ゴブリンスレイヤー 実況プレイ   作:猩猩

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魔法剣士・裏 9

 こほこほと咳き込みながら、女魔術師は毛布に包まり寝返りを打つ。頭まで風呂の中に浸かったような熱気が意識を朦朧とさせ、時間の感覚が非常に曖昧になっている。

 風邪を引くなど何年ぶりであろうか。少なくとも学院では引いた覚えが無い。やはり旅の疲れと、限界突破(オーバーキャスト)による疲労が大きいのだろう。

 大恥をかいた熱が引かないのでは、などと一瞬考えたが流石にありえないだろう。

 

「起きてる?」

 

 小さくドアがノックされ、女武道家が顔を覗かせる。女魔術師が頷くと、彼女は静かに部屋の中へと入ってきた。

 

「一度身体拭いて着替えた方がいいよ」

 

 もうお昼だしね、と手に持った桶と手拭をベッドサイドの机に置きながら女武道家が言ってくる。女魔術師は素直に頷き、身体を起こす。つい先程魔法剣士が医者を呼んできたばかりの気がしたが、無自覚のうちに眠っていたのだろう。

 眠る前―――――女魔術師の感覚からするとつい先程まで―――――は起き上がるなどとても出来ない気がしていたが、今は酷く億劫ではあるがベッドサイドに自分で座る事が出来た。やはり眠ったことで少しは体力が回復したらしい。

 

「……悪いわね。迷惑掛けて」

 

 服を脱ぎ、女武道家に汗まみれの身体を拭いてもらいながら女魔術師は小さく呟いた。体調を崩したことで彼女にも、魔法剣士にも、一党(パーティー)全体にも迷惑をかけてしまった。

 仕方が無いと言えば仕方が無い事だろうが、医者代にせよ薬代にせよ無料ではない。他者に感染さないために個室を借りねばならなくなったし、この代金も決して駆け出しであるこの一党にとっては安くない。折角稼いだ報酬が大きく目減りする事になってしまうだろう。

 

「迷惑だなんて思ってないよ。あたしも彼も」

 

 みんなを助けるために無理した結果なんだから、と女武道家は言うが、女魔術師はどうしても気にしてしまう。

 そもそも最初の時点で術が成功していればこうはならなかった。結果的に失敗したことで成功した時よりも成果は上がったが、あれがもっと失敗してはいけない場面だったら?

 魔法剣士が最初から一部を遺跡の中に入れて後続を断ちきる、という作戦を取っていたら、自分が失敗した時点で終わりだったのではないか?魔法剣士も、女武道家も、依頼人も、みんな自分のせいで死んでいたのではないか?

 病気のせいで弱気になっているのは分かる。だがその考えに女魔術師は囚われ、抜け出せずにいた。

 

「彼も似たようなこと言ってたよ」

 

 自分の考えている事を正直に打ち明けると、女武道家は苦笑いをしながらそう口にした。

 

「もっと上手くやれたんじゃないかって。高度な呪文なんだから呪文が失敗する可能性は頭に入れておくべきだったし、せめてもっと声かけて、落ち着いて呪文を使ってもらうべきだったって」

 

 あの状況でそこまで頭が回らないのは仕方ないだろう。むしろ焦ったり自棄になったりせず、冷静に囲まれない場所で迎え撃とうとしただけでもよくあの状況で判断出来たと思う。

 そして目の前の彼女もだが、失敗した自分を責める事なくすぐに切り替えたのは立派だったと思う。彼と彼女は間違いなく出来る事を全て出来る限りの力でやっていた。

 

「そうは言うけどさ、それはあなたもじゃない。あたし達から見たら出来る限りやってくれたんだよ。だから、感謝しかないよ」

 

 女武道家は言う。自分ももっと上手くやれたと思っていると。下級魔神(レッサーデーモン)相手に、無傷で二人が策を思いつくまで粘れたのではないか。自分が負傷した直後に策が出てきたという事は、あの一回さえ凌いでいればよかったのではないか。

 自分が無傷であるなら精神的な余裕はもう少しあったろうし、そもそも戦術を立てたり知識で役に立てない自分はもっと強くなければいけないのではないか。

 そんな事はない、と女魔術師が言うと、彼女はこう返した。

 

「みんな自分以外に対してきっとそう思ってるよ。自分以外はよくやってくれていて、自分だけがもっと上手くやれるのにやってないって。でもさ」

 

 それは凄い傲慢な考えだよね。女武道家にそう言われ、女魔術師はハッとした。一見謙虚に思えるが、それは「自分以外はそこが限界だが、自分はもっと出来る人間だ」と考えているのと同義なのだ。

 

「勿論もっと上手い方法があったんじゃないか、って考えるのは大事だと思うよ。でも、あの時もっと上手くやれてたはずだって思いこみ過ぎるのは違うんじゃないかな」

 

