イリエスの姦計で裏切り者の汚名を着せられ居場所を失い、ギンガレッドとの一騎打ちに敗れたブドー。それでもまだ戦いを望むブドーに天は再び彼に戦いの舞台を用意する。

1 / 1
まだ戦いたい……。その気持ちを汲み取ったのか、天はブドーに闘いの舞台を用意した。


ブドーの執念。その後

 まだだ……まだ……戦い足りぬ…………

 

 意識が完全に覚醒しない中……男の頭に思い浮かんだのは戦いへの渇望だった。

「うっ……」

 男はゆっくりと目を開ける。

「ここは?」

 男はゆっくりと辺りを見渡す。そこは上下左右、どこを見渡しても青黒い空間が広がる。

「どうしてここに……」

 男はなぜ自分がここにいるか考える。しかし思い当たらない。

「……そもそも私は誰だ?」

 何か手がかりがないかと、男は自分の体を見る。そのとき右手に何かが触れた。硬い感触に男は見ると、それは刀だった。

「……」

 男は刀を持つ。すると今まで自分が何者だったのかという疑問の氷が炎に熱せられたかのように溶け出した。

「そうだ、私はブドー。宇宙海賊バルバンの幹部で、「ブドー魔人衆」を率いていた男……」

 確認するように呟いた時、ブドーはあることに気づく。

「私は……確かギンガレッドとの一騎打ちに破れ死んだはず……なぜ生きているのだ?」

 その疑問への追究はすぐさま打ち切られた。突如現れた白く輝く光によって。

「くっ!」

 とっさに防御しようとしたブドーだったが、いかに『剣将』と呼ばれるほど卓越した剣技を持ったブドーでも光を斬ることはできず、成す術もなく光へと呑み込まれていった。

 

 

 

「うぅ……」

 光に呑み込まれたブドーはゆっくりと目を開ける。そこは荒野だった。空が赤く、日が少しだが暗くなり始めていることから夕暮れだとブドーは察した。

「う~む」

 ここで立っていても始まらない。そう考えたブドーが情報と一晩過ごせる場所を探そうと動き出した。その時だった。

 

 ウォォォオオオオオオォォォォォォンンンンンンッッッッッッ!!!! 

 

 牛のようでそうではない、巨大な野生動物のような声にブドーはバッと刀に手を置いて振り返る。そこにいたのは牛のような角を生やし、顔に髑髏(どくろ)のような白い仮面を着けた、巨大な何かだった。

 

 ウオオオォォォンンンッッッ!! 

 

 角を生やした何かはブドーに向けて拳を振り下ろした。

 轟音と共に大きくクレーターを作る地面。しかしそこにブドーの姿はなかった。

 

 ウゥゥゥウウウッッッ!? 

 

 化け物は周囲を見渡す。しかしいくら見渡せどブドーの姿はない。

「ここだ」

 ブドーの声に化け物は上を見る。化け物が見た光景、それは自身に向けて青白く輝く刀を今まさに振り下ろさんとするブドーの姿だった。

「ギラサメ残酷剣!」

 

 ──ー

 

