ゴブリンスレイヤー 実況プレイ   作:猩猩

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だいたいの哺乳類ってホモが存在するらしいですね。


女闘士・5 裏

 御伽噺の―――――要素だけ抜き出せば、御伽噺のようだ、と貴族令嬢はギルドの自室で物想いに耽る。

 怪物の群れに囲まれて、絶体絶命の姫。

 そこに颯爽と現れ、伝説に謳われる名剣を振るい、魔物を次々と斬って捨て、最後は姫を救い出す強く逞しい勇者。

 救われた姫は勇者の腕に身を寄せ、二人は結ばれる。古典的だがそれ故に万人に親しまれる物語。

 もっとも今回の場合、怪物はゴブリンで自分は姫ではなく冒険者なのだが。

 勿論自分は貴族の娘なのだから姫と言ってもいいはずだが、救いを待つ可憐で美しい姫君と言うのは些か不遜が過ぎる。

 そして見事救い出した勇者はと言えば―――――文句なしに強く逞しくはある。さらに言えば目を見張るほど美しい。

 

 ()()()()()()()

 

 物語であれば凛々しく若い男性なのだろうが、現実となるとまた話は違ってくるらしい。凛々しさに関してはまさに物語の人物の如きではあるのだが。

 また、振るう獲物は光輝く名剣魔剣の類ではなく武骨で重厚な大金棒(モール)。その質量と己が膂力を使い頭蓋を砕き、胴を抉り、小鬼を叩き潰す様は悪鬼さながら。

 おまけに小鬼の注意を引く為ではあったのだろうが、その豊満で艶やかな乳房を曝け出して暴れるというとても物語には出来ぬ格好で戦った。

 他者にその時の様子を話せば引くか、笑うか。そのどちらかであろう。自分達とて当事者でなければそういう反応をする。それが当然だ。

 つまり今回の出来事は、要素だけならば御伽噺さながら。

 しかし実態はゴブリンに囲まれた冒険者達を、別の冒険者が恥を晒しながらも決死の覚悟で助けた。ただそれだけに過ぎない。

 その上助けた冒険者も助けられた冒険者達も女性だ。恋の物語になるならば男女の組み合わせでなければならない。

 

「何か問題ある?」

「ない」

「ありません」

「ないね」

 

 ()()なら、だが。

 

 部屋ごと借りている寝台付きの四人部屋。そこで貴族令嬢と一党(パーティー)の面々は顔を見合わせ、頷き合う。

 自分達は冒険者だ。いつか自分達の冒険が物語になるかもしれないが、物語の中を生きているわけではない。

 であるなら、物語のように行動し、それに沿う必要などない。全ての責任を自分で負う代わりに、自由意思で生きる事が出来るのが冒険者だ。

 つまり、女性同士であっても何の問題もない。一分の隙もない完璧な理論だ。

 そもそも己の危険も尊厳も顧みず、身体を張って命を救ってくれた相手に惹かれるなと言う方が無理な話だろう。あのように美しく逞しい女性ならなおさらだ。

 強いて誰の責任かと言うならば、全員の心を射止めてしまった女闘士の責任だろう。間違いない。

 あの格好と戦いぶりから強面の女傑を想像していた所に、涼やかで気品すら感じさせる美貌を見せてくるのが悪い。油断しきったところにその一刺し(スティング)は的確すぎた。

 それまで一党は誰一人そのような(百合)嗜好を持っていなかったというのに、その日のうちに全員が道を踏み外す事を決意してしまったのだから。

 

「地母神様も、純粋な愛なら女性同士であろうともお認めになられます。多分」

 

 僧侶も胸を張って――――――最後の呟きは聞かない事にした―――――言い切る。地母神の神官のお墨付きがあれば心強い。

 相手は1人でこちらは4人と人数は問題かもしれないが、当人達の同意があるのだからそれで良い。事にする。

 万事問題ない。ないのだが。

 

「だから早く勧誘して迎え入れるべき」

「装備もいいし実力もある。見た目もあの通りなんだから、絶対他の一党も狙ってるよ」

「分かってる、分かってるわよ!けどこう、目の前にすると勇気が出ないの!」

 

 問題はその対象である女闘士本人に対して、何も話せていないという事だ。

 受付嬢から彼女が単独である事を聞き出し、ならまずは一党に勧誘しようと全員の意見が一致した。ここまではよかった。

 しかしいざ勧誘しようと彼女の前に行くと、緊張と「もし断られたら」という不安から言葉が出なくなってしまう。結局は丁重に礼を述べ、当たり障りのない会話しか出来ない。

 

