荒野からやってきました外伝 荒野の災厄のやらかし集 作:マガミ
原作の時間軸でいえば、主人公であるルルーシュの生まれる前どころか、シャルル・ジ・ブリタニアが数少ない真の同志であるマリアンヌを娶る事を決め、ビスマルク・ヴァルトシュタインと共にささやかな祝杯をあげようとする場に出現した。
出現直後、突き刺さる殺気に反応したトールは、障壁を発生させるバリアウィーブにオーラを注ぎ込んで両手を上げて無抵抗の姿勢。かつて訪れた世界で騎士王をヌカパンチでぶっ飛ばしてしまった事と比べれば格段の進歩である。夫を守るべくマリアンヌは特攻し、障壁に剣を阻まれた。オーラを入れずとも防げたが、結果オーライである。
「なっ!?」
「あー、見ての通り怪しい者だが、敵対の意志は更々無い。やんごとなき立場の方々とお見受けするが、貴殿らが何者なのか俺にはわからん」
英国英語でスラング混じりにそう言って、手を上げたまま指先で携帯していた武器の位置を指し示す。ビスマルクはマリアンヌを下がらせ、ボディチェックをしてトールからナイフと拳銃を取り上げた。今回ばかりは、何処ぞのコッペパン軍曹のように火器の山が出てくる標準装備で来なかった事に安堵した。
ナイフは見たこともない素材(ユグドラシル型「緋緋色金」)である事以外は普通、拳銃はブリタニア軍の物やEUのそれらとも異なる無骨なもの(M1911A1系)だ。興味を惹かれたマリアンヌが手に取り、少し弄ってマガジンを外した上でスライドを空けたり誰も居ない方向を狙ったりと確認している。トールはコンバットロードしてなくて良かったなどと、ズレた安堵をする。
「面白いね君。何か不思議な力でも持っているのかい?」
「他人から見ればそう思われる力はあるが、技術や鍛錬を積み重ねれば得られるものしかない」
血の滲むどころか、魂が軋むとか削れるとか消滅しかねない鍛錬が必要な事は置いておく。
「所で少ね…いや、なんだこれ? 息子さんじゃない? 外見と年齢が合致してない? 長命種とか不思議パワー? てか、そこの威厳ある人と双子!? あと奥さん若っ!? どうなってんの!?」
解析情報のインパクトが強すぎて、降伏ポーズのまま思わず口に出してしまった迂闊なトール。少年、V.V.を除いて警戒心マックス。目をしきりに見ている。
「貴様が何者か、偽り無く述べよ。虚偽は許さん」
沈黙を守っていたシャルル・ジ・ブリタニアが問う。トールは「強力☆WAKAMOTOかよ!」と声に対して心の中でツッコミを入れ「信じるかは別だ」と前置きした上で、自身の名と次元間を旅する放浪者にして科学者だと伝えた。この世界にある、あるいはこれから生まれるであろう技術を収集するのが目的だと。
嘘を嫌う彼らの前で、聞くものが聞けば正気を疑う内容だ。だが、嘘に敏感なシャルルはその弁に一切の偽りが無い事に気付いていた。
「次元転移装置…俄には信じられないね。今は使用できないのかい?」
「拠点世界のものは、送るのはいいが、戻すことはできない。戻るためにこちらで作る必要がある。製造には色々な設備と機材が要るし、現地制作では強度が足りなくて一度で自壊する」
去った後の機密保持に便利ながら、コア部分が原子分解して崩れ去るので再利用はできないと伝えた。拠点のものは外部では希少な物資をふんだんに使え、必要とされる膨大なエネルギーも使い放題なので実質無制限だが、跳んだ先にそれらは持ち込めない。転移先で生成するには様々な機材と結構なエネルギー消費を伴うので、便利に使うにはコストが高すぎる事を伝える。
ただし、クロスゲート技術と空間転移装置であるファストトラベルは、機材製造と運用時のエネルギー問題のみ。これについては黙っていた。流通、軍事でやばい影響が出るのは確実だからだ。
「なんだ、ざーんねん」
「貴様は侵入者だ、法に照らせば皇族の前に許し無く現れた以上、死罪は免れん」
「捕まえようとするなら、全力で逃げるがね。壁と天井と調度品、あと酒瓶の費用は払わないぞ?」
シャルルはビスマルクに目配せ。一筋の汗が、帝国最強騎士の額から流れ、それが起こりうる未来を見ている事に気付いた。トールは「LV40超えか、中々有望だな」というような認識だ。既に尺度がユグドラシル基準である。
