オールマイト「マイワイフは女子高生」 作:ワイフマン教授
原作ではブラドキング先生が「ヒーロー資格試験は6月と9月にある」と言っていましたが、仮免許試験の後に公安の人は「次の仮免許試験は4月」と言っていました。
ブラドキング先生が「仮免許ではなく本免許の試験」という意味で言っていたのだとしたら矛盾は生じませんが、そしたらなぜそんな紛らわしい要らない情報を教えてくれたのかってことになるので、ここは素直に6月と9月にあるんだという事にしておきたいと思います。
放課後。僕は人目を避けて保健室を訪れた。
保健室の扉を前にして、僕は少し緊張していた。リカバリーガールとは個人的に面識はあるけれど、特別補講を受ける生徒として顔を合わせるのは初めてだった。
いち生徒と同じようにノックして入室する。
「いらっしゃい。よく来たね」
扉を開けると、大して身長の高くない僕のさらに胸ほどまでしかない小さいお婆ちゃんが迎えてくれた。リカバリーガールだ。
雄英高校の保健室は一見普通の学校の保健室に近いレイアウトをしているように見えるけれども、実際はレントゲン室や手術室なんてものも併設されている。そしてそれらの設備を管理、維持するために、保健室のさらに奥には大きな準備室も用意されていた。
僕はその準備室に案内され、設置してあったテーブルを挟んで向かい合うようにしてリカバリーガールとソファーに座った。
リカバリーガールとは、前世の記憶に目覚めた10歳の当初からの付き合いになる。なので特にこれといって特別な前置きもなく会話が始まった。
「久しぶりだね、桃香。ここしばらくあんまりゆっくり話す機会が無かったけど、家庭はうまくいってるかい?」
「はい。お蔭さまで」
懐から取り出したお菓子を差し出しながら、リカバリーガールは優し気な笑みを浮かべる。このお婆ちゃんは会うといつもお菓子をくれる。
「俊典さんは優しいですし、色々気を使ってくれますから」
「優しいは優しいけどねぇ。あいつは優柔不断だったりウジウジしたりするところがあるからね。そういう時はバシッと言ってやるんだよ」
「あはは」
彼女は、僕と俊典さんとの婚姻関係を知る数少ない人達の中でも唯一の女性だ。
優しいかと思いきや意外と毒舌なところがあるけど、いろいろな女性視点でのアドバイスをくれるありがたい人でもあった。
それから僕達は少し雑談をして旧交を温めた。
しかし、時間は有限。彼女は忙しい人だし、保健室にだっていつ人が来るとも限らない。
「さて、そろそろ本題に入ろうか」
他愛のない話の切れ目で、リカバリーガールはそう切り出した。
表情は優し気だったけど、その目には真剣な色が宿っていた。ぴりっと空気が変わる感触がして、僕も姿勢を正した。
「最初に聞いておこう。あんたの育成プランだけど、早いのとゆっくり目の、どっちがいい?」
そして彼女が口にしたのは、僕の予想とは異なる内容の言葉だった。
「それって…どう違ってくるんですか?」
「どっちにしろあんた次第になってくるけどね。最短で卒業と同時に完成、最長なら9年以上かかるだろう」
思わず聞き返した僕に対して、リカバリーガールは右手の5本の指に左手の4本の指をあてて示す。
「他人さまの身体をいじくろうってんだから、本来ならうちを卒業してから医師免許をとって、それから始めるのが正規のルートってもんさ。これが9年コースだよ」
「そんなに待てません。最短でお願いします」
僕は迷わず答えた。即答だ。
リカバリーガールは微笑むような苦笑するような表情を浮かべた。
僕と俊典さんとの人生設計を考えるなら、いろんなことを急がなければならない。3年でも長いくらいだ。僕のそんな考えがわかってるからこういう顔をするんだろう。
「なら頑張んな。ただでさえみっちりの9年を3分の1に圧縮するんだ。だいぶ無理することになるからね」
「はい」
こういう時、リカバリーガールはこちらの意思を否定も肯定もしない。有り難い事だった。
僕が頷いてみせると、リカバリーガールは説明を続けた。
「色々並行して進めていくよ。まずは6月までひたすら医療の知識を詰め込んで、ついでに個性も鍛える。そして6月になったらヒーロー仮免許をとってもらう。試験は実技のみだから、まあうちの入試で1位を取ったあんたなら頑張れば何とかなるだろう」
仮免をあと2か月でとは、多少の困難は覚悟しているとはいえ随分しれっと言ってくれる。
そしてそれ以上に…
「1年生は6月試験は受けられないって聞いたことがあるんですけど、可能なんですか?」
つい僕はまた口を挟んでしまった。
