とある男性、朝起きたら目の前にデジタマがあることに気がつく 作:ハトメヒト(ヒットマン)
一回目から三回目までの仮想ダイスが振り終わる。
『ダイスロールの結果を基に、基礎値と能力値に種族値が設定されました。テイマーである、D・サバイバーのデジタマに反映されます』
目の前のデジタマは、モザイクがかかりXXと書かれた模様に変化するが、何が生まれるのか分からない。
「どうなるんだ一体——」
『どうもなりませんよ、しっかり育てれば良いんです。管理AIの私もバックアップしますので』
「そうか……」
『基本機能の説明をお聞きになりますか?』
「頼む」
プロトの説明を聞いて基本的な部分は、昔遊んだことのあるデジタルモンスターのオモチャに酷似している。だが違う点があるとすれば、デジモンの育成は遠隔で行えることや、PC内に転送できる点だ。
『これにてすべての説明を終了します。では、D・サバイバーの良いテイマーライフを……。』
プロトの説明を聞いた俺の心境は、半分気休めが混じった
何せデジタルモンスターだ。そう
どんなモンスターに育つのかが分からないのに、よく平気で育てられると感心する。
しかし、元々は子供番組であるという部分や、ご都合主義を考えればそこまで深く考えなくて良かったはずだ。
でもここは現実の世界なのだ、あの子供達のように無邪気に考えて笑っていれば良い訳じゃないんだ。俺には仕事もあるし部下もいる。同僚や親類、友人でさえも……。
決心はついていたはずだ。災厄に立ち向かえるのは俺一人だけなのだ。
「何のためにこんなものが、手元に渡って来てしまったのか——」
手元にあるデジモンX-Iを見て、つぶやいてしまう。
誰にも相談できないという苦悩が、また俺の胃を
有給休暇を使おうにも前もって申請が必要であるし、同僚や部下に迷惑をかけたくないという二重苦から、俺の胃をまたも蝕んだが、気を紛らわせる為にどうするかを考えた結果、記録映像もとい育成記録をつけることだった。
「はぁ……帰りにハンディでも買うか。これじゃまるでゾンビゲームのパロディや、怪奇映像100連発みたいだな、まぁそっちのほうがまだマシか。俺が死んでもこの映像が残っていれば、うちの誰かが研究するだろう」
デジモンX-Iをスーツのポケットにしまうと、通勤カバンを背負って会社へと向かう。家を出て、真っ先に駅近くのコンビニに寄った。朝に胃を酷使したため、胃薬と水とゼリー飲料を買う。少なめに朝ご飯を済ませると、満員電車に乗り新宿へ向かう。
会社は、大手の研究製薬複合企業の大門製薬株式会社だ。俺は、そこの営業課に所属している。だから研究資料として、映像記録をつけようとしているのだ(最悪合成だと思われるかもしれないが)。
会社につくと身体チェックが行われる。危険物が無いかなど様々な検査だ。企業スパイも居る可能性があるので厳重だ。先週のことだが、研究員の誰かに何か盗まれかけたと、社内で噂になっていたためか今週はかなり厳重である。デジモンX-Iのことはバレない様にしないとならない(ばれない為に親類の子から預かった育成オモチャなどと偽るつもりだ)。
ポケットに入っていたデジモンX-Iやスマホ等を、専用のケースに入れておき列に並んだ。
すると、ふいに後ろから声を掛けられる。
「先輩、今日は特に厳重ですね」
「おぉ中村か、久しぶりだな。あんな事件があって研究所の方は大変だろう」
中村は俺の三個下の女性研究者で、第一研究所内でエースだというのは聞いている。会社の方針で一時期、営業課に所属していたこともあるため顔見知りである。中村は不貞腐れた顔をして、気心の知れた俺に愚痴を言ってくる。
「そうなんですよ。うちの研究員全員のマークが強すぎて、プライバシーもないんですよ。今日の予定はどうだとか、いちいち監視されていてGPSも持たされたりするんですよ。先輩ひどいと思いません?」
「そ、そうなのか大変だな……。まぁ元気出せよ今度何かおごってやるから」
「わーいやったー! 先輩ありがとうございます。じゃあ今度スイーツバイキングに連れて行ってください」
「あ、ああ分かった」
「本当ですか!? じゃあたくさん食べちゃうので覚悟しておいてください、約束ですよ」
「よく食べるから加減しろよ」
「ハイハイ分かってますって、それより先輩、その機械なんですか?」
専用のケースに入っているデジモンX-Iを指さして中村が訪ねてくる。いきなりここで聞かれることには想定外だったが、前もっていた考えていた答えを出す。
「これは育成オモチャでね。親類の子供が遊びに来ていた時に忘れていったんだ。小学生の男の子なんだが、取りに戻れないから代わりに育てておいてくれって言われてね」
「ふーんそうなんですか。あ、先輩順番が来たようですよ。また後でスイーツバイキングの件でメールしますね。忘れないでくださいよ!」
「ああ、じゃあまた」
子供みたいに喜ぶ中村をしり目に、ゲートの前に立つ。
ゲートの前には警備員が立っており、所持品を提出されるように促される。カバンを荷物用ベルトコンベアーに乗っけると、入口ゲートで社員証をスキャンさせ中に入る。今日も企業戦士の戦いが始まる。
ここからプロジェクトの進捗整理や、外部への営業を済ませ、昼休憩を挟んで普段通りなら17時で終わりだ。
しかし、いつもと違うのはここから家に帰って、観察記録をつけるというルーティーンワークが加わったぐらいかと思うと、少ししか休まらない。
「大丈夫か? 顔色悪いぞ」
同僚であり、部下の武藤から心配される。俺にはあまり顔には出ないと思っていたが、今回は相当のようだ。
「そうかな……」
「ああ、スマーフやデスラー総統並みに顔色が青いぞ。有給でも取ったらどうだ。俺たちだけでも仕事は出来るから2、3日取っても大丈夫だ」
「ありがとう。申請しておくからみんなに伝えておいてくれ、お前も無理するなよ」
「分かっているって。ま、変な案件さえ来なけりゃ大丈夫だろう」
武藤に促され、人事課に有給申請書を送るためにメールボックスを開く。中村から『スイーツバイキングの件』とメールが来ているが、先に申請書を作成してメールを送信する。中村からのメールには、10日後に近くのスイーツパーラーで待ち合わせという旨が書かれており、俺はOKの返事を出した。
送信してから暫くして、承認受理された旨がメールに記載されていた。
「無理せず頑張るか……」
ここから俺は17時で会社を退社して、池袋の家電量販店へ向かった。お目当てはハンディカムだったが、店員から小型ビデオカメラのGoing PROを勧められ、三脚と一緒に買うことにした。
量販店から家にまっすぐ帰り電気をつける。ここから、ビールにつまみDVDの三点セットが加わるはずだが、デジタマを前にして急いで先ほど買ってきたGoing PROに三脚を取り付ける。
スイッチを入れて、朝起きたらこんなことがあったとか、説明しながら映像に残している最中だった。いきなりデジタマが揺れてヒビが入り始めた。俺の本当の戦いはここから始まりを迎えた。
編集後記
まだ2話目ですが、どうなるか予想できている人もいると思います。
一週間に一度投稿で、徐々に慣れたらペースを上げていくほうが良いと思っています。
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