でももう修正するには遅すぎるのでこのまま行きます。ここは別の四方世界ですし。予防線が生きたな(二度目)
感想でモチベが上がったので初投稿です。
皆さん本当にいつもありがとうございます。
だいぶ傾いた夕陽を背に浴びながら、ゴブリンスレイヤーは牛飼娘と並んで牧場への道を歩いていた。
夕暮れとは言え初夏の日差しはまだ強く、牛飼娘は汗をうっすら滲ませている。が、鉄兜を被ったままの彼はまるで暑がる様子はない。
奇矯な光景ではあるが彼女にとっては慣れた光景であり、気にする事も無く会話を続ける。
「今日はゴブリン退治お休みだったよね?」
「ああ」
「ずっとギルドにいたみたいだけど、何してたの?」
「盾の使い方を教えていた」
「えっ」
目を丸くする牛飼娘に、ゴブリンスレイヤーは槍使いから受けた依頼だと説明する。
彼女はその言葉にますます驚きながらも、詳しい話を聞きたがってきた。故にゴブリンスレイヤーは話を続ける。
決して面白い話ではないはずだ。少なくともゴブリンスレイヤーはそう思った。
魔法剣士は熱心で真面目に練習していたが、やることと言えば自分が振るう木剣をひたすら盾で受けるだけ。
途中休憩を挟みながらではあるが、それを丸一日続けたというだけの話だ。
しかし彼女は興味深そうに話を聞き、時々相槌を入れてきた。幾度か魔法剣士の脚を払った、と言った時には非難めいた事を言われもしたが。
だがそれは必要な事だと説明すると、不承不承ながら納得した様子を見せた。
実際必要不可欠なのだ。ゴブリンですら鎧の無い箇所、盾の届かない箇所を狙ってくる。いわんや他の相手ならば。
自分はゴブリンスレイヤーだ。だが、魔法剣士は冒険者なのだ。事と次第によっては同じ人間を相手にする事もあるだろう。
なら、それを前提として学ばねばならない。自分などよりずっと優れた技量の持ち主など幾らでもいるのだ。それらの相手はもっと巧みに狙ってくるだろう。
「それで、どうだったの?」
「どうだった、とは」
「上手く教えれたのかなー、って」
「上手く」
その言葉に彼は鉄兜を傾け、少し考え込む。果たして自分は上手く教えられたのだろうか。
そもそも人にどう教えればいいのか彼には分からない。自分が師から教わったやり方の他は知らないのだ。
故に盾の使い方 ――――― 敵の攻撃を受け、逸らし、流すという理屈を教えた後はひたすら木剣で打ち込んだ。彼がやったのはそれだけなのだ。
魔法剣士は最後の最後で何か掴んだようだったが、それは自分の教え方が良かったからだとは彼は思わない。
あれは魔法剣士の勘の良さと、理屈を解する頭の良さ。そして質問こそすれど、愚痴は一言も言わず丸一日鍛錬に励んだ真面目さの賜物だろう。
なにせ同じような ――――― 否、もっと容赦はなかった ――――― 教え方をされた自分は中々身につかず、師に散々殴られたものだ。
なら自分の教え方ではなく、魔法剣士の方に良さがあったのは明白だ。さりとて、悪かったとも言い切れない。なにせ基準がないのだから。
「俺の教え方が良かったかどうかはわからない」
だから、彼は正直に自分の考えを口にする。嘘をつくな、というのはずっと言われてきた事だ。師にも、姉にも。
そして彼自身もそうあるべきだと思っている。勿論必要な時が存在する事ぐらいは理解しているが、必要な時以外はつくべきではない。
「ただ、あいつは使い方を覚えた。常に出来るとは限らんが」
「それは君の教え方が良かった、って事じゃない?」
「良かったのは俺の教え方ではなく、あちらの素質だろう」
「じゃあ、両方良かったんだよ、きっと」
「両方」
「そう、両方。教え方と、素質と」
「ふむ」
「うん、きっとそう!」
言い切る彼女の言葉に、ゴブリンスレイヤーは反論しなかった。
確かに素質だけですぐに出来る訳はない。天才ならば、特別な人間ならば別だろうが。
少なくとも彼が見る限り、魔法剣士はそういう類の人間ではない。なら、自分の教えも多少は役に立ったのだろう。
そうして会話を続けるうちに、彼はふと気付いた。
牛飼娘がゴブリンスレイヤーに話しかけ、彼はそれに相槌あるいは短い言葉で答える。そして時々、ちょっと考えてから長い言葉を喋る。
普段通りと言えば普段通りではある。だが、普段とは違う点がある。
「機嫌が良いな」
「えっ?分かった?」
わざわざ言うような事ではないのかもしれないが、言葉の端々に弾むような調子があった為に気になった。
上機嫌であるならば何か良い事があったのだろう。彼女に良い事があったのならそれでいい。
