ゴブリンスレイヤー 実況プレイ   作:猩猩

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リアルダイス振って思わず「あっ」って三回ぐらい言ったので初投稿です。

そのうち一回は大きさ決めなのでそこまで気にしなくてもいいです。


魔法剣士・19 裏

 まぐれ(フロック)と贔屓。その言葉を頭の中で反芻し、魔法剣士は己のこれまでを振り返る。

 まず真っ先に思うのは、贔屓に関してだ。これは否定など出来ようはずがない。全く以て相手の言う通りだ。

 あれだけ愛情を注ぎ込んでくる婚約者がいるのに、何故贔屓を受けていないと言えるだろうか?

 外なる神から託宣(ハンドアウト)をもらっておいて、何故贔屓を受けていないと口で言えるだろうか?

 これはもう反論の余地がない。素直に認めるべきだ。

 ではまぐれの方はどうだろうか。

 運が強いという意味では、やはり否定出来ない。

 初めて行ったゴブリン退治。あそこで生き残ったのはもう完全に幸運の賜物だ。

 甘めに見て《察知(センスリスク)》を使うところまではいいとして、その後は運が良かったのだ。

 受付嬢の言葉に従い下水道に潜っていなければ、解毒剤(アンチドーテ)は持っていなかった。

 下水の臭いを知らないということは、間違いなく毒に気付くこともなかっただろう。

 つまり女魔術師を救うことは出来なかった。女神官の奇跡も無駄に使わせていただろう。

 そして立て続けに二人も仲間を失えば、冷静な判断も魔術の行使も出来ていなかった可能性が高い。

 となれば女武道家は田舎者(ホブ)によって戦闘不能 ―――― 死か、それに等しい目に遭っていたと考えるべきだ。

 彼女がそうなったらどうするか。いや、何が出来るか。

 決まっている。彼女を見捨て、剣士と女魔術師の死体をそのままにして女神官と共に逃げるのだ。

 だが《粘糸(スパイダーウェブ)》による足止めが無い場合、洞窟の出口まで逃げ切れるかどうかは分からない。

 そうなったらやることはただ一つ。彼女を先に行かせ、自分は小鬼達を食い止めようとしていただろう。

 そして一匹か二匹かは仕留め、ほんの束の間小鬼の脚を止める。

 それで終わりだ。間違いなく数に押し潰され、ズタズタに斬られ、刺され、殴られて死ぬ。

 よくある話。よくある新人冒険者の顛末。その一例になって終わりだったろう。

 そして自分が死んだなら、令嬢は生きてはいまい。他に生きる意味を見出すまい。

 それさえも四方世界ではよくある話で、よくある悲劇。それで終わっていただろう。

 そうならなかったのはやはり運だ。たまたま神々の骰子(サイコロ)が微笑んでくれたのだ。

 他にも運の要素はある。あの時ゴブリンスレイヤーが来なかったら?

