「冒険者になりたっとじゃが、ここでよかろか?」
訛りが強い。目の前の彼に対して受付嬢が最初に抱いた感想は、それだった。
なろうとさえ思えば、なろうとさえするならば冒険者には誰でもなれる。ゆえにあらゆる種族があらゆる地域からやってくる。
そして地域によって言葉には訛りや癖が存在し、強弱高低は様々なものとなる。
冒険者の応対を職務とするギルド職員は当然それらの違いにも対応せねばならず、受付嬢もまた研修で厳しく様々な言葉の訛りについて教え込まれたものだ。
(ですが、これは中々……)
この辺境の街に赴任して一番かもしれない。そう思うほど、目の前の彼は訛りが強い。
真新しい革鎧に身を包んでいる所からすると、田舎から出て来て装備を整えてきたばかりという所か。
だが腰に下げた
通常、剣を腰に下げている新人冒険者というのは大半がその重みに引っ張られる。左腰に帯びるのが基本なため、たいてい妙に左側へと重心が傾いているものなのだ。
というのに彼はその傾きが無い。これは湾刀を携帯するのに慣れており、昨日今日扱いだした素人ではないという事だ。少なくとも、湾刀の扱いに関しては。
服装はかなり珍しく、数えるほどしか見かけた事のないタイプのものだ。確か遥か東方、湾刀が生み出されたのと同じ地域のものだったか。
そちらの方から流れて来たのだろうか?だがそれにしては若く、肌や髪の色も一般的な只人と変わりない。
また、首から細鎖で結ばれた金の車輪―――――交易神の聖印を首から下げている。神官か、あるいは熱心な信徒なのだろう。
他に珍しい点と言えば、妙に目が細い。開いているのか開いていないのか分からないぐらいの糸目だ。
まあこちらをハッキリと見ているのだから、盲目でもなければ閉じているのでもないはずだ。
「ああ、
「いえ、大丈夫です。ご心配をおかけして申し訳ありません」
不安そうにした彼に対し、頭を下げ謝罪する。訛りがキツく分かりづらいのは確かだが、充分対応出来る範囲だ。
であるならば、自分は職員として業務をこなさねばならない。新人を不安がらせている場合ではないのだ。
「文字の読み書きは出来ますか?」
「問題なか」
「それでは、こちらの
「おうともさ」
一つ頷くと、彼は流暢に必要事項を埋めていく。ある程度しっかりと読み書きを習っているのだろう。
些か字にも癖があるが、充分読める。恐らく単純に彼本人の癖なのだろう。
(武器に慣れていて、読み書きも不自由ない。身体つきもしっかりしていて、農夫や鉱夫とも違う感じ……騎士の出でしょうか?)
田舎の騎士の―――――恐らくは継ぐべき領地の無い次男か三男、場合によっては四男五男が己の才覚で成り上がらんと、あるいは単純に食うにはこれだと冒険者になる。
珍しい事ではない。むしろ戦いに関しての知識と武具を扱う経験を持ち、時には良質の装備自体を持ち出せる彼らのような人種は向いているとさえ言える。
知識、経験、装備、資金……それらは冒険者にとって生死を分ける重要な要素なのだ。新人であればなおさらに。
そうして彼がさらさらと記入しているのを見ていると、予想外の箇所へ筆が走った。
「《
驚いた。交易神の信徒である事は分かっていたが、奇跡まで使えるとは。
別に信仰心が深ければ奇跡を使えるというわけではない。また、逆に信仰が浅いからと言って奇跡が使えない訳でもない。
その辺りがどうなっているかはまさに「神のみぞ知る」だ。
しかし、この年齢で奇跡を二つも授かり日に三度も奇跡を行使できるというのは神官職―――――冒険者における神官職においては、優秀だと言って差し支えない。
