メモ帳と耳かきは家出する癖を改めて。
あとアンケート取ってみますが、書くとは限らないのでご了承ください。
作者の気分で全く別の話書いて出したりするかもしれないので。表には出せないやつとか(小声)
※アンケート投票が出来ない状態になっていたのを修正しました。
(落ち着け)
混乱しかけた自分の頭に対し、魔法剣士は静かに言い聞かせる。
解けないはずがないと。
解けないのは俺が間違っているからだと。
最初から考え直せと。
解けない問題を出したなら、それは出題者の敗北を意味する。そんな事をこの
つまり、この問題も答えはあるはずなのだ。自分が答えに近付けていないだけで。
謎掛けにおいてもっともやってはいけないのはなにか。一つの考えに囚われ、一文に拘りすぎて思考を停滞させ硬直させることだ。
答えに近付けないなら、根本から考え直す必要がある。
一度大きく息を吐くと、魔法剣士はもう一度問題文を諳んじる。詰まったならば一から見直せ、というのは父に散々教わったことだ。
労力をかけたものを手放すのは耐え難いことだが、それは貴重品を惜しんで全滅する愚に等しい、と渋い顔でよく言っていたものだ。
一からやり直す手間を惜しむのは単に怠惰なだけだとも。
同時に自分の持っている知識を全て洗い直す。この問題に対し、この条件に対し有効そうなものはなかったか。
たかだか数カ月ではあるが、冒険者となってから新しく得た知識や経験に使えるものはないか。
最初に受けたドブ攫いの依頼。
初めてのゴブリン退治。
主な収入源となった下水道での活動。
槍使いと魔女と出会い、そして死にかけた馬車の護衛。
思わぬ敵と戦う事になった荷物の配達。
――― これだ。
不意に雷鳴の如く頭で閃くものがあった。荷物の配達の後、依頼人から頼まれたゴブリン退治。
その後
あの時退治したゴブリンの群れの規模は、聞いていた話とは大きく違った。何故か?
依頼人が嘘をついたわけではないが、状況が変化していたからだ。結果的に間違った情報をこちらに伝えることになったからだ。
ならばあの時、もしも
すなわち、
村で窃盗事件が起きたとき、目撃者となるのはまず間違いなく村の人間だろう。
なら目撃者も「四種類の人間」のうちのいずれかと考えるべきだ。
そして自身が犯人であるかどうかについては言及しておらず、「犯人は1人」という嘘をついていることから目撃者は「嘘つき」と見るべきだろう。
つまり犯人はこの中にいないか、二人の共犯か、全員の共犯かのいずれかだ。
それを念頭に置いてもう一度やり直せばいい。
Aが「正直者」であった場合はどうか。
Aの発言が正しいとすると、Aは無実でありBは犯人の一人ということになる。
そしてBは自分が無実だと言っていることから、Bは「誤魔化す正直者」となる。しかしその後無実のAを「犯人だ」と言っている。これでは矛盾が生じる。
ならAが「誤魔化す正直者」であった場合はどうか。
この場合はAとBが犯人であり、Aは自分が無実だと主張していることから「誤魔化す正直者」となる。
Bは無実を主張していることから、Aと同じく「誤魔化す正直者」になる。
同時にBはCが自分とは違う種類の人間だと言っている。つまりCは「正直者」か「嘘つき」か「正義の嘘つき」となる。
だが「自分は無実」と言っているため、「正義の嘘つき」はありえない。
Cの主張は「自分が無実」と「Aが犯人」であり、どちらも正しい。つまりCは「正直者」だ。
Aは犯人で「誤魔化す正直者」
Bも犯人で「誤魔化す正直者」
Cは無実で「正直者」
これで矛盾はない。が、念のために残りの場合も検証することに魔法剣士は決めた。