「そうか。ならば、提案がある」
トールはシャルルの方を見た。記憶を操作するギアスの発動条件を満たし、目に印が現れるが…弾かれた。というか何をさらっとギアスを弾いているんだろうか、この彷徨う理不尽。
「提案か。無断でお邪魔した負い目もあるし、多少割引した上で、対価さえ貰えるなら仕事として受けるぞ。ただし、無辜の民を虐殺しろとかは勘弁な。その前に質問があるが」
「提案については許諾したという事で良いな? そして、質問とは何だ?」
ギアスが弾かれた驚きを精神力で抑え込んだシャルルは、極めて平静を保ちながら聞く。
「そちらの名前、あとはここは何処なのか、だ」
ここは何処、貴方はだーれ? という事である。間抜けな沈黙が支配した。トールは真剣だが、シャルルもマリアンヌもビスマルクも思わずポカーンと口を開けた状態。V.V.だけが3人の顔を見て爆笑した。
-
-
その後、シャルルの命でビスマルクの遠縁トール・ヴァルトシュタインとして偽りの身分を得て、技術研究者として詰める事になった。
コードギアス世界の記憶を持ってきていないトールは、世界情勢と発展技術の状態について確認しつつ、要求される技術を研究開発していく。
「性能だけなら、トール様の開発したパワーアーマーで十分なのですが…」
トールが最初に提供したのは、パワーアーマーをベースにした倍力機構の関連技術だ。全体的に軽量化しておりライフル弾を防ぐ程度。耐久度は低く、駆動部は伸縮性特殊合金による人工筋肉、動力は超伝導電池である。
「提供しておいて何だが、ASモードのモーションだと一般基準で変態的身体能力を持つ人間しか装着できないから、兵器として不十分だ。歩兵用装備としてPSモードのみで運用する前提でデチューンしよう」
「ちょっと、私が変態だとでも言いたいの?」
「滅相もございませんマリアンヌ様。所で、アッシュフォードさんの所のガニメデ、具合はどうです?」
「まだまだ不満はあるけど好調よ。さっきもビスマルクに一本取り返せたし。でもトールには不評なのよね?」
「当然です。サクラダイトの優秀さは知っていますが、大部分を輸入に頼る必要がありますからね」
「そうなのよねぇ。日本がもう少し輸出してくれればいいのに」
「それよりも、お子さん達の相手をしなくてよろしいので? 聞き分けが良いとはいえ、まだまだ母親の愛情は必要ですよ。せめて来週の誕生日には、双子殿下のお祝いに何か考えるべきです」
「わかった、わかったわよ。ほんとにもう、そんなに小言だらけだと女性にモテないわよ?」
小言を言うトールに対し、マリアンヌは側近に指示して、いつものお祝いとは異なる特別な贈り物を用意することにした。
「向こうに残しておりますが、内縁ながら既に妻がおりますので、妻以外の女の影は私には不要です」
「「うっそ!?」」
「マリアンヌ様、そして君達、何がそんなに意外かね?」
-
そんなやり取りの続く、ある意味穏やか日常。
ただ、トールは記憶が無いので気付かなかったが、この世界にはトールというイレギュラーの他、ルルーシュの双子の姉という異物が存在していた。ハーメルン的に平常運転、転生者ちゃんの「イザベル」である。
-
彼女は5歳の時に前世を思い出した。ルルーシュもナナリーも勿論大好きだが、それ以上に彼女は、兄であるオデュッセウス・ウ・ブリタニアのガチ勢だった。心の琴線に触れたなら、数度の出番しかなかったキャラでも愛し抜くオタクである。
「あにうえのおよめさんになる!」
「はは、イザベラにそう言われると嬉しいな」
残念ながら血が繋がっている上、幼少期特有の言葉とオデュッセウスは受け取った。イザベル本人は超本気であったが。
母マリアンヌについては小説版の可能性も考えられたので、聞き分けが良い子を心がけ、ルルーシュ達ほどは甘えてはいない。情報が限られる中、せめてルルーシュとナナリーを守れるようにと、6歳という早い段階から勉学に武術にと手を付け鍛えていた。
運動の苦手な弟ルルーシュとは異なり、聞き分けが良く武術に真摯なイザベルには母マリアンヌも「才能は高くは無いが」と言いつつも指導をよくしてくれる。
