女魔術師や女武道家は5、麗人剣士ちゃんは10容貌にCP振ってるイメージ。
その代わり「軽率」とか「単純」みたいな癖を取りまくってる。
「ふっ!」
裂帛の気合いと共に片手半剣が袈裟掛けに振り下ろされ、
その振り下ろした勢いを殺さぬまま、くるりと剣を一回転させる。そうしてもう一度、同じ軌道の第二撃を繰り出す。
まさに風車、あるいは水車の如き太刀筋。
「はぁっ!」
一匹目の背後から迫っていた二匹目の巨大鼠もまた、同じ光景を繰り返すかのように刃の餌食となる。
厚い脂肪に守られているはずの身体は半ばまで斬り裂かれ、もう少しで両断されるところだ。
剣の重量と切れ味は勿論のこと、使い手の腕前が武器に見合っていなくばこうはなるまい。
「うん、これでノルマは達成かな?」
「そうね、今のでノルマはこなしたわ」
「よし。それじゃあ戻ろうか」
その腕前と獲物の持ち主である麗人剣士は、この場 ――― 下水道には似つかわしくない爽やかな声音と笑顔を持って後ろを振り返り訊ねる。
彼女は視界の確保のため、それ以上に顔を売るために兜を被っていない。そのため表情がハッキリと見える。
悪臭がたちこめ女魔術師の持つ松明しか灯りはない暗所だというのに、彼女の美貌は損なわれることがない。
それも布で口と鼻を覆っているのにもかかわらず、だ。その瞳と目元だけでも、充分に彼女は美しい。
それをほんの少し羨ましく思いながらも、女魔術師は麗人剣士の問いにハッキリと答えを返す。
幾度となく繰り返し数えていたのだ。数え間違いなどない。
そう女魔術師が答えると麗人剣士は満足そうに頷き、少し前へと出ると周囲の警戒を始める。
鼠の血の臭いに惹かれ、他の生物が寄ってくる。下水道ではよくあることだ。
麗人剣士が警戒態勢に入ると、彼女のすぐ後ろに控えていた女武道家が短剣を取り出し鼠の歯を切り取っていく。
「うわ、凄い。リーダーが斬った時よりザックリ斬れてる」
「俺と彼女では戦士としての力量が違いすぎるからな。武器もだが」
女武道家の感想に、魔法剣士がいつも通りの落ち着いた声音で言葉を返す。
最後尾にいる彼は後方の警戒を担当しており、また女魔術師の護衛でもある。
万一水路から何かが襲ってきても庇えるように、と言うのが彼の弁だった。
麗人剣士にはピンと来なかったが、自分以外の二人は神妙に頷いていた。きっと彼らはそういう経験をしたのだろう。
先頭を最も重装備かつ体力と筋力に恵まれ、盾役として相応しい麗人剣士が務め。
そのすぐ後に最も敏捷で前後どちらにもすぐに行ける女武道家が続き。
少し感覚を空け、光源となる松明を持った支援役の女魔術師が歩き。
敵が前方から来たなら支援に、後方から来たなら前衛となる魔法剣士が殿となる。
理屈だけなら酒場での話し合いで充分なのだが、実際に機能するのかどうか。連携がどれほど潤滑に取れるのかどうか。
それらの確認を兼ねて
元々組んでいた三人の連携は言うに及ばずだが、麗人剣士もまた彼らに合わせるのが苦ではなかった。
いや、彼らが苦もなく彼女に合わせてくれている、と言うべきか。
少なくとも麗人剣士自身はそう感じていた。自分が一党の盾となるか矛となるかは魔法剣士の指示次第だが、後は自由に動いている。
それでも上手く連携が取れているように感じるのは、魔法剣士達が自分に合わせて動いてくれているからだろう。
あるいはそう感じるほどに、上手く魔法剣士に使われているのかもしれない。それならそれでいいと彼女は考える。
これほど気持ち良く使ってくれるならば、使われ甲斐もあるというものだ。
それに結果として上手く機能している以上、麗人剣士に言うことはない。
仲間が自分を支えてくれていて、自分は仲間の力になっている。一党としてはこの上ないことではないか。
これ以上を望むのはバチが当たるというものだろう。
「後は
心の内を満足感で満たしつつ麗人剣士がそう言うと、女魔術師がほんの少し身を竦ませる。
彼女らしくない弱気な反応に首を傾げる麗人剣士。それを見た女武道家はほんの少し目元を困ったように緩ませた。
魔法剣士は兜と顔面保護のため表情が見えない ――― そもそも彼は見えていても表情を殆ど変えない ――― が、何処か労わるような雰囲気になっている。
麗人剣士としては大変気になる反応ではあったが、魔法剣士に「問題はない」と言われそれで済ませるしかなかった。
