謎解きに関しては感想欄で色々書いてくださっている方々がいますが、ネタバレを避けるために特に触れませんのでどうかご容赦ください。
みんなちゃんと解こうとしてる……ウレシイ……
麗人剣士にとって、冒険者とは憧れだった。
貴族に生まれた彼女にとって、己の力で道を切り開く者は偉大なる存在だった。
思慮よりも行動こそを重んじる彼女にとって、それは単に夢見るものではなくいずれ己が成るべきものだった。
なにより没落した家の人間である彼女にとって、家を再興する殆ど唯一の道であった。
故に幼い頃からひたすら剣の腕を磨いてきた。彼女にとって、冒険者とは剣を以て名を馳せるものだった。
勿論長ずるにつれてそれだけではないとは知ったが、それでも彼女はひたすらに剣の腕を磨いた。
冒険者の本質は荒事にある。荒事で以て冒険者とは名を馳せる。彼女の認識はそういうもので、それは一つの真理でもあった。
英雄に憧れ剣の腕を振るううち、彼女は自然と男のような振る舞いを身に付けていった。それは英雄ごっこの延長であり、彼女にとっての化粧のようなものでもあった。
それを咎める者は家族にはいなかった。それは我儘を許す愛情でもあり、いずれ家を出る者なのだからと突き放した姿勢でもあり、何よりある種の希望でもあった。
一応の財産はあるものの、領地はなく。家に歴史があるわけでもなく、血筋に栄誉もない。
縁談を纏める事は出来なくもなかったが、それは家の再興に繋がるほどのものではない。
ならば体格にも恵まれ、剣の才もあり、勇ましき心を持った娘に一縷の望みをかけてみよう。それが一族の総意となった。
家を継ぐべき兄も弟も、他に嫁がせる姉妹もいたのも一因だろう。つまり、彼女は失ったところで惜しくはない一人であったのだ。
なにより、そういう道を彼女が望んでいた。
己の剣で身を立てたいと。英雄になりたいと。傾き沈みゆく家を救いたいと。
家の思惑と彼女の望みが一致している以上、止める者など出るはずもなかった。
そうして成人を迎えると、彼女は家から資金と装備を貰い旅立った。自分と同じような者は、冒険者には多くいるだろう。
志を同じくする者達で一党を組み、何年かかってでも四方世界に名を馳せる英雄に。そして我が武名で以て、家の再興を。そう考えていた。
だが自分が他の冒険者に比べて、遥かに恵まれた旅立ちだったのだと彼女が知ったのは程なくだった。
彼女が直面したのは、まともな装備一つ持たずに冒険者となる者の多さ。そして技能も無いままに冒険に挑む者の多さ。
その結果、最初の冒険が最後の冒険になる者の多さ。
夢見ていたものと実態は大違いなのだと知った彼女は、しかし諦めなかった。そもそもそんな言葉は頭によぎりもしなかった。
自分の様に訓練を積み、充分な資金と装備を持っている駆け出し冒険者など稀。だからなんだというのだ。
訓練を積んでいなくとも、資金も装備も無くとも。夢があり、志がある仲間を見つければいい。
訓練は実戦の中で積めばいい。依頼をこなして資金を稼ぎ、装備を整えればいい。それまでは自分が何とかすればいい。
達人になってから戦場に出るような呑気な者はいない。戦場に出て、戦場で達人になるのだ。およそ彼女の考えとはそういうものだった。
そして腹を括って前を見てみれば、そういう者は少なからずいた。そして、彼女と同じようにそういう者達を纏めて束ねようとする者も。
その集団に加わり、
それでも幾度となく依頼をこなし、怪物を仕留め、遺跡を踏破した。それがずっと続いて行くものだと思っていた。
だが1年ほど経ったある日、その生活は不意に終わりを告げた。
と言っても悪い形ではない。貴族の三男坊だった一党の
嫡男が急な病で亡くなり、次男は夭折している。故に彼が家を継ぐ事になった。
まさか冒険者を続けたいから断る、などと言い出すはずも無く。また、言い出したとしても許されるはずも無く。彼は跡取りとなって家に戻った。
