オールマイト「マイワイフは女子高生」 作:ワイフマン教授
ファンブックを優先するなら6月、原作を優先するなら4月くらい(5月頭の体育祭のさらに前)には中間試験があったことになります。
このSSでは4月説を採用して中間試験は4月にあるということにしたいと思います。
12 体育祭と職場体験
雄英体育祭は、国立雄英高校の行事の中でも最も外部からの注目度が高いものだ。日本全国に大々的にテレビ中継されるし、市民達もそこで切磋琢磨する未来のトップヒーロー達に大きな関心を抱いている。
熾烈な競争の果てに雄英高校ヒーロー科に入学してきた新入生達にとっても、体育祭は憧れのステージだ。
USJの実習が終わった翌々日の金曜日。イカ澤先生は朝のホームルームで「2週間後に体育祭がある」と唐突に宣言した。A組の皆も入学してまる一週間以上が経ち、段々と学校に慣れてきて先の事を考える余裕が出てきたタイミングでのことだった。
当然、教室は猛烈に沸き立った。
残りの期間で集中して個性を鍛えようと決心する者、テレビ映りを気にする者、職場体験ひいてはその後のサクセスに思いを馳せる者。皆が目を輝かせた。
イカ澤先生は体育祭と職場体験との関係を生徒達に説明し、チャンスを無駄にするなと念押しした。
そして、皆を燃え上がるだけ燃え上がらせておきながら、「それはそれとして来週は中間試験だ」と言って鎮火させて朝のホームルームを終えた。
「タイミングもあるし内容も中学校の復習みたいなもんだが、無様な点数は取るなよ。…八木、お前はちょっと用事があるから職員室来い」
と、そんな起伏の激しいホームルームの後、僕はイカ澤先生に呼び出された。
教室あるいは廊下じゃなくてわざわざ職員室でする話となると、基本的にはリカバリーガールの特別補習関係だ。でも補習に関してはリカバリーガール本人とちゃんと予定をやりとりをしている。一体なんだろう。
不思議に思いつつも素直についていく。
そして職員室前に到着すると、併設された面談室に案内された。前にも一度使った部屋だ。
「体育祭のことだ」
後から入ってきた僕が扉を閉めるなり、イカ澤先生は立ったまま切り出してきた。
「体育祭の一年の宣誓は例年なら一般入試の主席がやることになってるんだが、お前はどうしたい?」
僕は内心でポンと手を打った。
そうだ。すっかり忘れていたけど、そういえばそんな役もあった。
「強制ではないんですね」
「一応な。お前がやらないなら次席の爆豪に話が回る」
なるほど、と思いつつ、僕は少し考えた。
別に人前に出て宣誓をすること自体は構わない。でも、これはそういう言葉の字面以上の意味を持っている事だった。
「…その1か月後にもう仮免許試験があるんですよね」
「『雄英潰し』を知ってたのか」
先生は片眉をあげた。そしてすぐに思い直したように「…まあ、想像もつくか」と呟いた。
雄英体育祭で存在感を示すことができればヒーロー事務所からのオファーも来やすくなるし、一般への認知度が上がれば自分で事務所を持った際にも有利だ。
しかし、有名になるということは、個性を知られるということでもある。
日本全国に自分のスタイルと弱点を晒してしまった雄英高校ヒーロー科は、ヒーロー仮免許試験のバトルロイヤル的なシーンではこれ幸いとばかりに他校生から集中的に攻撃されることになる。これこそが雄英潰しだ。
轟君とか夜嵐イナサみたいな、知っていても対策不可能な圧倒的パワーの持ち主だったらこんなことは別に気にしなくてもいいんだろうけれど、残念ながら僕の個性はそういうタイプのものではない。
しかも僕は同級生と一緒に試験を受けるわけじゃないし、同じ会場で受験するかもしれない雄英の先輩に伝手があるわけでもないから、誰かとチームを組んでフォローしあうこともできない。
間違ってもこの仮免許試験で落ちるわけにはいかないことを考えれば、こんなところで目立つ真似はするべきではなく、代表宣誓なんてもってのほかだ。突き詰めて考えればそもそも体育祭に参加すること自体がリスクだった。
「俺も同意見だ」
僕が自分の考えを伝えると、先生は頷いた。
「一応こうやって意見を聞きはしたが、実際シビアにお前の目的を追求するなら体育祭に出るのは合理的じゃない」
「ってことは…」
「ああ。お前は体育祭に出なくていい」
まさかの体育祭参加免除。もしかしてこの人ならと思ったけれど、本当に体育祭に出なくてよくなるとは思わなかった。
さすが、どこまでも合理性を追求する男だ。
僕が驚いていると、先生は首をすくめた。
「経営科や普通科で出ない奴は結構いるからな。本来参加は自由なんだよ」
「そういえば確かにそうですね」
言われてみれば確かに、例年経営科で出場する生徒はほぼいないらしい。彼等は試合を観戦したり、自分なりの商売を実践していると聞く。
「だが」と先生は言った。
「流石にヒーロー科の人間が仮病とかよくわからん理由で体育祭をボイコットするんじゃ言い訳がつかない。そこで婆さんと協議した結果、お前には別のプランを用意した」
そう言いながら先生は手に持っていた出席簿からひらりと紙を一枚取り出した。それは学校行事予定のカレンダーだった。
「一年生は体育祭の翌週の火曜日から日曜までの6日間 職場体験が予定されているんだが、お前はそれを早めて体育祭の直前から婆さんについて職場体験を始める」
行事予定を示す先生の指を追いながら、僕は先生の言葉を咀嚼していく。
