ゴブリンスレイヤー 実況プレイ   作:猩猩

71 / 75
サプリが読み物として面白いので初投稿です。
ゴブスレ設定資料集としても普通に面白いのでTRPGやらなくても楽しめますねコレ。


魔法剣士・裏 18

 ―――― 成長したな。

 唐突に自分の頭の中に浮かんだそんな思いに戸惑いつつ、魔法剣士は構えた盾で振り下ろされた棍棒を受ける。

 そして習い覚えた通りに、盾を斜めに傾け力を逸らし、流す。

 

「GBORU!?」

 

 棍棒を振り下ろした当人でゴブリンは盾もろともこちらの頭を、兜さえ打ち砕けるつもりでいたのだろう。

 受け流されて姿勢が崩れたことに戸惑うというよりも、何が起きたか理解できないというような表情を見せた。

 そして見せた瞬間、女武道家の脚がその頭部を蹴り飛ばした。

 枯れ木を踏み折った時の様な音が鳴り、小鬼の首が勢いよく曲がる。

 身体は正面を向いたまま、顔は後ろを向いた状態になったゴブリンは後頭部 ―――― 否、顔から地面に倒れ込み二度と動かなくなった。

 女魔術師の持つ松明の炎に照らされている範囲を素早く見回すが、一党(パーティー)の仲間以外に動くものは見当たらない。

 振り返って双剣斥候の顔を見ると、彼は黙って頷いた。少なくとも彼の認識出来る範囲にはいないということだ。

 であるならこの場の敵は片付いた。そう全員が判断し、緊張を緩める。

 油断はしてはいけないが、緊張し続けても持ちはしない。それぐらいは分かる程度に、彼ら全員は経験を積んでいる。

 

「十五……だっけ?」

「十六よ。入り口で一匹仕留めたもの」

「あ、そっか」

 

 女武道家の数え間違いを女魔術師が指摘する。

 洞窟の入り口で仕留めた見張りを含めて十六匹。

 それがこの洞窟の最奥に来るまでの間に仕留めた小鬼の数だ。

 依頼を出してきた村では女性を攫われた、という話が出て来なかったため恐らくはこれで終わりのはずだ。

 何処かに ―――― 例えば隠し部屋の様なものの奥に、隠れ潜んでいなければ、だが。

 

「君!位置取りが上手くなったね!」

「ああ」

「それに剣の使い方も!」

「そうだな、自分でもそう思う」

 

 麗人剣士の言葉に、魔法剣士は兜を傾け首肯する。

 三人も並べない狭い洞窟の通路だからというのもあるが、複数の小鬼が一斉に襲いかかろうとも魔法剣士は後ろに通さなかった。

 これまでの経験で立ち回りかたが分かった、と言いたいところだが実の所はそうではない。

 どうすればいいか、など彼にはまるで見当もつかない。

 単に自分が敵の立場だったらどうされたくないか、どうしてほしくないかを考えただけだ。

 それが今回はたまたま上手く嵌まっただけの話だ。

 とは言えそれを考えるだけ位置取りは上手くなったのだろう。

 剣の扱いにしてもそうだ。自分の筋力と剣の重量を把握し、振るにせよ突くにせよ無理のない動きは出来るようになった。

 だが術理や技巧と言えるような域には到底達していない。ようやく「振り回す」から「取り回す」になったと言うべきだろう。

 つまり、自分でも実感できる程度には成長した。それは間違いない。

 だが成長したから人より上に行ったかと言えば、それは大いに間違いだ。

 棒振り遊びの延長から脱したに過ぎない。その程度のことだ。

 そこを見誤れば大怪我を ―――― 大怪我で済めば幸運。そんな目に遭うだろう。

 もちろん自分が成長したことそのものは当然嬉しくはあるけれど。

 

「あたしもなんだかこう、色々上手く行くっていうか……一皮剥けた感じがする」

「あれだ、冒険で積んだ経験が成果になって出てくる頃だな」

 

 女武道家の言葉に「俺も覚えがあるぜ、それ」と双剣斥候は言う。

 

「ひたすら必死にやるだけの時期が過ぎて、ちょっと色々考えるようになって……で、その考えが上手く嵌まり出す時期があるんだよ」

「経験を積んで、力量(レベル)が上がり技量(スキル)が身について来る時期だね!僕もあったよ!」

「そう言えば貴方達、冒険者としては私達より先輩なのよね」

 

