ゴブリンスレイヤー 実況プレイ   作:猩猩

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実況プレイって言いつつ全然実況していない。ハッ、これがタイトル詐欺……!


幕間 収穫祭間近の話・4

「こ、これとかどうかしら!」

「それは、ちょっとどうでしょう……」

「大胆すぎる、って言うか昼間にそれ着て外歩けるの?」

 

 胸元にザックリと切れ込みが入った、大胆―――――ハッキリ言って娼婦が着るようなドレスに対し、女神官と女武道家は難色を示す。

 指摘を受けた女魔術師は自分が着て外を歩く様子を想像したのか、頬を赤く染めると急いでドレスを元の位置へと戻した。

 

「あの人と並んで歩く事を考えると、もっとこう、落ち着いた感じの方がいいと思うんですけど……」

「凄く素っ気ないって言うか、簡素なの着てるからね、彼」

 

 幾度か見かけた事のある、装備を付けていない状態の魔法剣士の服装を女神官は脳内の記憶から引っ張り出す。

 女武道家の言う通り、彼の服装は常に簡潔かつ必要最低限だった。飾り気のないシャツに上着、同じくズボン。たったそれだけだ。

 装飾品の類を身に付けているのは見た事が無いし、服装が洒落ていると思った事もない。洗濯だけはしっかりしていて、清潔には気を使っていたが。

 そして性格的にハレの日だからと言って格別お洒落をするとも思えない。

 

「落ち着いた感じ、落ち着いた感じ……」

 

 ブツブツ呟きながら、女魔術師が服の物色に戻って行く。店内にいる他の客が奇異の目で見ているが、彼女は気にする様子は無い。と言うより、余裕がないのだろう。

 

「ごめんね、付き合わせちゃって」

「いいえ、暇……ではないですけど、時間はありますし」

 

 軽く頭を下げながらそう言ってくる女武道家の言葉に対し、女神官は慌てて首を横に振った。そう、確かに暇ではない。

 なにせ今年の収穫祭において、地母神様に捧げる神楽を舞うという大役を授かったのだ。練習に心血を注がねばならず、暇などしている時間は無い。

 かと言って空いた時間はずっと練習だけしているわけでもないが。

 

(休まないと倒れちゃいますもんね)

 

 人は休まず動き続けるようには出来ていない。休まず続ければ体調を崩し、倒れる。

 そして回復の為に数日、あるいはもっと長い時間が必要となる。その間に養った感覚は失われてゆき、取り戻すのに長い日数を必要とする。

 つまり、倒れるまで鍛えるのは結果的に無駄を増やす。そのためには適度な休息が必要だと、女神官はゴブリンスレイヤーからそう教わった。

 故に彼女はしっかり休憩時間は取るようにしている。勿論休み過ぎればそれは単なる怠慢となるのだが。

 だから、一日休むなんて事は出来ないが一、二時間買い物に付き合うぐらいの時間はあるのだ。

 

 少なくとも、助けを求めてきた友人に付き合うぐらいの時間は。

 

「私達が一緒に来なかったら、アレ買ってたんでしょうか……」

「買ってたと思うよ」

 

 女神官の疑問に対し、女武道家が断言を持って答える。確かに買っていたのだろうな、と女神官も正直思う。

 収穫祭の時に着る服を一緒に選んで欲しい。女魔術師が地に擦り付けんばかりに頭を下げて、そう頼んできたのは今朝の事。

 誰を誘うつもりなのか、なんて。聞かなくたって答えは一人しかない。

 立場から言えば彼女の恋路は褒められたものではないのだが、必死に頭を下げる友人の頼みを無下に出来るほど女神官は強くなかった。

 倫理的にも問題だし、魔法剣士が婚約者を捨てて他の女性に乗り換えるような人間とも思えない。

 あまりにも難しい恋だ。だから諦めろ、とは思う。思うのだが、女神官はそれを口に出来ずにいた。

 何しろ「難しい」という点に関して言えば、女神官に人の事をとやかく言う資格はない。いや、むしろ難しさだけで言えば自分の方こそだろう。

 わざわざ投棍(ブーメラン)を投げる趣味は女神官には無い。

 

「こ、こういうのも必要よね!?」

「下に着る物より先に上に着る物選んだら?」

 

