敵は明らかに軍事行動をとっている。前後5人ずつ10人でで1単位のチームがざっと20。扇状に攻城兵器を端株部隊を守っている。そして、偉そうにしている指揮官は一人で奥にこもって指示を出している。
指揮官が一人と言うのは戦術的にはありえないが、相手は魔物である。だから、むしろ――これだけで敵は周りに味方が居たら邪魔になるような範囲攻撃を持っているのが見て取れる。もちろん、当然のように見抜けるのはその戦闘経験故だ。ちなみに、槍使いパーティはそんなこと分からない。
対するあなたたちの作戦は単純。二手に分かれて突撃、片方がボスを、片方が攻城兵器を破壊する。それを果たしたら後は流れに任せて、だ。複雑な作戦は、”複雑”と言うこと自体が失敗要因だからシンプルに行く。
「懐かしいですね。よくやりましたよ、斬首作戦」
――害虫はボスを倒さないと無限に湧いてくるような奴らだからな。
害虫の数は有限であるが多く、すべて倒しておかないと負債を未来に先送りするようなものでしかないのだが、実際にはボスをやられた害虫の撤退をそのまま見送るケースは多かった。殲滅できるだけの戦力がないと言う悲しい理由だ。
そして、今回もそのケースになる。たったの7人でこのリザードマンたちを殺し尽くすのは不可能だ。だからボスを倒して撤退させる。撤退しなくとも、攻城兵器と指揮官さえ倒しておけば後は街の戦力に任せられる。打ち合わせも何もないが、ボス討伐に成功したら二人はそのまま別の場所に脱出して隠れるつもりだ。無茶をする気も、義理もない。
「とはいえ、置き土産くらいは」
――置いておこうか。
進軍速度はエノテラとあなたの方がよほど早い。攻撃力こそ伸び悩んでいても、あなたは立派に英雄の領域に踏み込んでいる。そして敵は超高速で迫るあなたたちに驚いて迎撃どころではない。それでも、盾を前にして防御行動を取っている立派な兵士達だ。これでは一人殺す間に囲まれてゲームエンドになってしまう。
だから。
「「――ッとう!」」
盾を踏み台にして飛び越えた。その際に爆薬を放っておく。音と熱、リザードマンの硬い肌ではよくて怪我程度だが、手間取ってる間に手を出せないところまで駆けていく。
「抜かせるな!」
怒号が来た。位置的にボスにたどり着くためにはもう一枚抜く必要がある。彼らの戦意は十二分だ。さっきのを見られた以上、また盾を踏み台にしても通じない。横を抜くにはリザードマン五人分の幅は広すぎる。
「止まれ!」
「囲んでやっちまえ!」
近くで聞くと魔物の声は想像以上にだみ声だ。こんな戦場の場では何を言っているのか分からなくなるほど。
「……そこを通してください『アグノスタブロスヒオーニ』」
エノテラは三連撃で盾、盾持ち、後ろの戦士を切り裂いて先に進む。
――装填。『聖華剣・桜花絶翔』
あなたはさっそく機構剣を使用する。エノテラの桜色の魔力がほとばしり、ただの一刀で四匹まとめて切り裂いた。絶翔は横一文字に放つ強烈な斬撃、ゆえに求められるのはシンプルな力強さで技術では誤魔化せないから、あなたには使えなかった技だ。この結果にあなたは満足する。
「団長! 早い者勝ちですよ、今回もエノテラが貰います!」
――いいや、今度こそ俺が貰う。
ボスとの戦闘範囲まで近づいた。これでもう横やりは来ない。そんなことをするくらいなら、最初から護衛を付けておく。
「下賤な人間どもめ……我に。貴族たる我に歯向かうか!」
敵が剣を抜く。この世界の魔物には知能がある。どうやら向こうは貴族らしい。力は感じる。貴族的な服は先の豚よりも豪奢で、槍使いの鎧より強力な魔法がかかっている。
「は。余裕ぶってすぐにやられたらかっこ悪いですよ。大丈夫ですか?」
エノテラの十字架を剣で受け止める。二撃、三撃――三連撃をこともなげに受け止めた。さすが魔物の貴族を名乗るだけはある。……強い。
「なら、これなら!」
そのままつばぜり合っていた箇所とは反対の端を地面に突き刺す。
「『聖光のブルーロザリオ』」
「っぬ!」
地面が光る。魔力点の設置から爆破、一瞬の隙にそいつは後ろに跳び爆発から逃れた。敵は速度・パワーともに優れている。エノテラよりもステータスとしては上であることを認めざるを得ない。
――隙あり
だが、あなたはそこまでの攻防を予想していた。エノテラの方でも微妙に爆発を前の方にずらしていた。息の合ったコンビネーション、逃れる術はない……が。
「そんなものはない!」
そいつに尻尾が生えた。あなたの剣を叩き落す。今度はあなたの方が後ろへと逃れる羽目になる。なんの因果かあなたは隙だらけ、そのまま尻尾で薙ぎ払えば全身骨折は確定だ。
「油断しちゃだめですよ」
追撃をかけようとした瞬間に、敵の喉元にエノテラの十字架が迫る。あなたとエノテラの戦闘法は似通っている。隙を突いて急所をズドン、害虫を効率よく殺すための術……それは圧倒的な力を持つゆえに傲慢さを抱える敵には有効だ。
「……おのれ! 人間が我に傷を――」
驚異的な反射神経でどうにか逃れた。首に傷ができて服を汚すが、どれほどの傷でもない。それでも怒りを覚えたのか、その本性を表す。翼が生え、端正な顔には牙が生え、更には鱗に覆われる。
――
人と竜が混じった存在。実際にそうかは知らないが、人の知能と竜の強さを併せ持つことには変わりない。更に言えば、でかい図体と言うのは実は邪魔でしかない。さらに、そいつは人の身で強力な力を扱える。でかいというのはそれだけで突きいる隙である。つまり、遺跡で倒したフロストドラゴンよりもなお厄介な敵だ。
「対処法は?」
――逃げろ!
