府同士で終戦協定と統一条約を結び、健康な人を中心に火星に送り出す移住…か」

 

 核戦争により壊滅した地球。希望が残るとすれば、惑星移住により種を存続させる程度の、技術と生存が成されていた事だろうか。

 火星自体の開拓は随分前から行われていたようだが、植民星扱いではなく、厳しい環境へ挑戦する人々への羨望という形で地球側は支援し続けてきたようだ。

 だが、最終戦争によりその関係は終わってしまった。火星行政府側は再三、理性的な対応を大国同士に求めてきたが、極東で起きた原因不明の攻撃は大国同士の疑心暗鬼を暴発させ、後はお決まりのパイの投げあいである。

 

『放射能による汚染具合は、ウェイストランド以上です。動物では急激に上昇しすぎて適応も難しいレベルですね』

「減衰まではまだかかるな。…火星へのシャトルは出てるのか」

 

 所々に残された、火星移住の診断案内ポスター。そのお蔭なのか、遠くに見えるシャトルやロケットの打ち上げ施設以外の場所では、人間を見かけることがほぼ無かった。

 

「だがもう、元がある程度の健康体でもこの状況で異常無く生存しているのは殆ど居ないだろう…」

 

 どちらが勝利したこともなく、政府と言える形が地上から無くなってもう十数年が経つ。移住計画が始まってより、もう健康体と呼べる人は殆ど居ない。

 だがそれでも、火星の行政府は発着場の維持と、基準には満たないが生き延びている人々の支援は続けていた。

 

 

 

 トールも生前、資料でしか見たことのないバラックが立ち並ぶ集落。手ぶらで近付けば廃材で作られた門の見張りらしい男が声をかけてきた。

 

「おー、兵隊さんみたいにというか、どっかで戦ってた生き残りかい? ようこそ、名もない集落へ」

 

 今のトールの格好は、特徴的なヘルメットとコートを纏ったレンジャーアーマーだ。

 

「そういう訳でも無いが…、兄さんはどうしてここに?」

「見ての通りさ。俺ら自身が自分の身体の事はよくわかってる。蓄えも無いから治療も難しいからな」

 

 継ぎ接ぎだらけの厚手の服の上に、ボロけたヘルメット、そして、ケロイド状の肌になった喉回りを持つ顔が乗っている。

 

「…そうか」

「大丈夫そうならシャトルの発着場に送り出し、だめそうなら俺らと一緒に頑張ってる人達を祈る集まりなんだよ」

 

 比較的治安もいいんだぜと笑う。一週間に一度、その間に亡くなった人をまとめて葬式をするとも。

 

「医術の心得が少しある。根本治療は難しいかもしれないが、苦しいのは少し、和らげられると思う」

「おお、有り難いね! なら飲み屋やってるミチヨさんの具合を見てやって欲しい、こっちだ」

 

 休憩から戻ってきたらしい別の男に手を振ってから、見張りの男はトールを案内すべく先導する。

 

 

 

 トールは案内された先にある、立ち飲み屋の女店主ことミチヨの診断をし、RAD-Xを中心に放射線除去の治療を施す。残念ながら、体組織の遺伝子損壊はトールの施せる範囲を超えている。

 

 だがそれでも、ミチヨ達には感謝された。トールは仮住まいになる廃墟を案内され、そこで明後日から診療を行うと伝える。

 トールは手持ちの素材からエインズワースの筐体を作り出し、今の集落へ行える援助を考える。

 

「エインズワース、とりあえず周辺から放射線除去と汚染物質の回収。資材は近隣の廃墟地下から総ざらいで」

「かしこまりました。医療ポッドはご用意しておりますが、何分、殆どの方は長時間の放射線暴露で遺伝子異常が酷く、外見治療と多少の延命措置に留まるかと思われます」

 

 ここの集落の人々は、予想よりは健康と言えたが、FEV等も無いままに放射線に晒されており、余命は長くない。

 ゆえの、7日間に一度の合同葬なのだろう。

 