その後、彼女が女魔術師の反応の理由を知ることはなかった。
なぜなら魔法剣士も女武道家も、一党の仲間というよりは女魔術師の友人として。
彼女の名誉を守ると心に決めていたからだ。
―――――
「お願いします!なんとか、なんとか仲間を紹介してください!」
「そうしたいのは山々なんですが、今はちょっと、その……」
何ともタイミングが悪い。そう言おうとして受付嬢は言葉を飲み込む。
必死に頭を下げ哀願してくる双剣斥候には同情している。
なにせ彼は、仲間に見捨てられたのだ。それもそれなりの間行動を共にしてきた
見捨てた、と言うと少し弊害があるかもしれない。彼の話を聞く限り、一党の
ただ他の面々は護衛対象である御者と馬車、そして積荷を置いて逃げ。彼は御者を連れて逃げようとした。
その差が様々な意味で命運を分けた。彼は御者と共に山賊に捕まり、山賊が彼らと馬車の確保を優先したため一党は逃げ延びた。
普通なら双剣斥候と御者は命を落とし、一党は彼らを見捨てる代わりに生き延びる。そういう結果となっていただろう。
しかし、そうはならなかった。彼はその場を舌先三寸 ――― と、護衛対象である積荷と馬車、そして馬を差し出すことでなんとか切り抜けたのだ。
彼の話術がよほど優れていたのか、山賊達の気まぐれか、積荷がよほど相手を満足させるものだったのか。はたまた神の
とにかく彼は御者と共に己の命だけは奪われることなく、なんとか街まで戻って来た。
だがそれは依頼の失敗を意味する。いや、それだけならまだ良かった。
依頼の失敗はよくあることで、冒険者にはつきものだ。ギルド側も慣れている。
しかし、護衛の対象を見捨てて逃げ出した。この一点が致命的なのだ。
失敗そのものは ――― それも責められはするが ――― 運も絡むため、ギルドとしては状況と照らし合わせ評価を下げるのみで終わる。
依頼人からの ――― 当然の ――― 非難は基本的にギルドで対処する。それで終わりだ。形式的には。
だが護衛依頼で対象を、それも人を見捨てて逃げるなどというのは論外だ。
依頼人からの信頼を失うのみならず、冒険者全体の印象も悪化してしまう。
ひいてはそれを管轄している冒険者ギルドの信用問題にも繋がる。もっともやってはいけない事の一つなのだ。
当然逃げた冒険者達への
逃亡だけなので除籍はないだろうが、ギルドは勿論他の冒険者からも信頼を失うことになる。
よほどの覚悟がない限り冒険者を続けていくのは難しくなるだろう。戻って来たのなら、だが。
――― まあ、戻ってきませんよね。
知識の無い駆け出しや誠実あるいは極端に楽観的な人間でない限り、こういった行為をやった冒険者はギルドにもう一度顔を出すことはない。
そのまま他の街に逃げて冒険者を辞めて、なんとか堅気の仕事を探すか。
剣奴や傭兵といった冒険者時代の技術で潰しが効く仕事に就くか。
あるいは今度は討伐の対象となる側、すなわち賊徒の類へ堕ちるか……
いずれにせよ自分のやったことから逃げ出し、何処かへ消えていく。
そうなると後始末をするのは残された他の人間という事になる。
――― 無責任というのはこの事ですね、本当に。
最も責任を取るべき人間が消えたからと言って、責任そのものも消えてくれるわけではない。誰かが取らなければならない。
それは大概の場合ギルドとなるのだが、今回は彼 ――― 双剣斥候にも降りかかっている。
無論彼もまた失敗した人間の一人であり、責任はある。だから責任を取らされるのは当然の事だ。
しかし、他の仲間が逃げたせいで彼一人が過剰に背負う事になっているのもまた事実だった。
ただ一人逃げず、出来る範囲でやれるだけのことをやって。その結果を持って帰って来た双剣斥候。
責任とは問題から逃げ遅れた間抜けが負うものだ、と嘯く人間もいる。それは一つの真理ではある。
だが真面目にやった人間が馬鹿を見るようなことはあってはならない。少なくとも受付嬢はそう思う。
真面目に、誠実に、日々の仕事をこなし過ごす者こそがこの世で最も尊いはずなのだ。
そんな人間が報われず、不幸を押し付けられるような世の中は間違っている。
だから泣きそうな顔で頭を下げる双剣斥候には心底同情しているし、なんとか出来る範囲で力になってあげたい。あげたいのだが。
「今、
甲冑に身を包んだ騎士らしき頭目と、魔術師が最低でも一人。そして十人を超す人数。