「というか皆そうじゃない!私だけ非難の的になるのは断じておかしい!」

 

 貴族令嬢の言葉に、一党の全員が目を逸らす。自分だけがこの体たらくならアレコレ言われるのも仕方ないが、他の面々も似たり寄ったりの反応になっているのだ。

 頭目としての役割と責任から自分が勧誘するのが筋ではあるが、ここまで言われる筋合いはない。

 

「でも早く勧誘しなくてはいけないのは確かです。あれから3日、私達同様疲れが抜けてそろそろ動き出す頃でしょうから……」

 

 神官の言葉に「ぬぐっ」と呻いて、貴族令嬢は言葉を詰まらせる。女闘士はまだ黒曜等級、決して財政状況が豊かではないはずだ。

 所作から感じる育ちの良さや、新人にも拘わらず良い装備をしている事から女闘士は自分同様貴族階級の出身であると貴族令嬢は踏んでいる。

 なので多少の余裕はありそうだが、確実にそうだという保証はない。

 冒険者稼業を再開してしまえば、自分達も依頼を受けない訳にはいかず確実に顔を合わせる事が出来るとは限らない。

 その間に他の一党が勧誘するかもしれないし、場合によっては拠点とする街を変える事だってあり得る。そうなればもう勧誘どころか会う事すらままならない。

 

「……決めた!今日こそ何が何でも勧誘する!女は度胸、何でもやってみるものよ!」

「よく言った!」

「流石です!」

「頼むよ!」

 

 褒めてはくれるが、一党全員が自分に丸投げする気である事を貴族令嬢はちゃんと理解している。

 だが頭目の責任ではある。仕方のないことだ。そう思いながら、貴族令嬢は一党の面々と共に自室から出て下へ向かう。そろそろ依頼の張り出される時間だ。

 女闘士が依頼を受けるならば来ているだろうし、来ていないなら朝食を酒場で取っているだろう。

 そう考えて一階に降りると、読み通り女闘士はそこにいた。兜こそ外しているが胸甲と革鎧を身に纏っている事を考えると、やはり依頼を受けるつもりなのだろう。

 もう猶予はない。意を決し歩み寄ると、まずは挨拶を交わす。

 

「おはようございます」

「ああ、おはよう」

 

 低めの落ち付いた声が心地よく耳朶を打つ。それもまた彼女の魅力だ。

 いや、今はそちらに心を奪われている場合ではない。落ちつけ。後ろで仲間が圧を送って来ている。

 無様を晒す事なく、不審な様子を見せる事もなく、至って冷静かつ普通に誘えばいい。それだけのことだ。深呼吸をしたら、3つ数えたら今日こそは言う。

 ゆっくり心の中で数えて、数え終えたら言う。1……2……s

 

「ちょっといいかな?お願いしたい事があるのだけれど」

「ひゃい!?」

 

 数え終える寸前に向こうから声をかけられ、思わず変な悲鳴を上げてしまう。

 女闘士が怪訝そうな顔をするが、何とか取り繕い「どうぞどうぞ」と先を促す。彼女から何か頼みがあるというのなら、可能な限り力にならねばならない。

 感情のアレコレは脇に置いたとしても、彼女は自分達の命の恩人なのだから。恩を返さないなどという選択肢は存在しない。

 

「実はその、受付さんから叱られると言うか心配されてしまってね。あまりにも無茶と言うか、無謀に近い行動が多すぎると」

「それは……」

 

 救われた身ではあるが、実際その通りだとは思う。ゴブリンの気を引くためとはいえ、面積が大きく狙いやすい箇所を曝け出して多数を相手取るのは本来自殺行為だ。

 相手が欲望のままにそこへ引き付けられていたから功を奏したが、もう少し考える相手ならば胸に意識が行く事を見越して他の部位を狙って来たかもしれない。

 そうでなくとも一撃も貰えない状態で戦う以上、それを気にして動きに制限がかかる。決してやるべきではない行為だ。

 上手く行ったのは彼女の装備が良かったことと、筋力に優れて体力があったこと。

 相手がゴブリンという最弱の魔物だったこと。目先に餌がぶら下がれば食いつかずにはいられない種族だったこと。

 そして、何より神々の骰子の出目が良かったであろうこと。

 これらの要因が重なってたまたま上手く行った、と思うべきだ。何度も同じ結果が出せるものではない。

 

「それで経験のある冒険者と組んで、色々と学んだ方が良いと勧められてね。そこでもし迷惑でなければだけれど、一度でいいから君達の一党に加えてもらえないかと―――――」

「ふつつか者ですがよろしくお願いします!お姉様!」

 