無論、それが聖職者として優秀であることと同じではない。冒険者の間で求められる神官職としての役割と、聖職者としての役割は全くの別物だ。
「こいでよかか?」
「はい、書類に不備はありません。今後のご予定は何かありますか?」
「いんや、無か。とりあえずあの板眺めて、先ん事ば考えようと思っちょる」
「分かりました。では、これで登録は終わりです。今後のご活躍をお祈りしています」
「ありがとうごわぁた」
こちらの言葉に合わせ、軽く一礼をしてくる。最低限の礼節は弁えており、訛りが強いからと言って粗野な田舎者という印象を与えてくる人物ではない。
依頼書の貼られているコルク板の前に移動する彼の背を見送りながら、受付嬢はこの新人が無事に初めての依頼を終えて戻って来る事をそっと祈る。
自分が担当した冒険者が行ったきり帰ってこない。よくある事ではある。だが、慣れるものではない。新人ともなればなおさらだ。
だから、彼女は新人冒険者の登録を済ませると毎回こっそりと祈りを捧げる。成功させて戻って来るに越した事はないが、情けなく逃げ帰って来てもいい。
無事でいればそれでいいと。
初めての依頼が最後の依頼になる。それはよくある話だが、そうならないに越した事はないのだから。
―――――――
「ぬしゃも新人か?」
「えっ、あ、はい」
一瞬何を言われたのか分からず混乱しかけたが、文脈からおおよその意味を推測し女神官は言葉を返す。
珍しい武器――――――多分剣の一種だと思うが――――――を腰から下げ、風変わりな服装をしている彼もまた自分と同じく真っ白な認識票を首から下げている。
加えて交易神の聖印を身に付けており、信じる神こそ違うが自分と同じく神に仕える存在なのだと分かった。
「そん錫杖を見るに、ぬしゃ地母神様に仕えとる神官じゃな」
「はい!」
思わず大きな声を上げてしまい、恥ずかしくなった女神官は慌てて自分の口を押さえる。自分と共通点のある人がいるというだけで少し舞い上がってしまった。
「気持ちばわかっど。俺も他ん神様とはいえ神職がおるんは安心すっど」
ニッ、と笑いながら彼に言われ、ますます恥ずかしくなってしまう。
だが同じ白磁の新人で、神は違えど同じく神を信じる―――――彼は神官ではなく、単に信者だそうだが。兎にも角にもその共通点は大いに気持ちを楽にしてくれた。
見知らぬ相手には変わりないが、何か一つでも通じる点があるというだけで何となく親しみが湧いてくるから不思議なものだ。
その後は幾分気安く雑談を―――――時々分からない訛り言葉も出てきたけれど―――――交わし、互いに今日登録したばかりの新人であると知った。
ならばこれも何かの縁、一緒に新人向けの依頼でも受けようかという話になった時――――――
「なあ、君達新人だろ?俺達の一党に加わってくれないか?」
不意に声をかけられた。二人揃って声のした方を見れば、鉢巻きを巻いて腰に剣を吊るした若者が近くに立っている。
ゴブリン退治に行くのに、聖職者が欲しい。それゆえ神官服に身を包んだ女神官と、首から交易神の聖印をぶら下げている彼に声をかけた。若者はそう言った。
思わず二人して顔を見合わせる。新人向けの依頼を受けようか、という話にはなっていたが、ゴブリン退治ではなく下水道に行こうと言っていた所なのだ。
というのも、受付嬢がゴブリン退治について触れた時に何とも言えない雰囲気を発していた。それを女神官はハッキリ覚えていたからだ。
彼は特に話を聞いてはいなかったらしいが、そういう事ならば避けるのが賢明だろうという流れになっていたのだが……。
「俺は構わんが、ぬしゃどうする?ぬしゃが受けんのなら俺も受けんが」