他も矛盾せず正しい場合、またしても根本から考え直す必要がある。それに自分の答えに絶対の自信が持てるほど、彼は自分を賢いとは思っていない。
Aが「嘘つき」だった場合、Aは犯人でBは無実かつ「嘘つき」あるいは「正義の嘘つき」となる。
だがBは「自分は無実」だと言っている。「嘘つき」にせよ「正義の嘘つき」にせよ、無実の場合「自分は無実」と主張出来ない。
したがって矛盾が生まれるため、この可能性はない。
Aが「正義の嘘つき」である場合も同様だ。「自分は無実」だと言えないはずなのだから、この可能性はない。
つまり犯人が二人の場合、先の答えが正しいという事になる。
なら全員が犯人の場合はどうか。
全員「自分は無実」と主張しているため、「誤魔化す正直者」か「嘘つき」のどちらかとなる。
Aは「Bが犯人」という真実を述べていることから、「誤魔化す正直者」となる。
BはAが「Bは正直者」と言っているため、同じく「誤魔化す正直者」となる。
CはBが「Cは自分とは違う種類の人間」と言っているため、「嘘つき」となる。
だがCは「Aが犯人」と真実を述べてしまっている。これでは矛盾が生じてしまう。つまり全員が犯人だということはありえない。
――― 解けた。
これしかないように思える。矛盾はない。しかし、不安はある。
他に可能性が無いのであれば、どれほど荒唐無稽であったとしてもそれが答えなのだ。しかし、可能性を見落としてはいないだろうか。
昔なら、冒険者になる前なら。この辿り着いた答えに自信が持てていた気がする。
今は違う。自分が思った以上に賢くなく、思っていた以上に知識が少ないと知ってしまった。それが自分から僅かな自信を持ち去ってしまった。
だが同時に学んだこともある。それは、自信があろうが無かろうが結局は進むしかない場合もあるということだ。
不安を抱えたまま、自信のないまま。道を選んで進むしかない。
そして、上手くいったならそれでいいのだ。つまるところ「正解」とは結果であって過程ではない。
偶発的に上手くいったのだとしても、上手くいったのならそれは「正解」だ。
だから彼は、内心は不安なまま。外面的にはいつもと全く変わらない、冷静な状態で答えを述べた。
それを聞いた蜥蜴人の司祭は呵々と大きく笑い、手を打って―――
彼を褒め称える声が村の広場に響き、それによってこの小さな村で起きた決闘は幕を下ろした。
―――――
その音を聞いた時、女魔術師と女武道家は思わず互いに顔を見合わせた。
音の正体は知っている。音の出所も明白だ。だが、その音がそこから出たことが信じられなかった。
確かに付き合いは短い。半年にも満たない。だから知らないことはたくさんある。だがしかし ―――
魔法剣士が
気持ちは分からなくはない。村長の態度には女魔術師も女武道家も、そして麗人剣士も思う所があった。
特に麗人剣士はそれとなく女武道家が窘め制さなければ、言葉で噛みつくぐらいのことはしていたかもしれない。
それは奴隷として彼らを売る、という事に対する気兼ねでもあり、村長の何処か卑しく見える作り笑いが癪に障るということもあった。
女武道家と麗人剣士に関しては前者、女魔術師に関しては後者が特に気になった。
だが当の蜥蜴人達が「それでいい」と言っている以上、口出しすることでもないと判断したのだ。
魔法剣士も彼の性格上気に入らない結果だろうが、それを受け入れると思っていた。実際、その決定で良しとしたのだ。
だがまさか、舌打ちなどという行為をするほどに不満だとは彼女達は思ってもみなかった。