 下着を―――――なんというか、凶悪な下着を持ってきた女魔術師を女武道家がバッサリ切り捨てる。

 流石にその下着の意図が分からないほど女神官も初心ではないが、そのあまりにも卑猥な形状に思わず頬が熱くなる。

 彼女はあれを着て彼に見せるつもりなのだろうか?確かに彼女の豊かな肢体に纏えばさぞかし映えるだろうが……

 自分の貧相な身体に身に付ける事を想像したり、ある特定の誰かにそれを見せる事を想像してしまい女神官は顔を真っ赤にして俯いた。とてもあんな下着を着るのは無理だ。

 

「と言うか、それ着るつもりなの?本気で?」

「だ、だって……万が一そういう流れになった時、必要だもの……必要よね!?」

「え、ええっと、その……」

 

 女魔術師に話を振られ、女神官は困惑する。果たして本当にそういう事になった時、これは必要になるのだろうか?

 確かに有効な装備だとは思う。女魔術師が着ればさぞ魅力的だろう。しかし、過激すぎて引かれる可能性もあるのではないだろうか。

 なにせ、彼女が手にしているのは妖艶(セクシー)という言葉では収まらない――――――淫靡(エロティック)と形容されてしかるべき物なのだ。

 

「それより前にやる事あるでしょ。どんな話をしようとか、どう回るとか……あ、手とか繋いでみたら?」

 

 良い事を思いついた、とばかりに女武道家が―――――下着を元の場所へ戻させながら―――――言う。

 

「お祭りで人多いだろうし、はぐれないようにって言えば自然に繋げるんじゃない?」

「……無理。恥ずかしくて、緊張して喋れなくなるって分かるもの

「アレ着ようとしてたのに!?」

 

 顔を真っ赤にして俯き、今にも消え入りそうな声で女魔術師がブツブツ呟く。女武道家は呆れているが、女神官はどちらの気持ちもよく分かった。

 確かにあんな物を着て「万が一」に備えようという女性が、手を繋ぐだけで恥ずかしいと思うのはおかしいだろう。

 しかし同時に、自分に置き換えて考えると同感してしまう。もし自分が、ゴブリンスレイヤーと手を繋いで収穫祭を見て回るとしたらどうか。

 女魔術師の言う通り、恥ずかしくて緊張して喋れなくなるのは明白だ。

 

「そ、それに手を繋いで、一緒に歩いたら……なんて言うか、その……それだけで満たされちゃって、喋れなくなりそうで……」

「その可愛らしさはあたしじゃなくて彼にぶつけてくれる?」

「その気持ち、わかります。どっちも」

 

 年頃の少女のような――――――実際年頃の少女である彼女達は、それらしい反応を見せ少しばかり騒ぎながらあれでもないこれでもないと服を選んでいく。

 すっかり準備に夢中な彼女達は、しかし一つ大事なことを失念していた。いや、ある種の信頼と思い込みによって考えすらしなかった。

 準備は必要だが、その前段階でもっと必要な事が―――――― つまり、準備が必要になるかどうかの確認があるのだ、と。

 

 すなわち、相手の予定の有無の確認である。

 

 魔法剣士に予定はないだろうと、誘えば必ず一緒に来てくれるだろうという思い込み。無論、全く根拠のない思い込みではない。

 この街において彼と最も親しいのは女魔術師と女武道家、次いで女神官でありその彼女らから見て他に誘う相手はいないと判断したのだ。

 そして、その親しさから言って女魔術師が誘って断られる事はないとも。

 加えて収穫祭まで十日以上の時間があり、仮に誰か誘ってくる相手がいるとしても今ならばまだ先を越される心配はないだろう。

 彼女らはそう考えたし、その考え方自体は間違ってはいないものだった。通常であれば。

 不運な事に、今回は通常ではなく例外的な事例だったというだけの事だ。

 

 そして幸運な事に、今回は相手もまた通常ではなく例外的な存在であった。

 

 

 

―――――――

 

 

 

 目立ちすぎず、かと言って地味すぎない優しい緑色をしたシンプルなデザインのドレス。

 歩くのに不自由しない、ある程度履き慣れた普段履きの靴。

 帽子は風が強い場合を考慮して除外した。代わりに日傘を持って行けばいいだろう。

 そして、乙女の嗜みとして短剣(ダガー)を忍ばせる。いざ、という時にはこれを敵ではなく自分に使うのだ。身柄を囚われて不利益を生むぐらいなら、その方がいい。

 収穫祭当日の服装を頭の中で再確認すると、令嬢は自室に備え付けられた呼び鈴を鳴らした。

 程なく扉が静かにノックされ、涼やかな顔立ちをした褐色人の血を引く執事が入って来る。

 