「…それでもいい。俺が分子工学で人体のゼロ構築と意識移植の研究を進めていれば…。大抵の脳データ転写技術は使い物にならんし」

 

 トールが訪れた世界で、主にサイバネティクスが発達した地球において確認した、脳データの移植技術。いくつかパターンはあるのだが、綿密な事前の準備により安全に移植が行える恒星間国家世界の物とは異なり、それらは準備も無い人間の脳髄からデータを写し取る為、マッドサイエンティストさながらの手法を取る必要があった。

 

「上海の? それともゴーストコピー? 私めといたしましても、汎用性は兎も角として、対象者に異常な苦痛を与えるかの技術は推奨いたしかねます。異常の無い状態で保存が必要な各種技術では、今からでは適用が難しいのがもどかしいです」

 

 安全な移植には生まれる前の段階で準備を行うか、健康体の状態でかなりの時間をかけて解析を行う必要があるため、この集落の人々に施すには全く時間が足らなかった。

 

「…放射線除去が終わったら、治療を終えた人から健康維持用にナノマシン投与を。せめて、ここの人達が穏やかに日々と最後を迎えられるように」

「承知いたしました。農作業用ボットも合わせ、生産計画を立てておきます」

 

 繰り返しても擦り切れる事のない心を持った男は、まるで終末医療のように、いやまさにそれなのだが、これから集落の人々が穏やかに過ごせる為の準備を進める。

 

「差し当たっては、今より文明人らしい飯だな」

 

 トールはそう言って、差し入れとして出された、ネズミの丸焼きを齧った。

 

 

 

 トールは診療所を開くまでの間に、周辺で無人の施設を調査した。その中には、大陸から来て全滅した軍隊の前線基地があり、セキュリティが今も稼働し、周囲には侵入しようとした者の死体が転がっていた。

 遺体は後回しに、稼働しているセキュリティを正面から破壊。武器弾薬は素材に分解し、主に食料品や医薬品をインベントリに収める。遺体には、軍隊のもの以外に、攫われてきたらしい人々の物もあった。

 トールは軍隊のものをまるごと一つの穴に放り込んで、適当に残骸を設置。

 他の市民やこの国の兵士らしき遺体は、離れた場所に一つ一つ墓を作って葬った。

 大型の軍用トラックに物資を詰め込むと、元の場所に戻ってくる。最初は襲撃かと警戒されたが、トールを最初に案内した男に手を降って、集落の中にトラックを入れた。

 

「配給品の成れの果てや汚染ネズミじゃねぇ食い物なんて、初めてだ!」

「どっから持ってきたんだろうな、トラック一杯なんて」

「上陸して早々に全滅したお相手の軍隊の基地跡だってさ。略奪して溜め込んでたのが瓦礫の下に残ってたそうだ」

「成程なぁ、それで国産と米軍のと色々混ざってんのか」

「こんだけありゃあ、長生きしない俺らだし、最後まで飢えないで済むなぁ」

「ああ、最後まで飢えないで済むのは、ありがてぇなぁ…」

 

 トールは今日の分として食料品を渡す。カロリー量も計算してはいるが、腹を満たす事も考慮して別途、大鍋でシチューを作った。味付けについては素人なので、最初に治療したミチヨに頼んだ。

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 飯を集まって食っている間、診療所を開く説明をすると人々の中から看護師だったという者が数名出てきて、協力を申し出てくれた。

 ジャンクから治療ポッドを作り終え、診療所を開く。

 

「ほれ鏡だ、綺麗になったじゃないか」

「有り難いねぇ、これできれいな顔でぽっくり逝けるよ」

「トミ婆さん、もうちょい長生きしろって。ミナセさんとエインズに貰った花の種が、ようやく芽を出した所なんだ」

「おや、それならもう少しだけ頑張ってみようか」

 

 治療には、整形外科も含まれていた。

 