若者の話を聞くうちにその気になったのか、彼がこちらを見て訊ねてくる。
受付嬢の態度は気になるが、初依頼がゴブリン退治というのはよくある話だ。自分と彼が加われば、一党の人数は五人。充分な人数がいるように思える。
女性も自分の他に二人いて、不安に思う所もない。今知り合ったばかりだが、彼も一緒で心細さもだいぶ薄れる。
それになにより、若者の「村人のため」という言葉が心に響いた。他者のために危険に飛び込む事を厭わない。そう決心して自分は冒険者になったのだ。
であるならば、受けるべきだ。そう考えた女神官は、頷いて了承の意を示した。
その後受付嬢から忠告を受けつつも、「大丈夫」と快活に笑う若者に従って小鬼退治に赴こうとしたところで不意に彼が口を開いた。
「一つ確認ばすっど。この一党の頭目はぬしゃじゃな?」
「?そうだけど、それがどうかしたか?」
「いんや、そいでよか。頭目がはっきりしとればそいでよか」
確かに頭目が誰であるかは聞かなかったし、向こうも言わなかった。だがはっきりさせておく必要はあるのだろうか?その理由はこの時はまだ女神官には分からなかった。
とにかく、彼――――――湾刀使いとの出会いというのは、そういうものだった。
―――――――
「壁ば掘って来ちょるな。穴攻めじゃ」
洞窟の壁に耳を当てたままの姿勢で、湾刀使いがそう言ってくる。
それを聞いても剣士にはまだ実感が湧かなかった。ゴブリンが本当にそんな事をするのだろうか?
ゴブリンは最弱の魔物で、初めての冒険で蹴散らされる手合い。それが剣士の、いや剣士
そんな存在が洞窟の壁を掘り抜いて来る?信じられない。そんな知恵や力があるのだろうか。
只人の子供ぐらいの背丈で、力もそれぐらい。そんな生き物が土の壁を掘り進むなんてどれだけ時間をかけても―――――
(……いや、道具を使えばいいんだ)
当たり前の事にようやく気付く。何故自分は相手が「手で掘っている」などと思ったのだろう?
人から奪った物で武装している事がある、というのは聞いた事がある。なら奪った物の中に穴掘りに適している物が無いとどうして言えるだろう?
なるほど、掘ること自体は可能だ。それは確かだ。
だがそれでも剣士のゴブリンに対する認識では、それを行うとは思えない。杞憂ではないのだろうか?
自分も壁に耳を当てて確認しようか。そう思った時、湾刀使いがさらに口を開いた。
「ぬしゃの好きにせい」
「え?」
「この一党ん頭目はぬしゃじゃ。備えるも備えんも好きにしてよか。どうするかはぬしゃが決める事じゃ。
湾刀使いはそこで一度言葉を切り、こちらを真っ直ぐ見据えた。
「ぬしゃの決断に、仲間の命ば懸かっちょるぞ」
細い目をうっすらと見開き、思っていたより鋭い眼つきでこちらを見ながら湾刀使いはそう言った。
それを聞いて剣士はハッと気付く。そうだ、自分はこの一党の頭目なのだ。一党がどう動くか決める。一党を引っ張る。それが頭目だ。
つまり、自分が間違えれば仲間に危険が及ぶのだ。
分かっていたつもりだった。だが、相手がゴブリンだから危険はないだろうと思い頭から抜け落ちていた。
自分が「大丈夫だろう」と思って大丈夫でなかった時は、自分のせいで一党全体を危険に晒すのだ。
不意に背中の辺りがズシリと重くなる。今さらながら、頭目がどういう物を背負わねばならないのかに気付いた。
逃げ出したい。投げ出してしまいたい。そんな考えが頭をよぎる。
いっそこちらを見ている湾刀使いに任せてしまいたい。彼は同じ新人とは思えないほど落ち着き、周りをよく見ている。任せてしまっていいのでは?
(いや、駄目だ駄目だ!いきなり逃げ出してどうする!)