 あたし達そんな特別な人間じゃないでしょ?と言う彼女の言葉に、女魔術師は頷く。そうだ、もうとっくに鼻っ柱は折られ自分の身の程は知っているはずだった。なのにまた何処かで驕っていた。

 

「まあ、彼の受け売りなんだけどね、これ!」

 

 アハハ、と笑う女武道家につられ思わず笑みをこぼす。さっきまで自分を雁字搦めにしていた考えが氷解して行くのを感じる。

 自分達は特別ではない。悩んでいるのは自分だけではない。そして、みんながみんな一党の為にもっと上手くやろうとしている。

 それらはきっととてもいい事なのだ。だから、悩み過ぎず気楽にやっていけばいい。

 そう思うと気分だけでなく、身体も楽になったような気がした。

 

 

 

―――――――

 

 

 

「よかったの?悪い話じゃない……って言うかいい話だったと思うんだけど」

「ああ」

 

 見習聖女の言葉に、新米戦士は頷く。確かにいい話だとは思った。

 つい先日下級魔神(レッサーデーモン)を撃破し、冒険者になった時期は大差ないはずであるのに早々と鋼鉄まで駆け上がった魔法剣士。その一党(パーティー)に誘われるというのは確かに魅力的ではあった。

 ちょうど前衛と神官職を欲していて自分達はその必要性を満たす存在であり、魔法剣士もその仲間も昇級したばかりでまだ駆け出しと言っていい力量であるからそこまで引け目を感じる必要もない。

 剣をギルドに届けてくれたことや短期間での昇進が認められる事から分かるように、魔法剣士の人間性も問題ない。そしてその彼と一党を組んでいる残り二人もまた性格に難を抱えているような事はないだろう。

 さらに5人の一党となれば依頼の選択肢も広がり、下水での鼠や蟲退治からも卒業できる。こう考えれば間違いなくいい話ではあったのだ。

 だが新米戦士はその話を断った。

 

 別に魔法剣士やその一党に思う所があったわけではない。自分や見習聖女のような鼠退治にあくせくしている駆け出しに声をかけてくれた事は感謝すらしている。

 もっと言えば勧誘された時は素直に嬉しかったし、見習聖女がいいとさえ言えば喜んで加入させてもらうつもりだったのだ。

 しかし、ふと自分の腰の剣に目をやった時思ったのだ。本当にそれでいいのかと。自分は彼らの一党に見合う人間なのかと。

 目の前の彼は同時期に冒険者になった者の中では最も早く昇級し、鋼鉄にまでなっている。その仲間二人も彼の話では黒曜になったという。

 そしてその一党は結成して一ヵ月かそこらだというのに、先日は―――――経緯は詳しく知らないけれども―――――下級ではあれどもれっきとした魔神を撃破したと聞く。駆け出しとしては破格とまでは言わないが、目を見張る働きをしている一党だ。

 一方で自分と見習聖女はと言えば、やったことがあるのは巨大鼠(ジャイアントラット)退治と大黒蟲(ジャイアントローチ)退治だけ。先日はその鼠退治でしくじり、剣を紛失した。

 剣は戻ってきたがそれは幸運に恵まれたからであって、新米戦士の力によるものではない。つまり、今の自分は自らが犯した失敗の後始末すら出来ないのだ。

 そんな自分が彼らと一党を組んでも、身の丈に合わないのではないか?足を引っ張るだけなのではないか?

 そう考えた時、新米戦士は自然と魔法剣士の勧誘を断っていた。

 

「その、ごめんな。勝手に断って」

 

 だが一党である見習聖女と相談もせず、勝手に断ったのはよくない―――――と言うよりも、やってはいけないことだったろう。

 彼女も断ったが、自分が断ったために受けづらくしてしまったのではないかと今さらながら思う。

 

「もし入りたいんなら別に俺の事は気にしなくても……」

「いーの。あたしがいなかったらあんた野垂れ死んじゃいそうだし」

「逆だろ」

 

 素早く突っ込みを入れるが、1人になると心細いのは確かだ。元々は単独でも功成り名を遂げるつもりだったが、流石に冒険者となってからの日々で現実的にそれが難しい事ぐらい理解している。

 

「それになんて言うか、あの人達の一党に入るのは気後れするって言うか……胸張って一党組めないのはちょっと」

「張るだけないだろ」

「うっさい!」

 

 脇腹―――――鎧の継ぎ目へ的確に肘を叩き込まれ、思わずうずくまり身悶える。

 彼女も自分と同じような気持ちを抱えていたという事実は、新米戦士の心を少し軽くしてくれた。代わりに身体は痛みを抱えたが。

 