 小鬼は間違いなく追って来ていたのだ。洞窟の外に出たからといって諦めてくれる連中ではない。

 女神官は戦えず、自分は消耗している上に女魔術師を担いでいる。追いつかれれば女武道家に頼るしかない。

 その状況で勝てるかどうか、逃げ切れるかどうかとなると大いに怪しい。

 ゴブリンがいる以上ゴブリンスレイヤーは来る。だが、あの日あの時間だったのは幸運だったからだろう。

 あのゴブリン退治以降はどうだったろうか。少し考えるがすぐに結論は出る。

 やはり自分は運に恵まれている。恵まれ過ぎている、と言っても過言ではない。

 自分の昇級審査に際して、槍使いと魔女が組んでくれたのはとてつもない幸運だった。

 これもやはりあの二人でなかったら、自分はあの傭兵(マーセナリー)に間違いなく殺されていたのだから。

 それに二人 ―――― 特に槍使いの教えは冒険者を続ける上で重要なものばかりだ。これも幸運だろう。

 そして依頼の後も何かと二人が気にかけてくれているのは、やはり贔屓と言われても仕方がない。

 一党(パーティー)の仲間に恵まれたことも幸運だ。これはあの剣士が自分と女神官を誘ってくれたからだ。

 あの日彼に出会えたことは、彼が声をかけてくれたことは。間違いなく幸運だった。

 誘ってくれたことへの感謝と、死なせてしまった後悔。それは死ぬまで忘れまい。

 つまり人々との出会いに関して言えば、神々の贔屓があったと言われても納得するほど幸運なのだ。

 それ以外に関してもそうだ。

 下級魔神(レッサーデーモン)小鬼王(ゴブリンロード)との戦争。下水道の沼竜(アリゲイタ)盗賊騎士(ローバーナイト)と小鬼の群れ……

 何時だって骰子の出目一つで。仲間の行動一つで。生死と勝敗は引っくり返っていた。

 今自分がここにいるのは幸運 ―――― つまり、まぐれと贔屓(クリティカル)の産物だ。

 勿論自分なりに必死ではあったしその時々で最善は尽くしてきたつもりではあるが、それは動かし難い事実だ。

 であるならば否定も反論も出来ないし、するつもりもない。

 流石に仲間まで同類と看做されれば断固として否定するし反論もするが、目の前の彼はあくまで自分一人について言っているのだ。

 事実を指摘されただけなのだから、粛々と受け入れるのが正解だろうと魔法剣士は結論付ける。

 だから彼は頷いて肯定 ――――― するつもりだったのだ。本気で。

 ただ考え込んでいたせいで無視をする形になってしまったというだけの話だ。

 その後は受付嬢が依頼について説明し始めたため、冒険者として職員の話はしっかり聞くという当たり前の対応をしただけで。

 彼としては相手を無視するつもりなど一切なかったのだ。当然揉める気もない。

 しかしそれが相手に伝わったかと言えば ――――

 

 

―――――

 

 

「伝わらないね!」

「まー、伝わってないだろうな」

「っていうか私達にも伝わってないもの」

「ちゃんと言葉にしなくちゃ伝わらないんじゃないかな」

「流石に伝わってないと思います」

 

 一党の仲間全員が口を揃えて言うように、伝わっていないだろう。

 依頼を受けることに決め、初の本格的な遺跡調査(ダンジョンアタック)に備えての必要な物資の確認。

 ギルドに併設された酒場でそれをしながら訊ねたところ、仲間達は自分の予想と寸分違わぬ答えを返してきた。

 それに対し「全く以てもっともだ」と魔法剣士は頷く。

 言葉を尽くしても伝わらないこともあるというのに、無言で伝わるわけがないのだ。

 そして無視と言うのは相手を最も腹立たせる行為であり、おおよそすべきではない。

 つまり最初から喧嘩腰であったことを差し引いても、相手を怒らせたのは自分が悪いのだ。

 

「依頼先で会ったら謝るべきだな」

「いや、それは違うんじゃね?つーか喧嘩売るのと同じだぞ、それ」

「時々凄くズレるわね、貴方」

 

 呆れたように、というか呆れたという態度そのもので。双剣斥候と女魔術師が溜息と共に言葉を吐き出す。

 女武道家と女神官は苦笑いしつつ、どうしたものかと顔を見合わせる。

 真面目であるが故に、真剣でありつつもおかしな方向にズレる。

 一党である女武道家にはもちろんのこと、女神官にとっても大変馴染みのある人間性だ。

 なにせそういう人間とずっと組んでいるのだから。

 つまり魔法剣士もまた、どうしようもない所のある人間なのだ。

 

「しかし結果的に良かったと思うね!いい感じにやり込めた形になったよ!」

 

 麗人剣士が上機嫌で言うように、結果的にだがその態度によって相手 ―――― 褐色肌の君主(ロード)をあしらえたのは確かだ。

 そして無視される褐色肌の君主と徹底して無視を貫く魔法剣士を見て、仲間達の腹の虫も治まったのだから最善の対応だったのかもしれない。

 そうでもなければ女魔術師と麗人剣士は相手に喰ってかかっていただろうし、自分もそうしていたかもしれないというのは後で女武道家から聞いた言葉だ。

 女神官と双剣斥候は一貫して抑え役だったが、それでも不愉快ではあったらしい。

 すると本当に自分だけがズレていたのだな、と魔法剣士はあの時の光景を思い返す。

 確かに自分自身だったからそうであって、あれが自分以外の仲間の誰かであれば腹を立てていただろう。

 なるほど、自分は大いにズレていたわけだ。魔法剣士は心から納得した。

 