彼はおよそそんな仕草とは程遠い ――― 無縁とすら言ってしまっていい人間だと女魔術師と女武道家は思っていた。
まだ知り合ったばかりの麗人剣士ですら、そのような事をする人物ではないと思っていた。
怒りや不平不満はグッと飲み込むか、そもそもそんなものを感じないか。
いずれにせよその硬く変化に乏しい表情の下に沈み込ませ、決して表に出すような人間ではないと思っていた。
それがどうしたことだ。今聞こえたのは紛れもない舌打ちの音ではないか。
眉を顰め僅かに唇を歪ませているのは、明確に不快であると知らせている証ではないか。
これほどまでに彼が感情をハッキリと表すことなど、今までなかった。表す人間などと、考えた事もなかった。
この決定がこれほど彼の感情を揺さぶっているなど、思いもしなかった。
撤回すべきだろうか、と女武道家は思い始める。
せめてもう一度話し合うべきだろうか、と女魔術師は考え出す。
彼と付き合いの長い二人に相談すべきだろうか、と麗人剣士は判断し口を開きかける。
だがそれよりも早く、魔法剣士が口を開く。
「すまない。良くない態度だった」
そう言って息を大きく吐いた時には、もう彼の表情はいつも通りで。少なくとも表面には不快さも怒りも見えなくなっていた。
しかしそう言われても、彼の内心を慮ればそれで済ませていい話ではない。三人のそんな思いを見透かしたように、魔法剣士はゆっくり首を横に振る。
「大丈夫だ。納得した」
「……ならいいけど、後で愚痴ぐらいは言いなさいよ」
魔法剣士のそんな言葉に、女魔術師はそう答える。
――― そうよ、このぐらいして当たり前じゃない。
彼も血の通った人間なのだ。感情のある人間なのだ。であるならば当然、不快な事に対して腹を立てもする。
舌打ちだの嫌な顔だのは、あってしかるべきなのだ。
これまでそんな事態に行きあたらず、自分達が見ることが無く知る機会がなかったというだけで。
そしてそんな気分に仲間が陥ったなら、愚痴らせてそれを聞いてやればいい。ただそれだけの事だ。
「あたしも聞いたげる。だから、溜めこまないでね?」
女武道家もそう声をかける。
彼がここまで態度に出すということは、相当腹に据えかねることだったのだろう。
普段通りでいられなくなるぐらい、彼の内側にある何かに触れることだったのだろう。
人にはそれぞれに思想信条があり、それに従って動く。きっとこの決定は彼のそれに背くことだったのだろう。
それでも彼は受け入れた。きっとそれは、
仲間の意見がそうならば。一党としての決定ならば。彼は無理矢理でも納得して受け入れる。そういう人間だ。
ならすべきは決定を翻す事でも、再度の話し合いでもない。彼を労わってやることだ。
「よし、ならその時は僕が奢ろう!」
まだ彼の人物は掴み切れず、故にどうすべきかの判断がつかない。
だから彼をよく知る彼女達の言葉に乗り、考えるよりも話を聞いた方がずっと早い。
そう判断した麗人剣士が歯切れよく言い放ち、魔法剣士は黙って頷いた。
彼のその首肯をもって、彼らの話し合い ――― ひいてはこの村で起きた一連の騒動は終わりを告げた。
少なくとも、冒険者の依頼の範疇は。
―――――
「戦士と竜司祭が一人ずつ。両方とも
「異論などあるはずがありません!ええ、ないですとも!」
「んじゃ商談成立だ。はいよ、毎度あり」
「おお、ありがとうございます……!」
手渡した金貨の袋を、髭面の村長が頬擦りせんばかりの勢いで受け取る様子に行商人は思わず苦笑する。
実際自分がいなくなったらするのかもしれない。
(ま、無理もねえか)