 女闘士の言葉を最後まで聞かず、深々と頭を下げて大声で叫ぶ。

 なんという幸運だろう。向こうの方から来てくれるとは!きっと僧侶の祈りを通して、自分達一党の純粋な愛が地母神に伝わり認められたのだろう。

 だいぶ都合のいい考えなのは分かっているが、貴族令嬢はそういう事にした。そして、それで押し切る事にした。

 無理が通れば道理が引っ込み、無理を通し抜けばそれが道理となる。世の中とはそうしたものなのだから。

 

 

 

――――――――

 

 

 

「木陰を通ったりすることで、上空からの襲撃を避ける事が出来るんですお姉様」

「長旅の場合、そういった所で適宜休憩を入れて進むのが基本。お姉様のように重装備なら特に」

「水を飲んで、お姉様の場合装備の止め具を緩めないと身体は休まりません」

「野営の場合は日が暮れるよりもっと早く野営地を決めて、準備を始めないと間に合わないよお姉様」

 

 依頼先の村へと向かう、その道中。

女闘士に対し貴族令嬢とその一党が口々に旅する際の注意点を教えてくれる。彼女らはきっと自分の経験不足を心配してくれているのだろう。

 その親切は非常に有難いし、そうして気遣ってくれる優しさは嬉しくもあるのだが……

 

「君達、その呼び方はどうにかならないかい。さっき言った通り私はまだ18なんだけれどね」

 

 冒険者として先達である貴族令嬢達に「お姉様」などと言われるのは少し、いやかなり抵抗がある。

 最初は女闘士の年齢を外見から20半ばと判断し、そう呼んだらしいのだが実年齢を教えた後も彼女達は呼び方を変えようとしなかった。

 いや、年齢の事だけならば良いのだ。女闘士は自分の見た目が実際の年齢よりずっと上に見える事は自覚している。だからそう勘違いするのは理解できる。

 その勘違いを正した後も、一度始めた呼び方が定着するというのはままあることだ。これも分からなくはない。

 ただ彼女達のその呼び方からは、こう、一種の欲望のようなものが感じ取れるのだ。

 女性同士でまさか、とは思うが、女闘士は―――――遺憾ではあるが―――――経験からその手の感情には聡い。故に気のせいとは言い切れなかった。

 

「お姉様はお姉様ですから!」

「その通り」

「ですね。お姉様はお姉様です」

「そういうことだよ」

「いや、どういうことだい」

 

 思わず突っ込まずにはいられない答えが、一党の全員から返って来る。

 これで単純に欲望だけを差し向けられているのならば対処は幾らでも浮かぶのだが、同時に彼女達からは好意を向けられているのも感じ取れる。

 好意とそれに端を発する欲望に対し、どう対処すればいいのか女闘士には分からなかった。そんな感情を向けられるのは初めてなのだ。

 敵意や害意、下衆な欲望なら殴ればいい。だが好意を向けられた時、それは蔑ろにしてはならない。

 少なくとも女闘士はそう育てられてきた。まだ3年ほどしか経っていないのに、もうずっと遠い思い出のように感じるが。

 

「……まあ、好きに呼んでくれたまえ」

「「「「はい、お姉様!」」」」

 

 溜息と共に吐き出した言葉に、貴族令嬢達が一斉に返事をする。その声にげんなりすると共に、自分の頬が自然と緩むのも感じる。

 勘弁してほしいとは思っているが、この賑やかさを楽しく感じているのも事実だ。

 それに自分が助けた相手が、こうして無事冒険者を続けているのを実感できるのは素直に嬉しい。助かってよかったと素直に思える。

 同時に、この輪の中に自分がいてもいいのかとも思ってしまう。

 怒りや憎しみといった負の感情が収まらず、殺意が何時だって心の中に居座っている。そんな自分がこんな明るい人々と共にいていいのだろうか。

 彼女らと共にいるべきなのはもっと別の人なのではないだろうか。ここは、これは自分に相応しくないものではないだろうか。

 あるいはこういった場所にいることで、自分の中の感情を鎮めるのが正しいのだろうか。それで鎮まるのだろうか。

 いや、どうしてもあの男達や小鬼の面影がちらつく。であるならば、やはり自分は心が、感情が敵とみなす相手を殺しに行くべきだろう。

 この一党とは今回限りだ。そうでなくてはいけない。巻き込んではいけない。

 彼女らが自分の報復に付き合ってくれるというのならば話は別だが、そんな物好きがいるはずもない。

 

 自分の心が敵だと、憎いと感じる相手を殺すために依頼を受ける。そんな人間はもう、冒険者とは呼べないだろうから。

 