「はい奥様、如何ですか?」

「ナニーちゃん有難うね。ああ…、引っ掛かりの無い顔にお化粧だなんて、何年ぶりかしら…」

 

 この集落に居る人々は、移住の基準に満たない。

 

「ぶわはははは、いい男じゃねーか! なんだよゲンさん、そんな顔してたんかよ!」

「うるせぇぞケン坊、オメェはあんま変わらねぇんだな」

「俺は右半分と頭だったからな。でもこれ見てくれよ、ハゲっちょろげだったのがふさふさだぜ?」

「俺も髪の毛、頼んでみるかなぁ?」

 

 それでも、トールは治療の手を緩めることは無かった。

 

 

 

 集落の人々のほぼ全員を治療し終え、以前よりは小綺麗な姿で明るくなった住民たち。確かに寿命は殆ど無いが、それでも食に不自由なく、きれいな顔で逝けるというのは、彼らにとって救いだった。

 トールが以前よりは暇ができ、散歩がてら巡回診療に出歩くと、廃墟の物陰から面識のない連中が飛び出てきた。

 

「てめぇがここを仕切ってるミナセって野郎か、軍人崩れみたいだが、随分きれいな顔してんな?」

「多少は健康に気を使ってるからな。あんたらは…、おい、とりあえず隣の奴とお前、こっちに来い」

 

 トールはずかずかと近付く。男達は脅した積りが何ら意味も成さず、その迫力に仰け反った。

 

「…なんの積もりだ。てか近付くな、撃つぞ!」

「んなボロな銃で粋がるな若造。まだ間に合う、いいから来い!」

「だ、旦那!?」「うお離せ!?」「兄貴ぃ!?」

「後ろのお前らは、そこのロボットについてけ、まずは治療だ、グズグズするな!」

「か、囲まれてる!?」「いつの間に!?」

 

 エインズワース指揮下のロボット部隊が、いつの間にか男達を取り囲んでいた。

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 血の付いた手袋を取り、洗浄して、トールは施療を終えた頭目の男の前に鏡を向けた。

 

「…俺の、顔」

「すまんな、骨格と表情筋情報から構築したから、違和感があると思うが…」

 

 頭目の男の顔は、ケロイドに火傷に裂傷と、半分むき出しになった歯茎も含めて地獄から這い上がってきた亡者のような有様だった。

 だが、今は違う。

 彼にとってもうだいぶ昔の、既に明確には思い出せない友人達の隣で笑っていた自分の顔だ。

 

「い、いやミナセ、ミナセさん、顔をあげてくれ! この顔は少し痩せてはいるが、俺の昔の顔だ!」

「そうか。放射線異常で損傷した部分もできるだけ治療したが、それでも十年が精々だろう」

「…お、俺があと十年も生きられる?」

 

 データとしては、この集落で汚染のない食料で生活した場合だ。だが、それでも頭目の男にとっては福音だった。

 

「おうさ。腕っ節はあるようだから、ここにオイタをしようとする連中が来たら、抑え込む仕事をしてくれないか? 金は無いが、食い物と寝床はあるぞ」

「頼んます! 俺と手下ども丸ごと、虫のいい話だが置いてくれ!」

 

 見慣れた帽子を被ってはいるが、以前の顔とは全く別人がそこに居たので、頭目の手下だった連中は困惑。

 

「兄貴!」「ご無事…?」「ええっ!?」

「…なんだよ、俺の素顔はそんなに変か?」

「い、いやかっこいいっすよ!」

「クールっすクール!」

「おう、そいつぁ良かった。てかお前らの顔も小綺麗になりやがったな、サチスケもまるで女みたいに…」

「実は俺…女なんだよ、ミワ坊と一緒で」

「「ええ!?」」

 

 衣服は同じだが、小綺麗になった二人に男共は顔を見合わせる。

 

「顔も胸も尻も、爆撃とかで抉れたり火傷でさ…へへっ、どうでい、ちったぁ見れる感じになったろ?」

「…お、おう」「まじか…」

 