ヒーロー資格試験は6月と9月に国内3か所の会場で行われるけれど、入学から僅かふた月の6月試験で1年生が試験を受けることは許されないと聞く。
仮にもヒーローとして力を振るうための資格だし、法令とかに関して必須の履修内容があって6月時点では受験資格が無いんだろうと僕は想像していたんだけれど…
そんな僕の疑問に、リカバリーガールは丁寧に答えてくれた。
「受験資格はヒーロー科高校の生徒なら誰でもあるよ。1年生が6月で受験する許可が出ないのは、ただ単に受かったとしても得がひとつもないからっていう学校側の判断さね」
いわく、仮免というのは1年生にとってはインターンに行くための切符だけど、ただでさえ1年生でのインターンは賛否両論あるのに、ましてや入学から2か月の時点でなんて誰にとっても良い事が無いとのことだった。
それを聞いて僕は納得した。確かに、学校からしてみればその前に教えておきたいことは山ほどあるだろう。それに、ヒーローだってつい少し前まで中学生だった子供をサイドキックにしようとは普通思わない筈だ。
ただし僕の場合は。
「あんたは私が付きっ切りで面倒を見るし、現場に出るメリットも十分ある。他人を治す経験は貴重だ。仮免を取ったら私の助手としてバンバン個性を使ってもらうよ」
「はい」
他人を治療する経験。それは最も僕に欠けていたものだ。
個性は使わなければ鍛えられないというのは常識だ。でも、その前提からすると「他者に治癒をもたらす個性」というのは実に鍛える機会が乏しい。
そう都合よく怪我人とは出会えないし、出会ったとしても医療行為を実施するにはいろんな障害がある。
僕はたまたま自傷からの回復なんて非常識な特訓を実行できたからリカバリーガールの後継という話が来るくらいに個性を鍛えられたけど、それにしたって回復力が強いだけで、実際に他者を治癒しなければ鍛えられない部分はまだまだ未熟だ。
その最たるものが、現状判明している僕の最大の課題である「燃費」だった。
他人を治療する際にも僕は僕自身の体力を用いて負傷を回復させるけれど、これは大きな制約だ。
例えば一般人が多少の負傷をしているくらいならば僕はかなりの数を治癒できる自信がある。でも、トップヒーロー級の強力なパワーを秘めた人間が瀕死の重症を負っていたとすると、複数どころか一人治癒しきれるかも怪しい。俊典さんを治した時なんて、色々と今よりも条件が悪かったとはいえ年単位の時間がかかったくらいだ。
僕はこれから医学を学び、大勢の人を治癒していく中で、この問題を解決できるように個性を進化させていく必要があった。
そしてそれが可能か否かで、僕が本当にリカバリーガールの後継者になれるかが決まる。
リカバリーガールが多少の無理をしてでも後継者教育を秘密にするとしていたのは、もし僕がこの問題を解決できず彼女の後継に相応しい能力者になれなかった場合の僕の立場を考えてくれてのことだった。
「そうそう」
と、僕が改めて決意を固めていると、リカバリーガールが空気を変えるように部屋の片隅を指さした。
「活動してもらう時に使うヒーローコスチュームもできてるよ。折角だから一度試着していきな」
示された先を見ると、ジェラルミンケースのようなコスチュームケースがあった。教室の壁の中に収納されているのと同じものだ。
それを持ってきて開けてみると、中に入っていたコスチュームは、ちょっと格好いいデザインの半袖膝丈ワンピースの衣装に白衣を合わせたものだった。ワンピースはタイトな作りで、縁取りなどのデザインはちょっとリカバリーガールのものに似ているかもしれない。
サポートアイテムとしては、白衣の内側に接続できる謎のいくつかの機械や注射器、その他にはチョーカー、底の高いヒール、伊達眼鏡、付けぼくろ、赤髪ロングのウィッグなどが付属していた。
…というか後半のこれはサポートアイテムというより…
「変装グッズでは…」
「まごうことなき変装グッズさね」
リカバリーガールはにんまりと笑いながら肯定してきた。
いわく、機械以外は全部、雄英高校のサポート科が作ってはみたけれどヒーローとしては特に使い道が無くてお蔵入りしたアイテムだそうだ。
特に眼鏡は顔の印象をさりげなく変える特殊なデザインで、チョーカーは声帯の振動に干渉して僅かに声を変える優れものだとか。
「本番で着るときは化粧もおし。化粧のやり方は知ってるかい?」
「はい。一応」
「そうかい。そしたらそのうち化粧道具もここに持ってくるんだよ」
そう言って、リカバリーガールは保健室のほうに戻った。
着替えろということだろう。
