――エノテラは、貴方が欲しい。
エノテラは団長を見て、いつもそう思っている。始まりはいつになるのか、よくわからない。ただ――花騎士になれば箔がついてボーナス出るかな、と思ったのが騎士団に入隊した動機だったのは覚えている。まさか、配属先の街に到着して門を叩いた瞬間に、変な場所に転移させられるなんて思ってもみなかった。
箔付で花騎士をやるなんて、自分でもどうかと思う動機だ。だが、正義感なんて自分にはない。そういうのはそういうのが好きな人がやればいいのだ。
自分はやっても楽しくないからやらない。他人が勝手にやるのはかまわないが、なぜかそういうのが好きな人は往々にして自分にもそれを強制してくる。……口出しされるのはとても面白くない。
こんな考えだから、天罰が当たったのかな。と考えてしまう。
ここは世界花が見えない。どこに居ようが見えるはずのそれがないのは内心、かなりの衝撃だった。まあ、隣に居た人が盛大に意味が分からないとハテナマークを飛ばしていたので澄ました顔をして置きましたが。エノテラ、ポーカーフェイスは得意です。
ですが、傭兵団の皆に二度と会えないかもしれないと言うことが、ここまで辛いことだとは思わなかったのです。それに、所属するはずだった騎士団の人にも迷惑をかけてしまったはず。役割を果たさずに迷惑をかけるのは嫌いです。気分は沈む一方でした。
――だから、団長さんの隣に居れば気がまぎれた。
彼には言わないが、恋したのは本当に会ったばかりだと思います。一目ぼれと言うわけではないと思うのですが。この人、ちょっとイイかな。鍛えた筋肉が色っぽいな、なんてことを思ったけど惚れてはなかったと思います。
でも、冒険をして話をして……一日も持ちませんでした。エノテラは、ずっとこの人と一緒に居たいと思うようになりました。一緒に害虫――ここでは魔物と呼んでましたか。を倒すのはとっても楽しかったです。話が合って、こんな人がいつも隣に居てくれたら素敵だな、なんて思いました。
相棒になってほしいと思ってからは特急です。すぐに離れただけで不安になるようになってしまいました。
でも、団長さんはつれない人でした。もしかしたら襲ったら退治するみたいなことをエノテラが言ったのが原因かもしれませんが――ちょっとした傭兵流ジョークでしょう!? 男と女が一緒にいるのになんで手を出さないんですか、団長は。適当に服をはだけると目線が来るのに。
正直、この人は女に興味がない人なのかなと思いました。でも、最初の街では男にも興味を示した様子はありませんでした。お酒も食事だって、エノテラに合わせてくれただけのように思えます。
そういう人、傭兵団にも居ました。
強くなりたい、強くなりたい。ただ武の道に血道をあげる人。でも、それも少し違うかな。
ドラゴンを倒したときから……目に見えて団長は焦り出しました。普段ならば絶対にやらないだろう危険に踏み込むような真似を繰り返していました。ああいう人は他人と自分を比べたりしません。
あの時の団長のような勇気を無謀を履き違えた人から死んでいくのが戦場です。ドラゴンのブレスに突っ込むなんて危ない真似はできません。いつものエノテラなら見捨ててましたけど、団長は失いたくなかったからがんばりました。きっと、この力にこれほど感謝したのは初めてです。
――でも、団長はエノテラから逃げようとしました。
まさか、万が一にと用意しておいたクスリとセーフハウスを使うことになろうとは、まったくもって予想していませんでした。できれば、監禁なんてしたくありませんでした。本当です。別にそれが犯罪かどうかはどうでもいいですけど……エノテラには団長の意思を無視できません。
一般に言えば、それが嫌われるどころか憎まれるような行為ですらあることは知っていました。嫌われるのと、好きになってもらうの。どちらがいいかなんて、決まっています。団長に嫌われるのはとても怖い。まあ、嫌われないと知った今なら普通に誘拐するでしょうけど。