「手紙は送ってくださいましたか?」

「はい、お嬢様。早馬を駆るという冒険者に依頼しましたので、婿様がお着きになられる前に届くかと」

「ありがとうございます。余計な手間をかけて申し訳ありませんわ」

「いえ、お気になさらず」

 

 傍らに控えた令嬢付きの執事の返事に、令嬢は満足げに頷くと頭を下げて礼を述べる。執事もまた丁重に頭を下げてくる。

 本来もっと早く出すべき手紙だったのだが、あまりにも幸せすぎて浮かれてしまい対応が遅くなってしまった。あまりの失態に令嬢は自分で自分を殴りたくなる。

 

「少し考えれば分かる事でしたのに、全く……我ながら察しが悪すぎて嫌になりますわ」

「お嬢様、お言葉ですが。婿様が他の誰かに誘われる、というのは些か飛躍しすぎな考えなのでは?」

「いいえ、確実に誘われますとも。お仲間があの方を本気で想っているのなら、誘わないはずがありませんわ」

 

 執事の言葉を、令嬢は首を横に振って否定する。

 祭り。年に一度のハレの日。その日に想い人と過ごそうとしないはずがない。少し考えれば分かる事だ。

 半分は勘とは言え、令嬢は女魔術師が彼の事を想っていると推測を立てたのだ。ならばそれを前提として動かねばならない。

 彼の事を想ってくれる女性がいる。なら自分はどうすべきか?

 決まっている。それを応援すべきなのだ。

 自分の同類でもない限り、彼女は「普通の恋愛感情」を彼に抱いているはずだ。そこから彼は多くを学べるはず。

 そしてその学びは、必ずや彼の人生と人間性を豊かにする。それは彼の幸福に繋がる。そう令嬢は確信している。

 学びからの気付きにより、彼が彼女に惹かれ、恋に落ち結ばれる可能性もある。それもまた令嬢にとっては歓迎すべき事態だ。

 

 もしそうなるのならば、彼は間違いなく幸せになれる。そして彼が幸せならば、いつだって自分はそれ以上に幸せなのだから!

 

「しかし、婿様はあの内容を承服してくださるのでしょうか?突然『案内は午後からで』などと言われても、困惑なされるだけなのでは?」

「ええ、困惑なさるでしょうね」

 

 執事の疑問に対し、令嬢は肯定を示す。確かに彼は困惑するだろう。きっと彼は、一日かけて案内する気でいるはずだろうから。

 それは令嬢としてはこの上なく幸せなことではあるのだが、午前中は彼を誘うであろう女魔術師に譲ってやらねばならない。

 

「ですが、あの方は賢い方ですもの。分からない、で考える事を止めず私の意図を察そうとしてくれますわ」

「それで意図に気付いてくださると?」

「いいえ。流石に意図を察するのは無理でしょう。ですが、私に何か考えがあってこのお願いにも意味があるという事は気付いてくださいます」

 

 令嬢が彼の事を理解しているように、彼もまた令嬢の事を理解してくれている。自分の行動には何か意味があるはずだと考えてくれる。

 そして自分の行動は、何時だって彼の幸せの為だという事も理解してくれている。だから、困惑しつつも承服してくれるはずだ。

 

「しかし、それならば前日にあちらへと到着するようになされたらいかがですか?今日お発ちになられると、3日ほど前に到着する事になりますが」

「いえ、それでいいのです。あの方がお世話になっている方々にお礼を申し上げたいですし、是非お話したい方もいますから」

 

 そう、お礼を言いたい相手がいる。話したい相手もいる。だが相手にも予定があるだろうし、冒険者という職業は拠点にいない場合が少なくない。

 本当ならばもっと長い期間滞在して確実に会えるようにしたいが、令嬢も貴族の家に生まれた身だ。ずっと自由気ままに行きたい場所へ行き、いたい場所へいれる訳ではない。

 

「用意した物は全て積み終わりましたか?」

「はい。お言いつけ通りに、全て積み込みました。見落としはありません」

「結構ですわ」

 

 いよいよ出発する。彼がいるところへ、彼が呼んでくれたところへ。そこには彼がいて、彼は苦労しながらも楽しく暮らしていて、彼の周りには善い人々がいてくれる。

 そんなところへ行けるなんて、自分はなんて幸せ者なのだろうか!

