オールマイト「マイワイフは女子高生」 作:ワイフマン教授
00 奥様は女子高生
オールマイトには一人の友人が居た。
彼の名は、邉元氣(ほとり げんき)。「ポジティブヒーロー"GENKI"」の名で活躍するヒーローだ。
互いにヒーローとして活動していく中で二人は出会い、すぐに意気投合した。彼はオールマイトよりもいくらか年下だったが、明るく快活な性格で、気持ちの良い男だった。
元氣との友好関係は10年以上続き、その間に彼は恋人を作り、結ばれ、愛子を授かり、そしてそれらをヴィランの手によって失った。そのたびにオールマイトは彼をからかい、祝い、その幸福を心から喜び、その不幸を我が事のように悲しんだ。
ヒーローの宿命と呼ぶにはいささか無残が過ぎる、筆舌に尽くしがたいほどの様々な事があったが、それでも二人の関係は変わることは無かった。
ある日の事だった。オールマイトの元に、そんな長らく関係を続けている友人から驚くべき知らせがあった。
折しも宿敵オール・フォー・ワンとの抗争が激化していた時分の事だったが、元氣からの連絡もそれにかかわることだった。
オールマイトにとって最も注目すべきだったのは、元氣の開口一番の言葉だった。
曰く「娘が生きているかもしれない」と。
オールマイト達がオール・フォー・ワンを追いつめていくに従って、敵陣営の足並は次第に乱れはじめていた。その綻びを手繰ることでさらに敵を崩していくという戦いの中で、元氣はとある情報をキャッチしたという。
「『自己再生の個性を持つヒーローの娘』を攫い、それを育てているヴィランがいる」という話を。
元氣の個性は「自己再生」だった。そして、彼の妻の遺体は事件直後にすぐ見つかったが、娘の遺体はついぞ見つかることはなかったのだ。
子供は珍しい個性を持っておりオール・フォー・ワンへの供物として育てられていたが、ここしばらくのうちに敵陣営の形勢が悪化したことから、予定を早めてオール・フォー・ワンへと捧げられることになったという。
これが事実なのだとしたら、その子が元氣の娘であるかどうかに関わらず、一刻も早く助け出さなければならない。そう誰かに言い訳するようにして、オールマイトは車よりも電車よりも早いスピードで、文字通り駆けつけた。
郊外の小さな町にあるその場所は、見かけ上は小規模な診療所だった。街灯もまばらな夜の闇の中で、診療所のガラスの向こう側は防犯用と思しき緑色の淡い光に照らされて異様な雰囲気を醸し出していた。
数秒ほど息を整えてから、観察もそこそこにオールマイトはまた走り出した。
元氣はオールマイトの到着を待つと言っていたが、少しでも不穏な動きがあれば単独でも突入するとも言っていた。
彼の姿は無く、周囲は不自然なほどに静かだった。
突然だが、僕は「僕のヒーローアカデミア」に転生あるいは憑依したオリ主である。
僕のヒーローアカデミアというのは一見ふつうの現代モノのように思えるけど、本編のつい5年前までは悪の帝王が裏社会に君臨していて、平和になったはずの本編時間でもなお町中で日常的に犯罪者が出現するような世界である。謎の宗教団体とか反社会組織も居るところにはいるし、ひと皮めくればかなりの危険が潜んでいる。
この世界の住人は、運が良くても生涯のうちに何度かは犯罪を生で目の当たりにするし、運が悪ければ犯罪に巻き込まれて命を落とすか、あるいは望まずとも自ら犯罪者として生きることを余儀なくされる。
僕が生まれた環境も残念ながら「なかなか運が悪い」ほうで、10歳になる頃、つい前世の記憶に目覚めてしまうほど不幸な目に遭ったものだ。
けれども、それから7年。ヒーローに救い出された僕は、十分な環境の中、十分すぎる生活を送っていた。思うに、この世界は大きな辛い事があるぶん、大きな喜びも湛えているのではないだろうか。
僕はこの世界で、運命の人と出会った。
