祝日とはいったい……うごごごごご
朝日が閉じられた瞼を貫いて、内側で眠る瞳を突き刺す。
そんな風に太陽が朝を告げる ―――― よりも少しだけ早く、彼は眼を覚ました。
周囲には自分同様駆け出しの冒険者が幾人も雑魚寝しており、大いびきをかきながらいまだ夢の中。
それが煩くて起きたわけではない。この時間に起きると決めていたから起きたのだ。
外なる神は自分に
これはその一つ。彼はこの時間に起きると決めたなら、寸刻違わず起きる事が出来る。
たとえ疲労が抜けていなかろうが、どれほどの手負いであろうがだ。
眠る時も同様で、眠ると決めたなら瞬時に眠ることが出来る。
たとえ精神が高揚していようが沈殿していようが、獣の唸り声のようないびきが部屋中に鳴り響いていようがだ。
睡眠の効果そのものは変わらない……つまり、一時間かそこら眠っただけで半日眠ったのと同じような効果にはならない。
あくまですぐに眠れて、起きると決めた時間にはすぐに起きることができるというだけのことだ。
しかしこの加護は大変役に立っている。
言ってしまえば寝付きと寝起きが常に良いというだけなのだが、生活の上でそれがどれだけ心身を助けることか。
ささやかではあるが大いなる加護を授かった事に感謝しつつ、薄手の毛布を畳みそっと立ち上がる。
寝台すら用意されない大部屋 ―――― それでも屋根と壁がある屋内というだけで馬小屋よりはマシな寝床。
そこで眠る同胞達を起こしたくはない。特に近くで眠る双剣斥候は。
彼らは自分同様、日々を必死に生きる同胞なのだ。
せめて心行くまで眠らせてやりたいではないか。
そうでなくとも過度に物音を立てて他者に迷惑をかける、などということはしたくない。
それは意識してそうする、というより「当然やるべきこと」として彼は認識していた。
認識というよりは、認識せずとも自然とそうする ―――― そうしないことが考えられない、と言うべきか。
よって彼は抜き足差し足であちこちに横たわる冒険者達の合間を縫い、極力音を立てずに扉を開け外へと出る。
扉を閉めるその時まで神経を集中し、大きな音を立てずにそっと閉めたところでようやく息を吐く。
この部屋の中に限ってのことだが、中々堂に行った隠密行動だ。
別に部屋の住人が全員このようにしているわけではない。むしろここまでしているのは彼だけだ。
他の利用者は多少気をつけはするが、起こしてしまったら謝る程度の感覚でしかない。
どころかまるで気にせずバタバタと音を立てる者もいるし、それを苦にしない者もいる。
無論気にする者もいるし、それが原因で喧嘩が起きたことは一度や二度ではない。
彼がいる時は仲裁に回ってどうにか抑えているが、依頼で留守にしている間はそうもいかない。
結果殴り合いの喧嘩にまで発展し、宿を追い出された者も何人かいる。
そうして追い出された者。そもそも大部屋の環境に堪え切れず宿を変えた者。
―――― 冒険に出て、帰って来なかった者。
自分が利用し始めてから、両手の指に余る人数がこの部屋を使わなくなった。
であるのに部屋が広くなるどころか、利用する者の人数は変わらない ―――― 否、増えてさえいるから不思議なものだ。
新人冒険者の
逆も真なりとするならば、ゴブリンの巣穴が一つ増えたのなら新人冒険者も一党を組める程度には増えるのだろうか?
そんな馬鹿馬鹿しい考えが頭に浮かぶが、すぐに首を横に振って彼はそれを打ち消した。
ゴブリンは何処からともなく湧いて来るが、人はそんな風に増えはしない。
ゴブリンは無意味に増えるが、冒険者は各々自分なりの意味を持ってなるのだ。
少なくとも彼はそれを同じようなものとして語りたくはない。自分も人であり、冒険者なのだから。
ギルドの外に出て井戸から水を汲んで顔を洗う。冷たい地下水で精神が引き締まるのを感じつつ、彼は身体をゆっくり動かす。
腕を上に伸ばし、次いで大きく回す。次は腰を、そして脚を。全身を動かし、筋や腱を伸ばしては曲げる。
女武道家から習った動きで身体をほぐす。すっかり朝の
何処の筋が伸びているのか。何処の腱が曲がっているのか。何処の関節を動かしているのか。
それを意識するとしないではまるで効果が違う、というのは教えてくれた彼女の弁だ。
そうして全身運動によって硬い寝床 ―――― 寝台すらない大部屋での寝泊りで強張った身体を整えていく。
―――― ゴブリンの巣穴が一つ増えたのなら……
動きながら先程の考えに一つ、修正を加える。他所は知らないが、この西方辺境においては一つどうしても付け加えなければいけないことがある。
新人冒険者の一党が一つ出来る。そうするとゴブリンの巣穴が一つ増える。
するとその後どうなるのか?