 彼女らはあの剣士達同様、冒険者だ。自分は違う。そんな綺麗な存在ではない。

 だから、今回限り。だけど、今回だけは。

 

(冒険を楽しんでも、構わないよね)

 

 いつかは自分も、冒険者になりたいのだから。

 

 

 

――――――――

 

 

 

 兜を被り、大金棒(モール)戦嘴(ウォーピック)を背負い、胸甲と革鎧を着たまま枝にぶら下がる。

 背中の筋肉を意識しながら、ゆっくりと身体を持ち上げて行く。何処の筋肉を使っているのかを意識しながら、正確な動きを心がける。

 持ち上げ、その姿勢を保ち、またゆっくり元に戻す。おざなりに100回やるのではなく、集中して10回やった方が遥かに効果はある。そう習った。

 また、実際に身体を使う時は装備をしている。だから重い装備を付けたまま動く事を前提とした方がいい。

 これは習ったのではなく、女闘士が自分の経験から学んだことだ。

 だから、こうして身体を鍛える時は基本的に普段使う装備を付けたままやる。場合によってはそれ以上に重りを付けてやる。

 これ自体は何時もと変わらない鍛練だ。これ自体は。

 

「……見ていて楽しいのかい?」

「はい!」

 

 鍛練を始めた時からジッとこちらを見ている貴族令嬢に訊ねると、彼女は輝かしい笑顔で以って返事をする。

 そう言われれば何も言えず、女闘士は黙々と鍛練を続ける。

 依頼先の村に来てから五日。盗賊騎士を待っている間、滞在費や食費は村側が負担してくれている。そういう契約だ。

 その間何もしないでいるのは外聞が悪く、また身体も鈍るため相手が来た際に支障が出ない範囲で各々訓練や見回りをしていたのだが……

 

(何が面白いのだろうね)

 

 女闘士が鍛練をする時、一党で手が空いている者は必ず見に来ていた。そして終わるまで飽きることなく、ジッとこちらを見ているのだ。

 貴族令嬢はまだ分からなくもない。彼女も前衛であり、鍛練のやり方について質問してきた事を考えると自身を鍛えようとしているのだろう。

 だが他の三人が来る理由はないはずだ。いや、彼女達が自分に抱いている感情が理由なのは分かっているが。

 村人から時折向けられる好色な視線。それよりもっと熱っぽいが、不快ではない好意を孕んだそれを彼女達は自分に向けてくる。

 流石にそれが5日も続けば、どういう感情を抱かれているか嫌でも気付こうというものだ。

 他者の感情をどうこう言う権利はないし、自由にすればいいとは思う。襲われでもすれば別だが。

 しかしこうして鍛練を見つめられるのは、不愉快ではないが不可解だと思わざるを得ない。何も得るものはないはずだ。

 

「お姉様!リーダー!」

 

 いっそ直接理由を聞いてみようか、と思った矢先、野伏が走って来る。声音から何かが起きた事を察し、枝から手を離す。

 そういえば「お姉様」と呼ばれるのにも慣れたな。そんな事を不意に考える。いずれはこの視線にも慣れて行くのだろうか。

 いや、時間をかければ慣れて行くのだろう。どんなことだってそうだ。只人は適応していく種族なのだから。

 そう考えれば未来に少し希望が見える。心の有り様にだって慣れて、折り合いがつくはずだと。

 しかしこの視線に慣れていくのはちょっとだけ怖い。女闘士はそう思わずにいられなかった。

 

 

 

――――――――

 

 

 

「中々見所ある嬢ちゃん達だってのに、勿体ねえな」

 

 馬車の荷台に女闘士達を乗せながら、行商人は小さく呟く。盛った薬はよく効いているらしく、酩酊した彼女らは起きる気配もない。

 数で有利だったとはいえ、完全装備で騎乗した騎士を苦もなく打ち倒したのは立派だと言える。たとえ相手が騎士として二流以下だったとしても、だ。

 そんな彼女らではあるが、恐らくコレが運のツキだろう。少なくとも自分がこうして嵌めた冒険者達は、誰一人として生き残ってはいないのだから。

 

「やめときな」

 

 その二流以下の騎士が荷台に乗り込もうとしているのを制する。

 表情と普段の言動、決闘に敗れ屈辱を受けたという事実。そして相手が見た目の悪くない若い女性達と来れば、何をしようとしているのかは容易に察せる。

 

「大事な商品に手を出すんじゃねえよ」

「煩い!貴様ごときが私のやる事に口出しを―――――」

 

 騎士はそこで口を閉ざす。やはり言って聞かせるよりも、投矢銃(ダートガン)を額に突き付けてやる方が手っとり早い。

 