「体育祭当日も含めて計12日間活動。その後、他の連中が職場体験に行くのと入れ違いで帰ってきて、残りは抜けた期間の補習だ」
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① 4/30(木)
② 5/01(金)
③ 5/02(土) 体育祭準備
④ 5/03(日) 体育祭
⑤ 5/04(月) 代休のため休校
⑥ 5/05(火) 代休のため休校
⑦ 5/06(水)
⑧ 5/07(木)
⑨ 5/08(金)
⑩ 5/09(土)
⑪ 5/10(日)
⑫ 5/11(月)
5/12(火) 1日目 他の生徒の職場体験開始
5/13(水) 2日目
5/14(木) 3日目
5/15(金) 4日目
5/16(土) 5日目
5/17(日) 6日目 他の生徒の職場体験終了
5/18(月) 通常授業再開
※①~⑫はイレイザーヘッドの提案した桃香の職場体験。以降の5/12~5/15は補習。
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「………」
僕はすぐには返事ができなかった。
体育祭には当然リカバリーガールも救護として参加する筈で、この予定の通りなら僕もそれに付き添うことになる。ちょっとした怪我がたくさん出る上に、学校内で話が済む体育祭は、僕の個性の練習にはもってこいの場所になる。
でも、これだと僕の職場体験はもう今月末から始まることになる。残りの日数にしてもう半月も無い。いくらなんでも急だし、流石に現時点では心の準備もできていなかった。
僕自身が恥をかくくらいならまだいいけど、もし何かがあればリカバリーガールの顔にまで泥を塗ることになるのだ。
そんな僕の様子を見てか、先生はひとつ息をついて行事予定を出席簿に仕舞った。
「まあ、こっちは今すぐ決める必要があるわけじゃないし、このまま実施する必要もない。このことは今日の補習で婆さんと話をしてみろ」
「…そうします。ありがとうございます」
「ただ、こいつはお前なら実行可能だと思って婆さんが提案したプランだ。それは覚えとけよ」
白目がちの目でにこりともしないままだったけれど、結構優しい言葉だった。
やっぱりこの先生はいい先生だ。
「さて…取りあえず宣誓はしない。体育祭も参加しない方向だな。それじゃ授業も始まるし教室に戻っていいぞ」
「はい、失礼します」
話はここまでのようだった。
放課後にリカバリーガールと相談、と頭の予定表に書き込む。
そうして踵を返そうとした所で、先生が「…そうだ、言い忘れてたが」と言った。
「職場体験にしろインターンにしろ、校内で活動する前にはお前の特別補習まわりの事情をハウンドドッグに説明するからな」
「………はい…」
その言葉に、僕は思わず渋い顔をしてしまった。
「…………まあ、ハウンドドッグにも思うところはあるんだろうが、俺個人としてはハウンドドッグの態度は擁護できんと思ってるよ」
僕がハウンドドッグと聞いて顔をしかめたのを見て、イカ澤先生は微妙な顔をして目をそらしながら言った。
ハウンドドッグとは、そのヒーローネームの通り猟犬がモチーフの異形型の個性を持つ雄英教師だ。この人は個性の恩恵で優れた猟犬に匹敵する嗅覚を持っていて、それゆえに僕という生徒とオールマイトが婚姻関係にあることが事前に説明されていた数少ない人物の一人だった。
しかし彼は僕たちが夫婦であることを好意的には考えていないらしく、初めて対面した時には鋭い目で僕を見てきたし、同僚として俊典さんにも当たりが強いという。
彼の授業は何度か受けたけど、たまたま夜の運動会のあった翌日に授業を受けた時なんかは、その時間中ずっと不機嫌でA組の生徒達を困惑させたりしていた。
まあ、彼なりの正義感からいって、17歳(結婚した当初は16歳)の少女と五十路の男が結婚している上に性生活まで営んでいる状況は受け入れがたい事なんだろう。理解はできるし、そういう考えを多くの人が持つことは僕も否定しない。
その少女が自分の務めている高校の生徒で、その五十路の男がナンバーワンヒーローなのを考えれば、さらに複雑な思いだろう。そこも同情しよう。
でも、実際僕と俊典さんの夫婦関係には何の問題も違法性もないんだから放っておいてほしかった。
だいたい、自分の性的な事が夫以外の男に筒抜けになっていることをいちいち自覚させられているこっちだって平気ではないんだぞ。
しかもあいつがそんなだから、事情を知ってる他の人たちまでいろんなことを察してしまう恐れまである。
「…事情が事情だし取りあえずは我慢しろ。そんでもし我慢できなくなったら俺でも婆さんでも、何なら校長でもいいから言え。なんとかするから」
「はい……」
察してしまう恐れが。察してしまう恐れが!
僕は両手で顔を覆った。
根津先生やリカバリーガールみたいに高齢だったり同性だったりネズミだったりするならまだしも、若い男性にこんな気遣いをされるのがこれほど恥ずかしいとは…
それもこれもハウンドドッグのせいだ。なんて嫌な奴なんだ…!!
…まあ、こんなことを考えていても仕方がない。
それより、職場体験をするなら実際に患者を相手に医療行為をすることになるし、身分を偽っての活動を始めることにもなる。それに備えて頭に詰め込んでおかなきゃいけないことや考えておくべきことは山ほどあるだろう。
今はそのことだけを考えよう…中間試験もあるんだし…
なんていやらしいHEROなんだ…