「無理に急いでも転んで怪我するだけ!あたし達はあたし達で一歩ずつ進んで行きましょ!」

「……そうだな」

 

 確かに彼女の言う通りだ。身の丈に合わない事をしても仕方ない。

 まずは足元の一歩ずつから。そう思い直すと今日の分の一歩を進むべく、新米戦士は立ち上がり見習聖女と共に下水の入口へと向かって行った。

 

 

 

―――――――

 

 

 

「それじゃ冒険の成功とみんなの無事、それに昇級を祝って!乾杯!」

「なんでお前さんが仕切っとるんじゃ」

 

 乾杯の音頭を取った妖精弓主に鉱人道士が突っ込むが、彼女は気にする様子も見せない。卓を囲む面々も気にせず乾杯をし、杯を口に運びくつろいだ様子で各々料理に手を伸ばす。

 魔法剣士一党に丁重な感謝を述べられ恐縮した以外は、女神官もこの宴を楽しんでいた。自分と友人達―――――己惚れでなければ、たぶん―――――の昇級を祝い、ここにいる全員の無事を祝い、冒険の成功を祝う。それは女神官の心を浮き立たせ、葡萄酒の酒精よりも強く陽気な気分にしてくれる。

 ゴブリンスレイヤーの姿がないのは女神官にとっていささか残念ではあったが、それが不満と言うわけではない。理由が牛飼娘の待つ牧場に帰るため、というのは少々思う所がないでもないが……

 注文した料理も普段食べているものとそう変わりないはずなのに、とても美味しく感じられる。楽しい食事の席というのは、空腹に勝るとも劣らぬほどの調味料なのだろう。

 

「もっと何か好きな物を頼んでも大丈夫ですよ」

 

 自分の頼んだ品が質素なのを気にしてか、魔法剣士が声をかけてくる。確かに宴の席にしてはやや控えめな注文ではあるだろう。

 

「ありがとうございます。でも、あんまり過度な贅沢もいけませんので……」

 

 相手の感謝の気持ちなのだから受け取らないのは失礼に当たるが、かといってあまり奢侈が過ぎるのはもってのほか。そうなるとこの辺が妥当な線なのだ。

 

「それよりもちょっと気になる事があるんですけれど」

「何か?」

「喋り方。意識的に変えてます?」

 

 魔法剣士が一党(パーティー)に話しかける時と、女神官も含むそれ以外に話しかける時は口調が違う。別にどうという事もないのだが、一度気付くとどうしても気になってしまう。

 

「ああ、これですか。失礼がないように変えていますが」

「私に対してもその、楽な感じで構いませんよ?その……」

 

 友達ですし、と女神官はちょっと勇気を出して続ける。二か月少々の付き合いだが、それなりに話す間柄であるし友人と言っていいはずだ。少なくとも女神官はそう思っている。

 とはいえ、向こうはそう思っておらず一方的に友人だと思っているだけの可能性もあるのだが。

 

「……そうだな。友達相手なのだから、楽にしていいか」

「そうですよ」

 

 ホッと内心胸を撫で下ろしながら女神官は頷く。思うだけなら楽なのに、友達と口にして関係を確かめる事のなんと緊張する事か。

 表情は変わらないが口調だけは砕けた魔法剣士とそのまま会話を交わしていると、不意に彼が何かに気付き話を切り上げる。その視線を追うと女武道家が言葉もなく手にした盃に視線を落としており、何かを真剣に考え込んでいた。

 

「……お墓参り。行っておきたいな、って」

 

 冒険者続ける事を言いには行ったんだけど、と女武道家は言う。誰の、と聞くまでもなく女神官には―――――いや、魔法剣士も近くの席にいた女魔術師にも分かった。

 最初に組んだ一党。初めての依頼で赴いたゴブリン退治。その時唯一帰って来る事の出来なかった彼。退治を頼んだ近くの村で眠ることとなった、あの剣士。

 忘れた事などないが、あまりにも日々が忙しく一度も訪ねた事がないのは確かだ。

 

「そうだな……明日も休みにして、皆で行こうか」

「賛成。こういう機会を逃すと中々行けないもの。毎日が必死だものね……」

 

 女魔術師の言う通り、皆毎日必死なのだ。駆け出しのみで一党を組んでいる彼らと、銀等級ばかりという分不相応な一党にいる自分。どちらが大変かは比べようがないが、どちらも大変で必死になるしかない。

 だから中々墓参りに行く余裕も生まれない。それは事実だ。しかし、だからといって行かないでいいわけではない。機会があるならば行くべきだ。

 

「私もご一緒したいのですけれども、その……」

「ああ、うん。分かる」

 