「村のモンなら構わねえけど、商品に手を出していいなんて契約だったかい」

「い、いや……」

「アンタの仕事は冒険者を誘き寄せる餌になる事。その報酬は充分貰ってるだろうし、村から金や物せしめていい思いしただろ?」

「あ、ああ……」

「じゃあそれで満足してろ。女欲しけりゃ娼館いきな」

 

 無言で頷く騎士に笑いかけ、投矢銃を下ろす。全くもってふざけた手合いだが、この仕事をやっているとしばしば遭遇するから困ったものだ。

 騎士や盗賊に村から金品物資を捲き上げさせ、討伐依頼を出させる。

 冒険者がそれに勝てるようならば祝宴にかこつけて薬を飲ませ、罠に嵌める。

 それが成った時点で餌役の仕事は終わりだと言うのに、相手が女だと負けた腹いせか単に下衆なのかは知らぬがこうして犯そうとするやつは多い。

 自力で勝ったならまだしも、負け犬の分際でふざけた話だ。第一そんな事をされたら自分の「商品を無事に運ぶ」という仕事が台無しになるではないか。

 

「アンタの仕事は終わったんだ。アンタ見捨ててどっかに行った従者よろしく、とっとと失せろよ」

「……追加報酬を寄越せ」

「ああ?」

「そこの女達の誰か1人でいい。私に寄越せ。そのぐらいの働きはしたはずだ」

 

 本心からそう思っているらしいその顔を見て、行商人は苦笑した。成程、これでは宮仕えも傭兵もままならぬはずだ。

 自分のやった仕事の成果を過大に評価し、過剰な俸給を請求する。そのくせ「私は寛大だから、このぐらいで我慢してやる」と本気でのたまう。

 能力の有無に関わらず、人間として二流のまがいもの。

 

「装備と馬は返してもらったが、あの不忠者が逃げたせいで大損だ。これは私の正当なけんがひゅっ」

 

 投矢銃にだけ注視していた騎士の喉を、逆の手で隠し持っていたナイフで掻っ切る。深手を受けて反撃するでも逃げるでもなく、騎士はただ喉を抑えその場にうずくまる。

 この手の連中の要求は際限がない。仮に1人女を譲渡しても不平不満を抱え続け、報酬の不足を埋めるという名目で契約を破りこの仕事について誰かに喋って小銭を稼ぐだろう。

 どころか身の程知らずにも自分の雇い主を脅しかねない。別にそれでコイツが始末されるのは構わないが、自分にも火の粉が飛んでくる可能性もある。

 そんなのはまっぴらごめんだ。

 

「ほら、追加報酬だぜ」

 

 延髄の辺りを狙って、ナイフを振り下ろす。首の骨に刃が当たり硬い感触が伝わって来るのと同時に、糸が切れたように騎士は顔から倒れ込んだ。

 それなりに愛用した品ではあるが、大量に流通してる安物だ。コイツにくれてやるにはちょうどいいだろう。

 

「余計な手間食ったぜ」

 

 事切れた騎士の死体には目もくれず、行商人は馬車に乗り込む。

 言われた通りの仕事をして、言われた通りの報酬を貰う。何故それで良いとしないのか。つくづく理解に苦しむ。

 まあどうでもいいことだ。

 

「俺は契約結んで、あそこに運ぶ。それだけの仕事だからな」

 

 契約書にサインした以上、彼女らは()()()に剣奴となった。そして契約に従い、主人の元へ赴きそこで戦う。

 行商人は剣奴となった者を、主人の元へ運ぶ。それだけの話だ。

 後の事など知った事ではない。運ぶ先がどのような場所だったとしても、だ。

 

「そんじゃ新人剣闘士様5名ご案内、っと」

 

 行商人の小さな呟きと共に、馬車が動き出す。かくして―――――

 かの悪名高き闘技場にまた1人―――――否、5人の新人剣闘士が送り込まれていくのだった。

 




Q.なんでお姉様呼びに……?
A.百合が年長を呼ぶ時はお姉様と呼ぶ。ニュートンが発見した法則だ。

Q.村はグルなの?
A.村はグルではないです。村は。でも誰か繋がってる奴はいるよねきっと。

活動報告であげた診断結果の中で、どれが一番読みたいですか?(書くとは限らない)

  • 魔法剣士【綴られた手紙】
  • 令嬢【どうか、叶えて】
  • 女魔術師【君のワガママ】
  • 魔法剣士と令嬢【忘れてください】
  • 魔法剣士と女魔術師【貴方の為だけの】
  • 三人【騙し騙され愛し愛され】
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