 女魔術師の言う通り、双剣斥候と麗人剣士は魔法剣士達よりも先達に当たる。

 等級が同じであるために時折忘れそうになるが、冒険者としての経験においては明確に差があるのだ。

 たまたま功を成す機会が巡ってくるか、仲間に恵まれるかして駆け足で鋼鉄等級に上がった自分とは違う。

 二人は確実に幾つもの依頼をこなし、実績を積み重ね上がったのだ。冒険者としてはどちらが上なのか言うまでもない。

 もっとも一々どちらが上かを気にする二人では ―――― いや。

 気にはすれど、執拗に拘る冒険者などまずいない。

 等級の上下は気にするが、それは分かりやすい目安になるからであってそれ以上ではない。

 どちらが強いとか弱いとか、冒険者として上か下かとか気にはなるだろうが気になるだけだ。

 それに固執し ―――― それしか気にしなくなったら、もう冒険者ではあるまい。

 だいたい相手が上だからといって、何の問題があろうか。

 上からは学び、下には教える。ただそれだけのことだと魔法剣士は思う。

 

「先輩と呼んでくれて構わないよ!」

「呼んで欲しいの?」

「全然!」

「じゃあなんでそんなこと言うのお前?」

 

 女武道家が問うと胸を張って麗人剣士は答える。それを聞いて双剣斥候が呆れたように呟いた。

 麗人剣士が頭に浮かんだことをそのまま喋り、双剣斥候が突っ込む。それがこの一党においては定型だ。

 そして話しているから休んでいるというわけではなく、双剣斥候を中心に周囲の探索は進めている。

 隠し通路も秘密の部屋も見当たらないし、潜んでいる小鬼も気配がない。だが怠ってはいけない。

 いないのと見つけられないのとではまるで違うのだから。

 

「ただ、慣れた頃が一番危険だからね!これだけは先輩として言っておくよ!」

「あー、それは同感だわ。慣れて来ると油断に繋がるからな」

「心しよう」

「肝に銘じておくわ」

「うん、気をつける」

 

 二人の言葉に、冒険者歴半年未満の三人は深く頷く。この辺りが危ないというのはなんとなく肌で感じていたことだ。

 必死なのは正直なところ今でも変わらないが、慣れと余裕が出てきたのもまた事実。

 良いことではあるのだろうが、それはつまりそこに隙間が出来たということ。

 そしてその隙間に何かを入れることが出来るのが成長したということなのだろう。

 だがもしその隙間に己で何かを()()()のではなく、何かが勝手に()()()()()のならば。

 慣れと余裕は慢心と油断に姿形を変え、こちらの命を容赦なく奪って行くことだろう。

 

「伝説の飛蝗人(ローカスト)みたいな蹴りを出せるならともかく、あたしはまだまだだものね」

「人々の自由と平和を守るために祈りし者になった、っていうあれ?」

「あれは金剛石の騎士みたいなもので、街の噂話だろ?」

「まあ、そうなんだけどさ」

 

 仮面を被り、馬に跨り、何処からともなく現れ人々を守るために戦う飛蝗人の戦士。

 極めて優れた体術を修めており、時には武器を使うものの基本的には無手で戦う。

 特にその蹴りは神々の奇跡にすら届くものであり、跳躍しての蹴りは魔神王すら葬るという。

 有名な伝説 ――――― と言うよりも噂話だが、実在の所は怪しい。夢物語と言ってしまっていい。

 女武道家が口にしたのはそんな存在であり、女魔術師と双剣斥候は流石に否定的な言葉を口にする。

 それを口にした彼女自身としても、本気で信じているわけではない。

 単に例え話として口にしただけだ。

 

「僕はその話を信じているけどね!」

「俺も信じている」

 

 しかし、そうでない者もいる。少なくともこの場に二人はいた。

 一人に関してはなんとなく分かっていたので驚きはない。三人は受け流すつもりでいた。

 だがもう一人 ―――― 魔法剣士の至って真剣な声音に、麗人剣士を含むその場にいた全員がギョッと顔を見合わせる。

 

「実在するかどうかは分からない。だが俺は信じている」

「意外だね!」

「そうか?」

「そうだとも!」

 

 麗人剣士の言う通り、魔法剣士がそんな伝説を信じているというのは誰にとっても意外だった。

 彼を知る者なら、誰が聞いたとしてもそう思うだろう。

 その伝説は、大抵子供が信じ噂するものなのだから。

 