―――― 知らんのか。ゴブリンスレイヤーが来てゴブリンを皆殺しにする。
「なるほど、新人冒険者が増えるわけだ」
勿論そんなわけはない。ないのだが、自分の頭に浮かんだそんな考えが妙にツボに嵌まってしまい。
彼 ―――― 魔法剣士は小さく笑いながら、もう一度井戸水で顔を洗った。
―――――
彼女は、誰かと食卓を囲むのが好きだった。
父が生きていた時は父と一緒に、時折幼馴染と一緒に。
他愛のない話をしながら食べることも、稀に食卓へ上がる好物に舌鼓を打つことも。
悪さをして叱られた後、なんとも喉ごしの悪い食事の時ですら。
一緒に食卓を囲むということそのものは好きだったのだ。
そうしていると誰かと繋がっている気がするから。
その食卓は確かに暖かなものが存在する空間になったから。
それは今でも変わらない。彼女は誰かと食卓を囲むのが好きだ。
「つまり、行儀よく勢いもよく食べるというのは可能なのさ!」
「いや目の前で見せられてるから否定はできねーけど、お前なんかおかしくない?」
「無心になっても作法を守れるから出来る……のか?」
「出来ないわよ、普通。明らかにおかしいわよ」
だから彼女は、こうして仲間と食卓を囲むのが好きだ。
特別用事のない時は、自然と一党の全員で集まって食事をとる。
それは今のように朝食だけではなく、昼食や夕食もそうだ。誰かが言い出すのではなく、自然と同じ卓に集まって取る。
一党を組んだ ―――― 組み直した時から自然とそうなっていた。習慣のようなものだ。
旅先での野営とはまた違う、一党の皆で食卓を囲むこの時間。
麗人剣士が突拍子もないことを言い出したり、大きくずれたことを言い出したりして。
双剣斥候がそれに突っ込みを入れたり、発言内容に驚いたりして。
魔法剣士が真面目に内容を考え込んで、時々ちょっとずれたことを言って。
女魔術師がズレを指摘して、話を纏めて。
彼女はそれらの流れを聞きながら、誰かに同調したり誰とも違うことを言ったりして。
そんな風に食卓を囲むのが、彼女は本当に好きだ。
―――― 本当は、もう1人ここにいてほしかった。
考えても詮無きことではあるのだが、心の中でどうしてもそう考えてしまう。
一緒に冒険者になった幼馴染。父が亡くなってからも、一緒の食卓を幾度となく囲んだ大事な幼馴染。
本当は彼と一緒に食卓をもう一度囲みたい。この仲間の輪の中に彼がいて欲しい。
それはもう叶わないことなのだと分かってはいるけれど。もう彼はいないと理解している。
だからこそ彼女は人を助けたいと思う。
誰かにとっての幼馴染を。誰かにとっての父を。
誰かにとっての、一緒に食卓を囲む相手を。囲みたい相手を助けたい。
自分が戦うことで。自分が依頼をこなすことで。自分が冒険者であることで。
たった一人でも助けることが出来るのなら、そうしたい。
そして自分が助けた誰かが、顔も名前も知らない誰かと一緒に食卓を囲むことが出来たらいいと思う。
自分がいたかった場所にいれたらいいと、心から思う。
だから自分は冒険者を続ける。仲間と共に。
そんな風に思えるから。それだけの温かみがあるから。それほどに楽しいから。だから。
彼女 ―――― 女武道家は、仲間と一緒に食卓を囲むのが好きなのだ。
―――――
剣を顔の高さに掲げ、脚を一歩踏み出し木剣を振るう。
だいぶ高くなった太陽の下。ギルド裏手の広場で、彼女は木剣をぶんぶん音と立てて振り回していた。
基本中の基本。初歩の初歩。教本の第1頁。彼女が延々繰り返しているのはそんな技だ。
夏の太陽に焼かれながら幾度となくその動きを繰り返しているため、既に彼女は汗に塗れて。
剣を振るう度に玉の様な汗が辺りに飛び散るが、それでも木剣を振るうことを彼女は止めない。
無我夢中で練習をしている。周囲はそう見るが、実際にはそうではない。
単純に彼女は剣を振るうことが好きで、謂わば趣味として素振りを繰り返しているのだ。
幼い頃に好きだった ―――― 今も大好きな英雄ごっこ。それの延長だ。
勿論練習であり鍛練でもあるのだけれど、それは主目的ではない。
別に鍛練などせずとも。型など知らなくとも。技術などなくとも。生物は殺せる。
剣術など学ばずとも剣は振れるし、振って当たり所が良ければ殺せる。
当たり所が悪くとも、何回も振って何回も斬れば殺せる。
武器とはそういうもので、殺し合いとは技術を競うものではない。
そんな風に言う人間もいるし、それは真理でもある。彼女だって否定はしない。
剣術が役に立たない場面というのも幾度となく経験した。だから否定は出来ない。
自分がこうして剣を振っているのを冷ややかな、あるいは嘲るような眼で見てくる他の冒険者が言いたいことも理解は出来る。
王都に居た頃など直接言われたことさえある。
だが、彼女は木剣を振るうことを止めない。止める気などない。止める必要がない。
彼女は好きで木剣を振っているのだ。
彼女は価値を見出しているから木剣を振っているのだ。
であるならば、何故他者を気にして止める必要があるだろうか?