「あの人達とも仲良く……は流石に無理ですよね」

「無理じゃないかな。向こうもそうだし、あたしもする気ないもの」

「全ての人間は分かりあえるだとか、仲良く出来るというのは危険な幻想だね!」

 

 女神官は理想を口にするが、言う前から自分でも気付いていた。

 万人が互いを理解し、仲良くする。それは理想ではあるが、理想とは遠すぎるものなのだ。

 女武道家と麗人剣士が言うように、現実的には相互理解も融和も完全に果たせるものではないのだ。

 絶対に出来ると、出来ないのはおかしいと。そう思いこんでしまうのは危険な誤りだろう。

 さりとて「だからやらない」というのもまた大いに間違っているのだが。

 理想はあくまで理想としつつ、そこに近付けるための努力はすべきなのだ。

 でなくばどうして人は進歩出来ようか?

 

「気に食わないけど、争うのも馬鹿馬鹿しいし無視でよくないかしら。気に食わないけど」

「ま、歩み寄れないなら手の届かない距離を保つのが正解だよな」

「手が届かないなら殴り合うことはないからな」

 

 不満を隠さず、しかしそれを抑えた意見を女魔術師が口にする。

 双剣斥候と魔法剣士は頷き、その意見を是とした。彼女の言う通り、この場合は無視が最も無難だろう。

 分かり合う、あるいは協力し合うために話し合うには労力と時間がかかりすぎる。

 かといって揉めることなど論外だ。冒険者間で競うことはあっても、争うことは無用有害そのものだ。

 当人たちは気が晴れるかもしれないが、依頼人にもギルドにも同業者にも迷惑でしかない。

 やり合いたいなら認識票を返上し、個人としてやり合うべきだろう。

 

「とにかく、依頼をちゃんとこなすのが一番…ですよね?」

「そうだな、それが一番大事だ」

 

 女神官の言葉を魔法剣士は肯定する。依頼を受けた冒険者なのだから、それが一番大事だ。

 それが規則であり、あるべき形だ。冒険者としてやるべきことだ。

 そして依頼を出すということは依頼主が困っているのだ。困っている人を助けるのは魔法剣士のやりたいことだ。

 やるべきこととやりたいことが一致していて、それがやれる。なら他のことは脇に置くべきだろう。

 

「とりあえずそのためにもしっかり準備をしよう」

 

 魔法剣士のその言葉に一党の全員が頷き、頭を切り替える。

 準備をしたから必ず上手く行くわけではない。準備が足りないから必ず失敗するわけではない。

 だが準備を怠らないことで避けられる危機は幾らでもある。

 それになにより、仲間と共にあれこれ言いながら冒険の準備をするのは楽しいのだ。

 自分達を嫌う人間のことを考えるよりも、好きな仲間と共に楽しくやる方が大事なのは言うまでもない事で。

 そうしているうちに彼らはすっかり相手のことなど、頭の片隅へと追いやって行った。

 

 

―――――

 

 

「ええい!なんなのだ、彼奴は!」

 

 盛りを迎えた夏の日差しの下。褐色肌の君主は怒りをぶちまけながら長剣(ロングソード)を振るう。

 強い日光を受け元々光を放つ刀身をさらに輝かせた長剣は、追剥の頭を鉢金もろとも難なく叩き切る。

 それは魔剣の斬れ味のみならず相応の腕前がなければ出来ぬ業であり、彼の技量(スキル)の高さを示すものだ。

 ましてや彼は左手に騎士盾(ヒーターシールド)を持ち、右手のみで長剣を振るったのであるからその力量(レベル)は並みではない。

 

「ヒッ、ヒイイッ!」

「ま、まってくれ!降参だ!こうさ ――――」

 