弱い考えに流されそうになった自分を叱責する。最初の冒険から逃げてどうする。責任から逃げてどうする。
無理難題を相手にしているのか?いや違う。難しいし重大な事ではあるが、無理ではない。そこから逃げたら、二度と自分は何かに立ち向かえなくなる気がする。
今やるべきは逃げる事ではない。腹を括って腰を据えて、しっかり向き合う事だ。
考えよう。まず湾刀使いの言う事は信用出来る。洞窟の入り口でいきなり湾刀を抜いた時は驚いたが、それを使って天井の高さや横幅を測って剣を振り回せるかどうか確かめていた。
しっかり状況を観察する冷静さと周到さは自分にはないものだ。適当な事を言う人間ではない。
女神官も「音がしている気がする」と自信なさげではあったが言っていた。おどおどしているが、彼女はいい加減な事を言う人間ではないだろう。
まだ出会ってほんの数時間だが、適当な人間ではない事ぐらいは分かったつもりだ。
ならばあと確認すべきは――――――
「二人はどう思う?」
女武道家と女魔術師の意見だ。一党である以上、全員の意見を聞くべきだ。
正しいかどうかは分からない。だがそうすべきだと、自分は思ったのだ。ならやっておかない理由はない。
「ゴブリンがそんなことするかしら……まあ、備えるんなら備えるでいいわよ」
「あたしは備えた方がいいと思う、かな。ひょっとしたらって事もあるし」
「うん……じゃあ、念のために備えよう。少し待って何もなかったら先に進む。それでいいか?」
「おう、俺はそれでよかよ」
「わ、私もそれでいいと思います」
二人が異論を挟まなかったため、剣士はまだ疑念を持ちながらも備える事を一党の方針とする。あくまで念の為だが、備えておかないと当たった時は大変な事になる。
迎撃に関しても湾刀使いの提案を採用し、音のする辺りに油を撒いて待ち構える事になった。まさかこうなると思っていた訳ではないだろうが、随分用意がいい。
「もっと広く撒いた方がいいんじゃないのか?これじゃちょっとしか燃えやせないだろ」
「この狭い穴倉で大きな火ば燃やしたら、我らも巻き込まれっぞ」
そう返され、剣士はハッと気付く。そうだ、ここは少し開けているが二人並んだら武器を振り回すのも危ない狭さなのだ。
燃えるものは周囲にはないが、下手に燃え広がったらこっちも危ない。当たり前の事に気付かなかった自分の迂闊さに、羞恥で顔が赤くなる。
そんな剣士を見て、湾刀使いはニカッとした笑みを浮かべる。その笑顔は馬鹿にしているとかではなく、好意を感じた。
「ぬしゃ、良か頭目になっぞ」
「え?」
「仲間ん話ば聞いて、己が頭で考え、決を下す。良か。良か頭目じゃ」
剣士は一瞬ポカンとなる。褒められているのか?自分は何も気付かなかったというのに?
「いや、俺は……」
「知恵ば足りんなら人ん借りればよか。経験ば足りんはこれから積めばよか。じゃっどん、己で決めれんは話にならん。ぬしゃ、そいが出来とる。大将ん器じゃ」
言葉に裏は感じられない。純粋に褒めてくれているのだろう。だが、嬉しさより戸惑いの方が大きい。
そんな風に言われても、自分ではまるで実感が湧かない。単に不安だから全員の話を聞いただけだというのに。
その事を言おうと口を開いて、剣士はすぐに閉じた。ベーコンを
聞き覚えがある音だ。子供の頃、幼馴染である女武道家と外で遊んでいた時。土遊びをして、地面をほじくり返していた時に聞いた音。
「当たりじゃな」
己の推察が当たった事を誇る様子もなく、ただ単に事実を確認するという口調で湾刀使いが呟く。その言葉に一党は頷くと、飛び出してくるであろうゴブリンに備える。
だからだろう。誰も湾刀使いの表情までは見なかった。
彼が、まるで獲物を目の前にした獣のように獰猛な笑みを浮かべたのを見なかった。
そして、彼がこう呟いたのを聞く者もいなかった。
「さあて、初陣じゃ。手柄首ばいただきもっそ」