「色々な伝説があるけど、僕は総てを司るものの話が好きだね!」

「俺は空なるものが好きだ」

 

 ―――― まさしく、このように。

 

「……ま、信じる信じないは自由だしな」

「いいじゃない、可愛らしくて」

「あはは」

 

 信じていない三人は苦笑しつつ、それでも否定はしない。

 存在しないと証明するのは大変なことだし、存在しない証拠もないのだ。

 それに他者が信じるものを ―――― それによって迷惑が生まれていないのであれば ―――― 否定するというのは、誰もしてはいけないことだろう。

 同様に、自分が信じているものを他者に無理矢理押し付けることも。

 二人は信じている。三人は信じていない。それでいい。

 ただそれだけの話だった。

 

 

―――――

 

 

「やっぱり、皆さんのお荷物に見られてるんでしょうか」

 

 いよいよ盛りを迎えようとする夏の昼下がり。

 茹だるような暑さに誰も彼もがうんざりとしているギルドの酒場で、女神官は思わずそんな事を呟いた。

 別に等級を上げたくて仕方ないだとか、自分の等級に不満があるとかではない。

 ただ友人達 ―――― 同時期に冒険者となった魔法剣士達との間で差がついてしまったことがほんの少し気にかかったのだ。

 その理由そのものは分かっている。彼らは下級魔神(レッサーデーモン)やら沼竜(アリゲイタ)やら盗賊やらを退治して、この街の冒険者の間では名が知られだした存在だ。

 一方自分はと言えば、ゴブリン退治しかしていない。人喰鬼も退治したことはあるが、それは偶発的なこと。

 そもそも自分ではなく一党の仲間達の力によるところが大きく、功績とは言い難い。

 無論何もしなかったわけではないので、それを評価してもらい黒曜等級に上がることは出来たのだけれど。

 ついこの間は遺跡の下で大目玉の怪物を倒しもしたが、それだってやはりゴブリンスレイヤーの策あってこそ。

 これだけで鋼鉄等級に上がろうというのは幾らなんでも厚かましいと分かってはいる。分かってはいるのだが。

 昇級の「し」の字も話が出て来ないのは、やはり銀等級の一党にぶら下がっているだけと見られているからなのかと思ってしまう。

 そしてそれは女神官の目線から見て、決して否定できるものではないのだ。

 ―――― 自分なりには頑張っているつもりなんですけど、頑張っているだけじゃダメですものね……

 荷物の確認に細々とした雑用と、ゴブリンスレイヤーの指示に従っての奇跡の行使。

 自分の役割として精一杯やってはいるつもりだが、それだけと言われてしまえばそれまでだ。

 実力も経験もずっと上の銀等級の仲間達におんぶに抱っこと見られていても不思議はない。

 

「そんなことないわよ。だって色々細かいことに気をつけてくれてるじゃない」

「耳長の言う通りじゃが……見られてるかどうか、つーと難しいわな」

 

 妖精弓手が笑い飛ばすが、鉱人道士は髭をしごきながら面白くなさげに呟く。

 内側に入ればそうでない事ぐらいすぐに分かる。しかし、内側ではなく外側から見た評価の話だ。

 銀等級四人に、冒険者になって半年も経たない黒曜等級が一人の一党。さて外からどう見えるかと言われれば ――――

 

「実情を知らぬ者から見れば、貢献が足りぬと見えることもあるでしょうな」

「ふむ」

 

 顎に手を当て考え込むような表情をした蜥蜴僧侶の言葉に、ゴブリンスレイヤーが短く呟く。

 昇級の基準となるのは報酬の総額と、依頼を達成したことによる近隣への貢献度。そして人格。

 報酬に関してはこの五人で初めて受けた ―――― 五人の一党となった依頼と、つい先頃の依頼とで金貨一袋ずつ稼いでいる。

 他にもゴブリン退治を幾度となくこなした。鋼鉄等級に上がるには充分過ぎるだろう。

 そしてゴブリン退治は近隣への貢献度という意味では、報酬に比べて大きい。

 なにせ分かりやすい、それこそ誰の目にも分かる典型的な人助けなのだ。

 具体的に言えば、それだけを五年も続ければ銀等級に上がれる程度には評価される。

 最後の人柄に関しては言うまでもない。彼女のそれが不適格と言うのなら、自分など白磁から生涯上がれまい。

 ―――― いや。それはわからんな。

 ゴブリンスレイヤー自身はそう思っているが、周りがどう見ているかは分からない。すぐにそう考え直す。

 以前牛飼娘と話したことを、彼は覚えている。

 自分がどんな風に見られているか話したことを、彼は忘れていない。

 あの時に自分が思う自分と、他者から見る自分が大きく違うことは知った。

 だから外から見たときに人柄がどう見えるか断定するのは危険だ。

 少なくともこうだ、と言い切れる自信は彼にはない。自分は全く分かっていないのだから。

 