 その一党は、この日から集落に加わり、トールの巡回や住民達の仕事を手伝い始めた。

 その後も何グループかは同じ様に治療され、集落の輪に自警団兼青年団として加わった。

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 だが、人の悪性はどうしても存在する。

 その日、襲ってきた連中に対しては、トールは再三、追い返していたが、隙を突かれて住民のグループが拉致された。

 トールもそうだが、自警団の連中も激怒。殺すことは無かったものの、ボッコボコである。一応、スティムパックをトールはぶっ刺したが、温情などではない。

 

「ミナセの旦那!」

「おう、早かったな。ミーコ達は無事だが、酷く脅されてる、サチちゃん達に世話を頼んでくれ」

「わかった。すまねぇ、任されておきながら…」

 

 最初に自警団として働き始めた頭目の男は、申し訳無さそうに頭を下げる。トールは首を振って男の肩を叩いた。

 

「所持IDは正規軍の代物だったからな、発着場の少尉さん達がまともな人ばっかりだったし、見抜けなくても仕方無い話だ。ここも広い、人が増えてくればバカも交じる。巡回のルートを見直そうか」

「ならゲンさん達も入れて相談か。しかし…こいつらどうします? 正直、ぶっ殺して晒すのはいいとして、こんな連中の死体で病気が流行ったら目も当てられねぇ」

「そうさな…、一つ、試したいことがある」

 

 トールの眼に酷薄な光が宿った。自警団の面々は、どうしようもない連中に対するトールの非情さを知っているので震え上がった。

 

「…そんなに性欲有り余ってるなら、存分に発散できる所に放り込んでやるよ」

 

 比較的無事な建物の一つ。元は雑居ビルだったそこに、様々な機材が置いてある。ロープで縛り上げた、軍服を着た男に対し、トールは取り出したメスメトロンをぶっ放した。

 

「何をする貴様ぁ!? …あ、んあ…?」

「エインズワース、こいつをVRポッドに放り込め」

「かしこまりました」

 

 ひょいひょいとエインズワースがVRポッドに放り込む。同じ様に縛り上げられた連中が、何をしているかわからない恐怖に声をあげる。

 

「お、俺達をどうする気だ!?」

「正直、話すのも面倒だ。まあ、実験台だよ」

 

 同じ様にメスメトロンで前後不覚にした後、全員をVRポッドに打ち込む。一人、運悪く頭がパーンしたが、エインズワースは黙々と掃除をして死体を片付けた。

 

「トランキルレーン、プログラム正常に稼働中。生体信号介入率90%。ポッド内温度下降開始…」

「ミナセの旦那、こいつはどうなったんで?」

 

 自警団の一人が入ってきて、薄暗い中で稼働するVRポッドを見ている。

 

「皆にも使って貰ってる、仮想現実のキッツイやつだ。こいつはもう、あっちの世界にどっぷり浸かって、人として生きるのを止める」

「…お、おう、怖いな」

 

 VRポッドの技術は、仮想現実世界を見せる事以上に、催眠からの外部入力で対象者の全生体反応をコントロールできる所にある。

 

「どんな道具も使い方次第だ、ちょっとした実験だよ。…この男も大戦争の犠牲者だからな」

 

 バイタルデータを見れば、身体は綺麗ではあったが、どこかで化学兵器を食らったのか、舌や肺に重篤な障害があった。放射能汚染もあり、健康体とは程遠い。

 

「…そうですか。旦那方は優しいですね」

「そうでもない。使い潰す気満々だし、俺のエゴだよエゴ。こんなだが、幸せな夢を見てそのまま逝けるぞ?」

「いらねぇよ。俺らは十分なんだ、今際が苦しい奴の為に使ってくれ」

 