だから言わずとも良かったのだが、なんとなく言うべきな気がした。仲間やそれ以外の人々の付き合いから、そうするべきな気がしたのだ。
これまではそんな事を考えもしなかったのだが。
「良い事があったのか」
「うん。すっごく良い事があったよ。何か分かる?」
「む」
ニコニコと笑顔を見せる牛飼娘から発せられた問いに、ゴブリンスレイヤーは少し考え込む。
その様子を見て、また牛飼娘は上機嫌になる。彼にはきっと分からない。だが、彼はいつだって真剣に考えてくれる。
彼は「いいかげん」とか「適当」という言葉とは無縁なのだ。良くも、悪くも。
「……わからん」
だから、この言葉も真剣に頭を悩ませた末の言葉で。
それはとても嬉しい言葉なのだ。
「正解は、君の事をちゃんと知ってくれてる人が増えたから、でした」
「俺の事を」
ふむ、と呟きゴブリンスレイヤーは考え込む。自分の事を他者が知っているかどうか。どう思っているか。
気にしてこなかった事だ。
気にもならなかった事だ。
気にも留めなかった事だ。
だが、見落としてきた事という気もする。見落としてはならなかった事だった気もする。
自分はゴブリンスレイヤーで、他人もそう認識している。それは事実だ。それだけが事実だと思っていた。
だがきっと、それだけではなかったのだろう。少なくともそれだけなら、彼女は上機嫌となるはずがない。
「俺はどう見られている」
「気になる?」
「ああ」
「真面目で誠実な冒険者だって」
「それは」
牛飼娘の言葉にゴブリンスレイヤーは言葉に詰まる。彼女の口から出てきた言葉は、誰の事を差しているのかまるでわからない。
これまでの会話からすれば自分の事なのだろうが、到底当て嵌まる言葉に思えない。
「俺がか?」
「うん。ほら、今日君が教えてた子の先生って言うか、師匠の人?いつも槍持ってるあの人とか、君が助けた冒険者の子達とか」
彼女が言っているのは槍使いの事だろう。が、彼を友人と言っていいのだろうか。
小鬼王との戦い以来確かに言葉を交わす事は増えたし、彼が目を掛けている魔法剣士絡みで依頼を受けた。
そしてそれを遂行した事で、報酬として酒を酌み交わす事にもなった。それは確かだ。
だが友人と言うには些か図々しいだろう。少なくとも向こうがそう思ってくれるほど親しく付き合っているわけではない。
精々同時期に冒険者となり、顔を合わせれば多少言葉も交わす仲。つまり顔見知りと言ったところか。
魔法剣士との関係については成程、確かに槍使いはそのように見られている。
少なくともギルドに出入りしている冒険者達の間では、そうだ。ゴブリンスレイヤーですらそう耳にするし、漠然とそう思っていた。しかし。
「師弟関係ではない、らしい」
「そうなの?」
「本人はそう言っていた。師匠と目されている方も、弟子と見られている方もな」
依頼を受ける時に聞いた際、槍使いは否定した。依頼を遂行する最中に聞いた時、魔法剣士も否定した。だから師弟関係は存在しないはずだ。
もっとも、それに似た関係ではあるようだが。
少なくとも槍使いは自分に依頼を出して魔法剣士を鍛える程度には気にしているし、魔法剣士は率直に槍使いに対する尊敬を口にしていた。
師弟の ――――― 少なくとも自分の知っている師と弟子のそれではない ――――― 関係ではなくとも、別の何かはあるのだろう。
「そうなんだ……でも、そう言ってたのは本当だからね」
「そうか」
「そうだよ」
彼女が嘘をつくはずもない。なら、本当にそう言っていたのだろう。
過大評価ではあるが、少なくとも彼女らはそう見てくれているという事だろう。
「君のやってることを、ちゃんとに評価してくれてる人たちがいる。それがあたしには嬉しいのです」
「そうか」
「それに、君が助けた人たちが今も元気で、頑張って冒険者続けてる。これって凄く良いことだよね」
「……そうだな」
一度そう呟くと、彼はゆっくり首肯する。そしてもう一度、はっきりと言った。
「そうだな、良いことだ」
それはとても良いことだ。ゴブリン退治よりもずっと。
そして、絶対に見落としてはならない事だろう。この先も、ずっと。
―――――
疲れた。心地良い。相反する二つの感覚を、宵の口を迎えた酒場で魔法剣士は楽しみながら味わっていた。
丸一日盾で木剣を受ける訓練を受け、自分でも驚くほど集中してそれをこなした。言ってしまえばそれだけだ。
後ろに下がる悪癖を修正し、斜めに受けて力を逸らす。言葉にすればたったそれだけだったが、何とも難しいものだった。