今僕の住んでいる家は、それなりに都会でそれなりに便利な住宅街にある。歩いて行ける距離にスーパーも家電量販店もあるし、駅もある好立地だ。
夕刻。近所のスーパーから帰ってきた僕は、手早く食材の整理を始めた。昼の弁当を含め、三食を作るのは僕の仕事だ。
僕も同居人もかなりたくさん食べるほうで、翌日の弁当に入れる分も含めると15人前くらいの料理を用意する必要があるけど、なんだかんだで僕は父が亡くなってから6年間自炊をしてきた経験があるし、ここ1年間は専業主婦をしていたので、特に手間取ることはない。
そうこうしているうちに、ガチャリと玄関の鍵が開く音がして、僕は手を止めた。時刻は19時過ぎだった。僕の愛すべき旦那様の帰宅だ。
僕が手を洗ってそれを出迎えに行こうとするよりも早く、素早く廊下を駆ける音がして…
「わ~た~し~が~…帰宅した(きタクシた)!!」
リビングダイニングの扉がバーンと開き、筋骨隆々の大男が満面の笑みを浮かべて登場した。僕はそれを笑顔で迎えた。
「俊典さん、たまにそれをやりますよねぇ」
「…いつも思うけど、もうちょっとリアクションがあってもいいんじゃないかな?」
「僕がリアクションの薄い人間だっていうことはご存じだと思いますが」
「キャー!ダーリンお帰り!」と言って飛びついてあげたら良かったのだろうか。確かにそのノリは彼に似合うけど、それはちょっと僕のキャラではきつい。
僕の旦那様は比較的テンションが高めで騒がしい人だ。それに対して僕はあんまり感情表現が豊かではない。少し申し訳なく思う。
そんなことを考えながら、彼のジャケットを受け取る。2mを大きく超える長身にボディビルダー並みの肉づきを持つ彼が着ていたジャケットは、女性として平均的な身長の僕が持つとローブのように巨大だ。
ふぅ、という感じでネクタイを緩めてワイシャツのボタンを外している彼を見ているうちに、ふいに気になって、僕は手の中のジャケットを顔にあてて息を吸った。
「…ふんふん」
決して嫌なものではなく、嗅ぎなれたにおいがした。
顔に触れても肌触りが良い程々に高級な仕立ての生地を感じつつふた呼吸…する前にジャケットが奪われた。
「あっ」
「ヘイガールッ、何をしてるのかな!!?」
俊典さんは自分の体でジャケットを隠すようにして抱える。僕はそれに対して悪びれることなく答えた。
「仕事後はどんなにおいがするかと思って」
可哀想だから直接言ったりはしないけど、彼も年齢的にはそろそろ加齢臭を身にまとっていてもおかしくない。それは僕としても少々気になるところなのだ。…という言い訳だ。
「大丈夫ですよ。臭くなかったですから」
「ぐっ…これは喜ぶべきなのかな…?」
「むしろちょっと興奮しました」
「What!?」
「冗談です。…嘘というわけでもないですけど」
「!!??」
この人はすごく良い反応をしてくれるから、ついからかって遊んでしまう。
「そうそう、まだ言ってませんでしたね」
部屋の隅にしゃがみこんで頭を抱えてしまった俊典さんの背中にしなだれかかりながら、その耳元に囁いた。
「お帰りなさい、旦那様。 お食事にしますか、お風呂にしますか、それともわ・た・し?」
「………ディナープリーズ!!」
「あはは」
アメリカンな振りには答えてあげられないけど、僕なりの新婚夫婦のノリとしては、これくらいで許してほしい。
僕の名は八木桃香(ももか)。旧姓は邉。
この春から国立雄英高校の1年生として通う17歳の女子高生で、日本の平和の象徴オールマイトこと八木俊典の妻だ。
あとついでに転生者でもある。そういえば僕っ娘でもある。自分でも驚きの要素過多だ。
たまに「なんでこんなことになったんだろうか」と思う時があるけれども、僕は今の自分にとても満足している。
いろいろ描写して説明してると長くなってしまうので、既に主人公はオールマイトと結婚している状態でスタートします。
なんでそんなことになったかについては、後々描きたいと思いますのでよろしくお願いします…