それに役に立たない場面もあったが、役に立つ場面だって幾度となくあった。
例えば盾を持った相手と正面から ―――― それも一対一で戦う時、剣術を知らない人間は遮二無二攻めかかる。
あるいは相手が動くのを待ち、隙を伺う。
どちらも間違ってはいない。立派に一つの戦術であり、悪い選択肢ではない。
だが彼女はそのどちらでもない選択肢を取る事が出来る。
距離を詰めて剣を横から相手の背後に回し、剣の裏刃を使って斬る技がある。
わざと盾で攻撃を防がせ視界を遮る形にし、その間に死角に動いて斬る術がある。
これらは剣術を学んできたからこそ出来ることだ。習ったからこそ知っていることだ。
剣の腕を磨いてきたからこそ、出来たことだ。
つまり、剣術とは備えなのだ。いつ必要になるかは分からないが、必要になった時に使えた方がいいものなのだ。
それに、と彼女は胸中で呟く。
―――― 英雄は剣術を使えた方が格好いいに決まってるじゃないか!
自分が憧れた存在になったとき。憧れられる立場になったとき。いつか辿り着くと信じているそのときに。
自己流の癖が残っている動きではなく、洗練された動きを見せたい。
自分が英雄を格好いいと思ったように、自分を見る誰かに格好いいと思わせたい。
だから彼女 ―――― 麗人剣士は、木剣を振り続ける。
―――――
「はぁー」
橋の欄干に背を預け、寄りかかるような姿勢になって彼は天を仰いだ。
真昼を少し過ぎたこの時間帯は、日差しも気温も最も暑い。夏ならばなおさらだ。
風も殆どないためにうんざりするような熱気が辺りに満ちているが、彼の溜息はそれが出させたものではない。
外からではなく、内側。彼の心の中に抱え込んだものが出させたものだ。
―――― どうすっかね、ホント。
いや、どうするかは決まっている。自分がこれからどうするか、という選択肢は一つしかない。
問題は
盗賊退治の報酬全てを詫び料として差し出し、地に頭を擦りつけて謝罪したことで依頼人の怒りは和らいだ。
たとえどうしようもなく感情的になったとしても、一度気が済めば後は損得勘定を最優先するのが商人だ。
一銭の得にもならないことを引き摺りはしないだろう。
そうなれば冒険者ギルドの方も何か言ってくることはないだろうし、この問題は解決したと言っていい。
自分は無事。協力してくれた冒険者も無事。目的は達成。
およそ考え得る限り最上の結果と言っていいはずだ。少なくともこれより上を彼は思い付かない。
それはいい。それはいいのだが、その過程が問題だった。
―――― 借りがデカすぎるんだよなあ……
借りとは一党の仲間が、詫び料とするため報酬を全額こちらに渡してくれたことではない。
いや、それも借りではある。だが決して大きすぎはしない。
何故ならその借りはしっかり金額が決まっているからだ。
いずれ利子を付けて返さねばならないだろうが、具体的にどれだけ返せばいいかは決まっている。
だから今は無理というだけで、それは返せないような借りではないし悩むほどのものでもない。
問題は無償で助けてもらったという事実だ。
冒険者ギルドから出る報酬は当然のことだが彼の懐から出てはいない。
ギルドという冒険者にとっての身近なお上からの評価と信頼も、彼が出すわけではない。
同業者の間でちょっとした評判になるのも、彼が寄与するわけではない。
となると完全に無償で助けてもらった、という大きすぎる借りが一党の仲間に出来てしまったことになる。
これは大変よろしくない。最も望ましいのは
次いで一方的に貸しがある状態で、次が
そして最悪は今現在彼が置かれている、
額面があるならばまだいい。どれほど大金だろうと、どれだけ返せばいいかは決まっている。
金銭とは違う形で借りを返し、それがどれだけ価値があるかを決めることでも返せる。
だが金額のない無償の借り。これは厄介極まりない。
なにせ額がないのだから、どれだけのことをどれだけやれば返せるかが決まらない。