最低でも青玉、出来れば紅玉以上の一党に受けてもらいたい依頼だ。ギルドの体面も考えるとその上を派遣して然るべきとも言える。
しかしその辺りの中堅どころは数が少ない。これは今いない、のではなくそもそもそこまで育つ人間が減ってきているのだ。
ならその上の等級、銅あるいは銀はどうかというと ―――……
――― 本当に間が悪いんですよね。
こういう時にうってつけの人材である、辺境最強と名高い槍使いは相棒である魔女ともども
辺境最高の一党を率いる重戦士は、その仲間達と共に開拓村を襲った
そして辺境最優たるゴブリンスレイヤーは、当然ゴブリン退治のために東にある水の都へ。
それぞれ赴いており、二日三日で帰ってくるような距離にはいない。
その間に大きく稼いだ山賊が河岸を変えてしまう可能性もあり、とてもではないが待っている猶予はない。
となると鋼鉄以下の一党に声をかけるしかないが、これは不安が大きい。
山賊退治となると単純に強さが求められるが、騎士と思しき頭目と魔術師を含む十人の賊となると鋼鉄等級でも些か厳しい。
なら強さにおいて問題がない人物はというと、それだけの力を持ちながら鋼鉄以下にいるというのがネックになる。
つまり、ギルド側が「人物に問題あり」と看做している可能性が高い。
そんな人間にこんな大事な依頼を任せるのは不安、というよりも無理だ。
ここは複数の一党を派遣し、分担してもらうべきか?いや、あまり多くの一党を派遣しても連携が取れない可能性が高い。
どうしたものか ―――……
「どうかしましたか?」
受付嬢が本気で困り果てていた所へその難しい条件を満たす人間が声を掛けて来たのは、神々の骰子の偶然か。
あるいは受付嬢が日々の業務を誠実にこなしてきたことにより、彼から深い信頼を得ていたからか。
いずれにせよ彼女は問題を解決できそうな人物から、助け船を得たのだ。
勿論彼とその一党の身を案じてはいたし、まだ鋼鉄等級ということで不安もあったけれども。
彼らなら ――― 魔法剣士達の一党なら。出来るだろうという信頼もあった。それはギルドとしても、受付嬢という個人としても。
そしてその助け船に対し、受付嬢より早く双剣斥候が縋りつく。
それを見てほんの少し苦笑いしつつも、彼女もまた戸惑う魔法剣士に頭を下げる。
何故魔法剣士の事を知らない双剣斥候が、見ず知らずの相手にいきなり縋りついたのか。
まるで彼ならば解決出来ると言わんばかりの勢いで、助けを求めたのか。
その理由が「受付嬢が魔法剣士の姿を見た瞬間の反応」だという事を彼女が知るのは。
双剣斥候が優れているのは斥候としての技能だの精霊術の力量だのではなく、その観察眼にあると思い至るのは。
もっとずっと後になってのことだった。
―――――
「マジで助かったぜ……運って言うか神様全部に見放されたかと思った……」
「見放されたのは神様にじゃなくて」
「やめなさい」
「言い過ぎ」
「ごめん、言ってはいけないことだったね」
「いや、いいって……本当の事だし……」
空の樽や箱と共に揺られる馬車の中。
麗人剣士の言葉が ――― 途中で止められたとはいえ突き刺さり、双剣斥候は乾いた笑みを浮かべる。
殊更痛いところを突かれたわけではないが、痛くないわけではない。さりとて怒ったり悲しんで見せるほどでもない。
絶妙なラインを半端に刺されるという、一番困る結果かもしれない。
「失礼かつ傷つける事を言ってすまない」
「あー……うん、大丈夫大丈夫。気にすんなって」
丁寧に頭を下げてくる魔法剣士に苦笑いを見せながら首を横に振る。
そう、痛くないわけではないが深刻な顔をするほどでもないのだ。
「なんつーかな。組んでもらう時にも言ったけど、立ち直れないようなことだとは感じてないんだ、俺」
仲間が自分を置いて逃げたのはショックではある。だが自暴自棄になったり絶望したりするほどの事ではないとも双剣斥候は思っている。
何故なら、逆の立場だったら自分もそうしていたからだ。
そもそも仲間は自分一人を囮にして逃げたわけではない。
逃げるかどうか迷った御者と、それを見捨てなかった自分がたまたま囮になっただけだ。
自分と仲間の違いは前にいたかどうか。その程度のものだ。だから「裏切られた」とかそんな気持ちにはなっていない。
あえて言うなら後列にいても御者は連れて逃げようとしたであろうことぐらいか。
