あのあと、よく店主と話すとやはりアレはトロールだったらしいことが分かった。報酬に上乗せがあったが、彼の態度はあっけらかんとしたものだった。どうやら、こういうことはよくあることとのこと。考えてみれば、よく確認できるだけの実力があればそのまま倒してしまえばいいのだ。それをこうして依頼にするのだから、まあ――ターゲットの間違いは所詮”よくあるもの”として飲み込むほかないのだろう。
もっとも、もう一点……あなたの知っているモンスター知識とこの世界の魔物が噛み合いすぎていることに不審がある。
例えば、ドラゴンと言う名称のスライムが居たっておかしくないし、火を噴くゴブリンが居たっておかしくない。だが、逆に再生能力を持つトロールと言うのは、”そのまま”すぎておかしいのだ。まるであなたの知識から魔物を作ったような。いや、それも逆なのか。あちらの世界にあった魔物も、
そこで、あなたは考えるのをやめる。考えたところでしょうがないことだ。言葉が通じることすら、原理がよくわかっていないのだから。
そこであなたはため息をついた。無心になろうとして、まったくもって心を空にできていない。むしろ、考察の方が主になって型がおろそかになる有様だ。不甲斐ない、と臍を噛む。
とうとう放り出して寝転がってしまった。これ以上は無駄だ。思い返してみると、あなたがここでこうしているのは酒場の主から休んでくれと懇願されてしまったからだ。
更に言えば、トロールの依頼金が入っていない。こんな田舎では大金は簡単には用意できないらしい。
浮かない心のまま空を睨みつけ。
そして、暗くなったので宿に泊まる。エノテラがこの街にはあと何日滞在するかを聞いてきたので、そういうことを大声で言わないように注意しておいた。
昨日何をしていたかエノテラに聞いたら本を読んでいたらしい。街を歩かないかと誘ったらOKを貰えた。
服に小物を見て……屋台巡りで昼食をすますとやることがなくなってしまった。女性の買い物には時間がかかると言うが、エノテラには無縁のようだ。そして、冒険者らしく武器や防具を見つくろおうにも、すでに戦闘スタイルが固まっている者同士だ。武器を変えたところで弱体化するだけなのだから、見る価値もない。
だから、真昼間から空を見上げるみたいな寂しいことになる。
「こういうの、微妙な問題なのであまり言いたくはありませんでしたが……団長、悩みがありますね」
なにやらすごくどうでもよさそうに言われてしまった。とりあえず、観念して頷いておいた。
「あ、嫌だったら言ってください。スパスパやめますので。やることないので聞いてみただけです」
それはそれでどうなんだろう、と思いつつも悩みを話した。自分では足手まといではないかと言うことを。
「まったく、馬鹿ですね団長は」
彼女はやれやれと一笑に付してしまった。あなたは反論する。部隊においてレベルの違う者が紛れ込めば壊滅する、恐ろしいのは敵よりも無能な味方なのだ、と。
「それは騎士団の話でしょう? いえ、それにしても精鋭部隊を作るにしても後方支援部隊がいるはずです。同レベルで組まなければいけないなんて、傭兵団ではそんなこと言ってられませんよ。だって、そんなに人員いっぱいいないです」
その話を聞いてあなたは落ち込む。
「ああ、いえ。違います。団長が不要とかそう言うことじゃないです。エノテラ、できないことがあります。書類仕事とか、指揮とか、交渉とか、書類仕事とか。だから、団長が居てくれて助かってます」
本当に? と聞くと、頷いて返してくれた。
「まあ、団長は高火力は苦手なようなので、それはエノテラにお任せです。色々と足りないところは補い合えばいいんです。傭兵団はそういうところでした」
そうか、と頷いた。あなたは心が晴れやかになって気がした。
「それに初めてだったんです。私が居た傭兵団はやばいくらいに自由で、実は相棒とかそういうのはなかったのです。まあ、男同士とか女同士でも、いつもくっついている人たちがいましたが。それはそれとして……エノテラが一緒に居て楽しいのは、あなたが初めてです。団長」
エノテラが浮かべた笑みに見惚れてしまう。
「さ、今日も呑みますよ団長。明日こそ魔物をぶち転がすのです」
立って、手をこちらに差し出してくる。
――もちろんだ。
そう言って、あなたはエノテラの手を取った。
宿。エノテラは団長が変なことを言うので疲れてしまいましたと言って、酒と食事を受け取って部屋に戻る。さっさと着替え始めてしまったので、あなたは後ろを向いた。
「もういいですよ、団長。どうですか? エノテラ、かわいいですか? わくわく」
着ぐるみのような、寝袋のような、むしろ子供が好きそうな愛らしい衣装に身を包んでいる。あなたは毛布みたいで暖かそうだな、と少し現実逃避をした。
「どうしました? まさか、似合わないですか? しくしく。エノテラは悲しいです。団長に嫌われてしまいました」
泣き真似をするエノテラにあなたは弁解する。そんなことはない。とてもかわいいと褒め称えた。
「ふふふ。特別サービスですよ? いくらエノテラでも、こんな姿は他人に見せませんから」
意味深に笑いかけてきた。あなたは照れて、皿に乗ったサンドイッチを口にする。ごく普通のサンドイッチだった。他には揚げ物やらナッツ、どうやら店主はシーツを汚されたくないらしい。
「手を出してみますか? もしかしたら、ぶっとばされないかもしれませんよ?」
くすくすと笑っている。その様はとても妖艶で、とても見てられない。あなたは女性と付き合った経験がなかった。
「ふふ、団長は奥手ですね」
なにが面白いのか、上機嫌いに笑ってワインを瓶ごと煽っている。
――……
照れくさくなって、エノテラに倣って瓶ごと行った。次の日、二日酔いになった。