オールマイト「マイワイフは女子高生」   作:ワイフマン教授

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このたび前話までを改稿しました。アンケートご協力ありがとうございました。

設定の大きな変更は以下の二点です

AFOについて:既に故人です。一昨年の冬、オールマイトのもとに死柄木弔が先生の訃報を知らせに来ました。主人公達が彼の言葉の真偽を確認する方法はありませんが、AFOは決戦の後遺症により本当に死んでます。死柄木弔はその後、若き日のオールマイトの真似をして海外に行くと言って去っていきました。ナイトアイが必死に捜索していますが、その行方は知れません。

主人公が雄英にやってきた目的:根津にリカバリーガールの後継者にらないかと誘われたため。ただしその立場を目指せるほどの治癒の個性を持っていると周囲に知られればもうそれ以外の未来が選べなくなるので、当面は「自己再生」の個性を名乗ることに。このことを直接の関係者以外で知っているのはイレイザーヘッドのみ。

これらの変更に従い、01話、02話の文章がそれなりに変わっております。


第二章 巨悪のいない世界と今後の展望
07 学級委員長と昼食


 金曜日、朝。

 

 雄英高校でマスコミに対する注意喚起がなされた翌日。さっそく大挙して押し寄せたマスコミによって、雄英高校の校門前はがやがやと賑わっていた。カメラを構えたテレビクルーや報道記者たちが道行く生徒達の足を引き留めるおかげで、ちょっとした混雑が起きている。

 そんな中で、あるテレビクルーは坂を上がってきた女子生徒二人組に目を付けた。

 二人が身に纏うブレザーの肩章と袖のライン模様がヒーロー科のものだと見るや、彼らは我さきにと二人に近づいていってマイクを向けた。

 

「おはようございます! オールマイト赴任についてお聞きしたいんですが!」

「オールマイトですか? 格好いいですよね。大好きです」

「はい、それで…」

「大きい男の人っていいですよね。体が大きいとやっぱりパーツも大きくなるじゃないですか」

「え? あの…」

「引き締まってるのに太い太腿とか、胴の幅が僕の肩幅よりも広いのとか、すごい素敵だと思うんですよ」

「えっと……ありがとうございました!」

「はい。どういたしまして」

 

 

 

「いや、いくらなんでも適当すぎでしょ」

 

 逃げていくインタビュアーを見ながら、耳郎ちゃんが呆れたような顔で呟いた。僕はへらへらと笑った。

 今日は偶然坂の下で耳郎ちゃんと出会い、二人で並んでの登校だった。

 

「嘘をついたり訊かれたことに答えてあげなかったわけじゃないのでセーフだと思ってます」

「質問の隙が無かっただけだから! まあウチも聞かれたら適当に流そうと思ってたけど…」

 

 そう言ってから「っていうかさっきのってさぁ…」と、耳郎ちゃんはこちらを見ながら、何か言いたげにむずむずと口元を歪めた。

 そういえば、耳郎ちゃんは僕の夫がさっき言った特徴にちょうど当てはまる人物だということを知っている。

 昨日から幸せ気分だったせいか図らずも朝からノロケを聞かせてしまったようだ。

 

「八木さんってああいう事言わなそうなイメージだったんだけど…」

「あはは」

 

 そのイメージは正しい。インタビューを煙に巻くためとはいえ、僕はあんなことを人に言う人間ではない。

 今日はたまたまだ。そう、たまたま。

 

 ちなみに僕にとって最もビジュアル的にストライクな男性は、耳郎ちゃんも見た事があるスマートフォームの俊典さんだ。

 スマートフォームは、なぜか筋肉が減るのと同時に体重も軽くなって顔の彫りも浅くなる。

 普段のマッスルフォームな俊典さんも勿論好きだけど、スマートフォームだと多少細くなるから抱き着いたときに背中に腕が回せることが判明している。あと、顔も「平和の象徴」感が薄くなるから個人的に好きだった。

 まあそんな事言ったら絶対無理してスマートフォームを維持しようとするだろうから本人には言わないけど。

 

 下駄箱に差し掛かったところで、ふいに耳郎ちゃんは僕が持ってきていた二つの鞄の片方に目を向けた。

 