 武器を捨てて両手を上げ慈悲を乞うた ―――― 乞おうとしたならず者は、強制的に言葉を断ち切られた。

 

「ったく、降参するなら最初から襲うんじゃねえよ」

 

 ならず者の上顎から上を大戦槌(ウォーハンマー)で吹き飛ばした熊人の戦士は、もう一度その鉄塊を振り上げる。

 そして情けない悲鳴を上げながら両手を合わせ、神か彼かあるいは両方か。

 とにかくひたすらに慈悲と奇跡を乞い願い命を長らえようとするその相手へと振り下ろし、躊躇も容赦もなく肉塊へと変えた。

 

「暇じゃねえんだこっちも」

「襲ってくるなら金貨でも懐に入れて来て欲しいもんだね」

 

 金にならない相手はごめんだよ、と。

 打狗棒(バトルロッド)に付着した血やら脳漿やらを死体の服で拭いながら、忍びの者 ―――― その衣装を幾らか煽情的にしたような服を着た女性がぼやく。

 妖艶な容姿と衣服を持ち上げる豊かな双丘、そして頬にかかった返り血が凄惨なほどの色気を出しているが、それを気にする者はこの場にはいない。

 長らく組んでいる仲間はもう慣れているし、そうでない者は既に事切れているからだ。

 斬られ、叩かれ、潰され、焼かれ ―――― 辺りに転がった死骸は10ばかり。

 真黒に焼け焦げた死体の周囲の草むらも燃えているが、この一党は消火しようとする様子もない。

 襲ってきたこの盗賊どもが悪いのであって、魔術で周囲が焼けたとしてもそれは自分達の知るところではない。

 骰子の出目が良ければ延焼はしないだろうし、万一辺りが燃えてもそれは出目が悪かっただけ。

 自分達の知ったことではない。口にはしないが、一党(パーティー)の中ではそういう意識が共有されていた。

 

「それとおなごが混じっていて欲しかったのう」

「まーた悪趣味な事する気かい?」

「そんなことはないぞ。真っ当な道に戻るよう説得してやるだけじゃ」

「ハン、なに言ってんだか。説教叩きながら犯すだけじゃないかい」

「なに、痛みを教えてやっておるだけよ。儂の欲だなんだではない」

 

 立派な顎髭をしごきながら、ことさらに真面目な表情で湾刀(イースタンサーベル)を腰に下げた男は重々しく語る。

 その立派な風采と殊勝な言葉を放つ男の中身を知っている棒遣いは呆れたと言わんばかりの態度を見せるが、男は気にする様子を見せない。

 もっとも棒遣い ――――― のみならず他の一党の仲間もそれを咎める様子も、気にする素振りも見せない。

 彼ら彼女らにとって、この髭面の侍の態度もまた慣れたものなのだ。

 それはこの一党がこういった行為を許容出来る、許容してきたということでもあった。

 

「主様を無視するなんて、無礼な連中ですよねぇ」

「全くだ!」

 

 東方風の着物 ―――― それをはだけさせ、肩と豊かな谷間を露出させた女性が褐色肌の君主に触れるか触れないかの距離まで近づきそっと囁く。

 森人にも匹敵するほどの美貌と男好きのする肢体、そしてその態度はなんとも蟲惑的な雰囲気を醸し出している。

 しかし褐色肌の君主はそれに惑う様子はない。それは慣れか、あるいは怒りのためか。

 

「すっとぼけた頭目だったけど、あれで青玉間近って話だろう?」

「腕は立つのかもしれんの」

 

 死体の懐を漁り財布だけを手早く掠め取りながら棒遣いが言うと、懐から煙管を取り出しつつ髭面の侍が応じる。

 それを受け褐色肌の君主は大きく頷いた。

 

「腹立たしい男ではあったが、あの若さと早さで鋼鉄となりさらに上に行こうというのだ。甘く見てはならん」

「つまりそれをブッ飛ばすなり出し抜くなりすりゃ、俺達の方が上ってわけだ」

「その通り!甘く見てはならんが、我々の方が上なのは明白!それを証明してやろう!」

「さっすが主様!私精一杯支えさせていただきます!」

「うむ、頼りにしているぞ!」

 