それに関しては不満などなかった。むしろ一党全員が心から祝い、彼の前途が明るいものを祈った。
だが、残された一党に関しては各々 ――――― 麗人剣士も含め ――――― 不満を持っていた。
深刻な不満では決してない。誰しもどうしても気の合わない相手や、しっくりこない相手はいるものだ。
それが喧嘩になるほど酷くはないが、仲良くやって行く事は難しい。残された一党の面々とはそういう間柄だった。
頭目はそんな一党を上手く纏め、全員の中を上手く取り持ち、見事に率いていた。それが彼の稀有な才だったのだと気付いたのはいなくなってからだった。
残された面々で今後について話し合った時、彼女は自分が思っていた以上に仲間と噛み合わない事を悟った。
それは他の仲間も同じだったらしく、程なく一党を解散するという流れに落ち着いた。誰も異論を挟まなかった。
こんな集団を破綻の兆しすら見せず率いていた彼は本当に凄かったのだ。
話し合いを終え、皆が皆そんな思いを抱きながらそれぞれの道を歩き出した。
ある者は冒険者を辞め。ある者は別の一党に加わり。ある者は単独で動き出した。
麗人剣士も新たな仲間を探そうと思っていた矢先、ある噂を耳にする。
『西の辺境の街で、駆け出しの一党がたった三人で
吟遊詩人が唄にするほどでもなく、冒険者の間で噂が持ち切りとなるほども無い。
たまたま西の辺境に旅する事のあった冒険者が、仕入れた噂を気まぐれに語っただけのこと。
しかし、その話は麗人剣士の心を強く惹きつけた。下級とはいえ魔神を屠る。それは間違いなく栄誉だ。
狙ってやったのならば、強い野心や高い志を持った一党だろう。
偶然によるものだとしても、実力と運を兼ね備えた有望な一党だろう。
いずれにせよ、その一党とならば道は切り拓けるだろう。未来が見えるだろう。
そう考えた彼女は躊躇う事なく、その一党が拠点としているという西方辺境の街へと旅立った。
繰り返すが、彼女は思慮よりも行動こそを重んじる人間である。
一党に加えてもらえるかどうか、自分がその一党に求められている人材であるかどうか、人として付き合っていけるかどうか。
これらの事を考えないほど、彼女は短慮な人間ではなかった。なかったが。
行ってみなければ分からない事に考える時間を費やすぐらいならば、行ってみた方が早い。
縁が無い、あるいは人として合わないなら他を探すなり戻るなりすればいい。全ては行動の後でいい。
彼女はそんな風に考え、動く人間であった。
―――――
「おおよそそんなところだね」
夜気に包まれた
まだ依頼先の村への道程があることと、麗人剣士と女武道家は見張りをしなくてはならないことを考えれば早く休まねばならない。
しかし年頃の娘が三人も集まれば話の一つもしたくなるというものだ。
それに知り合って間もない間柄であれば、警戒を解くためにも互いを知ろうとするのは当然だろう。
故に三人各々が簡単に経歴や冒険者としての夢を語り、ささやかながら親睦を深めていた。
「なんていうか……」
「向こう見ずなところがあるのね、あなた」
女武道家と女魔術師が呆れたような視線を向けてくる。それを受けて麗人剣士は笑って見せた。
彼女に言わせれば、自分は考えなしではない。考えた上で考え続けるより動くことを選んでいるだけなのだ。
勿論それが他人からは考えなしに見えるのは分かっている。なので二人の視線と台詞は想定の範囲内だ。
「そういえば、彼の過去はどうなんだい?」
そんな風に話しているうち、麗人剣士はふと天幕の外で見張りをしている魔法剣士の事が気になった。
軽い質疑応答と
その決定に関して二人に相談した時、「彼がそう判断したなら問題ないだろう」と全幅の信頼を置かれていた彼。
彼はいかなる過去を持ち、いかなる理由で冒険者となり、いかなる志を持っているのだろう?