借りの大きさと返し方でお互いの認識にズレがあればそれは余計決まりにくい。
こちらとしては充分返したつもりでも、相手からすれば全く足りないという場合がある。
当然その逆も然り。これではどうすれば完済出来るのかが決まらない。
借り一つなのだから貸しを一つ、という考えもあるがそれでは大小の偏りが出てしまう場合が多い。
―――― これだから値段のないものは嫌いなんだよな。
金額が決まっているなら、その金額だけ払えばいい。
個々の思い入れによってそれが持つ意味は左右されるが、価値は万人共通。
だが金額のないものの価値は酷く曖昧で、意味もまた千差万別。
当然だ。その曖昧さにハッキリとした線を引くために生み出されたのが金なのだ。
誰にとっても金貨一枚の価値は金貨一枚。それは上下貴賎善悪正邪を問わない。
逆にその金で値がつけられないものというのは、曖昧極まりない。
それ故に都合良く使える場合もあるが、今回の様な場合は大変厄介だ。
返済額が決まっておらず、返済方法も決まっていない借入などまさに最悪ではないか。
それも誰か一人にあるのではなく、一党全員に借りがあるなどと。
本来こうなる前に何かしら手を打つ必要があったのだが、あの時はここまで頭が回っていなかった。
無論そんな事を考えていられる状態ではなかったのだが。
―――― ちょっとずつ返していくしかねえか。
元より新しい一党を探す必要はあったのだ。
比較的単独行で食って行きやすい斥候ではあるが、やはり一党を組むに越したことはない。
ちょうど斥候を探していた一党と出会ったのは縁というものだろう。
そこに借りのみならず、恩義という厄介なものがくっついてしまったのは些か困りものだが……
幸い一党の誰もがそれを笠に着てどうこう言ってくる人間ではない。
どころか、恐らくこの「借り」を返せとすら言わないだろう。
だがこちらが「借り」だと認識してしまっている以上、なんとか返済していくしかないだろう。
「まったく、面倒なことになっちまったぜ」
欄干に寄りかかりながら、さも面倒臭そうに呟く。
しかしその声は決して暗くはなく、むしろ弾むような響きさえあった。何故なら。
彼 ―――― 双剣斥候は、確かに笑っていたのだから。
―――――
夏の夕暮れはまだまだ暑く、太陽もその熱を和らげてくれない。
ギルドの裏手にある広場も当然その熱が籠もっており、そこに居る彼女は全身汗まみれになっていた。
何も気温だけが原因ではない。魔術の研鑽を積む際は精神を集中するため、多かれ少なかれ汗をかくことが多い。
加えて今彼女が行使していたのは火の魔術であり、余計に暑くなっているのだ。
それでも彼女は愚痴一つ文句一つ吐くことはない。吐いている暇はない。
魔術が一朝一夕に身につくものでないことは承知している。
それでも彼女は急いでいた。焦っていた。
魔術師の仕事とは火の玉や雷を投げつけるだけではない。
多種多様な知識を以て一党を援け、視野を広く持って頭目の判断を援ける。
そういったいわば軍師の様な立場が求められる ―――― 求められやすいのが魔術師だ。
しかし自分の一党の頭目は戦士であり魔術師である。それ故ある程度は自身でやれてしまう。
それでも一人で全てやれるわけではない。やれるわけがない。故に彼女が支えなければならない。
支えなければならなかった。
だが先日の冒険において、彼女は全く ―――― 少なくとも彼女の主観では ―――― その役目を果たせなかった。
山賊と小鬼の群れとで三つ巴の乱戦となった時。あの状態では広範囲に効果を及ぼす呪文は使えなかった。
《
呪文を二回しか使えない、それも既に一回使用した状態でそんな使い方はとても出来ない。
そういう使い方をした過去を思えば、そう考えることが出来ること自体成長した証ではあるのだが。
―――― でも、やれることは確かにあったわ。
彼女を守りながら戦ったために、魔法剣士と双剣斥候は大きな負担を強いられた。
ならその負担が無ければ?守る必要がない状態を作れていたら?
