束縛系花騎士と転生団長の異世界転移   作:Red_stone

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第8話 ドラゴン

 

「――見つけてしまいましたか」

 

 深刻そうなエノテラの声にあなたは頷いた。当然に地下通路を開く仕掛けを見つけてしまったのだ。

 ロボットの戦いに興奮して辺りの敵を虱潰しにしてくれたものだから、ゆっくりと落ち着いて探索出来たのはいい。だが、”それ”を見つけたのは嬉しさより困惑が勝る。

 

 普通の冒険者なら大喜びするところだろう。

 

 とはいえ、ここにいるあなたとエノテラは花騎士世界の感覚がまったくもって抜けていない。こんな、如何にも何かありそうですよという場所の先には大型害虫が居るに決まっているのだ。

 未踏の場所は強力な害虫で溢れていると相場が決まっている。どちらかといえば探索も義務感でやっていただけになおさらに苦み走った思いである。

 

 ここでの最適解は後方の部隊に報せて陣地を作り、殲滅用の精鋭部隊を組んで突貫すること。というか、基本はその流れになるのだが……今は別拠点に精鋭など居ないし、後方部隊すらもありはしない、ただ二人の冒険者。

 

「どうしましょう? 大型害虫の巣になっているとも限りませんが。というか、この先はどうなっているんでしょうね。街での平和な様子を見ると肩すかしを喰らうかもしれませんし」

 

 あなたもその意見には賛成だ。おそらくは、思うよりも楽であるとは思っている。街の様子や冒険者を見て、元の世界ほど絶望的な状況だとは思えない。”ここ”も、まだまだ未踏の地とも、害虫により滅ぼされたコダイバナのような人を拒絶する土地でもないだろう。暖かみがあるのとは違うだろうが。

 

「では、行ってみましょうか。ダメならダメで撤退しましょう。その情報だけでもボーナスが出るはずです」

 

 そうだね、と返しておいた。互いに引き際は間違えないと信頼しているからできる強硬偵察、無理する気は微塵もない。

 

 

 そして、小説を一巻書けそうな罠と遺跡を守護するロボットたちを潜り抜けて最奥までやってきた。とはいえ、ロボットも先に出会ったモノよりも弱く、罠もこの二人であれば十分対処できる範囲でしかなかったため、描写を省くレベルには盛り上がりには欠けていた。

 

「……居ますね」

 

 だが、最後は最後で、相応しい敵がいる。強力な魔力の波動が扉の外にまで伝わってくる。強敵を倒すためにここまで来た。

 

「隠すということを知らないのであれば、ただの間抜けです。ぶちころがしましょう」

 

 貴方は花騎士世界では、武の鍛錬を積むために色々な伝手を持っていた。その中で一般に伝わらない知識もいくらか持っていた。そしてプレイヤーの”あなた”は更に詳細に知っている。古代害虫は知能があるかはともかく、あの手この手で人類を攻め滅ぼそうとしていた。どこまでも狡猾という言葉が似合うほどに。

 

 一方で……こんな、間抜けにも気配を垂れ流す真似をしていた古代害虫は一匹もいない。

 

「「……ッ!」」

 

 扉を破壊して飛び込んだ。ここで奇は衒わない。どうせ、視覚以外にも優秀な感覚器官の二つや三つは持っているだろう。補足されているのだから、そこで何かしてもどうしようもない。

 

「愚かな人間め。我が財宝を――」

 

 待ち構えていたのはドラゴン。雪のように白い肌、そして部屋の中は息が白くなるほどに寒い。いうなれば、フロストドラゴンとでも呼ぶべきか。なにやら口上を述べているが、あなたもエノテラも聞く気はない。更に言えば、財宝にも興味がない。

 

「まずは――当てます」

 

 武器の複製、そして投擲。目立った損傷はない。あれで効果がないとなると、あなたではダメージを与えることすら難しそうだが。

 

「この……人間どもが!」

 

 咆哮。どうやら動きを止める効果も含まれていたようで。全身に魔力を巡らせてレジストした。

 

 ――まずは、弱点を探す!