 断末魔の悲鳴を上げる間もなく、髑髏のような白い仮面をつけた巨大な化け物は真っ二つにされ、消滅した。

「ふぅ」

 ブドーは刀を納める。しかしブドーに休まる時間はなかった。

「何者だ、貴様!?」

 声のした方へ視線を向けると、そこには腰に刀を差した黒い袴姿の男達の姿があった。

「……雑魚か」

 男達の佇まいからブドーは瞬時に力量差を感じ取った。

「ざ、雑魚だと!?」

 ブドーの侮蔑に、男達は刀を抜いた。

「鬼をも恐れる十一番隊の俺達を『雑魚』だと!?」

「雑魚を雑魚と言って何が悪い?」

 その言葉が引き金となった。十一番隊と名乗る謎の集団はブドーを取り囲むと刀を抜いて一斉に襲い掛かった。

「ふんっ!」

 襲い掛かる刀を回避しながら、ブドーは一人、また一人と斬っていく。その動きは水のようで男達の刀はブドーを斬るどころか服の一片に触れることすら出来なかった。

 数分後。ブドーを取り囲んでいた男達はうめき声を漏らしながら地に伏していた。

「う、うぅ……ヒィッ!」

 地面に倒れる集団のリーダーらしき男の首に、ブドーの愛刀・ギラサメが当てられる。

「お命、頂戴! ……ッ!?」

 ブドーの身体が考えるよりも早く後ろに下がった。ブドーの目の前に蒼い炎が通り過ぎた。もしブドーがその場から動かなければ、蒼い炎の直撃を受けいていただろう。

「大丈夫か、十一番隊!?」

 小柄な男を先頭に数人の男女がブドーに斬られた男達と距離をとるブドーとの間に立つ。

一葉(いちよう)、負傷した十一番隊を頼む!」

「わかった!」

 小柄な男の命令に一葉と呼ばれた黒髪で胸元の大きい女性は刀を抜いた。

「”我が意に従え”(たち)(かげ)!」

 そう叫ぶと地面に映る影に刀を落とす(・・・)。刀は湖に落としたかのように影の中へと沈んでいった。

「!?」

 ブドーは我が目を疑った。刀が沈んだ影が意思を持ったかのように負傷した男達に向かって伸びたのだ。男達の身体は女が落とした刀同様、影の中へと沈んでいく。

「ハッ! 逃がすものか!」

 初めて見る異様な光景に心を奪われたブドーは今まさに影へと沈み込もうとする女に斬りかかろうと突進する。が

音芽(おとめ)には指一本触れさせないぜ!」

 二十代後半から三十代前半の全男性を平均値させたかのような男の刀がブドーを止めた。

(この男……見た目こそ凡夫(ぼんふ)だが……出来る!)

 自分を止めた男が只者ではないことを悟ったブドーは後ろに大きく跳ぶと刀を構えなおす。

 その隙に女は完全に影に沈んでいった。この場に残るのはブドーと小柄な男、一見凡夫の男だけ。

「……」

「「……」」

 ブドーと二人の男が対峙する。

(この男も……出来るな)

 ブドーは自分を止めた男の隣に立つ小柄の男に目を移すと、瞬時に評価した。

(先ほどの雑魚よりも骨があるようだな)

 ブドーの頬が少しだけ緩む。そんなブドーの変化を知ってか知らずか、小柄な男が優しい口調で尋ねてきた。

「挨拶が送れて申し訳ございません。僕の名前は葛原(くずはら)粕人(かすと)と申します。失礼ですが、お名前をお聞かせいただいてもよろしいでしょうか?」

「笑止」

 葛原粕人と名乗った小柄な男の言葉に、ブドーは微笑んだまま冷たく言い放つ。

「この名前を聞きたければ、力ずくで聞いてみることだ……ッ!!」

 ブドーはバッと後ろに振り返り、刀を振り抜いた。

「おっと!」

 いつの間にか刀を抜いていた、先ほどまで小柄な男の隣に立っていた男が後ろに下がってブドーの攻撃を避ける。瞬間移動したかのように背後に移動した男に、ブドーの額に汗が流れる。

「ふふふ、ふはははははっ!! いい、いいぞ! この緊張感、恐怖……そしてそれらを超えた熱い衝動!! これが戦い!!」

 思わぬ強敵にブドーは歓喜する。

 そんなブドーを見て、小柄な男が叫んだ。

仏宇野(ふつうの)!」

「応ッ!」

 小柄な男は白いポケットから大砲の砲口部を模した筒状の黒い物体を腕に装着するとブドーに向けた。

「クッ!」

 考えるよりも先にブドーの身体は横に跳ぶ。ドカーン! という音がしたかと思うと、ブドーが立っていた場所が大きく抉れた。ギラサメ残酷剣より威力は劣るものの、まともに喰らえばブドーでもただではすまなかっただろう。

「クッ!」

 そんなブドーにもう一人の男が斬りかかる。振り下ろされる刀をブドーはギラサメで受け止める。

「ハッ!」

「ガハッ!」

 男の腹にブドーの蹴りが入る。

 後ろに跳んで男は無意識に腹を抑える。その隙をブドーは見過ごさなかった。

 瞬く間に距離を詰めるとブドーは刀を振り上げた。

「ギラサメ残酷剣!」

 青白く輝く刀を振り下ろそうとした時、

「ッ!?」

 背後から迫り来た殺気にブドーは振り返る。そこには自分をにらみつけながら刀に手を置いた小柄の男の姿があった。

 小柄な男の構えを、ブドーは知っていた。

(これは……居合い!)