「ならほら、最初に一党を組んだって子達がいるじゃない」

「はい」

「あの子達と一緒に冒険して、「私も役に立つ」って所を見せればいいんじゃない?」

「ほ。お前さんにしちゃ的を得とるの」

「失礼ね」

 

 妖精弓手の言葉に鉱人道士が混ぜっ返し、彼女は長い耳をピクリと動かし口を尖らせる。

 普段ならここからわいのわいの言い争いだすところだが、今回ばかりは違った。

 なにせ大事な仲間のことなのだ。そんな事をしている暇はない。

 

「成程。等級も冒険者になった時期もそう変わらぬ同胞と共に冒険を成す、というのはいい考えですなあ」

 

 深く頷いた蜥蜴僧侶がしみじみと呟く。

 

「それならば外側から見ても分かりやすい」

「でしょう? それならこの子が頑張ってるってところもすぐ伝わると思うのよ」

 

 自分の閃きを称賛されたからか。あるいは妹のように見ている女神官にとってよい考えだから。

 妖精弓手は「ふふん」と鼻を鳴らしその薄い胸を張ってみせる。

 鉱人道士は何か言いたげではあったが、女神官に関わることだけに沈黙を選んだらしい。

 この賢明な新人を大切に思っているのは何も彼女だけではないということだ。

 

「あ、あの、えっと……いいんでしょうか?」

 

 話の当事者である女神官は、急な提案に戸惑いながら一党の頭目たるゴブリンスレイヤーに伺いを立てる。

 魔法剣士達と冒険に行く。女神官からすればこれに否はない。

 彼らは最初の仲間であり、大切な友人達なのだ。一緒に冒険が出来るならそれは嬉しいことですらある。

 だが自分が ―――― 当然一時的なことではあるけれど ―――― この一党を抜けていいものなのだろうか。

 勿論魔法剣士達の一党が受け入れてくれるかどうか、という問題もあるのだけれど、まずはこちらだ。

 自分はこの一党の一員なのだから、頭目の許しを得る必要がある。

 そして問われた頭目(リーダー)たるゴブリンスレイヤーはと言えば、兜を僅かに傾け黙り込んでしまった。

 何も知らぬ人間が見れば不機嫌にも見えようが、そうではないことを女神官は長くない付き合いながら知っている。

 こういう時彼は何を言うべきか、言葉を慎重に選んでいるのだ。

 実際、ゴブリンスレイヤーは何を言うべきか迷っていた。

 真っ先に出かかったのは「好きにしろ」という言葉。

 彼女は冒険者なのだ。誰と冒険に行くか、どんな冒険をするかは彼女の自由だ。

 だから好きにしていいのだ。自分がとやかく言う権利もそんな気もない。

 しかし、それは何か違う気がする。

 具体的な違いなど彼には分からない。だが、違うのだ。

 故に迷い、戸惑う。はたしてどんな言葉を選べばいいのか。

 

「……俺は、いいと思う」

 

 考えに考え、出てきたのはそんな言葉。

 自分がたまたま助けた新人冒険者達。それがもう一度、同じ一党で冒険へ赴く。

 一人は失われたが、前を向き共に歩もうとする。

 それは良いことなのだ。ゴブリン退治などよりも、ずっと。

 

「それは良い考えだと、俺も思う」

 

 だから彼はゆっくりと。しかしハッキリとそう言って。

 女神官はそれを聞いて、花咲くような笑顔を見せた。

 

 

―――――

 

 

 大変に曖昧な ―――― 自覚するほどに微妙な笑顔を作りながら、受付嬢は慎重に言葉を選ぶ。

 いや、選んだつもりだった。

 

「皆さんの一党(パーティー)には問題はないのですが……」

 