ただ、頭の方は元に引きずられたか、基礎学力は兎も角、帝王学などについては及第点程度で高くはない。
(母上も小説版の線は無いかな。自己中なのはよくわかるけど。でも、偶にくるトールさんって何? 日本人みたいだけど…)
昼下りのティータイム。ビスマルクの側仕えに現れたトールに、平静を装いつつ警戒心マシマシのイザベル。マリアンヌはビスマルクと共に、ルルーシュの膝上にいるナナリーの、日頃の拙い報告をにこにこと聞いていた。
「如何されましたか、イザベル様?」
視線に気付いたトールがティーカップを置いて問うと若干挙動不審になる。
「ええと、その、トール様は日本人、ですよね?」
「血筋は恐らく。ヴァルトシュタイン卿の遠縁も遠縁、このような胡散臭い男を迎えて頂いた事に、伝えきれない感謝の念を抱いておりますよ」
いけしゃあしゃあと言って放つトールにビスマルクはぴくりと反応し、それに気付いたマリアンヌが苦笑する。
「開発局で色々と作っているとお聞きしました。今は何の研究をなさっておいでなのでしょうか」
「歩兵…歩いて戦う兵士の為、怪我をしないようにするお守りを作っていますよ。ああそうだ、マリアンヌ様に承諾を得まして、こちらをお贈りいたします」
そう言ってトールは、品の良い不思議な金属で編まれたミサンガを取り出した。これは歩兵用装備として技術提供したバリアウィーブ技術による障壁発生装置であり、作動中はアンチマテリアルライフルの銃弾すら防ぐ。ただしバッテリ容量の問題から使い捨てであり、また生産に相応のコストがかかる。
「これはお守りの一種で、使うと一度だけ大怪我をするようなものから身を守ります。マリアンヌ様、ルルーシュ様、ナナリー様の分もございますので、気に入って頂ければ良いのですが」
トールとしては世話になっているマリアンヌの子供の為のささやかな贈り物の積りだったが、物語は大筋が同じでありつつも、決定的な差異が発生する事となった。
-
正史では「マリアンヌ襲撃事件」と呼ばれる、マリアンヌの死亡(とギアス覚醒による他者憑依)、ナナリーの負傷という表向きには悲劇とされる事件だ。オレンジの愛称で呼ばれるジェレミアの運命がねじ曲がったのもこれがきっかけである。
だが、半身不随ながらマリアンヌは生き延び、ナナリーは不具になるほどの怪我を負わなかった。マリアンヌはギアスが発現して、居合わせたアーニャと意識リンクが繋がり、原典では憑依に近い状態になったのが、一時的な乗っ取りに変化していた。またV.V.も原典と異なり直接手を下した訳ではないため、実行犯が死んだ以上は誰が黒幕だったかも闇の中である。
ただ、酷い状態とはいえ母が生き延びた事を、イザベルは素直に喜べなかった。トールが事前に手を打ったとしか思えなかったのだ。本人はそんな自覚は一切無いが。
-
-
「トール様、お話があります」
ルルーシュが襲撃事件について父シャルルへの直談判に向かう中、イザベルはトールを引っ張り、何者かを問うた。だがそこは、女性相手に攻撃や会話で有利を取れるFalloutのPerk、レディ・キラーを持つトールに巧みに誘導され、転生者である事を暴露する羽目になった。
「くっ、殺せ!」
「幼女にくっころを叫ばせた時点で世間体と心情的には俺の負けなんだけど!?」
周囲に聞かれないよう慌てて物陰に連れ込む。憲兵さんこっちです。
「殿下、貴女の事はわかりました。それで、どうしたいのですか?」
「オデュッセウス兄様がのんびりとお茶を飲み、クロヴィス兄様が芸術に集中し、他の兄様姉様が多少喧嘩する程度で済む世の中にしたい」
「…無茶振りとわかってんだろなこの幼女殿下?」
思わず言葉がウェイストランド風になる。
「はい。でもこのままでは、不幸になる人達が多すぎる。私には力も知恵もない、でも助けたい人が沢山居る。本当は全部助けたい、でもルルやナナリーすら守れないかもしれない、どうすればいいのか、何をしたらいいのか、わからないの…」
「できれば全部助けたい、と? ふむ、殿下は中々に我儘ですね」