それにしても善性だの良心だのからの行動ではなく、御者まで見捨てたら冒険者として終わるという打算に基づくものだ。
だから、双剣斥候は仲間を非難する気はない。するとしても「考えが足りない」と言うぐらいか。
それはそれとして、当然頭には来ているのだけれど。それも頭で止まって、腹に据えかねるという程ではない。
つまり怒りはあるが恨みはないし、心に消えない傷が出来たという程でもない。許しはしないが殴ろうと思わない。そんなものだ。
「それにほら、助けてくれた相手に文句は言えねーし」
「言ってくれて構わないよ!」
「本当に言わないと分からないわよ、この子」
「はは……」
元気良く言い切る麗人剣士と、彼女に対する女魔術師の捕捉に双剣斥候は思わず乾いた笑いをあげてしまう。
知り合ってたった二日だが、彼女がその通りの人間なのはよく分かった。
考えなしではないが、考えて分からないことは分からないと割り切っているのだ。
良くも悪くもサッパリしすぎた人間性に、双剣斥候としては戸惑うより他ない。いや、ハッキリ言って苦手とすら言える。
嫌いというわけではないが、打算と保身を重視する自分とは相性が悪すぎる。
そもそも魔法剣士に縋りついたことからして、打算から始まったのだ。
受付嬢が彼の姿を見た時、その表情に浮かんだのは明らかな安堵。
あの状況でそんな顔をするからには、事態の解決に繋がる相手を見つけたということだ。
だから自分は彼に縋りついたのだ。救ってくれる可能性の高い相手を逃がさないために。
自分の基本的な
商家に生まれ、親を含む商人の生き方ばかり見てきた双剣斥候にはそれ以外の生き方は出来ない。
そんな自分からすると、麗人剣士の様な人間は馬鹿にも見え羨ましくも見える。
彼女の
自分に近いのは女魔術師ぐらいだろうが、彼女は「そうあろう」と振る舞っている節がある。
理由は分かる。他の仲間が「善い」人間なのはいい事ではあるが、視点や思考がそれだけで固まるのは危険だ。
なにせ世の中悪人の方が多い……とまではいかないが、少しでいいから自分が他人より得をしたいと思っている人間の方が多い。
その辺りの視点や思考が出来る人間がいない集団というのは危険だ。
だから必要なことではあるが、それを意図的に「やろう」としている辺り根は女魔術師も彼らに近いものがあるのだろう。
前の一党のように、「仕事仲間」と割り切った関係も決して悪くはなかった。
だが彼らのように、「仲間」として繋がっている関係も良いものなのだろう。
――― もうちっと踏み込んでもよかったかもな、俺達。
恐らくもう二度と会うことはないであろうし、正直会いたくもない仲間 ――― 「元」仲間達。
彼らの顔を思い出しながら、双剣斥候は小さく溜息を吐く。
無事だの幸せだのを祈ってはやらない。だが、不幸を望みも呪ったりもしない。
こっちはこっちで勝手に生きていく。冒険者として。そのために命懸けで御者を助け、望みを繋いだのだから。
だからお前らも勝手に生きていけ。もう冒険者は無理だろうが。
特に惜しみも悲しみも嘆きもせず、そう胸中で呟いて ―――
双剣斥候は区切りをつけ、終わらせた。
Q.女魔術師ちゃんは大黒蟲嫌いなの?
A.大黒蟲はまだ平気ですが、巨大黒蟲は軽くトラウマです。
活動報告であげた診断結果の中で、どれが一番読みたいですか?(書くとは限らない)
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魔法剣士【綴られた手紙】
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令嬢【どうか、叶えて】
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女魔術師【君のワガママ】
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魔法剣士と令嬢【忘れてください】
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魔法剣士と女魔術師【貴方の為だけの】
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三人【騙し騙され愛し愛され】