 少々騒がしくもあるが、住民達にとっては穏やかな日々。かつては一週間に一度の合同葬も、一ヶ月に一度になっていた。

 寿命が伸びた訳ではないが、栄養不足や健康障害による死因が遠のいた事もあり、以前のようにバタバタと死ぬ事が無くなっていた。

 それでも、もう次世代に絆げない以上は住民は減っていく。一人、また一人と、皆に見送られ、かつては騒がしかった集落も、トールとエインズワースを除けば、今は目の前の青年だけになった。

 

「…おいらが最後か。有難うな、ミナセさん、みんな笑って逝けた、穏やかに眠れた、全部あんたのお蔭だ」

「すまんな、最後まで付き合って貰って」

「よせやい、貰った恩に比べりゃ、こんなのは返せもしねぇ借金地獄じゃねぇか」

「貸し付けた積りは無いんだがなぁ…。所でサブロー、お前さんが眠ったら、どこに埋葬されたい?」

「皆と同じとこに決まってらい。綺麗に整えて貰って、世話をしてくれるロボ達が居て、きれいな一面の花畑を見下ろせるんだ、これ以上望んだら罰が当たらぁ」

「…そうか」

「ああ、眠くなってきた。ありがとよぅ…」

 

 心電図がフラットラインに。トールは青年の前で瞑目する。

 

「御主人様、サブロー様の埋葬が終わりました。これで近隣に生存する人類はもう…、残っておりません」

「…わかった。各地の遺骨・遺品収集と埋葬ドームの状況は?」

「正常に稼働中。収集率は推定の4割に届いておりませんが、100年以内には95%を終えられるかと」

「この環境でも200年はボットも持つが…、相互整備工場は?」

「残念な事にそこかしこで資材だけは有り余っておりますので、十分な数が製造できております。ただ、設定基準に達する放射能汚染の除去完了には数百年以上かかりますね」

「地上を幾度も焼き尽くす量が使われたんだ、それは仕方無いだろうな。皮肉な事に、普通は無理な放射性物質の再利用が可能なお蔭で、核燃料には困らない訳だが」

 

 ウェイストランド程にはモラルは崩壊していないが、それでも運搬中だった核兵器や核燃料は転がっていた。

 

「科学技術と言っても不思議に過ぎる代物です。その粋である私めが言うのも何ですが」

「はは、違いない」

 

 火の気と人の気配が無くなった集落をなるべくそのままに残し、トールは住民達が眠るドームの前の慰霊碑に手を合わせる。振り返れば、最近は滅多に飛ばなくなった発着場が遠くに見え、視線を下げると花畑が見える。放射線にも強い草花たちだ。

 

「火星へは行かれないのですか?」

「あまり理由が無いな。確認した範囲では概ね問題なくテラフォーミングも行えるだろうし、生産関連も優秀だ。それに、盛大にやったのを覚えてるんだ、人間同士でドンパチする理由はもう無かろうよ」

「然様で。ああ、地球上の放射能完全除去を行わないのはそういう理由ですか?」

「まあな。まだ資源の宝庫とはいえ、これだけ放射能が強いなら再利用は二の足を踏む。それに辛うじて残った森林地帯や蒔いた耐性植物だけじゃ、酸素もかなり薄いままだろうし」

「コストの問題ですか、世知辛い話ですね。火星政府の体制が整う頃には、地球は巨大な墓地として見られる程度と」

「そうだ。…流石に、ここまでやらかしてしまった以上、触れたことのない人間達相手に便宜を図る積りは無いんだ」

「…成程。では転移装置の準備に入ります」

「頼んだ。次はもう少し、穏便な世界だといいな」

「フラグという奴ですね、わかります」

「…言うな。俺も言ってしくじったと思ったんだ」

 

 そう言いながら、もう一度慰霊碑に振り返る。軽く手を振り、トールはそこを後にした。

-

 

-

 トール達はこの地球上の技術の収集をすべく日本だった所を巡る。兵器、核兵器、宇宙開発など、恒星間国家世界と比べれば確かに基準として低くはあれど、独自のアイディアで構築されているものも多い。

 