「ええ、それは重々解ってる…。お願い、私達を助けて」
イエスロリータ・たっち・みー。いやノータッチ。記憶はともかく、幼い殿下の涙ながらの願いにトールは誓う。
「オーダー、承りました。私の、いや俺の、かつて荒野の災厄と喚ばれた(今も言われてる)男の全力(誰か止めろ)を持って、貴女の望む範囲と、最大多数の最大幸福(希望した最大範囲を手当り次第の意味)を実現すると致しましょう。覚悟は、宜しいですか?」
トールを良く知る者からすれば、表情が消えて遠い目になるような悪魔というか災害との契約である。だがこの世界にそれを知る者は居ない。
「望んだ範囲と、最大多数の最大幸福(極僅かの大事な者とそれ以外の大の為に、小を切り捨てるの意)…それでも構わない」
その時よりトールはイザベルの同志となり、協力する事となる。お互いの目標認識に大きな齟齬があるが。
原作通りルルーシュとナナリーが人質として日本に送られるのを歯噛みしながら見送る。治療のためとマリアンヌとは離されてしまったが、トールもイザベルも都合が良かった。
「幾つかのif要素は確認できなかった。私と貴方が居る以上、原作通りとは行かないでしょうが、知識は伝えた通りよ」
「他に思い出したらすぐJrに伝えてくれ」
犠牲者を極力少なくし、悪巧みする連中を社会的に葬る。どうしても救えない奴らは居るので、それは物理的に。情報を得て方針を決め、一通りの準備を整え終えた所で、日本とブリタニアは戦争に突入した。日本は降伏してエリア11として扱われる。後に成長したイザベルが訪れ、ルルーシュと再会する事で物語は動いた。
動いたはいいが、イザベルはトールの働き詰めの姿勢に戸惑う。
「あの、お願いした私が言うのも何ですが、スケジュールがブラック過ぎます。休んでますか?」
「大丈夫だ、問題ない」
「わざと言ってますよねそれ!?」
日本、ユーロピア共和国連合、中華連邦と、作品記憶があるイザベルの方針に従い、そこはトールが積極的に手を下した。テロリストとして「荒野の災厄」を名乗ったが、戦場に出現したら兵器を個人で虱潰しに文字通り破壊していく訳で、PTSDに陥る兵士や将官が続出した。代わりに持たせたのはピコピコハンマーである。
最終的には黒の騎士団を率いるゼロことルルーシュ、帝国を動かすシャルル達とも「個人で」対立する。
最終的に、地球上をルルーシュに、月面裏側にトール基準では小規模なコロニーを建造し、地球各地に点在していた遺跡を全て移送させた。結果的に「嘘のない世界」は希望者の月への移住を落し所とした。
「V.V.の事は、済まなかった」
「…マリアンヌの件もあるが、貴様達が手を下さねば私自ら兄上を討っていたであろうよ。結局、人で在ることに我々は縛られていたか」
「人間はどこまで行っても、肉体に在る限りは生き物だからな。シャルル、貴方達の理想は尊いが、自分達にだけ優しい世界というエゴである以上、望む連中でだけで済ませるべきだ。強制的に繋いでも、覚悟のない奴らは縛られたままだよ。結局それは、お互いが不幸になるだけだ」
「…そうか」
「地上はイザベルとルルーシュ達に任せて、神を気取るならぶん殴るが、月から地球を見守るといい。飽きたら戻ってもいいように作ってある。まあ、最初は母親から説教だろうが、俗世を忘れて家族水入らずで話をしな」
「…トール」
「なんだ?」
「ありがとう」
-
帰還後だが、残念ながら、元の世界の技術でナイトメアフレームを製造することは諦めた。あの世界特有のサクラダイトとその関連技術はコピーも発展型も容易ではあるが、サクラダイト自体の入手や製造に難がある為だ。
エネルギー問題はウルデモン型縮退炉で一切問題が無いものの、同じ振る舞いをする希少鉱物の生成に時間がかかる。採掘ではなく生成という時点で大概だが、他と共用できない資源を使用する兵器というのは補給の面で問題が出る為、それを嫌った。
「まあ、基礎設計思想は理解してるから、手持ちの既存技術で再現するか」
そう言って疑似KMFをいくつか作成。ギルメン達の中で、一番疑似KMFを気に入ったのは、本来はタンクのぶくぶく茶釜だったそうな。
まさかのシャルルと友人ルート