それを聞いてみたくなったのだが、女武道家と女魔術師は顔を見合わせた。そして「知っているか」と言いたげな視線を互いに向け合う。
その視線に殆ど同時に首を横に振る。これには麗人剣士も驚いた。
冒険者になったばかりの頃からの付き合いだと言うから、てっきり知っているものだとばかり思っていた。知っていて当然だとすら。
しかしそれは間違いだったらしい。
「あんまり昔の事話さないのよ、彼。父親が魔術師だったから魔術を習ったのは聞いたけど」
「あ、でもあたし前に王都の生まれだって聞いたよ」
「えっ」
女魔術師が目を丸くする。そういえば彼女は魔法剣士が自分の事を最初に注視した時、嫉妬したような態度を取っていたことを麗人剣士は思い出していた。
自分達は年頃の娘なのだから、そういう事もあるだろう。
むしろ自分だって相手がいるならばしてみたいという気持ちはある。それに古くから言うではないか。
『命短き、恋せよ乙女』と。
なので、特に何も言わないことに麗人剣士は決めた。
二人の話から分かったのは、彼は王都の生まれだということ。父親が魔術師で、その父から魔術を習ったということ。
辺境最強の勇士と名高い槍使いと交流があること。そして仲間である彼女らから深い信頼を得ており、彼もまた彼女らを信頼しているということ。
そして何より、外なる神の
外なる神と聞いて最近流行の覚知神のように邪神の類かと警戒したが、二人の話を聞くにどうやらまるで違うらしい。
王都で生まれ育ちながらそこで冒険者にならず、この西方辺境へとやってきたのもその外なる神の導きによるもののようだ。
成程、あからさまに淫祠邪教の類でないなら神の声には従うのは当然の事だろう。
麗人剣士だとてもしそんな託宣を受けたなら、喜び勇んで駆け出していく。
あるいは冒険者になった理由そのものも、その辺にあるのかもしれない。神の託宣を受けて冒険者となり、神から与えられた使命を果たす事を目標とする。
いかにもありそうな理由だ。そしてそれならば仲間にも言っていないことに納得がいく。
神から賜った使命など、軽々しく人に言うものではないだろう。無論協力を求める時は明かさざるを得ないだろうが。
まるで自分が特別な存在であるのを誇示するかの如く、神からの使命を吹聴する神職もいるにはいる。が、その手合いに関しては麗人剣士としては軽蔑の対象だ。
使命とは聞かれて答えるならともかく、言いふらすものではない。ただ黙々とこなすものだ。
こなした後で己の業績を誇るなら理解できるし称えもするが、成し遂げる前に称賛を求めるのは順序が違う。
それに、そもそも神からの使命とは称賛を得るために果たすものではない。果たすべきものであるから果たすのだ。
彼もそう考えているとすると、こちらから聞くのもあまり良いことではないだろう。彼が必要であると考え、明かして来た時に聞けばいい。
そもそも仲間であるのに、一々過去を根掘り葉掘り聞く必要はないのだ。大事なのは今どんな人物であるかだ。
言いたいならば言うのは自由。言いたくないなら言わないのも自由。
聞きたいなら聞くのは自由。聞きたくないなら聞かないのも自由。
それが冒険者というものだ。
「まあ、言わないなら聞かない方がいいよね」
「そうね、気にはなるけど……言いたくないし聞かれたくないことだったりするかもしれないものね」
どうやら彼女らもそういう考えに落ちついたらしい。
この辺りの感性にズレが無いのはいいことだと麗人剣士は思う。余計な摩擦を生まずに済む。無論違いが無いことで不都合も生じる時があるのだが。
「ま、話はこの辺にして眠ろうか」
「そうだね、見張りもあるし」
「明日も歩くものね」
一区切りがついたところで話を切り上げ、眠る準備に入る。歓談は楽しく必要な物でもあるが、睡眠はそれ以上に重要だ。
麗人剣士も眠りにつくべく、肌着を脱ぐ。
そして胸を締め付けていたさらしを外し、寝袋の傍らに置いた。
窮屈な束縛から解放された豊かな双丘は鬱憤を晴らすかのように揺れ弾み、それと同時にずっと感じていた息苦しさも消失する。
男装をするため、また男からの余計な視線を避けるためにずっとこうしてきたがやはりこの窮屈さにはなれない。
