束縛系花騎士と転生団長の異世界転移   作:Red_stone

7 / 15
第7話 護送任務

 

 次の日、討伐依頼はなかった。代わりにトロールの報奨金と冒険者ランクが黒等級に上がったことを知らされた。等級は白・黒・銀・金・白金があり、白金は物語の英雄クラス。……黒とはつまり、とりあえずは一人前と認められた証である。そして、ほとんどの任務を受けられる証明書も兼ねている。依頼内容さえ合っていると限らないこの世界では、それ以上厳密にしようとしてもあまり意味がない。強い敵に突っ込んで死ぬのも自己責任であれば、オーク討伐でトロールが出てきたとしても”運が悪かった”そいつの自己責任だ。

 

 なので、別の街に行くことにした。店主は止めようとしていたがあなたたちは聞く耳を持たなかった。とりあえず、もっと大きな街に行けば獲物も強くなるだろうという皮算用である。

 

「護送依頼なんて丁度いい依頼があってよかったですね、団長」

 

 頷いて返した。依頼人の老夫婦は孫の居る街へ行きたいとのこと――帰りは帰りで別の冒険者を雇うようだ。こういう依頼はよくあるらしく、冒険者の入れ替えに苦労はしないらしい。

 

「実は、エノテラたちはあまりお金持ってないんですよねえ」

 

 明らかに飲みすぎが原因である。しかも安酒ではない。場末の店とはいえ一番高い酒なのだ、そこそこの価値はある。まあ、金遣いが荒いのは冒険者の特徴だ。……花騎士の特徴ではないが。

 

「――ま、ああいうのを狩ってくるのも冒険者の役割だそうですが」

 

 草を食んでいる動物を見る。草食の野生動物だが、油断していると後ろ足で頭をカチ割られる。冒険者の酒場にはああいうのを倒すだけで精一杯な者が大半だった。とはいえ、元々が数人程度のグループで本人たちもチンピラに毛が生えたレベルでしかなかった。

 

 この二人の護衛を得た老夫婦は幸運だ。この二人の護衛を抜くには、最低でも秘境にいるレベルの魔物の力が必要となる。

 

 

 しかし、この二人の力を披露することなく街へと到着した。あなたたちには分かっていたことだが、この世界は平和であると実感する。

 

 老夫婦と分かれて、冒険者酒場へ。

 

「よお、見ない顔だな?」

 

 槍を持つ男に声をかけられた。ガンを付けられた、といった形だが、その男はどちらかというとさわやか系で、河原での殴り合いを好みそうなタイプに思える。身体も鍛えられているのが見てわかる。先の街の冒険者と違い、ただ力仕事をしているだけの膨れ上がった筋肉ではない。

 

「兄ちゃん、強いんだろ? ちょっと、腕試しに付き合ってくんネかな?」

 

 とんとん、と槍で自らの肩を叩く。ここで断ればあっさり引きそうだが、あなたは頷いて答えた。そういう男の腕試し的なことは嫌いではなかった。

 

「おや、団長は用事ですか? じゃ、エノテラは依頼を見てますんで」

 

 彼女は興味がないらしい。依頼書の方を見ている。依頼選びは彼女に任せ、表に出て、彼と向き直った。

 

「ま、あまりハシャいでもしょうがねえ。ここで十分だろ?」

 

 あなたは構えを取る。男の方も槍を構えた。街の往来、道幅は狭い。槍を振り回せば別の店に当たりそうだ。とはいえ、通行人たちも慣れたもの。見ているのは数人でも、煽りたてている者もいる。どうやら、槍の男と知り合いの様ではあるが。

 

「じゃあ、始めってなあ!」

 

 高速の槍が迫る。花騎士に勝るとも劣らない腕前、この世界に来て初めて会った実力者。だが――

 

 『華聖拳・流水』

 

 槍を逸らし、懐に入るために踏み込んだ。対応できないレベルではない。それに、身体能力で言えば、まだまだ只人の領域でしかない。

 

「っとと。あぶねえあぶねえ。久しぶりの手合わせだっつうのに、一合で終わったら興覚めだぜ」

 