「ところで気になってたんだけど、その荷物なに?」

「これはお弁当ですよ」

「うわぁ…」

 

 うわぁとは何だ。確かに普通の女の子の10倍くらいはあるけど。

 

 

 

 

 と、そんなふうにいい感じに始まった今日一日だったけれど、朝のホームルームが始まるなり僕のテンションは急降下した。

 

 三日目にして見慣れてしまったローテンションのイカ澤先生は、やってくるなり昨日の戦闘訓練の話もそこそこに「学級委員長を決めてもらう」とクラスに宣言した。

 そして、「方法はなんでもあり」と言って、彼は教室の隅に備え付けていた私物の寝袋に包まって横になってしまった。

 

 この出来事自体には別にどうとも思う所はない。しかし、これは原作でもあったイベントなのだ。その一点が凄く重大なことだった。

 本来なら学級委員長を決めたこの日、昼休憩中に侵入者警報が鳴り、そこからUSJ編のシナリオが始まる。これが緑谷少年と死柄木弔の因縁の起点となる訳だけれど、僕にとってこのイベントは別の意味を持つ。

 すなわちAFO再始動の狼煙。

 僕はまさにこの日の事を考えて6年間活動していたわけで、もうAFOも死柄木弔も居ないといってもやっぱり何も感じずにはいられなかった。

 

 学級委員長決めは飯田君の熱烈な提案によってクラス内投票で決めることになったけれど、そんな訳でちょっと上の空だった僕は、適当に飯田君の名前を書いて投票した。

 

 そして、結果を開けてみたら。

 なんと僕と梅雨ちゃんさんが2票ずつ獲得で当選ということになった。

 

 

 原作で票を獲得していたはずの緑谷少年と八百万さんが自薦の1票だけだったのはまあ分かる気がした。昨日の戦闘訓練は原作とは違う形になっていたせいで二人とも際立った活躍はできていなかった。

 しかし、誰か二人が僕に入れたというのはちょっと僕には理解しがたい事態だった。

 僕の一体どこに委員長としての資質を感じたのだろうか。

 

 結果をよく見てみると、麗日さんと轟君が得票数0で、あと飯田君も僕の1票しかなかった。単純に考えればこの自薦をしなかった3人が僕に2票、梅雨ちゃんさんに1票入れたということになるんだろうけれど…

 

「誰かが私に入れてくれたのね。嬉しいわ」

「………」

「で、どっちが委員長やるんだ」

 

 梅雨ちゃんさんと二人で教卓の前に立つと、教室の脇に転がっていたイカ澤先生がもぞもぞと寝袋から這い出てきた。

 僕は梅雨ちゃんさんと目を見合わせて、すぐに先生に向き直る。

 

「蛙吹さんにお願いします」

「桃香ちゃん、いいの?」

「はい。僕は特になりたかったわけではなかったので」

「それじゃあありがたくやらせてもらうわ」

 

 僕が委員長を譲ると、梅雨ちゃんさんは少し嬉しそうに頷く。そんな微笑ましい絵面だというのに、空気の読めない爆発さん太郎からは「だったら辞退しろや!」という野次が飛んできた。

 僕が辞退したところで君が繰り上がり当選することだけはあり得ないだろうから落ち着きたまえって感じだけど、確かに辞退という選択肢は僕も視野に入れていた。

 でも、それは許さんとばかりにイカ澤先生がこちらをじろりと見ていた。

 

「もうホームルームの時間も無いし結果に従わないのなら多数決の合理性がなくなる。委員長は蛙吹、副委員長は八木で決まりだ」

 

 そしてそれ以上有無を言わせず、イカ澤先生はクラスに宣言してしまった。

 威圧感を放ちながらのその言葉をひっくり返せる人間などこの場には居ない。生徒達はひたすら頷いた。

 

「帰りのホームルームでは他のクラス委員を決めてもらう。その時はお前達が仕切れ」

「はい」

 

 まあ選ばれたからには頑張ろう。

 ただ、みんながやりたかった委員長職を僕がとってしまったのは少し申し訳なかった。

 

「票を入れてくれた方、ありがとうございます。よろしくお願いします」

 

 そう思ってひとつ礼をすると、クラスの皆は明るく拍手してくれたので僕はすこし安心した。

 