 熊人の戦士の言う通り、自分達があの一党より上だと示せばギルドも昇級を蹴れまい。

 そう確信しながら褐色肌の貴族は堂々と胸を張る。

 騎士甲冑の見栄えの良さと彼の風貌、そして自信に溢れたその態度は一種の風格を纏わせる。

 その威容に女性 ――――― 呪術師は黄色い声を上げ、褐色肌の君主をますます調子づかせる。

 そんな二人の様子を一歩引いた目で眺めながら、賊の懐を漁り終えた棒遣いが訊ねる。

 

「とはいえまさか本当にブッ飛ばしたりしないだろうね」

「無論だ。流石にそれは一線を越えるからな。連中より先に依頼の目標を達成するなり、明確な手柄を立てるなりに留める」

「どっちが役に立ったか一目瞭然であれば、儂らを昇級させぬわけにはいかんということじゃな」

「そういうことだ」

 

 さぞ美味そうに煙管をふかす髭面の侍に、満足げに褐色肌の君主は頷く。

 相手も依頼も決して甘く見ているわけではないが、既に彼の中では勝利は疑いのないものとなっている。

 それは単なる己惚れではなくこれまでの実績に基づいており、一党の面々もまた似たり寄ったりの思いを抱いていた。

 

「でももし、もしですよ?向こうから手を出して来ちゃったら……」

「無論返り討ちにするのみ!」

「ですよねー」

 

 これまでの態度から一転、殊更不安げな様子を見せた呪術師に「安心しろ」と言わんばかりに褐色肌の君主は断言する。

 その言葉を聞いた呪術師は無邪気な笑顔を見せるが、それもまた棒遣いは冷ややかな目で見ていた。

 単純な頭目を上手く転がす一党の知恵袋。その組み合わせに不満はない。

 それによってこれまで上手く行ってきたのも事実だ。しかしここ最近は些か過ぎる気がするのだ。

 気がする、という程度で否定されればそれまでなのだが。

 

「アンタはどう思う?」

「ま、向こうも馬鹿な真似はすまいよ。意味がないからの」

 

 口から輪状の煙を吐き出しながら、髭面の侍は呑気な口調で棒遣いに応答する。

 

「して来たなら大将の言う通り、返り討ちにすればええじゃろ」

「確かにそうしてくれればありがたいねえ。こっちの懐が潤うよ」

「儂はどっちでもいいがの。それより向こうの一党は女が多いそうじゃて」

「手ぇ出してこっちから揉め事の種を作るんじゃないよ」

「なぁに、楽しく話して酒でも飲むだけよ」

 

 頭目(リーダー)より押し出しの効く、威容のある顔をだらしなく歪ませながら下卑た笑い声を髭面の侍があげる。

 酔わせてあわよくばそのまま一晩、という下心があるのは明白だが棒遣いは何も言わない。

 これもまたいつものことであり、髭面の侍は酔いこそ利用すれど力は使わない。

 それをやって問題のない相手以外には、力ずくという手段は用いない。

 ()()()()()()()()()()だが。

 

「どっちにせよ、面倒くせえことになればこれで黙らせりゃいい」

 

 背に担いだ大金槌の柄を叩きながら、熊人の戦士が牙を剥き凶悪な笑顔を見せる。

 

「結局のところ、冒険者なんて力なんだからよ」

 

 熊人の戦士が語るそれは確かに冒険者にとって真理の一つ。

 冒険者とは荒事が基本であり、力無き者が頼ってきてそれに応えるからこそ報酬を得られるのだ。

 たとえ大志を抱き正義を胸に宿していても、力無き冒険者に何が出来ようか?