「おや、なかなか別人になったねえ。これならクラスメイトが見てもわかりゃしないよ」
コスチュームケースに付属していた鏡を見ながら四苦八苦してコスチュームの着用を終えると、リカバリーガールが急須と湯呑を載せたお盆を持って準備室に戻ってきた。
僕は改めて鏡を見た。確かにこのコスチューム(変装グッズ)は良くできていて、鏡に映る姿に自分でも違和感を覚えるほどだった。
ただ、コスチュームの胸部に大きなパッドが入れられていたのは非常に遺憾だった。今なら僕はAクラス上位の巨乳である。
そんな悲しい思いをよそに、リカバリーガールはお茶を湯呑に注ぎながらあっけらかんと話を始める。
「先の話をするけど、あんたは仮免許を取ったらまずこの保健室で私の助手をしてもらう。インターン扱いで授業を抜けて来ることになるし、時にはクラスメイトと出くわすこともあるだろう。変装は大事だよ」
確かに最初からリカバリーガールの外回り(病院巡回)についていくわけにもいかないけれど、保健室に居れば顔見知りと会うリスクはかなり高いだろう。
僕は素直に頷いた。
「あと基本的に仮免許に申請するのとは別のヒーローネームで活動してもらうから、真面目なのと適当なの両方考えとくんだよ」
「あの、それって大丈夫なんでしょうか」
「今更だねぇ。何かあっても私と根津とオールマイトがなんとかするから安心しんさい」
「………」
なんとかと言ってもそんな簡単な話じゃあるまい。これには流石に簡単には頷けなかった。
僕が何と言っていいか分からず口ごもっていると、保健室側から小さくノックの音が聞こえた。
どうやら隣の部屋に来客があったらしい。
「ああ、はいはい」
それに応えてリカバリーガールは「よっこいせ」と立ち上がって部屋から出ていく。
手持ち無沙汰になってお茶をちびちびと飲んでいると、来客者の声が聞こえた。
『どうしたんですか、リカバリーガール』
その良く通る太い声は非常に聞き覚えがあるものだった。
どうやら僕が着替えている間にリカバリーガールは俊典さんを呼んだらしい。
そのまま二人は僕の居る準備室に入ってくるようで、少し悪戯を思いついた僕は、居住まいを正した。
それからすぐに横開きの扉が開いて俊典さんが姿を現した。
「おや、これは失礼!」
準備室に人が居ると気付いて、俊典さんはオールマイトらしくニカッと笑った。
僕も立ち上がってにっこりと笑ってみせた。
「初めまして。フィーネと申します」
「ああこれはどうもご丁寧に。えーっと…」
俊典さんは快くそれに応じようとして…首を傾げた。
そして。
「……桃香?」
「………」
ちょっと驚かせてあげようと思ったら、こちらが驚かされた。
まさか一言交わしただけでばれるとは。
「よくわかりましたね」
「いやぁ、まあ…」
僕が目を見開いていると、俊典さんは少し照れたように頭を掻いた。
「これでも桃香の夫だからね」
その言葉に、僕は自分の顔が熱くなるのを感じた。
そうして僅かにできた会話の隙に、リカバリーガールが滑り込んできた。
「はいはい、今後この子はこの格好で活動してくから覚えときな。来てもらって悪いけど用はこれだけだよ」
「ええっ!?」
「さあ忙しい平和の象徴さまは帰った帰った」
彼女は俊典さんの足を押して部屋の外へと押しやる。
そして戸惑う俊典さんをよそに、扉がぴしゃりと締められた。
俊典さんはしばし扉のまえに佇んでいたようだけれど、すぐに諦めたようですごすごと去っていった。
リカバリーガールは僕の方をじろりと見る。
「あんたね、校内で旦那といちゃいちゃするんじゃないよ」
「す、すみません…」
今のは僕のせいではないと思うんだけど……
そしてやれやれと頭を振りながらのっそりとソファーに座ったリカバリーガールは、お茶を一口含んで僕に向き直った。
「それにしても、もうヒーローネームを決めてたのかい?」
「はい。ヒーローを目指すって決めてから、ずっと考えてたんです」
それはさっき僕が名乗った名前に対するコメントだろう。
僕は頷いた。
人を治癒するヒーローだから、「元気」という意味から取ってfine。そして。
「英語のfineを読みかえて、FINE(フィーネ)です」
「いい名前だね」
リカバリーガールはまた苦笑するような顔をした。
…僕のお父さんの名前も「元氣」だったけれど他意は無いぞ。他にいいのが思いつかなかっただけだからね。
「良い人なのは分かるし治療行為なのも分かるけどなんかキスしてくるお婆ちゃん」のいる保健室に、謎の若いお姉さん(巨乳←偽)が赴任することに。
コスチュームは、グランブルーファンタジーのドクターみたいな衣装を想像してください。