一時的に胸を小さくする魔法の道具でもあればいいのだが。
ふと二人を見ると、ポカンとした表情でこちらを ――――― こちらの胸元を凝視していた。
その視線に関しては無理もないと麗人剣士は思う。すっかり胸を押し潰し、男性用の
恐らく胸はほとんどないか、あっても僅かな膨らみ程度だと思われていたのだろう。
それが一転このような、人並み以上に豊かな女魔術師よりさらに実った立派な物を持っていると知ったら同性でもつい見てしまう事だろう。
これの豊かな胸もある意味では他人には言いたくない、知られたくないことである。
そう考えるとやはり魔法剣士の過去をあれこれ詮索するのはよくないな、などと麗人剣士は考えた。
自分だってこうして秘密の一つや二つはあるのだから。
「色々面倒だから、内緒にね」
左手で豊乳を指差し、右手を人差し指だけ立てて口元に添え「秘密」と身振りで示す。
二人が無言で頷くのを見て、麗人剣士は寝袋の中へと潜り込む。
彼女らはつい口を滑らせるような粗忽者でも、下手に吹聴するような人間ではないだろう。
知り合ってまだ一日が終わっていないが、そういう人間であると思えた。
再三再四になるが、麗人剣士とは思慮よりも行動こそを重んじる人間である。
信頼できると思ったのなら、実際に信を置いて疑わない。
彼女とはおおよそそういう人間だった。
―――――
無手で挑むのは己の技量を試すだとか、武器が無くても勝てるとかそういう事ではない。単に
ゴブリンスレイヤー一党の一人である蜥蜴僧侶から以前聞いた話によれば、蜥蜴人は鱗と爪と牙と尾を至高とするという。
何故なら、彼らは竜を目指しているから。竜が剣や槍を振るい、鎧を身に付けることなどない。
道具を使うのは未熟の証。されどその未熟を恥じる事はない。道具を使うには技術が必要で、道具が使えるならそれは技術を身に付けた強者であるから。
なら鱗も爪も牙も尾も持たない自分が道具を捨て、無手で相対したらどうなるか。
こちらも未熟なりに竜の如くあろうとしていると思う事だろう。そう思わずとも、竜の如く戦うのだと考えるだろう。
であるならば、鱗も爪も牙も尾も持っている彼らが武器を持ちだすだろうか?女武道家はそうは思わない。
きっと武器を捨て、無手で戦おうとするはずだ。彼らの生まれ持った武器以外には頼ろうとしないはずだ。
武器を使われるより、そちらの方が自分にとってずっとやりやすい。そういう計算を彼女は働かせた。
口に出してしまっては意味が無いので、仲間には言えなかった。
しかし、察したのか単に好きにさせてくれるのかは分からないが、仲間は何も言わず送り出してくれた。
こういう時、女武道家はいい仲間に恵まれたといつも思う。
自分の実力を信じて任せてくれる魔法剣士も。自分なら大丈夫だろうと言ってくれる女魔術師も。
そして、自分に代表を譲ってくれた麗人剣士も。
皆女武道家の実力を信じ、頼ってくれる。任せてくれる。それはとても嬉しいことだ。
その信頼に応えたいと思う。そういう仲間だ。そういう人達だ。
同時に、どうしてもここに幼馴染がいない事に寂寥を覚えてしまう。ここに彼がいれば、いることが出来たならと。
だがもう、彼はいないのだ。彼の、彼との冒険は終わってしまったのだ。
しかし彼と一緒に組んだ
この一党と共に、少しでも困っている人の力になる。そうして助けた人達は、彼の事を知る事はないだろう。
だが、間違いなく彼に繋がっているのだ。直接的でなくとも、彼が残したものがこの四方世界に残り続けるのだ。
そのためにも、自分は冒険者を続けていく。この一党と、仲間達と。
仲間の信頼と、胸の中の誓い。その二つが、女武道家の背を押してくれる。
それは彼女自身が驚くほど、気力の充実をもたらし彼女の精神を昂ぶらせた。
一方、彼女と戦うべく前に出た蜥蜴人の戦士も昂ぶっていた。
蜥蜴人とは戦いに臨むならば必ず昂ぶる生物ではあるが、この時彼はかつてないほどの高揚と歓喜に満ち溢れていた。
この只人は、鱗も爪も牙も尾も持たぬ女は。武器を捨て、身一つで挑んでくる。
これを讃えずして、他に何を讃えろと言うのか!