結局出来たのは最後の一回、それも確実に出来るようになったとは言い難い。これからも練習が必要だし、実戦でやってみねば身につかないだろう。
それでも一応出来るようになったのは、ゴブリンスレイヤーのおかげ以外の何物でもない。
使い方を教えた後、中々覚えない出来の悪い生徒に対し苛立つでも罵声を浴びせるでもなく淡々と練習に付き合う。誰にでも出来る事ではない。
質問すれば必ず回答をくれたし、時折脚を払ったり動きに変化を加えたりと練習の為の練習にならぬよう工夫も凝らしてくれた。
依頼だったとは言え、これほど至れり尽くせりで教えてくれた彼には感謝しかない。
また、わざわざ依頼を出してまで ――――― しかも本人はそんなことを一言も言わずに ――――― 仲介してくれた槍使いにも心から感謝していた。
本当に自分は周囲に恵まれている。冒険者になる前も、なってからもずっと。
「
「任せなさい……って言いたいけど、まだ見習いもいいところよ。過信したらダメね」
女武道家の問いに、ほんの少し自信を滲ませながら女魔術師が答える。
自分は間違いなく、仲間にも恵まれている。女魔術師は妖精弓手に頼み込み、野伏としての知識を学んできたという。
探索役に欠ける一党にとっては生命線とも言える知識と技能だ。それをどうにかしようとしてくれる彼女には本当に頭が下がる。
女武道家は格闘技の技術を磨いていたらしい。単純に個の戦闘力もまた必要なものだ。彼女の判断もまた正しい。
ついこの間
この仲間達の為にも、頭目として1人の冒険者として自分は努力をする義務がある。
いや、努力は義務ではない。技能や知識を身に付け、結果を出す事が義務なのだ。履き違えてはいけない。
自分は天才ではないから、努力しなければ身に付かないというだけの話だ。今日のように。
それを厭う人間は大勢いる。気持ちは分かる。自分も努力などせずあらゆるものがすぐ出来るようになる、特別な人間であったら良かったと夢想する時はある。
そういう人間であったならさぞ気分はいいだろう。
だが、現実はそうではないのだ。だから努力は必須だ。
無論頭の中で夢想して楽しむ事に罪はない。自分だって時々する。それは後ろ指を指されるような事ではない。
そちらをまるで「本当の自分」のように考え、現実から目を背けてしまってはいけない。ただそれだけだ。
それに、と魔法剣士は心の中で思う。自分は努力する事が嫌いではない。
自分だけではない。学院で学んできた女魔術師や、親から体術を学んだ女武道家だってそうだろう。
彼女達は自分同様、努力の先にある喜びを知っているはずだ。必要だからやる、というだけではない。努力の結果が齎すものを知っているはずなのだ。
努力の果てに何かを成し得た時、それはとてつもない感動を生む。今日がそうだったように。
その喜びを知ってさえいれば、努力は出来るものなのだ。大変なのは変わらないけれども。
「そっちはどうだったのよ」
「あたしはほら、あの人分かる?ベテランの武闘家の人に色々習って……」
身体は酷く疲れている。だが、その疲れもまた心地良い。
耳に入ってくる二人の声も心地良い。それは自分も仲間も気分が良いから、というのもあるだろう。
酒場の賑わい ――――― 控えめに言っても喧騒としか言えないそれも、今は悪い気がしない。
そういった様々な音を遠く聞きながら、彼は殆ど意識せず目を閉じて ―――――
「あなたの方はどうだっ……た……」
魔法剣士に話を向けようとして、女魔術師は驚きのあまり言葉に詰まってしまった。
額に巻いた包帯も、清潔感はあるが簡素に過ぎる服装もいつも通り。だが、その目はごく自然に閉じられている。
軽く腕を組み、首を下に傾け、ゆっくり上半身を前後させているその姿はどう見ても ―――――
「……居眠り、初めて見たかも」
女武道家の言う通り、彼はどう見ても居眠りをしていた。そして、そんな姿を見せるのは本当に初めての事だ。
依頼の最中も、依頼が終わった後も。こんな風に居眠りする事など彼にはなかった。
まだそう長い付き合いという訳ではないが、そんなことをする人間ではないと思わせる人間でもあった。
ところが今、目の前で明らかに居眠りをしている。それは二人を驚かせるのに充分過ぎる姿だった。
だが、彼も人間なのだ。そういうこともあるだろう。そう思いながら、女魔術師は魔法剣士の様子を伺う。
表情を変えないせいで実年齢より大人びて見える顔は、今は自分達と変わらない年相応の少年に見えた。