 爆発さん太郎は拍手に紛れて追加の野次を飛ばしていた。そして、「まあ言うても八木は入試首席だしな」という誰かの呟きを聞くとついに発狂した。

 

 

 

 

 そして昼。僕は屋上で昼食をとることにした

 

 雄英高校では、昼食は基本的に食堂以外の場所で食べてもいいことになっている。食堂では弁当やパン、おにぎりなども販売しているから、食堂の混雑を嫌う人はそれを買って移動して食べることができるのだ。

 俊典さんいわく、代表的な場所は、教室、校舎外のベンチ、そして屋上だそうだ。

 このことを女子たちに伝えると、他の女子たちも一緒に屋上に行ってみようという話になり、さらに麗日さんと食事を共にしようとしていた仲良しの緑谷少年と飯田君もそれについてくることになった。

 

 総勢9名のちょっとした大所帯を引き連れて扉を開けると、屋上には誰も居なかった。

 床は人口芝生で整えられていていくつかベンチも置いてあり、確かに昼食の憩いの場として使えそうな形だった。

 

「屋上はこんな風になっているのね」

「誰も居ないね」

「ヒーロー科は人数が他の科より少ないからでしょうか」

 

 女の子たちが口々に言いながら入ってくる。

 

 雄英高校の校舎は大きな1階部分から4つの棟が出ている形をしていて、棟はそれぞれの科に割り当てられている。僕たちが今いるのはもちろんヒーロー科の屋上。ヒーロー科は総数が少ないからその分利用率は低くなるというのは道理だ。

 逆に、他の科の屋上は多少異なる趣を見せていた。

 

「あそこ、なんか作業してる」

「おお、あの棟は確かサポート科だな!」

 

 多少人が居て昼食に興じている棟もあったし、緑谷少年が気付いて指さした先の棟などは、何人かの生徒達がなにやら空を飛びそうな機械を組み立てていた。

 

 そんなこんなを尻目に、僕はフェンス間際からそっと眼下を見下ろした。

 

「なんか見える? …あ、朝のマスコミ! まだ居たんだ!」

「大変やね。こんな時間どうせ誰も通らんし、ご飯食べに行ったらいいのに」

 

 そう。屋上からは校門と報道者たちが見える。それが、僕が今日屋上に足を運んだ理由だった。

 何も起きないと知りつつも、校門を直接確認できるような場所でもないとどうにも落ち着かなくて食欲がわかなかったのだ。

 こんな事になるならこんなに作ってくるんじゃなかったなぁと思いながら、教室から持ってきた鞄を地面に置いて中からお重を取り出すと、僕の隣で校門あたりを眺めていた葉隠さんがオーバーリアクションで声を上げた。

 

「その鞄、レジャーシートとか入ってるのかと思ったよ! 全部お弁当!?」

「はい。沢山作ったので何かお好きなものがあったら取ってくれてもいいですよ」

「『作った』って、全部八木さんが作ったん!? すごいなぁ!」

 

 残すのも勿体ないし、他の皆にもおすそ分けするとしよう。

 

 

 それから、僕たちは八百万さんが作ってくれた大きなレジャーシートに車座に座って昼食をとった。

 緑谷少年と飯田君はこういう形になるとは思っていなかったようで、女子に囲まれて恐縮していたけど、二人とも八百万さんがレジャーシートを作るためにシャツを捲り上げた時に素早く目をそらして微動だにしなかったことから、女子たちからは高い評価をもって受け入れられていた。

 

 食事中の会話で、一番メインの話題になったのは朝の委員長選挙についてだった。

 

「それにしても委員長も副委員長も2票で当選って、凄い接戦だよね」

「皆さん自薦に票を入れられてましたものね。その中で1票でも他の方からの推薦を得られたという事はそれだけ大きい事なのでしょうね」

 

 多くの生徒達は結果についてさほど思うことはないようだったけれど、一部の生徒はその限りではない。その一員である八百万さんは、一滴の悔しさを噛みしめるように苦笑して言った。

 