―――――――
小鬼が振り下ろしてきた棍棒を鎬で受け、止める事なく事なくそのまま流す。
流した反動で刀身が跳ねる。その勢いを殺す事なく、そのまま振り下ろす。本来は小手を斬るのだが、小鬼との体格差から刀は腕ではなく首筋に叩き込まれた。
斬った、という感触が伝わって来る。そのまま斬った小鬼には目もくれず次へと向かう。敵は多い。脚を止め思考を止め腕を止めれば死ぬ。
(こやつら、間抜けではなか)
次を切り伏せながら湾刀使いはゴブリンという生き物をそう看做す。
先程の奇襲もそうだが、戦力を二手に分けて挟みうちにしようとしたことといい、小鬼は何も考えていない訳ではない。
今もそうだ。胴を空ければ胴に、腕を空ければ腕に、背中が開けば背中に向かって襲い掛かって来る。
隙を見逃すほど間抜けではない。つまり、隙を見せればやられるのはこちらだ。
(じゃっどん、馬鹿じゃ。大馬鹿じゃ)
逆に言えば、胴を打って欲しければ胴を空ければいい。腕を打って欲しいなら腕を空ければいい。意図的に背中を見せてやれば、こいつらはそちらから来る。
何故敵が胴を空けるのか。隙が生まれたのか、敵が意図的に生んだのか。そんな事をこいつらは考えもしないのだ。
小鬼の頭の中など考えた事もないが、恐らくは「自分は優れているから隙を見抜いた」とでも考えているのだろう。
であるならば、先程のように習い覚えた―――――身体に叩き込んだ技を使う余地がある。己の拙い技ですら、充分に効果を発揮する。
そして技を使えるならば、乱戦であっても刃筋を誤る事はない。すなわち、一振りの刀で五人十人を切り捨てる事が可能だと言う事だ。
名人達人でなくば、乱戦においては一振りの剣で五人も斬れぬ。全くもってその通りだ。一々刃筋を確認し、正しい技など使っておれぬ。
だがこちらはその名人達人になるべく、己が人生を刀に捧げている手合いなのだ。乱戦故に技が使えぬなど、未熟の一言で済ませるべし。
「はっはっは!鍛練ば無駄ではなかと知るは、愉快痛快じゃのう!」
自分のやって来た事は、積み重ねてきた事は無駄でなかった。恐らく人生においてそれを知るのは最も幸せな事ではあるまいか。
そういう意味では、今こそが湾刀使いの人生において最も幸せな瞬間なのかもしれない。
手の皮が捲れるほど剣を振ったのは、雨の日も風の日も鍛練を怠らなかったのは無駄ではなかったのだ。そう知れた。
半身になり、やや身体を鎮め左肩を突き出す。小鬼が手斧を振りかぶり、そこへ振り下ろす。
腰を捻って肩を引く。斧は先程まで肩があった場所を通過して行く。捻りによって刀を振るう動きが生じ、回避が終わる頃にはこちらの攻撃が始まっている。
斧の重みと振った勢いによって、前傾姿勢となっていた小鬼の首を刎ね飛ばす。
(
次の小鬼に向かいながら、湾刀使いは胸中で心からの感謝を呟く。教えてもらったからこそ今がある。鍛えてもらったからこそ今がある。
(俺が生きる道は、こいにごわす)
剣に生きる。剣で生きていく。剣によって英雄となる。そして、いずれは剣に斃れる。
己の生きる道を、己の歩むべき道を湾刀使いはこの日ハッキリと見出した。
―――――――
「
依頼を無事に終え、ギルドに戻る途中の道で。今後もこの一党でやって行こうと誘った剣士に対し、湾刀使いはハッキリとそう言った。
理由を聞こうと剣士が口を開くより先に、湾刀使いが言葉を続ける。
「あん洞窟で見たじゃろ。俺は多少知恵ば出せるが、本質は己ん事しか頭になか。一党には向かん」
その言葉に剣士は納得するしかない。横穴の先、ゴブリン達が攫った女性達を犯し弄んでいた広場に行った時、シャーマンを仕留めたと見るや否や彼は真っ先に飛び出した。
敵の中に飛び込んで
その姿はまるで、心から遊びを楽しんでいる子供のようですらあった。
「じゃっどん、お主は違う。周りを見て、人を見とった。良か判断じゃった!」