金貨一袋。確かに大金ではあるが、それっぽっちと言えなくもない額だ。少なくとも行商人にとっては。
しかし、特産品や土地が図抜けて豊かというわけでもない村からすれば別だ。大げさでも何でもなく、村の生死が左右される額だ。
誰が使おうとも金の価値は平等だ。使う人間によって銀貨一枚が金貨に上がることもなければ、銅貨に落ちることもない。
聖人が使おうが悪人が使おうが。
国王が使おうが奴隷が使おうが。
勇者が使おうが凡人が使おうが。
誰が使おうが銀貨一枚は銀貨一枚。それが金の最も素晴らしい点であることは言うまでもない。
しかし、金の軽重は人によって違ってくる。
例えば自分の雇い主にとっては、金貨一枚などポケットから落としたところで気付かないか気にも留めない程度の額だ。
だがこの村の住人や駆け出しの冒険者などからすれば、金貨一枚と言えば一日の稼ぎにも値する額だ。
金持ちからすれば小銭でも、貧乏人からすれば全財産。そんな場合もある。
少なくとも自分と村長の間では、金貨一袋の重みは大きく違うのだ。それは良し悪しの問題ではなく、単に立場や環境が違うだけの話だ。
だから、村長の態度も大袈裟だとは思わない。
些か態度が露骨でがめつさを隠せない粗忽さもあるが、この村長はそれなりに責任感のある男なのだ。
そんな男が村の生死を左右するほどの額を手にして、頬擦りする程度で済むなら可愛いものではないか。
少なくとも行商人はそれを笑う気にはならない。笑うような奴は金の大事さと力を知らないとすら思う。
「んで、他には?」
「いえ、他は……」
「んじゃ、今回の取引はここまでだな。またよろしく」
軽い挨拶を交わすと、行商人は馬車の荷台へと上がる。
荷台では手枷足枷を嵌められた蜥蜴人達が、売られたというのに大人しくしていた。
こういう時蜥蜴人は大変行儀がいい。戦うとなればこれほど大変な相手はいないが、戦いの結果であればすんなり受け入れてくれる。
念のために枷こそつけたが、実際のところさほど必要もないものと言っていいぐらいなのだ。
加えて戦った相手がよほどお気に召したらしく、どちらも機嫌よさげにしている。
「それじゃこれから買い手の所まで運ぶから、まあよろしく」
「おうよ!」
「心得た」
「そこそこ長旅になるけど、行き先ではアンタらの大好きな戦いが待ってる。そこまで大人しくしててくれや」
戦い。その言葉を聞いた蜥蜴人達の眼が喜色に輝く。
この性質は恐ろしくもあるが都合もいい。殊に自分の今の仕事からすれば、お互いにとって得となる。
無論彼らの内にある誇りというものを見誤ることがなければ、だが。
「いいねえ!戦奴になるなら悪くねえ!」
「うむむ。して、我らは何処へ売られていくのだ?」
「あー……ま、アンタらならいいか」
自分が運ぶ奴隷に行き先を告げると大抵は暴れ回るものだ。無理もない。自分がその立場だったら無駄でも何でも暴れることだろう。
ましてや最近雇い主におかしな変化が生じ、そこはますます恐ろしい場所へと変貌しつつある。
だが、蜥蜴人達相手ならそんな心配はないだろう。そう考えた行商人は事もなげに口を開く。
「火吹き山の闘技場さ」
誰もがその名を聞けば恐れおののく、かの魔術師。
その魔術師が運営する、四方世界に悪名高き火吹き山の闘技場。
雇われの身である自分ですら、長居はしたくない場所へと変わりつつある忌まわしき地。
そこに連れて行かれると知った蜥蜴人達は ―――
心底満足そうに頷くと、その身体を揺すって哄笑しだし。
行商人はそれを見て、苦笑いを浮かべ溜息をついた。
―――――
(これは荒れてる……んでしょうか?)