――嫌われるなんて絶対いやなのです。でも、ああするしかなかった。団長と二度と会えないくらいなら、嫌われてでも一緒に居たい。そう思ったから逃げられないようにしました。結果オーライ、で済ますのは嫌いですけれど。
でも、悪いことばかりではありません。団長はエノテラのおっぱいとか太ももに興味があるのは視線でわかってました。エノテラみたいな凹凸の少ない身体でも興奮してくれてよかったです。欲を言えば、もう少し積極的になってほしいですけれど。まあ、夜の生活も問題ないようで安心しました。
ええ、団長は優しい人です。きっと、エノテラのために受け入れてくれたのでしょう。
ですが、油断はできません。いまや団長さんはドラゴンスレイヤーとして時の人です。女の子にキャーキャー言われる御身分です。いつ、どこで泥棒猫にさらわれてしまうかわかりません。団長に近寄る女子力高めの女は排除です、即。
でも、それだけでは足りません。団長に近寄る女を排除すると同時に、団長にはエノテラ以外を見れなくなってもらわなくてはなりません。
「俺なしではいられなくなる身体にしてやるぜ、ぐへへ」というのを試してみましたが、団長はエノテラなしではいられなくなる身体にはなりませんでした。いい思いはできたのでそれはそれでよいのですが、教えてくれた傭兵団の仲間は嘘をついていました。
だから、別の手段を考えました。プレゼント作戦で好感度を稼ぎます。別の仲間が「好感度を上げたいなら、相手の好きなものをあげないと」と言っていました。あ、それと「受取拒否できない状況で、超高級品をあげれば逃げ道を塞げるよ」とも教えてくれました。団長が好きなのは、もちろん害虫をぶっ転がすことなのです。獲物をエノテラが取ったときも残念そうな顔してました。
つまり、武器です。でも、強力な武器なんて露店にも武器屋にも転がっていませんでした。簡単に調べられるものなら冒険の準備をしているときに既にチェック済みです。というか、ただの武器では駄目です。良い武器と言っても、結局は使い手に左右される。実のところ、エノテラの十字架は誰が作っても多少使い勝手が変わる程度です。強いかどうかは武器でなく、人が決めるということ。
だから、お金を使いました。倒したのはエノテラなどと言って押し付けられたドラゴンの討伐金はありがたく貰っておいたのでそれを使うことにしました。
やはり、お金の力は偉大でした。情報屋に頼めば知る人ぞ知る、とか、どマイナーな超高級品とか教えてくれました。お金なんかほしくないと言っていた花騎士が居ましたが、彼女はこの力を知らないのでしょう。お金があればできることは、きっと――人が思うよりもたくさんある。
エノテラは狂喜乱舞しました。ルンルンです。これほど”都合の良い”武器が見つかるなんて思っていませんでした。それは外部に魔力貯蔵庫を用意し、過負荷をかけて一時的に莫大な爆発力を得るというもの。
強力な一撃は団長が何よりも望んでいたもの。
団長は人にあまり興味がないくせに義理堅いので、これでもうエノテラから離れるみたいな不義理なことはできないはず。それに、万が一そんなことを思っても、魔力を込められるのはエノテラだけ……とは限らないかもしれませんが、早々居ないと聞きました。それに、魔力には相性があるとも。つまり、団長はその武器を使い続ける限り、エノテラにお願いして魔力を込めてもらう必要があります。
あ、団長とエノテラの相性が悪いはずがないので、込めた魔力と相性が悪いと爆発することを言い忘れてました。まあ今更ですし、いいですね。
彼は今、とてもはしゃいでいます。すぐに夜になると言うのに、外に出て試し打ちをしなければ気が済まないほどに。楽しそうな団長を見ているとエノテラも嬉しいです。ついでに頭をなでてほしいと謙虚なことを言って好感度をゲットしておきました。
ニコニコ、エノテラは上機嫌です。