 そう言ってすぐ自分の失言に気付く。これでは「相手側の一党に問題がある」と言ってしまったようなものだ。

 当然その失言を聞き逃してくれるはずもなく、魔法剣士は怪訝そうな表情を見せた……気がした。

 気がした、というのは受付嬢の眼では彼の表情の変化が分からないからだ。

 なんとなく雰囲気で察することは出来るが、はたして合っているのかどうか。

 彼の仲間達、特に女魔術師と女武道家に言わせれば雰囲気は勿論表情にも若干の違いはあるらしいのだけれど。

 

「もう一組の方に問題があるわけですね」

 

 その言葉に受付嬢は営業スマイルを浮かべたまま沈黙する。これを無言の肯定と取られるだろうが、事実そうなのだ。

 冒険者ギルドの職員として五年もやっていながらこんな有り様なのは我ながら情けないと思う。

 例えそれが珍しい ―――― 稀によくあるタイプの問題であろうとも、だ。

 魔法剣士が自分の反応を見て黙り込んでしまったため、受付嬢はこっそり手元の冒険記録用紙(アドベンチャーシート)に視線を落とす。

 王都で研修をしていた時にはちらほら見かけた、問題のある冒険者の一種。

 十年前、かの死の迷宮(ダンジョン・オブ・ザ・デッド)に冒険者達が挑んでいた頃。そこに集った大半の冒険者達がそうであった ―――――

 ―――― そうならざるを得なかった、という種類の冒険者達。

 その頃ならばそれが求められ、それでよかった。しかし今は違う。

 故に「問題あり」と看做され、ギルドと職員達からもそう認識される冒険者達。

 報酬も実績も功績も実力も足りていながら昇級が認められない冒険者達。

 

 すなわち、()()()()()()()()()()()()()問題人物(ムギャオー)達。

 

 今回の手合いは正しくそれなのだ。

 気位の高すぎる褐色肌人の血を引く貴族の四男坊。

 粗暴な行動が過ぎる巨漢の熊人(ウルス)

 女性にだらしなく違反行為スレスレの行動を取る髭面の湾刀使い。

 周囲の被害や状況を省みない魔術師。

 利己的な行動がやや過ぎる斥候。

 一党を組んで王都で3年間冒険者をやっていながら、未だに鋼鉄等級。

 それも充分な働きはしっかり見せているのに、だ。

 巨人(トロル)巨蟹(ジャイアントクラブ)人頭獅子(マンティコア)といった怪物を退治し実力は充分。

 当然それに見合った額は稼いでいるし、強力な怪物を退治した実績も功績も小さくはない。

 なにせゴブリンは村を滅ぼすが、これらの怪物は街を ―――― 事と次第によっては国を滅ぼすのだから。

 それでいて鋼鉄等級なのだから、何が問題なのかは単純明白。

 新人冒険者達へ毎年毎回最初に言うように、人柄に問題があれば昇級は出来ないのだ。

 それでも鋼鉄等級にまでなっているのは、さてこの等級程度までなら見過ごせる程度の問題なのか。

 あるいは鋼鉄等級になるまでは問題がなかったのか。

 手元の書類を見る限り、後者寄りの両方であるようだが。

 ―――― よくある事例ではありますね。

 有名になりたい。人から称賛を受けたい。大金を稼ぎたい。異性にちやほやされたい。

 冒険者となる人間がよく抱いている願望だ。これ自体は決して悪い事ではないし、受付嬢も否定する気はない。

 命懸けで危険を冒すのだから見返りを、というのはむしろ健全とさえ言える。

 そもそも英雄になりたいと一度でも思わない人間がいるだろうか?そんな人間が冒険者になどなるだろうか?

 だからそれ自体は問題ない。問題となるのはこれが()()()()()場合だ。

 もっと自分を褒め称えろ。もっと金を寄越せ。もっと自分に人が寄って来い。

 虚栄心や功名心、金銭欲が行き過ぎた者は底無しだ。どれほど得ようとも満足がない。

 すると働き以上にそれらを欲し、充分に与えられていないのだから正当な行為だと他者から奪い出す。

 今回の場合そこまではいっていないようだが、その傾向がかなり強く見られるようだ。

 さらに等級の上がらない人間の典型例(テンプレート)とも言える性質まで見えている、という注意書きまで加わっている。

 実力がある。腕力があり技を身につけている。術を使いこなし奇跡を授かっている。

 だから、自分一人で何でもできる。自分が暴れればそれで解決できる。

 そんな風に勘違いする人間は、どれだけ実力があっても一生白磁。

 これもまた等級に関して新人に説明する時、毎回言うことなのだが必ず出てくる。

 あるいは力をつけてそれに驕ってしまうことで、人が変わってしまうのか ―――― ……

 