(多分……)
珍しい上に判断に困る光景に、受付嬢はヒソヒソと小声で女魔術師と囁きを交わす。
彼女達の視線の先では魔法剣士が黙って葡萄酒で満たされた盃を両手で抱え、ジッと器の中を見つめている。
話しかければ返事はするのだが何処か上の空で、時折酒を一気に煽ってはまた黙り込んでしまう。
先程からこの調子なため、女武道家や麗人剣士もどう接すればいいのか測りかねている。
いや、正確に言えば麗人剣士は焦れて何か言おうとしたのだが他の仲間に窘められて大人しくしている。
お陰で依頼を終え帰還し、報酬を得て飲み食い騒ぐ冒険者達でごった返す夜の酒場だというのにこの卓だけは静かなままだ。
受付嬢が彼らと同卓して食事を取っているのは、たまたま仕事上がりと彼らが帰還したのが重なったから……というわけではない。
完了報告をする魔法剣士の態度に些か引っ掛かるものがあったからだ。
依頼の最中に起きたことを一切包み隠さず、見たもの聞いたものを詳細に報告する。魔法剣士の報告はそういうものだ。
少々細かすぎるきらいはあるものの、丁寧な報告をする。彼はギルドからそう見られている。
今回も報告は詳細だった。詳細すぎた、と言ってもいい。
虚偽の報告は原則として許されないし冒険者もしないが、内容によっては多少の脚色や隠蔽をすることがある。
そして事情によってはギルド側もそれを察しつつも見て見ぬふりをする、という場合がある。
大抵の場合それは「誰の利益にもならない」「報告することで全体が不利益を被る」という状態であり、むしろ報告されると困るという場合さえある。
様々な事情が絡んできやすい
そうでなくとも冒険者として場数を踏めば嫌でも身につくし、つけてもらわねば困る。
例外となるのはゴブリン退治しか受けない変わり者ぐらいのものだ。
今回の彼らの依頼もそんな場合の一つだ。
「蜥蜴人達が村に賠償金を支払う」「しかし金銭を持っていないので労働力で埋め合わせる」「双方の合意は成っている」
このぐらいの話に纏めて、それを以て解決としてしまっていい。こちらもそれで良しとする。
勿論報告することそのものが悪いことではない。依頼主である村長の人柄、そして彼が長である村の性質が知れた。
危険人物の仲間入りをするほどのものではないが、今後依頼が来た時は少し警戒する必要があるという意識にはなる。
そういった情報をもたらしてくれるのだから、報告するのは悪いことではない。そもそもそれが規則なのだから当然とさえ言える。
しかし、一切偽ることなく報告してくるというのも問題は問題だ。
――― 真面目すぎて融通が効きづらいんでしょうね、きっと。
物事には裏がある。裏が無くとも、必ず側面はある。それは行動や性格もそうだ。
そして長所とは側面に短所を持っているものだ。
柔軟性に富むという長所は、一貫性に欠けるという短所を。
強固な意志や信念を持つという長所は、状況に応じた対処が苦手になるという短所を。
温和で人当たりが良いという長所は、迫力がなく初見の相手からは侮られやすいという短所を。
この場合彼はその真面目さ故に、「そういう事もある」で飲み込めなかったということだろう。
その性格は受付嬢としてもギルドとしても好ましいものではあるが、何事も行き過ぎれば害になる。
それ故多少愚痴を聞くなりして彼を慰め、同時に職員というよりも年上として世知の様なものを少しばかり話そうかと思っていたのだが……
(荒れてる、でいいのよねたぶん。指先へ妙に力入ってるもの)
(うん、たぶん。荒れてるのとか見たことないから分からないけど)
女魔術師と女武道家が小声で話すように、彼は ――― 恐らくだが ――― 荒れてしまっていて話しかけづらい。
これがもっと分かりやすく自棄酒をガバガバ飲んだりしてくれれば話せていたのだ。そういう人間はよく見てきたし、対処も分かる。
落ち込んで黙り込んでしまうような人間も大勢いたし接してきた。こちらもなんとかなる。
だが荒れているというのに静かに黙り込んで終わり、というのは初めて見るのだ。
いや、静かに黙っているだけではない。女魔術師が気付いたように、よく見ると明らかに指先へ力が籠もっている。
飲み方も普段の静かに噛むように飲むものとは違い一気に飲み干すもので、確かに自棄酒の雰囲気はある。
そうは見えないのは彼が姿勢を崩さず、飲み干した盃も綺麗に並べて脇に置いているからだろう。
しかしこの妙な荒れ方に対して、受付嬢は対処を図りかねていた。下手につついてあらぬ方向に荒れさせてはいけない気がしたのだ。
女魔術師と女武道家も同じようで、普段よりずっと控えめに飲みながらどうしたものかと首を捻っている。