 それこそ力も知恵も装備も資金も、そして運も無ければ最初のゴブリン退治で死ぬのだ。

 故にその言葉は真理の一つであり、一党の全員がその言葉に頷いた。

 

 それは確かに真理の一つであり、それは動かし難い事実だ。

 しかしあくまで一つに過ぎず、いわば冒険者の一面でしかない。

 それを表とするなら当然裏もあり、多数の側面も存在する。

 そこへ考えが及ばぬからこそ、鋼鉄等級止まりなのだと彼らは気付かない。

 気付けていれば今頃紅玉辺りになっていたであろうに、と。

 神々どころかもっと身近な ―――― 冒険者ギルドの職員達がそう惜しんでいることを、彼らは知る由もなかった。

 もっとも知ったところで省みることもなかったであろうが。

 

 

―――――

 

 

 暖かな湯に肩まで浸かり、女神官は思わず「はぅ」と吐息を漏らす。

 温泉は汗のみならず旅の疲れそのものまで流してくれる。

 無論錯覚にすぎないのだが、そう思わせるだけの心地良さがあるのもまた事実。

 

「ふぅ……」

「気持ちいいー……」

「実にさっぱりするね!」

 

 そう思っているのは自分だけでなく、一緒に入っている仲間達も同じのようだ。

 妙に艶めかしい吐息を漏らす女魔術師に、ふにゃりとした表情で全身を弛緩させている女武道家。

 麗人剣士だけは常と変わらず元気と活力に満ち溢れているが、それだけに言葉にも嘘は見られない。

 

「こう言うと失礼だけど、これだけちゃんとしたお風呂があるとは思わなかったわ」

 

 女魔術師の言う通り、中々にしっかりとした造りの温泉だ。

 屋根と柵で温泉の周囲は囲まれており、キッチリ男女別に別れてもいる。

 これは領主の拠点がこの村にあるからのようだが、同時にそれを作るだけの余裕もあるということだ。

 確かに餓えて痩せ細っている村民も見かけなかったことから、少なくとも食うにも困るというような寒村ではないのだろう。

 お陰で変な気兼ねも無く、女神官たちは領主の言葉に甘えゆっくり温泉に浸かることが出来ていた。

 

「あたしにとっては立派なお風呂なんだけど、王都にはやっぱりもっと凄いのあるの?」

「公衆浴場はもっと立派だね!当たり前だけど!」

「マッサージも受けられるし、運動場もあるしで一日いられるわよ」

「そんなに色々あるんですか……!」

 

 地母神の神殿で育った女神官と、田舎の村で生まれ育った女武道家。

 二人とも王都などというのは話でしか聞いたことがなく、そういう意味では御伽話の存在と同じ。

 無論王都はちゃんと存在して、そこに行く人間もそこから来る人間も大勢いるのだけれど。

 現に女魔術師はそこの学院を出ていて、麗人剣士はそこで生まれ育ったのだ。

 だから彼女らからすればそれは珍しくもないし、慣れ親しんだもの。

 しかし女神官たちからすれば、見たこともないものの話となる。

 そして冒険者とは皆好奇心を胸に宿しており、未知なるものの話とは魅力的だ。

 話す側も興味を持ってもらえたならば話す甲斐があり、楽しく話せるというもの。

 故に大変話は弾み、彼女らは文字通り姦しく湯と歓談を楽しんでいた。

 が、女神官にはどうしても気になる事があった。

 ある意味それも未知なるものであり、あらゆる意味で興味と関心を惹かれざるを得ない。

 されども直接訊ねるのは失礼かとも思ってしまい、どうしても切り出せない。

 結果、自然とチラチラ視線を送る形となり相手はそれに気付く。

 

「気になるかい?」

「あっ、いえ……ええと、その、少し」

 

 湯に浮かぶ麗人剣士の豊かな果実(メロン)。持ち主である彼女は気にした様子もなく、自らの手でそれを脇から持ち上げてみせる。

 気になっているのは大きさではなく ―――― いや、そちらも大いに気になってはいるのだけれど ―――― 普段との落差(ギャップ)だ。

 なにせ鎧姿は勿論、さらしを外すまではそんな膨らみがあるなど露ほども感じさせていなかったのだ。

 それが温泉に入る段になって、突如姿を見せたのだからどうしても気になってしまう。

 隠している理由はその時に説明してもらい納得はしたが、これまでの姿とのあまりの違いに視線がどうしてもそこを向いてしまう。

 同時に格差と言うには少々大袈裟だが、()()()も気になってくる。

 麗人剣士は例外としても、明らかに人より豊かな女魔術師や人並みの女武道家のそれと自分を見比べると……

 ―――― 牛乳が効く、というのは迷信でしたっけ……

 牛飼娘の姿を思うと、あながち迷信とも言えない気がしてくる。

 