 かつて見た文献で知った武術。ブドーは標的を小柄な男に変えて自らの必殺技を放った。

 

「な……」

 

 宙に舞うギラサメの刀身に、ブドーは放心してしまった。

 幾多の血を吸い取ってきた愛刀ギラサメと、文字通り『必殺技』といえるまで昇華させた剣技であるギラサメ残酷剣が、不意を突かれた上に体勢が崩れたとはいえ小柄な男の居合いの前に破れたという事実に。そして男の鞘から放たれた刀は放心するブドーの顔を斬った。

「グッ!!」

 焼かれたような痛みが右の顎部分から左目にかけて走る。

「トドメだ!」

 小柄の男は懐に手を入れると刀身のない、(つば)(つか)しかない刀を取り出した。

闘表剣(とうひょうけん)!」

 小柄な男が叫ぶ。すると刀身のない刀が赤く輝き刀身を形成する。まるで小柄な男の闘志を吸い取って具現化したかのように。

 小柄な男は闘表剣でブドーを突いた。その突きを、ブドーは間一髪のところで回避する。と、同時に小柄な男の懐に飛び込むと

「ハァッ!」

 闘表剣を持つ手に手刀を振り下ろした。

「ウッ!?」

 思わず闘表剣を落とす小柄な男。小柄な男が鍔と柄だけの状態に戻った闘表剣を拾おうとする。しかしそれは出来なかった。ブドーが先に闘表剣を拾ったからだ。

「闘表ギラサメ剣!」

 赤黒い刀身を形成した闘表剣で、ブドーは小柄の男の胸を突いた。

「……ッ!!」

 口から鮮血を流す。ブドーが闘表剣を抜くと

 

 ブシュゥゥゥゥゥゥッッッ!! 

 

 胸から間欠泉のように血が噴出し、小柄な男は目を大きく見開いたまま地面に倒れた。その拍子に燃え上がる炎を連想させる氷のような鉱物が先端についたペンのような物がこぼれる。

「葛原!!」

 もう一人の男が瞬間移動したかのように倒れた小柄の男を元に駆け寄ると、小柄な男を抱いて再び目にも映らぬ速さでブドーから離れる。

段士(だんし)!」

 先ほど影に沈んでいった女が再び影から現れる。段士と呼ばれた男は叫んだ。

音芽(おとめ)、ここは退くぞ!」

 有無を言わさぬ男の強い口調に女はコクコクと頷くと、小柄な男と男と共に再び影へと沈んでいった。

「……」

 ブドーは追い討ちをかけなかった。相手が完全に退却したことを確認すると、小柄な男に斬られた箇所を止血する。

「ん?」

 止血し終えたブドーは地面に先ほど小柄な男から零れ落ちたペンのようなものを拾う。

「何だ、これは?」

 探っている内に、ブドーの指がボタンを押した。すると

 

 ブオンッ! 

 

 何もない空間からブドーが始めて見た青黒い空間が現れる。

「どうやら……私はまだ戦えるらしい」

 再び戦える喜びをかみ締めながら、見えなくなった左目に包帯を巻いたブドーは青黒い空間に歩を進めた。

「今度はどんな強敵と戦えるのだろうかな」

 

 

 独眼竜になったブドーは新たな愛刀になった闘表剣の重みを確かめるように握った。

 

 




登場人物紹介
葛原粕人(くずはら かすと)
ブドーの前に現れた小柄な男。不意打ちとはいえブドーの愛刀ギラサメと彼の左目を奪うほどの居合いの腕前を持つ。
科学者の面を持ち、闘志を力に変える『闘表剣』、並行世界へと移動できる力を持つ『燃え上がる氷』を利用し自分の望む世界へと行き来できるアイテム『ワープホルダー』を作り出した。

仏宇野段士(ふつうの だんし)
一見平凡に見える男。しかしブドーでも目に追いきれないほど速く動くことが出来る。
前述の粕人とは親友。状況が不利ならば怒りに燃える上体でも即座に撤退を選択できる冷静さを持つ。

一葉音芽(いちよう おとめ)
黒髪の女性。影を操る能力を持ち、その力を使って負傷した男達を移動させた。
前述の仏宇野段士とは夫婦。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。