格別美男子という訳ではないが、普段の硬い印象と真逆の雰囲気になっている今はとても魅力的に映る。
いや、普段の姿に魅力が無いという訳ではないけれど。そもそも彼の魅力は外側にあるものではなく……
「近い近い」
「うっ」
襟を掴まれ、グッと引かれたせいで一瞬息が詰まる。
女武道家による乱暴な引き離し方に文句を言いたくなったが、何も言えない。確かに近付き過ぎていた。
具体的に言うと、椅子を立ち上がって彼の顔を覗き込んでいた。睫毛が意外に長いとか少し唇が乾いているとか分かるぐらいに。
あと、少しだが汗に混じって独特の匂いがした。恐らくあれが男の匂いというものなのだろう。
「料理が来るまでは寝かせておいてあげよ」
「……そうね」
彼の居眠りは珍しい事ではあるが、悪い事ではない。この季節に風邪をひく心配はないし、今は依頼中でもなんでもないのだ。
たまには休ませてあげていいだろう。ただでさえこの生真面目な男は普段から気負い過ぎなのだ。
そう結論付けると、女魔術師は自分の席に戻り彼の寝顔を眺める事にした。その様子を見て女武道家は少しニヤついたが、何も言う事はなかった。
なお、このすぐ後に酒場に来た妖精弓手が「珍しい!」と騒いだために魔法剣士は起こされることになった。
―――――
受付嬢から言われていなければ、中性的な容姿をした美男子だと勘違いしていたかもしれない。
極めて失礼ではあるが、魔法剣士がその「女性」に対して抱いた第一印象はそれだった。
背丈は自分とさほど変わらない……いや、向こうの方が少し高い。これもまた勘違いさせる原因だった。
加えて女性用ではなく一般的な男性用の
というよりも、恐らく彼女は意図的に男性の様に見せているのだろう。
つまり、男装の麗人 ――――― 物語だけの存在とばかり思っていた ――――― というやつだ。
美しい金色の髪と容貌を持った、齢は自分とそう変わらない ――――― つまり、少女と言っていい年頃。魔法剣士はそう当たりをつけた。
「君達が
紛れも無く女性のものである声を聞いて、ようやく魔法剣士は目の前の人物が女性であると確信を抱く。
同時に彼女の立ち居振る舞いから、彼女が貴族あるいは相当に地位の高い騎士の家の出であると確信する。
ごく自然と行われる所作は、間違いなく高い身分に生まれた者のそれだ。
自分の様に習った動きを意識しながら行うのではなく、ごく自然に身体が動いている。
幼い頃から「そういうもの」として躾けられた身分の者だけが行える動きだ。自分の婚約者がそうだったように。
婚約者の顔を少しばかり懐かしく思いながら頷いて見せると、彼女はパッと表情を輝かせる。
そして自信と活力に満ちた声で、こう言った。
「是非僕を君達の一党に加えてくれたまえ!」
それが彼らと彼女 ――――― 麗人剣士との出会いだった。
Q.ゴブスレさんと魔法剣士君は相性いいの?
A.相性はいいです。二人だけだと仕事中必要な打ち合わせだけして私語や雑談が発生せず、昼食は別々だし仕事終わりに飲みに行く事も無い職場のようになりますが。
Q.ベテランの武闘家って誰?
A.漫画版の小鬼王戦や、イヤーワン2巻に出てきた武闘家の女の子です。
具体的には小鬼英雄率いる田舎者達と戦ってる時、飛び膝かましてた人です。
Q.麗人剣士って原作いた?
A.いません。オリキャラです。スペックなどに関しては次回以降。
活動報告であげた診断結果の中で、どれが一番読みたいですか?(書くとは限らない)
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魔法剣士【綴られた手紙】
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令嬢【どうか、叶えて】
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女魔術師【君のワガママ】
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魔法剣士と令嬢【忘れてください】
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魔法剣士と女魔術師【貴方の為だけの】
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三人【騙し騙され愛し愛され】