 

 指弾。今回は石など使わない。花騎士世界から持ち込んだ鉄球を使う。さすがに”これ”を相手に物資の節約などしていられない。

 

「……ぬあ!」

 

 相手は目をつむる。まぶたで指弾は止められたが、それでもそうする必要があるという情報は得られた。結界みたいな厄介な防御能力は持っていない。そいつはあくまで血と肉でできている、防護はおよそ考えられない硬度の皮膚――それだけだ。

 

「隙だらけです。『聖光のブルーロザリオ』」

 

 連撃からの爆破を足に叩き込んだ。肉がえぐれ、血がしぶく……だが。

 

「こしゃく、なあ!」

 

 ブレス。エノテラが居た場所が白く染まる。これは厄介だ。相手の領域が増えると言うのはそれだけで眉をしかめたくなるし、気温が低くなって継戦時間が減ってしまうのが都合の悪い。

 

「……これは、ちょっと面倒ですね」

 

 足の損傷はみるみるうちに治ってしまった。再生能力、持っている大型害虫も居るだけに厄介さはよく知っている。

 

 ――エノテラ、首の下。逆立っている鱗、狙えるか?

 

 あなたは賭けに出ることにした。逆鱗、ドラゴンの急所と言われる場所だが、もちろんモンスター知識と現実が合っている保障などない。まあ、実を言うとダメだったら、そのまま逃げるから最も堅実な策でもあるのだが。

 

「……あれですか」

 

 ――あそこが弱点だと思う。でなくても、一撃入れて逃げる。

 

 つまりは、一撃入れて離脱と言うオーソドックスな作戦だ。長距離攻撃持ち相手にそのまま背を向けて逃げるのは悪手。一度、相手の補足を振り切るために注意を逸らす必要がある。

 

「了解です。ですが、少し厳しいかもですね」

 

 ――援護する。

 

 二人そろってドラゴンへと向き直る。そのドラゴンは一杯に空気を吸い込んで……

 

「死ね! 愚かなる人間が!」

 

 極大のブレスを撒き散らした。全力で魔力を回しつつ、影響の少ない前に出る。エノテラも全力だ。加護の光をきらめかせつつ、投擲による射撃を行いつつ首を狙う。

 

「ええ。楽しみましょう……!」

 

 強力な獲物こそ何よりも興奮する。競い合うよりも、強い敵を潰すことにこそ彼女の生き甲斐であれば。濡れた笑みで走り抜けて、逆鱗を狙う。

 

「――っぐ!」

 

 ドラゴンは腕で防御した。やはりあれこそが急所だと確信しする。あなたは援護のため、ふところから取り出した袋を目玉に向かって投げた。

 

「……ッガアアアアア!」

 

 唐辛子粉、そういう用途に使う特性の品だ。知能があるならば、急所攻撃を防ぎ安心した後なら効果も増す。何よりも。

 

「くそ! くそ! くそが! 人間どもが! ふざけやがって!」

 

 もはや尊大なる口調すら捨て去るほどに、涙をぼろぼろ流しながら怒っている。これでもう、一番効率的な手段、ブレスを撒き散らして氷の領土を完成させることなど思い浮かばないだろう。

 

 扉こそ蹴り壊しているから全開であるものの、そこが氷で閉ざされたら手の打ちようがない。壊そうにも、その一瞬は生死を分ける一瞬だ。

 

「てめえ……があああああ!」

 

 ドラゴンは全力で移動し、全力で爪を打ち下ろす。その迫力だけで心臓が止まりそうだ。けれど、あなたはそんなことで止まりはしない。あなたの異常性は恐怖心の欠落にこそあるのだから。ゆえに。

 

 ――間抜けなドラゴン。その程度で支配者を気取るか?

 

 『霊華剣・穿孔』。ドラゴンの腕を登り、一撃を入れて離脱。あなたの最も貫通力のある一撃がドラゴンの眼を浅く切り裂いた。

 

「ギ。ギャアアアア!」

 

 痛がっている。これでもう両目は使えない。いや、根性で目を開く。片目には涙を、片目には血を流しながらも憎しみを込めて敵を睨みつける。

 

「これで……!」

 

 そして、エノテラの攻撃が逆鱗へと向かい。

 

「ぬ……おおおおおおおおおおおおお!」

 

 全てを氷に閉ざす全力の息吹が、部屋ごとまとめて凍らせてしまった。ドラゴンには武術も、戦略も、知恵すらもない。けれど、それでも……究極の魔物として、全てに君臨してきた。だからこそ、弱者を倒すだけの必勝ならば心得ている。弱者ばかりを、一生相手にし続けて来た。

 