「御主人様、資源調査中に妙な物体を発見しました。スキャンが通りません」

「破片…だよな? 高次特性物質と推定して、いくつかテストを行うか」

「危険ではありませんか?」

「あー、そうだな、危険だ。ここじゃないどこかで、腰を落ち着けたら研究するか」

 

 最後に向かう場所として、元の姿とはかけ離れた富士山の麓、市街地で発見したのはZのような亀裂が入った不明の物質だった。他の地域に見られないそれをトールはインベントリにしまいこんだ。

 

 

 

>Miscを入手

 

Z Piece:

 Z形の亀裂が入った破片。核戦争でぼろぼろになった地球で手に入れた、科学技術では正体不明の破片。

 発見した場所は富士山に向かう途中の市街地跡。破片と言っても小さくは無く、女性の手のひらサイズはある。裏面に特徴的な、Zのような亀裂が入っている。

 

 

解説:

 全面核戦争後、辛うじて生き残った人類が終戦協定を結び、残ったリソースで健康な人々を火星に移住させる計画の最中に出現したトール。

 火星に向かうシャトルを見送る健康基準に満たない人々の集落の一つで、せめて彼らの外見と延命措置をと医者の真似事をしていたトールが、彼らを見送り終えた後に見つけた、高次特性物質の破片。

 当時の調査技術では何も成果が得られなかったため、落ち着いたら研究しようとしてインベントリに格納して忘れていた物。

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 武器や防具、薬品類の整理はよく行っていたトールだったが、素材にならないMisc系のアイテム類は、大抵が重量が無い事も相まって忘れる事が多い。

 ソート順で丁度、中間に来てしまうので素で忘れていた。

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 正体は、超精神物質Z。装着者の意志に従い進化していく途中、僅かにこぼれ落ちた原型に近いZの欠片。装着者の精神と創造力で無限に進化する魔の力を持った神の鎧Zの、未熟な頃に取り零した小さな結晶。このままでは何者にもなれずならない代物。

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 製造には魂に代表される位階の高い高次特性エネルギーが必要だが、これを作った兜教授は特性を十分に理解しないまま作成。自身の存在を超精神物質Zに変換するかのように、人の身を失った。教授の魂と肉体を呼び水に高次特性エネルギーを集束、Zは完成した。後に父の死因に疑問を持った息子、兜甲児が残されていたZを手に入れた。当然、トールはそういう事情は知らない。火星にも向かわなかった訳で、火星で開始された騒乱も知らない。

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 トールは拠点世界でMiscカテゴリのインベントリ整理をしている最中にZの欠片を発見。当時の記憶から、未鑑定であった事を思い出して現在の技術で再調査。世界級ほどではないが、非常に近い高次特性素材だと確認し、大量のEXP薬で消費するLVを補って素材を精製する事に成功。ついでに再レベリングによりSPECIALの再限界突破(一種のバグ技利用)とPerkの見直しを図った。やまいこに後で気付かれてこっぴどく怒られた。

 判明した特性を応用して、それまで進展が遅かった、高次特性領域の演算装置やインプラント(サイバーウェア)を研究する。

 元となった超精神物質Zの、精神力と創造力に応じて無限進化する特性から、無制限進化の危険性を考え封印措置となったが、応用して生成した高次特性素材により、物理的に埋め込まなくていい、高次特性領域で接続する精神接続型のPip-Boyと各種インプラントが完成、自身の知識と技術、設計図に応じて機能を拡張していく形に落ち着かせている。副次的効果として、コンソールの機能が統合された。

 初期モデルは、高次特性関連技術で精査すると確認できるものだが、後期モデルは省エネ、省スペース化が進み、科学と高次特性領域双方に明るい技術者がかなり慎重に調査しないと確認できない。

 Pip-Boyは腕時計型、インプラント型、既存型の3種だったところに、高次特性型が追加されている。

 




素材として作ったはいいけど、自分じゃ加工できないというオチ。
特性を応用するのが精々。尚、マジンサー○の世界だったという事には全く気付いていません。
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