――ぐ。
あなたはベッドの上で呻いた。あの後、あびるほど酒を飲んだあなたは宿屋にたどり着いた後は死んだように眠った。そんな有様になるまで酒を飲んだのはここ最近の記憶にはない。よほど鬱憤が溜まっているらしいとため息をつく。
「おや、ご起床ですか団長さん。では、スープを持ってきますね。もう昼前ですが、胃にやさしいものの方がいいでしょう。エノテラ特性のじっくり煮込んだ野菜ゴロゴロスープです」
いいにおいがする。大ぶりに切られた形の揃わない野菜はむしろ男らしさを感じる代物だったが、クタクタになるまで煮込まれたスープはとても美味しそうだ。家庭料理と言うより、野営の料理だがそんなところも彼女らしい。
……そう、彼女に文句はないのだ。もっと強くなりたいと馬鹿なことを想っているあなたが素直になれないだけで。
――ありがとう。
おとなしく受け取って口にする。実は、少しショックを受けていた。さすがに昼前まで寝コケて、それでも頭がぐわんぐわんしているのはあり得ない。それこそ、街中でも害虫が襲ってくる可能性はいつでもあるのだ。
もっとも、”魔物”がそうかは自信が持てないところだが、だからと言って来ない保証がないのだから備えるのは当然のはずだった。まあ、大失敗しているのだが。
「お口に合いますか?」
――ああ、おいしいよ。
頭を押さえつつ。これは、今日はトレーニングもできないかとため息をつく。最近、鍛錬をさぼってばかりだった。
「少し眠ると良いですよ。この宿の警備状況は万全です。売女が侵入してくることもありません」
――それはどうでもいいけど。悪いが、もう少し寝させてもらう。
「はい。おやすみなさい、団長さん。寝て、起きたらいいことがありますから、楽しみにしていてください」
――?
よくわからないが、特に気にする必要もないだろうと思って目を閉じる。眠くなると言うことはまだ身体が休息を求めていると言うことで、酒に飲まれるとはけしからんと自分にため息をついた。
――む。
左腕が暑い。まるでそこだけサウナにいるみたいだが原因は寝ぼけた頭でも分かる。柔らかい感触……エノテラが抱き着いていた。
「おはようございます。団長さん」
――寝てた、わけじゃなさそうだね。
「はい。こうして団長さんの寝顔を堪能させてもらいました」
――酒に酔った寝顔なんて見れたものかね。
「いえいえ。そっちはそっちで大好物です。昨日の夜はだらしない感じでグッドでした。さっきのはちょっと苦しそうなのがそそる感じでグッドです」
――悪夢を見てるなら起こしてくれ。
「そんなもったいないこと、エノテラはしません」
あなたは窓を見て、もう夕方か、と呟いた。時間の使い方としてこれ以上無駄なことはない。内心、歯噛みするような思いだった。口は忌々し気にへの字をしているのが自覚できてしまう。
そういう八つ当たり的な感覚がさらに惨めだった。エノテラが嫌いなわけがない。だが――
「では、団長さんが起きたところでプレゼントです」
ベッドから降りて、布に包まれた細長いものを渡された。掴むところを見れば重心の位置でそれが何の獲物かわかる。
――剣……か?
しかも、布越しに見ても余計なものがくっついているのが分かる。獲物を飾り立てる花騎士もいたが、それはあなたの趣味ではなかった。もっとも、花騎士の持つ武器は、「それ武器か?」と首をかしげるものの方が多かった。鈍器として見るならエノテラの十字架はマシなほうだ。
「
受け取って見ると、その余計なものは明らかに機械だった。それは
――ナニコレ?
総評としては、そう言わざるを得ない。見ただけでは使用方法が分からない。大体、武器に余計なものをくっつける意味が分からない。機能を増やせば増やしただけ故障する確率は上がる。戦場では信頼性こそが神だ。
「これをどうぞ。団長ならば、大丈夫でしょう。魔力を流して発火させるそうです。……分かります?」
――大体は。こんなところで試しても大丈夫なのかね。
貰った薬莢をリボルバーに詰める。弾は入っていない、叩いてみると特殊な薬剤が詰められているようだと言うことが分かる。発火は簡単な魔法が使えれば、わけはない。使い方としては単純だが、それでどうなるのかがよくわからない。
――行くぞ。
とりあえず唐竹割でもするように剣を正眼に構えて、トリガーを引く。魔力を流して発火させるイメージ。一度でうまく行った――ガシャン、と音がして薬莢が排出される。
――な!?
魔力の増大……暴走! 普通ならば、自爆でもする。例えば火の玉を出すにも、掌に乗せれば火傷する。自分の魔力でも現象として発現させた時点でダメージが来るのだ。しかも、瞬間的に増大した魔力ではコントロールも難しい。
自分のものではない魔力をこうも過剰に流されては! 自らの中に収めることもできやしない。暴発する。
「こっちです、団長」
エノテラが十字架を構えていた。もう時間がない。暴発は避けられない、ならばせめて暴発する方向だけでも制御する。
――説明、しておけえ!
その怒涛の様な魔力を十字架に向けて叩き込んだ。
「とと。手がしびれました、もう少し手加減してください」
――いい薬だ。
あなたは笑って言った。口の端に笑みが刻まれているのが分かる。さっきので機能はあらかた理解した。この機構は一時的な
――いい武器だ。これなら、使い方次第で極限害虫の殻を割れるかもしれない。
あなたはニヤニヤ笑いが止められない。極限指定害虫――まあ、つまりはとてつもなく強い害虫のことだ。”それ”は基本的に英雄がチームを組んで討伐しなければならないような馬鹿げた力を持つ敵。どういうわけかあまり人類に向けて侵略行為が活発ではない、ボスに相応しい威厳を持った化け物だった。あなたは見た瞬間に勝つのを諦めて逃げた。だが、”これ”があるなら勝てるか、とニヤニヤ笑いを更に深める。
「団長さんが嬉しそうでエノテラも嬉しいです。でも、タダではありませんよ……?」
――ああ、そうだったな。何がいい? なんでもしてやるぞ。
あなたは今、抜群に機嫌が良かった。
「頭、なでてください」
――そんなことでいいのか?
「ええ」
あなたはとりあえず心を込めてエノテラの頭をなでた。
――ああ、そうだ。あとでキスしてやるから、練習に付き合ってくれるか?
「はい、もちろんです。団長」
最後のエノテラの要求は打算しかありません。