 全てまとめて攻撃範囲に収めれば弱者は何もできはしないと言う事実。おそらく、ブレスの威力は何分の一にも落ちているし、大切な財宝にも霜が降りて輝きが鈍っているだろう。この腕では碌に拭けもしないため、本当にやりたくもないことだった。

 

 それでも、自らに”痛み”を与えた弱者ども排除できて、安心……

 

「まだ……だあああああ!」

 

 エノテラが口調もかなぐり捨てて、飛び出した。

 

「……人間!?」

 

 倒したはずと思って驚愕する。なのに、彼女は動いている。しかも、なにやら輝いて――

 

「がああああ!」

 

 叫び、ブレスで迎え撃った。不意を突こうが、スタートが遅れようが……それでもなお上回るのが、おとぎ話に語られるドラゴンと言う存在だ。

 

「おおおおおお!」

 

 エノテラも叫ぶ。余裕など一切ない。武器に魔力を込めて、ブレスを切り裂く。ただひたすらに全力で。この一撃に全てをかけた。

 

「……!?」

 

 そして逆鱗を切り裂き、喉元をかき切った。断末魔で震える喉元を、大きく振り上げた十字架で叩き切った。

 

「よくも団長にあんなことをしてくれましたね」

 

 ぽつりと言った言葉はあなたにまでは届かない。死にゆくドラゴンの耳に冷たく響くだけ。打って変わった笑顔で、エノテラは貴方の元に急ぐ。

 

「団長さん、致命傷にしておきました。討伐は完了――おや」

 

 あなたはガタガタと激しく震えていた。ドラゴンの広域ブレスのせいで気温は氷点下まで下がり、さらに服は凍り付いている。このままだと凍死しそうだ。まあ、冷気の発生源はくたばった。何分か震えていれば動けるようにはなりそうである。

 

 エノテラが無事な理由? それは、もちろん加護のためだ。雪山ですら水着な花騎士の加護は舐められない。

 

「大丈夫ですか? エノテラが温めてあげます」

 

 抱きしめられた。暖かく柔かで、さらにはいい匂いもしてくるものだから、一瞬あなたの思考は停止する。けれど、その思考はすぐにどん底まで落ち込む。徹頭徹尾、足手まといだと自嘲した。

 

「ふふ……こうしてると、団長がエノテラの子供みたいです」

 

 もういい、と言って立ち上がった。まだ体温は戻っていないが、歩ける程度には回復した。こころなしか早足で、あなたは酒場へと戻った。

 

 何かを喧伝したわけでもなければ、ドラゴンの死体を引きづってくるわけにもいかず、価値が付きそうな牙と爪だけを折って持ってきた。財宝も、いくらかは持ってきたが今は査定中だ。ゆえに英雄と騒がれはしない――今はまだ。

 

 報告を済ませて、気分がすぐれないから表に出る。もう夕方に近い。暗くなっていく空を睨みつける。空と同様、気分は暗い。どうしようもない……エノテラとは基礎能力が違いすぎる。全ては”加護”のためだ。それがなければ戦えないわけではない、例えば騎士学校の生徒達はそんなもの持っていなくても戦っている。後方で、という注釈は要るだろうが。

 

 けれど、やはり――害虫と”戦う”ためにはそれが必要だ。噂に聞く太陽の剣を作り出すことのできる団長と、あなたは違う。雑魚を狩るだけで精一杯で、強力な敵と戦う時には足手まといしかない。

 

 ――エノテラとは、離れるべきだろうな。

 

 呟いた。なによりも、自分がみじめだ。書類仕事は任せろなどと、この世界で冒険者になったのに言うことでもない。というか、書類仕事に集中するなど、あなた自身が嫌だった。強い敵と戦いたい、倒したい。そういう想いがある。

 

 けれど、やはり――その戦いにはついていけそうにない。あの広域ブレスで詰んだ自分には。あの時、エノテラが居なければ逃亡すらできずに踏み潰されていた。古代害虫、あるいはコダイバナの戦いにおいてはただ守られるだけの能無しでしかないのだ。

 

「何を黄昏ているんですか? 団長」

 

 隣にエノテラが座った。あなたは何も答えない。

 

「どうぞ、ドラゴンを倒した冒険者様が暗い顔してちゃ場が盛り下がっちゃいますよ」

 

 ドラゴンを倒したのは君だ、とは口に出さない。差し出された酒を飲んで……あなたは意識を失った。

 

 

 

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