「……とりあえず、先方と話をしたいのですが。話してみないことには始まりませんし」

「そうですか……はい、わかりました。もし無理だと判断した場合、キャンセルしていただいて結構ですので」

 

 魔法剣士にそう断りを入れて、受付嬢は近くに待機していた一党の頭目である褐色肌の貴族 ―――― 君主(ロード)に声をかける。

 確かに問題行動が目立ち始めてはいるが、それでも追放や降格処分を受けたわけではない。

 王都のギルドから出禁を受けたわけでもない。ただ単にこちらへと拠点を移してきただけだ。

 依頼の受注の際のやり取りも確かにやや尊大な態度ではあったが、問題があると言えるほどではなかった。

 魔法剣士の様な人間なら案外うまくやれるかもしれない。そんな風に受付嬢は考える。

 それにこちらへ拠点を移すにあたり心機一転、姿勢を変えている可能性だってある。

 杞憂に終わる可能性だって充分にあるのだ。

 

「おお、貴公が噂の!」

 

 ほら、笑顔を見せているし意外と気さくな ――――

 

まぐれ(フロック)と贔屓で鋼鉄等級になったという御仁か!」

 

 ―――― わけがないのだ。

 一瞬前までの希望的観測に縋っていた自分を呪いながら、受付嬢は営業スマイルを凍りつかせた。

 

 




Q.魔法剣士君の雰囲気とか表情は察せれるの?
A.女魔術師と女武道家はゴブスレ学ならぬ魔法剣士学の第一人者なので察せます。
 なお令嬢は魔法剣士学の権威。

Q.最後は幾らなんでも言い過ぎなのでは?
A.冒険者になって半年もしないのに青玉上がりそうなやつ見たら実力よりそっちを疑う方が自然なのでは?
 おまけに「ゴブリン退治で仲間一人失ってワンダリングゴブスレさんに遭わなければ依頼に失敗していた」新人なので。言われてもしゃーない。

Q.そいつが暴れたら解決するならそれでいいのでは?
A.勇者ちゃん「自分一人でなんとかしているわけではない」「みんなが頑張ってるから世の中は回ってなんとかなってる」
 彼女がこれを理解せず暴れて怪物退治するだけだったら単に「怪物を狙う怪物」に成り果てる訳で。
 逆に言うと彼女ですらこう理解しているのに、分からず暴れるやつがどういう存在なのかはお察しください。

祈りし者になった飛蝗人の伝説
・年に1~4人程度増える。多い時はそれ以上。
・世代で区切られているらしい。ただし彼らの中の区切りであり他の種族には理解できない。
・皆一様に飛び蹴りを必殺としており、それは文字通り「必殺」の一撃である。
・一匹一匹が特別な名を持っている。
・太陽神の化身もかつていたらしい。

総てを司るものの伝説
・天の道を歩くため、あらゆる場所に前触れもなく現れる
・雨粒が止まって見えるほどの速さで戦うため、隣で戦っていたとしても誰も気付くことはない
・選ばれしものであり、願うことは全て現実となる
・背後からの襲撃に強く、振り返りざまの回し蹴りを受けて無事だったものはいない
・圃人すら及ばぬほどに料理が美味い

空なるものの伝説
・「我は空なり」と名乗ったことからそう呼ばれている
・人々の笑顔を愛し、それを守るために祈りし者となり戦った
・拳を握り、親指だけを立てる行為をよくしていた
・身体の色を変えることがあり、それに応じて得意なことが変わる
・黒と金色が混じり身体から角が生えた時、凄まじき戦士となる
・詠唱も印を組む事もなく術を操り、相手を体内から焼くことが出来た

サプリメント曰く「祈りし者になった飛蝗人はいる」そうで。
人々の自由と平和を守るために戦う飛蝗人……いったいどこの仮面の戦士なんだ……

活動報告であげた診断結果の中で、どれが一番読みたいですか?(書くとは限らない)

  • 魔法剣士【綴られた手紙】
  • 令嬢【どうか、叶えて】
  • 女魔術師【君のワガママ】
  • 魔法剣士と令嬢【忘れてください】
  • 魔法剣士と女魔術師【貴方の為だけの】
  • 三人【騙し騙され愛し愛され】
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。