「やっぱり大きい方がいいのかしら」

 

 女神官がそんな事を考えていると、女魔術師が麗人剣士にこそ及ばねど人後に落ちぬ豊かなそれに手を当てる。

 誰にとっていいのか、というのは考えるまでもない。

 この友人が誰に、どんな気持ちを向けているのかは辺境の街の冒険者なら誰でも ―――― というのは言い過ぎだが、大半が知っている。

 知らないかもしれないと疑わしいのは向けられている当人と、女神官がそういう気持ちを向けているどうしようもない人だ。

 

「あ、さっきのこと気にしてる?」

「一瞬だけど視線が明らかに向こうに向いたからね、彼ら!」

 

 先程顔を合わせた、褐色肌の君主の一党の仲間。その女性達。

 牛飼娘に匹敵するのではないかという大きさの棒遣い(スイカ)と、女魔術師と同等の呪術師(リンゴ)

 一切それを隠す気はなくむしろ誇示するような二人の豊かな双丘に、一瞬ではあるが明らかにこちらの一党の男性陣は視線を向けていた。

 そういう視線や態度に対して、女性というのは男性が思っているよりも遥かに鋭いものだ。

 もっとも本当に一瞬であるし、視線を向けたのは女性陣も同じなのだからどうこう言うつもりも資格もないのだが。

 

「大きければ大きい方がいい、って聞くし……」

「大丈夫!小さい、あるいはないぐらいの方がいいっていう特殊な人もいるらしいよ!」

「特殊って言っちゃったら意味ないんじゃないかな?」

「彼が特殊な可能性もあるじゃないか!」

「それは……否定できないけどさ。聞いたことはないし」

「あはは……」

 

 年頃の娘たちの、益体もない会話。

 この話が世界を変える事もなければ、彼女達の人生を変える事もない。

 依頼の成否にさえ関わってこない、本当に意味のない他愛ない会話。

 だがそれが出来るということには確かに価値があった。

 そして彼女達は会話の細部などすぐに忘れ、内容もそう遠くないうちにおぼろげにしか覚えていなくなる。

 だが彼女達はここで確かに友達と話したのだと。

 自分と彼女達はここにいて話したのだということは、忘れることはなかった。

 ずっと。

 

 




Q.最初のゴブリン退治、実際にはどうなる可能性が高かったの?
A.だいたい魔法剣士君の想像通りです。女神官ちゃんのトラウマが増えるよ!やったねたえちゃん!
 王都に行ったとき魔法剣士君に婚約者がいたとか、その婚約者が自殺したという話も聞くよ!
 つまり女神官ちゃんのメンタルが大変酷い事になります。
 その状態で思い出の鎖帷子盗まれるとか彼女がいったい何をしたというんだ……
 やっぱり残酷な《真実》なんて知るもんじゃないですね。

Q.大きい人多すぎない?あと大きすぎない?
A.漫画神が「どれだけ大きく描いてもいい」って言ってたし……
 あと漫画版ロボポン読んでたので作者の基準はもうガバガバ。

Q.決壊シーンは書かないのに何故温泉シーンは書くんですか?
A.女子が温泉ではしゃぐ様子を書くのは誉だ。

活動報告であげた診断結果の中で、どれが一番読みたいですか?(書くとは限らない)

  • 魔法剣士【綴られた手紙】
  • 令嬢【どうか、叶えて】
  • 女魔術師【君のワガママ】
  • 魔法剣士と令嬢【忘れてください】
  • 魔法剣士と女魔術師【貴方の為だけの】
  • 三人【騙し騙され愛し愛され】
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