それどころか、彼女が囮になることができていたら?
―――― 《
二人から離れて自分だけを《力場》で守る。するとどうなっていたか。
小鬼は間抜けではないが馬鹿だ。目端は利くが、目先のことが最優先であり全てだ。
弱そうな雌が一匹だけ孤立すれば、それに殺到して来ていただろう。
そして破ることのできない結界に対し、執拗に攻撃を加えていたはずだ。どんな状況かも顧みずに。
そうしていたならば。そうやっていたならば。二人はもっと楽だったはずだ。
これは所詮後知恵であり、本当にそうなっていたかは分からない。
そもそも《力場》の結界は万能でも絶対でもない。
小鬼程度の攻撃ではそうそう破られるものではないが、
最初の一発に
そうすれば彼女は殴られ、刺され、斬られ、犯され ―――― ……
―――― 死んでた。それだけのことじゃない。
そう。
かの勇者だとてしくじれば死ぬ。あの
死が恐ろしくないとは言わない。最初の冒険で死にかけた彼女は、死の恐ろしさをよく知っている。
最初の冒険で仲間を失った彼女は、小鬼に殺されるということがどういうものかを知っている。
だがそれでも、死より恐ろしいものよりはマシなのだ。
魔法剣士を失うぐらいなら。一党の仲間の誰かを失うぐらいなら。自分が死ぬ方がまだマシだ。
だからそうならないように、彼女は役目を果たさなければならない。
しかし知識は魔術以上に一朝一夕で身につくものではない。いわんや思考法など。
であるならば、最も手早く ―――― やれることの中では最も手早く身につく魔術の研鑽を選ぶのは、少なくとも彼女にとっては自然なことで。
焦っても仕方ないと分かっていても、急いでも早くはならないと知っていても。
彼女はやらずにはいられなかった。
魔術師の仕事とは火の玉や雷を投げつけるだけではない。
しかし、火の玉や雷を投げつけるのも仕事だ。
つまりそれを磨くのだって魔術師としての重要な役割なのだ。だから彼女はそうしていた。
覚えている呪文の印を確認し、咄嗟のときに詠唱をせずともすぐ使えるようにする。
真言一つ一つの意味を見直し、どのように世界の理を変えるかを意識して力をより引き出す。
精神を研ぎ澄まし、敵を攻撃する魔術により多くの魔力を乗せ威力を上げる。
どれも一朝一夕に成るものではない。だが、積み重ねていけばいずれは成る。
彼女は学院を首席で卒業出来るほどの才能があり、主席になるだけの努力を積んできたのだから。
何度も繰り返すが、魔術とは一朝一夕に身につくものではない。
だからそれは幸運が手伝った部分はあれど、幸運にだけ頼ったものではなかった。
鍛練の総仕上げとして《火矢》を二回使った彼女が、不思議な感覚を覚えたのも。
その感覚に従い、もう一度 ―――― 三度目の《火矢》を行使し、すんなり魔術が発動したのも。
その際に以前行った
つまり彼女が日に
冒険者となる前、学院にいた頃から積んできた研鑽が。生まれついての魔術の才が。
彼女 ―――― 女魔術師の積み重ねてきたものが、たまたま今日その高さに至ったというだけのことだった。
女魔術師ちゃんもレベル上がって成長点溜まってたし多少の強化はね?
本編はサプリ出てから書こうと思います。魔法剣士君もそろそろレベル上がるし。
Q.魔法剣士君の加護ってなに?
A.ゲームのPC特有の「睡眠指示すると即寝て、指定した時間に必ず起きる」という
あの便利機能の事です。自分も欲しい。
Q.女武道家ちゃん結構引き摺ってる?
A.最低でも十年は引き摺って欲しい。でも引き摺るけど恋愛は出来ないほど重くはないと思います。
思い出を反芻して生きてるだけならともかく、色んな人と関わって色んなことやってたら
どんどん薄れていくのが自然だと思うので。死人にいつまでも構ってられるほど生きてる人間は暇じゃないので。
Q.双剣斥候君、思考が商人過ぎない?
A.商家で生まれ育ったので根っこが商人なんです。
活動報告であげた診断結果の中で、どれが一番読みたいですか?(書くとは限らない)
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魔法剣士【綴られた手紙】
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令嬢【どうか、叶えて】
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女魔術師【君のワガママ】
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魔法剣士と令嬢【忘れてください】
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魔法剣士と女魔術師【貴方の為だけの】
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三人【騙し騙され愛し愛され】