 その男はバックステップで下がった。それ以上下がると槍が軒先に当たる。あなたは即座に追いすがった。

 

「――ッ!? そいつは、受けの構えじゃ……」

 

 あなたは剣を抜く。この距離はもう槍の領域ではない、剣の領域だ。連撃を繰り出す……そいつは槍を縦横無尽に振り回して一つ一つ丁寧に撃ち落としていくが、距離を取れない。一度大きな一撃でもって後退させる必要があるのだが、あなたはそれを許さない。

 

「何でもありかよ……!」

 

 押し込んでいく。剣の領域よりもなお近く――拳の領域まで近づけば、長い槍では剣の連撃を防ぎきることなどできはしない。

 

「なら、一発逆転に賭けるしかねえよなあ!?」

 

 極限の集中、魔力が集積する。どうやら、この世界でも魔力は扱えるらしい。まあ、そうでなければトロールごときが災厄の化身になってしまうのだが。

 

「……行くぜ! 『俺流、一・撃・決・殺』」

 

 それは必殺技の名前に相応しい薙ぎ払いの一撃、ではあれど。

 

 『華聖拳・断空』

 

 逆手で真芯を撃ち抜いて止めた。タイミングを隠す気もない一撃など怖くもない。威力で言うならあなたの全力と同程度はあった。けれど、その程度の出力など花騎士に比べれば弱いものだ。ことさらに威力を高める必要さえない。

 

「……あ」

 

 そして手元の剣を喉元へ突き付けた。これで終わりだ。

 

「参った。負けだ負けだ! 強いなあ、アンタ!」

 

 かか、と大笑いして背中をバンバン叩く。どうやら彼は良い意味で剛毅な人間な様だ。あなたにはちょっと苦手な部類の人間だった。

 

「おや、団長。おかえりです」

 

 酒場に入りなおすとエノテラが一枚の紙を持っていた。覗き込むと、遺跡探索と書いてある。店主にもっていくとゴネられたが、槍の男が味方してくれたので問題はなかった。あなたは伏線回収には早すぎるな、と内心で思ったが都合が良かったので彼には感謝だけしておいた。

 

 

 

 そして、休憩を挟みつつ一日かけて遺跡へ到着した。あなたたちの人間離れした脚力でそれなのだから、気軽に調査隊などは送れない場所である。

 

「これ、団長は分かります?」

 

 指し示されたのは、よくわからない機構。知識チートは無理そうで、お手上げとだけあなたは返す。

 

 進んだ先はまさに魔境と呼ぶにふさわしい殺意に満ちた遺跡であった。歩けば矢が飛んできて、一瞬後には踏むべき地面が消えている。ゲームによくあると言えば、よくあるのだが……実際に現実化するとこれは厄介だ。

 なぜなら、音を聞こうにも周りがうるさすぎて罠の音なんてかき消してしまう。しかも、ぼろぼろの遺跡が天然の迷彩となって諸々の痕跡を隠してしまうのだ。ゲームと現実が違うという証左だった。

 

「歯ごたえはありますけど、エノテラが求めていたものじゃないです。エノテラは敵をぶっ転がしたいです……しくしく。すんすん」

 

 悲しそうにしていた。まあ、厄介なのは遺跡の機構だけで、明確な敵がいるわけでもない。奥へ奥へと進んでいく感覚は冒険者にとっては面白かろうが、そのためにここに来たわけではない。

 

 ――エノテラ、待て。

 

 無数の機構から発する音に紛れた異音。……足音をあなたは察知した。ここは通路、元々が室内戦など想定していない二人にとっては不都合だとあなたは歯噛みする。基本、害虫との戦いは屋外である。

 

「なるほど、これは面白くなりそうですね。団長は後ろに下がっていてください」

 

 ――エノテラ!