 魔法剣士が頷くと、女武道家と女魔術師も揃って頷く。ゴブリンスレイヤーの存在と彼が何をしているかは昨日今日冒険者になったばかりという新人を除けば誰もが知っている。

 そして彼と組んでいる女神官や他の面々が主に何をしているかも、当然知られている。ほぼ毎日のようにそれを行っている事も。

 

「なになに、なんの話?」

 

 自分は個別で行くことと、いずれ余裕が出来るようになったら全員で行こうと話したところで妖精弓手が話しかけてくる。恐らくは宴に似つかわしくない雰囲気となったこちらが気になったのだろう。

 積極的に話したい事ではないが、隠す事でもないので女神官は素直に事情を打ち明ける。

 

「成程ね……仲間失うのは辛いわよね」

 

 まして最初の仲間だもの、と言う妖精弓手の言葉に一同頷く。決して後の仲間は大事ではないとかそういう事ではないが、最初と言うのはやはり特別なのだ。

 

「でも暗くなりすぎるのは無しよ!」

 

 弔いを兼ねて騒ぐのが冒険者だ、と彼女は言う。自らの意志で「冒険」に身を投じる以上、明日は我が身かもしれないのだから。

 確かに、と納得し女武道家と女魔術師が一気に杯を空ける。女神官と魔法剣士は少し遅れたが、ゆっくりとではあるが手元の杯の中身を飲み干す。

 そういうものなのだろうか、と疑問は残ったが、納得する部分はあった。確かにもしも自分が帰らぬ者となった時、残された人には嘆くよりも楽しんでいてもらいたいと思う。

 忘れられたりしたら寂しいが、何時までも悲しんでいて欲しくはない。女神官はそう思うし、きっとあの剣士もそう思うだろう。

 

「と言うわけでもっと飲んで!さあさあ!」

 

 だから、今は騒いで楽しむのが正しいのだ。耳元で妖精弓手に騒がれている魔法剣士は若干顔をしかめている気がするがきっと気のせいだろう。

 そうして妖精弓手が騒いでいると、彼女と魔法剣士との間にさり気なく―――――いや、全然さり気なくなかった。強引に女魔術師が割って入り、女神官が思わず自分の薄い胸と見比べて羨ましくなる立派な双丘を押し付けている。

 押し付けると言うより甘えるように身を預けていると言うべきか。その顔が真っ赤なのはきっと酒精のせいなのだろうと女神官は思ってあげる事にした。

 割り込む前に意を決した顔で葡萄酒を瓶から一気に煽っていたから、きっとそのせいだ。

 珍しくハッキリ分かるぐらいに魔法剣士が困った顔をしていて、鉱人道士が面白がって火酒を勧めて、女武道家が助け船を出して。

 受付嬢が楽しそうにそれを見て微笑んで、監督官は声を出して愉快そうに笑って。妖精弓手もケラケラ笑いながら騒いで。蜥蜴僧侶はチーズを齧りながらそれを眺めて。

 ここにゴブリンスレイヤーがいればどうしていただろうか。そんな光景を眺めながら女神官はそんな事を考えて。

 そうして彼らは楽しく騒いで、時を過ごして行く。

 

 

 

―――――――

 

 

 

 次の日には魔法剣士達は墓参りの為に村へと足を運び、女神官はゴブリンスレイヤー達と共にゴブリン退治へと赴き。

 その次の日から魔法剣士一党は勘を取り戻すためと生活費稼ぎの為に下水で鼠や蟲を相手取るようになり、女神官は変わらずゴブリン退治で。

 そうして各々必死ではあるけれどもどこかのんびりとした明け暮れが過ぎていき、程なく一人の新人冒険者が冒険の末魔神王を討ち果たして。

 都では盛大に祝典が催され、辺境の街でもささやかながら祭りがあって。

 そんな日々がいつまでも続くのだろうと殆どの人間が思っていた。

 

 だが二十日ほど経ったある日、終わりは突然告げられることとなった。

 牧草地に現れた、足跡。その持ち主達によって。

 




Q.魔法剣士君は女魔術師に当ててんのよされて何も思わないんですか?
A.彼も多少酔ってるので物事を多く考えれなくなっており、「コイツ意外と重い」「バランス崩したら彼女も危ないから気をつけよう」ぐらいしか考えれなくなってます。

Q.じゃあ素面なら効いたんですか?
A.素面で必要もないのにこんなことされれば流石に多少は効きます。でも素面だったら回避します。

活動報告であげた診断結果の中で、どれが一番読みたいですか?(書くとは限らない)

  • 魔法剣士【綴られた手紙】
  • 令嬢【どうか、叶えて】
  • 女魔術師【君のワガママ】
  • 魔法剣士と令嬢【忘れてください】
  • 魔法剣士と女魔術師【貴方の為だけの】
  • 三人【騙し騙され愛し愛され】
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