恐るべき竜を目指す彼らにとって、武器や防具を使うのは未熟以外の何物でもない。
だが、誰もが最初は未熟なのだ。故に強者となるべくして研鑽を積む。その過程において、道具を使うのは何も悪くない。
しかし、しかしだ。未熟でありながら、未熟なままに。目の前の無手で蜥蜴人に挑んでくるのだ。
勇敢だ。無謀でもあるが、それ以上に誉ある勇士だ。素晴らしい強敵だ。
自分がこれまで戦ってきた敵達の中で、最も価値ある強敵と言ってしまっていい。
故に彼は両手に持っていた黒曜の剣を捨てる。この敵を相手に武器を使うことなど考えられなかった。
真の強敵に対しては、有利不利など考えず素手で挑む。それが蜥蜴人にとって最大の敬意だった。
そして勝ったなら、相手の心臓を喰らう。そうして相手と一つになり、共に恐るべき竜を目指す。
負けたなら、心臓を喰らって貰いたい。そして自分を打ち負かした相手と共に、恐るべき竜を目指したい。
それが蜥蜴人というものだった。
剣を捨てた彼を相棒である竜司祭が羨ましげに見てくるが、この相手を譲る気はなかった。
勝つにせよ負けるにせよ、これ以上の相手はいないのだから。
「行くわよ!」
「行くぜぇ!おお、我が父祖たる
麗人剣士の合図と共に決闘が始まり、双方が勢い良く距離を詰める。
蜥蜴人の戦士は躊躇なく上から両手を振り下ろし、爪で以て女武道家を引き裂かんとする。
だがそれを掻い潜り、女武道家は蜥蜴人の戦士の懐へ入ると鳩尾目掛けその拳を突き出す。
一般的な只人の男性のそれを遥かに凌ぐ一撃が鳩尾へと突き刺さるが、鱗に覆われた身体は僅かに身じろぎをする程度で揺らがない。
されどそれに驚くでもなく、蜥蜴人の戦士が動くより先に女武道家は横へ回り背後を取ろうとする。
彼女が後ろに回った瞬間、唸りを上げて尾が横薙ぎに襲い掛かる。しかし軽やかに後方へと跳び、彼女はそれを回避する。
一連の攻防の後、女武道家は僅かに表情を硬くした。対照的に蜥蜴人の戦士は笑みを深める。
そしてまた両者共に距離を詰め、動きを止める事なくぶつかってはまた離れる。
遠間においては尾を、近付けば爪を、懐に入られれば牙を剥く蜥蜴人の戦士。
それを全て避けてみせ、体重の乗った一撃を鱗の硬さにも怯む事なく叩き込んで行く女武道家。
速さと手数、技術においては女武道家が、筋力と頑健さにおいては蜥蜴人の戦士が上回るこの攻防。
圧倒的に有利なのは、蜥蜴人の戦士であった。
女武道家の拳は決して軽くはないが、充分な
一撃必殺など望むべくもなく、何発も叩き込んでの蓄積が必要となる。
対して蜥蜴人の戦士は一撃でよかった。爪が突き刺されば、牙が食い込めば、尾が叩けば。女武道家に対しては充分な痛痒になる。
動きが鈍るとは女武道家の武器である速さが死ぬことであり、そうなればもう彼女の勝ち目はない。
彼女に一撃でこちらを仕留める武器はなく、こちらには彼女を一撃で仕留める武器があるのだから。
そうでなくとも動き続ければ体力を消耗し、少しずつ動きが落ちてくる。攻撃を避け、多くの手数を出し、距離を調節し続けている女武道家の方が当然体力の消耗は激しい。
蜥蜴人の戦士とて動けば消耗し、撃たれれば効いては来るのだが元の体力が違う。
その有利不利にはすぐに戦っているどちらもが気付いたが、さりとて蜥蜴人の戦士は油断などしない。
油断や慢心などせず、全力で相手を仕留める。それが彼ら蜥蜴人の流儀なのだ。
女武道家の方も不利だからと諦めたりはしない。現実に打ちのめされ、折れかけ、それでも立ち上がった心はこの程度では揺るぎもしない。
最後の最後まで、己の持てる全てを使い戦う。それが彼女の在り方なのだ。
しかし心意気だけで体格差や種の違いを覆せるはずもなく、少しずつ女武道家の動きが鈍っていく。
それに伴い徐々に蜥蜴人の戦士の爪や尾が、女武道家の身体を掠めるようになっていく。