 いや、そもそも彼がいるこの世界に生まれた事自体が果報なのだ。だから彼女はこの四方世界が、そこに住まう人々が大好きだった。

 愛しい人が生きている世界を、愛さずにいられようか!

 

「お嬢様、お気を確かに」

 

 執事の言葉に冷静さを取り戻す。いけない。また幸福に浸りすぎる所だった。

 どうも手紙を貰って以来些かタガが緩んで来ている。しっかりせねば、と令嬢は己を戒める。

 

「それでは参りましょうか」

「かしこまりました」

 

 部屋の外へと出る前に、令嬢は一度振り返って部屋の窓から見える景色を眺めた。

 よく晴れている。そしてこの日の光の下で、今日も様々な事が起きているのだろう。良い事も悪い事も、嬉しい事も悲しい事も、楽しい事も辛い事も。

 そういった出来事に巻き込まれ、あるいは自らが起こしながら人々は生きている。そうして世界は回っている。その中に彼もいて、自分もいる。

 ただそれだけで令嬢は充分なのだ。彼と同じ世界を生きている。ただそれだけで世界は素晴らしいし、人生は美しい!

 

 だから、自分はこの四方世界もそこに住まう人々も大好きなのだ。彼が一番なだけで。

 

 彼の事を愛しているであろう女魔術師はこの気持ちを分かち合ってくれるだろうか?理解しあえるだろうか?

 いや、理解し合えてなくてもいい。自分を理解してくれなくても、彼の事を好きでいてくれるならそれでいい。

 彼女が彼の事を好きであればあるほど、自分も彼女の事を好きになれる。応援したくなる。

 それはきっと、彼の幸福に繋がるはずだから。

 

 

 

―――――――

 

 

 

(相変わらず狂人だな)

 

 上機嫌で――――――彼女が上機嫌でない時など見た事が無いのだけれど―――――部屋を出る令嬢の後ろを付いて歩きながら、執事は内心そう呟く。

 この家に仕える身として、令嬢付きの執事として忠誠心はある。だが狂人だと思わざるを得ない。

 伯爵もその奥方も他の兄姉も常人なのに、何故彼女はこのような存在に生まれ育ったのだろうか。

 

(この方を受け入れる婿様も婿様だが)

 

 執事の知る限り、婚約者は令嬢の事を厭ったり疎んだりした事はない。それ故に彼もまた方向性の違う狂人の類なのだろうと執事は内心思っている。

 令嬢曰く、その彼を慕っている人間がいるらしいが……

 

(お嬢様がこのような人物だと知ったらどうするのだろうな)

 

 普通なら手を引く、と言うか逃げ出すだろう。この異常な愛を注ぐ令嬢と、それを許容する婚約者は常人から見れば狂気でしかない。

 もしそれでも引かないという女性であれば、さぞかし苦労する事だろう。

 

 彼女がどんな考えであれ、彼女もまた令嬢から愛を注がれる事になるのだから。

 

 案外それに耐えきれず、逃げ出すかもしれない。可哀想に。

 名も顔も知らぬ彼女に心底同情し、執事は小さく溜息を漏らすのだった。

 




読み直したら時系列が分かりにくかったのでここで整理を。

魔法剣士君が都に行く。その間に他のメンバーは冒険へ。

魔法剣士君が伯爵と会っているのと同じ日に、受付嬢さんがやらかす。

魔法剣士君が帰還を開始。直後に令嬢が速達を出す。

魔法剣士君が帰って来る前に準備を整えようと、女魔術師ちゃんが勝負服と勝負下着を買いに行く。

魔法剣士君、ゴブリンの群れに襲われるも双剣士ちゃんと投矢銃士君と協力して撃退。

令嬢、辺境の街に向けて出立。


Q.女魔術師ちゃんはいったいどんな下着のチョイスを……?
A.R-15タグで収まらなくなるようなのです。

活動報告であげた診断結果の中で、どれが一番読みたいですか?(書くとは限らない)

  • 魔法剣士【綴られた手紙】
  • 令嬢【どうか、叶えて】
  • 女魔術師【君のワガママ】
  • 魔法剣士と令嬢【忘れてください】
  • 魔法剣士と女魔術師【貴方の為だけの】
  • 三人【騙し騙され愛し愛され】

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