とはいえ飲んでいたのは事実で、少しずつ酒精も回り始めていた。だからだろう。
「よし、飲もう!」
麗人剣士から目を離してしまったのは。
あっ、と二人が声を上げた時には魔法剣士の隣に椅子を動かし、彼の杯へと葡萄酒を並々と注ぎ込んでいた。
「僕には分からないが、君の中では飲み込めないことがあったのだろう!なら飲もうじゃないか!」
麗人剣士のその言葉に魔法剣士は少しばかり目を見開いたが、無言で一気に杯の中身を飲み干した。
「うん、いい飲みっぷりだ!このまま飲み続けたいなら飲みたまえ!言いたいことがあるなら言いたまえ!僕は全く君の心を察せないから、言って貰わないと困る!」
清々しいまでに堂々と言い切る麗人剣士。その態度に魔法剣士は元より女魔術師も女武道家も受付嬢も一瞬呆気に取られてしまう。
だが魔法剣士は腹を立てる様子もなく、溜息を一つ深く長く吐き出した。そして、ポツポツと口を開きだす。
「あの村でのやり方はよくなかった」
「ふむ、僕も好ましくはなかったけどそれほどかい?」
「あの蜥蜴人達は連れ帰って来て、しかるべき場で裁かれるべきだった。俺達はそれが出来た。なのにやらなかった」
「成程、君が気掛かりだったのはそっちか!」
「奴隷として売られるのを見過ごしたことも引っ掛かりはするがな」
――― ちょっとぐらい強引に行くべきでしたか。
麗人剣士の行動は危なっかしくはあったが、結果として正解だったと言えるだろう。遠巻きにするのではなく、踏み込むべきだったのだ。
確かに寄り添う事も時には必要だが、危険を承知の上で踏み込んでやらねばどうにもならないことはある。
まして彼は気持ちが塞いで己の内側に籠っていたのだから、強引に引っ張りださなければならなかったのだ。
謂わば蛮勇が自分には足りなかったのだな、と受付嬢は内省する。
――― なんだか思い当ることが別にも出て来ましたね。
距離を取ってばかりではなく、しっかり踏み込まねば先に進まない。
それが出来ないから、心地良い距離感に甘んじて5年も経ってしまったのだ。なんとも不甲斐ないではないか。
麗人剣士を見習う ――― のはちょっと危険だから、心の中に彼女を住まわせようと。
必要な時は心の中の彼女に発破をかけてもらおうと、受付嬢は密かに内心で誓う。
――― 上手く行かなかったら彼女達に慰めてもらいましょう。
魔法剣士に葡萄酒を飲ませながら彼が語り出した愚痴を聞く姿勢になった女魔術師と女武道家を見て、そんな事を勝手に決める。
ある意味自分に決断を促したのは彼女達一党なのだから、そのぐらいはしてもらっても罰は当たるまい。
「……勝負は収穫祭、ですかね」
彼とその
そうでなくとも彼は日々の仕事を怠ることはないだろうから、誘いをかけても勝算が低い。
なら勝負をかけるのは彼と言えども確実に休む日に、少しでも勝ち目のある日にすべきだろう。
今年は、今年こそは。一歩踏み込んでみせる。
そう意気込むと、受付嬢は自分もまた杯の中身を一気に飲み干すのだった。
Q.金貨一袋って具体的にいくら?
A.原作に具体的な額は書いてない。むしろこっちも知りたい。
Q.ゴブスレさんのヒロインとしては牛飼娘ちゃん推しだったのでは……?
A.作者は牛飼娘ちゃん推しですが、それはゴブスレヒロインレースの勝利を約束するものではありません。
むしろ誰が勝つか、そもそも勝敗がつくのかは筆の載り方次第です。
あと魔法剣士君は受付嬢さん推しです。お世話になってるし何気に一番付き合い長いからね!
活動報告であげた診断結果の中で、どれが一番読みたいですか?(書くとは限らない)
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魔法剣士【綴られた手紙】
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令嬢【どうか、叶えて】
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女魔術師【君のワガママ】
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魔法剣士と令嬢【忘れてください】
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魔法剣士と女魔術師【貴方の為だけの】
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三人【騙し騙され愛し愛され】