 

「違いますよ。トロールは団長に譲ったので、今度はエノテラの番です。まあ、相手の様子を観察しておいてくれると助かります」

 

 走り出す。牽制に、複製した十字架を投げつける。

 

「……ピ。侵入者発見。排除シマス」

 

 現れたのはゴーレム。というか、ロボットだった。ずんぐりとした寸胴に楕円の腕と足がついている。はっきりと言って、なぜ歩行できるのかが分からない体型だ。あなたは内心、レジギ〇スか? などと思ってしまった。

 

「……ふ!」

 

 投擲は牽制、桜色の魔力光は視界を塞ぎ、さらには殺傷力まで持っている。それを隠れ蓑に身をかがめて足へ一撃を喰らわせる。エノテラも空中で動くための体術は会得しているが、それでも緊急回避をするなら地上に足を付けていた方がいい。どうこまでも合理的なのがエノテラのやり方。普通は武器としてあり得ない十字架にしても、大質量かつ全面刃と、大型害虫の硬い甲殻を砕き中身を潰すには合理的である。

 

 だが、その一撃は防がれた。相手が何かをしたわけではない、単純な防御力によって。

 

「排除」

 

 ロボットが腕を向ける。ピ、と腕に亀裂が走る。

 

 ――エノテラ、腕が飛ぶぞ!

 

「……なんと」

 

 一瞬、びっくりした顔をして余裕で避け。

 

「で、後ろですか。妙な真似をするものです」

 

 後ろから迫るロケットパンチをこともなげによけた。予想云々以前に、害虫との戦いでは複数が襲ってくることが前提……そもそも後ろからの不意打ちを警戒しないのは余裕のない見習いくらいのものだ。

 

「対象ノ脅威度ヲ上昇判定。遺跡内ノ損傷判定ヲ解除シマス」

 

 両手でのロケットパンチを撃ちだした。

 

「叩き落とします」

 

 エノテラは向かい撃った。金属音が響き、片腕を地に沈めたがもう片方が残っている。

 

「っこの!」

 

 十字架を生み出し、叩きつける。だが、こちらは実体がない分、威力が不足する。だが、一瞬の時は稼いだ。最初のロケットパンチを打ち落とした実体のある十字架で、さらに一撃を加えて撃墜する。

 

「――チャージ完了。『ファイアブラスター』」

 

 ロボットの胸の部分が赤熱する。むしろ、時を稼がれたのはこちらの方だった。敵の必殺技がさく裂する。この遺跡内に回避できるだけの空間はない。そして、あなたも狙いの範疇だ。

 

 ――発射機構を狙え!

 

 極太のビームとはいえ、巻き込み狙いに当たるあなたではない。回避は容易かった。そして、エノテラも生き残っていると信じていた。だから、そう言った。

 

「なるほど、口の中が弱点というのはどこも変わらないですね」

 

 声はロボットの下から。あの一瞬で、一番の安全地帯である敵の足下に潜り込んでいた。状況判断も、そして身体能力もずば抜けている。武器は元の場所に放置、囮兼重しのパージだ。どこまでも抜け目がない。

 

「ピ。発射機構ニ異常発生」

 

 異常、そんなものは簡単だ。異物が挟まって動かない。そう、エノテラの”手”が。そして、魔力の収束と設置、そこからの爆破はエノテラのお手の物。

 

「燃えてきました。……さあ、バッチバチにしてやりましょう」

 

 ダメージなど恐れず、自らの腕ごと爆破した。だが、ロボを相手に我慢比べはあまりにも無謀。あなたは放置された武器を投げて渡す。

 

「がんがんやりますよ」

 

 あとはリンチ同然だった。床に落ちたロケットパンチを操れたところで、破損した胸部を殴り続けられているというのに、どんな抵抗ができる? へし折り、こじ開けて……中身を叩き壊すエノテラはとても楽しそうだ。

 

「ふう。すっきりです」

 

 汗をぬぐっている。一仕事終えたいい笑顔だ。手はわずかに火傷している。それで済んだのは加護のおかげだ。やはり、あなたとエノテラは基本性能からして違う。あなたであれば腕を二度と使えなくなっていた。そして、彼女は一人でささっと応急治療も済ませてしまった。

 

 貴方たち二人は先へ進む。あなたのわだかまりを残したまま。

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。