決着が近い。戦っている二人だけでなく、決闘を見守っていた魔法剣士一党と竜司祭にもそれが伝わった。
魔法剣士が拳鍔を強く握り締め、女魔術師が息を飲み、麗人剣士が目を見張る。竜司祭を含めた全員がその瞬間を見逃すまいとする。
そして遂にその時が訪れる。左右から挟みこむように襲い掛かる爪を避け、女武道家が蜥蜴人の戦士の懐へと入った。
だがその動きは明確に遅くなっており、また読まれてもいた。それに合わせ蜥蜴人の戦士が大きく口を開き、女武道家を噛み砕かんと牙が迫る。
一党の仲間達が思わず声を上げる。仲間の、大切な友達の命が失われる。そう思った次の瞬間 ―――――
蜥蜴人の戦士の身体が硬直し、膝が崩れた。
「ッ!?」
驚いたのは女武道家以外の全ての存在。中でも最も驚いたのは、戦っていた蜥蜴人の戦士本人だった。
女武道家の拳が胸に添えられた。そこまでは分かった。それだけは自分より速かった。
だがその拳は自分を打つのではなく、添えられただけ。密着した間合いでは強烈な打撃など打てるはずも無く、ここから何かをするには時間がかかりすぎる。
何をしようとも自分の牙が彼女の首筋を引き裂き、命を奪う。それで決着するはずだった。
だがそうしようとした次の瞬間には、これまで受けていた打撃と同等の衝撃が彼を襲っていた。
それも、鱗の表面でなく内部へと襲い掛かってきたのだ。
体内を直接殴られたような感覚に、彼は思わず動きを止めてしまった。そして少し遅れて衝撃は全身へと伝わり、これまでの痛痒と重なって彼に膝を折らせた。
(――――― 動かなかったはずだろ!)
懐に入り、拳を胸に当てた後女武道家は動かなかった。蜥蜴人の戦士はそう認識していた。
だが実際には、その間合いで女武道家は動いていた。力を抜いて重心を下に落とし、身体を捻って力を生んでいた。
それによって生じた力と、丹田で練った気を合わせて身体の内部へと衝撃を撃ち込んだ。それが彼の受けたものの正体だった。
熟達した技術は魔術と区別がつかない。正しくその通りで、彼にはその原理が分からず魔術を受けたようにさえ思えた。
否、正確にはそう思ったのはずっと後の事だった。何故ならこの時彼にはそんな時間は残されていなかった。
衝撃に息が詰まり、膝から力が抜け、頭の中に疑問が浮かんだ瞬間。
彼は強烈な衝撃 ――――― 練った気を込めた女武道家の蹴りを頭に受け、意識を吹き飛ばされていたのだから。
―――――
故事伝承を紐解けばそれはすぐに分かる事であり、知の重みを考えればそれは自明の理でさえある。
力は個に紐付けられ個しか扱えないが、知は残す事さえ出来れば無限に、永遠に広がり万人が扱える。
知を比べ競うのは、力を比べ競う事に劣るものでは決してない。
真理を探究する魔術師であり、学術の徒の端くれでもある魔法剣士はそれを理解していた。
知がいかに生存域を広げ、いかなる効果を持つかを理解している竜司祭もまた同様だった。
故に知恵比べという形式を魔法剣士が選んだとき、竜司祭は敬意をもって受けて立った。
無論女武道家と蜥蜴人の戦士との戦いを見て、血沸き肉踊ってはいた。己もああいう戦いをしたいとは思っていた。
そして勝ったならば相手の心臓を喰らい、負けたなら心臓を喰らわれ恐るべき竜を目指したいとも。
だが知恵比べがあの戦いに劣るものではないと知っている竜司祭は、不満を抱くことはなかった。
如何ほどの知識があり、如何ほどそれを活かす知恵があるのか。それを競う事は、立派な闘争であるからだ。
そして、魔法剣士は闘争の相手として申し分ない相手であった。淀む事なくこちらの出す謎を解いていく様は、いっそ小気味よいものだった。
だからこそ、竜司祭は最後にとっておきの問いを出した。己の持つ知識を、知恵を全て使って考え出した難問を。
「さて、下手人や如何に!」
その謎に対し、魔法剣士は無言で考え込む。