「そういえばヤギモモは委員長やる気無かったんだったら他の人に票入れたんでしょ? それでも2票入ってるのヤバくない?」

「まあヤギモモめっちゃ強いし落ち着いてるもんね。ほんとに同い年か!?って感じだし、票が入ってるのも納得できたかなー」

 

 女子の中で最も落ち着きのないコンビ(僕のことをヤギモモと呼ぶコンビと言ってもいい)である葉隠さんと芦戸さんが、それに相槌を打つように続いた。

 耳郎ちゃんはその言葉を聞き、ちらりと僕の方を見て「まあな」みたいな顔をしていた。この子は僕のことをだいぶ年上だと思っている。

 

 まあ強さはさておき、確かに実際僕の主観では僕は彼らの倍以上生きている。今生で前世の記憶に目覚めてからの7年間に前世の人生を合わせればもう40歳ほどにもなるのだから、流石につい先日まで中学生だったピチピチの高校1年生に比べればはるかに落ち着いて見えるだろう。

 むしろそうでなければ僕は自分の在り方を見直さなければならなくなる。

 というか、反応に困るのでみんなあんまり僕を褒めないでほしい。

 

 そんな僕の思いをよそに、テーブルマナーは几帳面に守りつつも男の子らしくむしゃむしゃとご飯を食べていた飯田君が口を開いた。

 

「昨日、爆豪君を御した手腕も少々暴力的ではあったが見事だった。俺は最後まで八木君と梅雨ちゃん君と緑谷君のいずれに票を入れるか悩んだ…」

「ええっ僕に!!? って、あれ、飯田君も1票入ってたよね!?」

「俺は結局梅雨ちゃん君に投票したよ。その票は誰かが入れてくれた一票だ」

 

 ありがたい、と飯田君は嬉しそうに言った。

 彼が梅雨ちゃんさんに投票したということは、僕に投票したのはどうやら麗日さんと轟君かな。

 

 

 

 そんな感じでのんびりとした雰囲気のなか昼休みは過ぎた。

 その間屋上に訪れる人は結局おらず、気付けば昼休みの時間は終わりに近づいており、僕たちはそそくさと弁当を片づけて教室に戻った。

 侵入者を告げる警報など鳴ることもなく、これからも屋上に定期的に行こう、なんて平和な会話をして今日の昼休みは終わった。

 

 ただ、一つ心残りができた。

 みんなに弁当のおすそ分けをする中で僕は緑谷少年にも卵焼きをあげたんだけど、彼はそれを一口食べるなり、少し驚いたふうに「この味…」と呟いた。

 飯田君がそれを聞き咎めると、緑谷少年は慌てて「いや、お母さんの味付けによく似てて!」と言いつくろっていたけれど、その姿を見て僕は遅まきながら気付いてしまった。

 

 昨年、緑谷少年の特訓の際に僕は俊典さんを通じて彼の分の弁当も作ってあげていたけれど、俊典さんはちゃんとそれが自分の妻が作ったものだと緑谷少年に説明したという。

 緑谷少年はオールマイトが妻帯者だと知って相当驚いたらしい…というのはまあいいとして、何が言いたいかというと、つまり緑谷少年は約1年間「オールマイトの奥さんが作った弁当」を食べているのだ。

 流石に1年もやっていれば彼が僕の作る料理の味を記憶していても全く不思議ではなかった。

 これはもしかして早まったか? と、イカ澤先生の不機嫌そうな顔が脳裏をよぎって僕の背中に冷たい汗が一筋流れた瞬間だった。

 それから緑谷少年は何種類かおかずを取っていって、じっくり味わって食べていたけれど、それ以上何かを言う事はなかった。

 

 …まあ気持ちを切り替えよう。

 ちゃんと何事も無く昼食の時間は終わったんだし、放課後にはリカバリーガールの特別補講の第一回目が待っている。

 僕はそう思うことにした。

 




 
飯田君が梅雨ちゃんさんに投票したのは、戦闘訓練の際の梅雨ちゃんさんの冷静さと判断力に感服したからでした。
そして緑谷少年にも投票したいと思ったのは、入試の時に一も二も無く人助けを優先した行動に一目置いていたからでした(このSSの緑谷少年は原作よりも多少個性が使えるようになっていますが、0P仮想敵を倒すためは結局原作と同じ行動をすることになりました) 
 

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