「いや、そんな……」
剣士を真っ直ぐに見据えながら、湾刀使いが称賛してくる。彼の言葉には気持ちが乗っており、それを正面からぶつけられるのは照れる。
剣士がやったのは、湾刀使いが孤立しないように―――――残りのゴブリンは少なく、その心配はほぼなかったのだが―――――女武道家を援護に向かわせた事。
そして自分は横穴の入り口を塞いで後衛2人が襲われないよう警戒した事と、攫われた女性の安否を確認したぐらいだ。
剣士自身としては、何かしたという感覚がない。軽やかな身のこなしと鮮やかな太刀筋で、小鬼の大半を仕留めた湾刀使いこそが最も働いた人間だろう。
「他人を気遣えるがは立派なもんじゃ。後ろん仲間守るがは良か判断じゃ。そいすら出来んのが俺じゃぞ」
確かに、そうかもしれない。彼はある程度なら自制が効くが、本質は敵中に突っ込んでひたすらに斬り結ぶ事を望んでいるのだろう。
仲間の事すら頭から抜け落ちるほどに。
そんな彼と一党を組むとしたら、自分達もそれについて行くか、彼を支援するか、彼を上手く操縦するかのどれかだ。
残念だが、今の自分には―――――自分達にはそれは出来ない。彼が抜けるのは、彼なりに剣士達の事を考えてくれたのだろう。
「……わかった。残念だけど、ここで別れよう」
「おう。じゃっどん、これも縁じゃ。何かあれば呼んでくいや。力ば貸しもっそ」
「そっちも困った事があれば言ってくれ。力になるよ。仲間―――――友達だからな」
剣士の言葉に、湾刀使いがニカッと笑う。彼はゴブリンを斬る時もこの笑顔を浮かべていた。
友達の言葉を嬉しく思うのも、敵を屠る高揚感も。彼にとっては同じ楽しさなのだろう。
「俺ん神は出会いと別れも司るんじゃが」
笑みを浮かべたまま、弾んだ声で湾刀使いが言う。
「こん良き出会いばくれた事に、感謝せねばならんの。初めて組んだ一党がこん仲間達で、頭目がぬしゃでよかったど」
「俺も、お前が最初の仲間にいてくれてよかったよ」
そうでなければ多分死んでいた。生きていたとしても、こんなに多くを学べなかった。
こんなに自分を評価してくれる友達がいるのだから、それに見合うだけの
交易神様に心から感謝を。そう剣士が心の中で呟くと、突然強い風が吹いた。
交易神は姿なき風のような神。そう剣士が知ったのは、ずっと後の事だった。
Q.こやつ、薩摩武士じゃなかか?
A.四方世界に薩摩はありもはん。武士もありもはん。故に「薩摩(っぽい)騎士」にごわす。
Q.方言がおかしくなかか?
A.四方世界故に薩隅方言はありもはん。故にそれっぽい訛りというだけにごわす。
Q.チェストせんはおかしくなかか?
A.狭くなければチェストしもす。
Q.一つの流派でなく、色んな流派が混ざった剣術を習った事にするんは女々か?
A.名案ごつ
活動報告であげた診断結果の中で、どれが一番読みたいですか?(書くとは限らない)
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魔法剣士【綴られた手紙】
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令嬢【どうか、叶えて】
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女魔術師【君のワガママ】
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魔法剣士と令嬢【忘れてください】
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魔法剣士と女魔術師【貴方の為だけの】
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三人【騙し騙され愛し愛され】