あなたたち二人は背中を向けて逃げ出した。
「……は?」
敵はそれを呆然と見送る。こいつは今、空に居る。空の上は有利だ、飛べもしない人間どもがいくら強くても、空の上に居るだけでなぶり殺しにできた。豆鉄砲なんて、空に居れば簡単にかわせた。そして、彼の魔法はいとも簡単に敵を焼いた。魔法で焼いて、いたぶり――最後には首をはねる彼の必勝法。絶対的な地の利。
……だからって、逃げるか普通。
「――ッ! いくじのない人間ども! 逃げるくらいなら戦場に立つでないわ!」
怒りが湧いてきた。急降下による加速で一気に追いついて斬り殺す気だ。魔法はそれほど威力が高くないから致命傷にはならない。だが、そんなことよりも逃げた臆病者どもの首を手ずから叩き落したい気分だった。
「……ッ!」
後ろを振り向いたエノテラが十字架を投げた。
「そんな苦し紛れで!」
本当にただ投げただけのそれは、かわす必要すらなかった。殴りつけて終わり。1秒の時すら稼げない。恐怖の前に技すらも忘れたか、と怒りに火を注ぐだけの結果に終わった。
――お前たちはいつだってそうだったよ。
しかし、全てが罠だった。エノテラのへろへろ投擲は視界を塞ぐ目的を悟らせないため。そして、反転したあなたが敵を討つ。
『霊華剣・桜花穿孔』
装填、エノテラの魔力を乗せた一撃は片羽をえぐり取った。もはやあなたの威力不足は完全に補われている。エノテラと同レベルの戦力と言っていい。
「っが! この――弱小な人間の分際で!」
されどこの竜人は未だ意気高揚。怒りのこもった一撃は防御すら貫いてあなたを殺すだろう。だが――
――残念。ゲームセットだ。
怒りは瞳を曇らせる。フリーになったエノテラは十字架を回収、投擲した。その本気の一撃は横から竜人の利き腕を奪い去った。
「さあ、団長。……どうぞ」
――よくやった。
「っくそおおおおおお!」
飛んで退避しようにも翼は撃ち抜かれた。剣は利き腕とともに地に落ちた。残った右腕で掴みかかろうにも、そんなものより先に相手の剣が届く。
『聖華剣・桜花絶翔』
竜人の首を、剣が絶った。
――おおおおおおおお!
あなたは勝どきを上げて、拳を天に突き上げた。
「嬉しそうですね」
エノテラがそっと手を包み込む。
――お前は俺の最高のパートナーだ。
あなたは興奮しているためか、似合わないことをし続ける。エノテラを抱き寄せた。
「ああ、団長。強引なのもイイ感じです」
エノテラは恍惚としている。
――ただ、この街には居づらくなったかな。
「団長と一緒なら、エノテラはどこでもついていきます」
――行くぞ。
あなたたちは歩き出す。花騎士世界には帰れるかもしれない、帰れないかもしれない。けれど、魔物を倒しながら酒を飲み、美食を楽しみ――夜の時間を愉しむだろう。あなたはもう、エノテラから離れることは許されていないのだから。
他の街に行く理由:この戦いが戦争レベルの規模であるため、政治に巻き込まれるから。二人はそう言うのに鼻が利き、その上で多少金銭を失うくらいなら離れる選択をすると思います。取れるなら遠慮なくぶんどるでしょうが。
槍使い達:二人が指揮官を撃破して敵が浮足立った隙に、攻城兵器を破壊しました。他のリザードマンたちは逃げました。
とりあえず、エノテラが団長を完全にゲットしたところでストーリーを終了とします。