この手の謎掛けは場合分けをしなければいけない。まずは一人に焦点を絞り、それにそれぞれの特徴を当て嵌める。
それによって全ての人間の発言に矛盾が生じないものがどれかを探るのだ。
まず前提条件として、この中に「正義の嘘つき」はいない。自分が犯人であれば、名乗り出るからだ。
しかし全員「自分は無実だ」と主張している。つまり「正義の嘘つき」はありえない。
ではAが「正直者」であった場合はどうか。
Aの証言が真実だとすると、Bは犯人で正直者となる。だが、Bは自分が無実だと主張している。これはありえない。
ならAが「誤魔化す正直者」であった場合はどうか。
これはAが無実であった場合、「正直者」であった場合と同様の矛盾が生じる。
Aが犯人であり「自分は無実だ」と嘘をついているとしても、その後の発言によって矛盾が生じる。Bもまた犯人になってしまう。これはありえない
ということはAは「嘘つき」ということになる。
すると犯人はAであり、Bは無実であり、Bは「嘘つき」あるいは「正義の嘘つき」ということになる。
Bが「嘘つき」である場合、「自分は無実だ」と言っているのが嘘となり犯人ということになる。するとまた犯人が二人になってしまう。
Bが「正義の嘘つき」である場合はありえない。それは最初に分かった事だ。
では次は ―――――
次は、ない。これで全ての場合を試してしまっている。つまりそれは ―――――
(……問題が、解けない)
そのありえない事実に、魔法剣士は愕然とする。この種の問題はこれで解けるはずなのだ。
それで解けないという事は、この問題は違う種類の問題なのか?いや、そんなはずはない。
だが現実に解けない。いったいどういう事なのだ。
答えに向かって進んでいたはずだ。進み方は間違っていないはずだ。それが何故こんな袋小路に入っているのだ。
一瞬にして眼前へと現れた
Q.麗人剣士ちゃんたゆんたゆんなの?
A.牛飼娘(爆の壁)>麗人剣士>女魔術師(巨の壁)>女武道家(普の壁)>女神官(貧の壁)>山田(壁)
男装してる娘はだいたい大きい。魏志倭人伝にもそう書いてある。
Q.麗人剣士ちゃんの前の一党の状態ってどういう事?
A.戒律がバラバラだったけど頭目が「中立・中庸」なので成立していた。
頭目が抜けて他に「中立・中庸」がいなくなったので一党が組めなくなった。
Q.蜥蜴人さんはいったい……
A.公式でこんな感じの種族です。
Q.謎掛けの間は他のメンバー何してるの?
A.女魔術師→自分も考えている。最後の問題もリアルダイス判定成功したので解けてる。ただ決闘なので口出しできず内心悶えてる。
女武道家→解らないけど一生懸命考えてはいる。解けたのは最初の問題だけ。
麗人剣士→どの問題も5秒だけ真剣に考えるけど解けないのですぐに諦めて爽やかな顔してる。
活動報告であげた診断結果の中で、どれが一番読みたいですか?(書くとは限らない)
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魔法剣士【綴られた手紙】
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令嬢【どうか、叶えて】
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女魔術師【君のワガママ】
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魔法剣士と令嬢【忘れてください】
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魔法剣士と女魔術師【貴方の為だけの】
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三人【騙し騙され愛し愛され】