オールマイト「マイワイフは女子高生」   作:ワイフマン教授

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微妙にテンポというか区切りの悪さを感じていたので、このたび各話を章で区切ることにしました。


14 職場体験1日目 フィーネというヒーロー

 ヒーロー科職員室にて。

 

 チャイムが鳴るとざわざわとしていた職員室が静まり、最後の鐘の音の余韻が消えるのと同時にエクトプラズム先生が立ち上がった。

 

「オハヨウゴザイマス」

 

 そしてエクトプラズム先生の挨拶の言葉に、それぞれが返事を返す。どうやらエクトプラズム先生が職員朝礼の進行役らしい。…年長だからかな?

 

「ソレデハ本日ノ朝礼ヲ始メマス。本日ノ学校行事ハ、16時ヨリ中間試験ノ成績会議ガ予定サレテイマス」

 

 ヒーロー科の職員は少なく、職員室も比較的こじんまりしていて先生たちの顔が良く見えた。

 イカ澤先生や、ミッドナイト先生、13号先生、セメントス先生…その他多くの先生たちと、そして何より俊典さん。彼らをこうして眺めるのは非常に新鮮な気持ちだ。

 しかし、こうして実際に走り出してみると、自分が中々凄い事をしようとしていることに改めて気付かされる。

 生徒の身分で変装して先生たちの中に混ざろうとしているだなんて。

 社会人だった前世の記憶を持っているから堂々としていられるけど、僕が正真正銘の17歳だったら果たして平然としていられたことか。

 

 雄英高校ヒーロー科の職員朝礼。僕は職員室の隅の席に座ってそれに参加していた。

 僕の職場体験の始まりだ。

 

 

 エクトプラズム先生は連絡事項の伝達を終えると、職員室中央部の席に座る根津先生の方を向いた。

 

「デハ最後ニ校長先生…」

「やあ! 皆おはよう! 最初にエクトプラズムが言ったけど今日は放課後に中間試験の成績会議があるから皆忘れないようにね。まあ、体育祭を明後日に控えて、ヒーロー科の生徒達は中間試験の成績なんて気にしちゃいないだろうけどね!」

 

 HAHA! と根津先生は笑う。

 それから根津先生はテンポよく語り続けた。それはもう長々と語り続けた。

 そして、話し始めてから時間にして数分後…

 

「………ということもあって、毎年中間試験が終わると訓練が過熱して保健室はてんてこ舞いになる。今年も体育祭目前で、今日あたりからは来室者数も格段に増えてくるだろう。そこで! 皆も気になっていただろうから私の話はこのくらいの短めにしておいて、頼れる助っ人の紹介さ!」

 

 根津先生はそう言って話を閉じた。

 …彼の言う通り、今回のお話は短めに済んだほうだ。先生のお話が一々長いということは以前から付き合いのある僕も良く知っている。

 そんな考えはさておき、根津先生とリカバリーガールに促されて、僕は起立した。

 

「おはようございます。初めまして、フィーネと申します。本日から一週間あまり皆さんと一緒に勤務させていただきます。不慣れで至らないところがあるかとは存じますが、よろしくお願いいたします」

 

 ヒーローとして特に何かキャラ付けするつもりはなかったし、これといって特徴のない挨拶に留める。すると、これまた実に普通に拍手が返ってきた。

 ただ、先生たちは僕に興味がない訳ではないらしい。興味ありげな表情を浮かべている人が大半で、職員室内が少しざわつく。

 プレゼントマイクなどは隣の席のイカ澤先生に「フィーネってヒーローネームだよな。知ってる?」と小声で話しかけて「知るか」と冷たくあしらわれていた。

 そんな中、リカバリーガールが立ち上がってパンパンと手を叩いて注目を集めた。

 

「この子は基本的に私について保健室に居るからね。あと、期間後もちょくちょく私と行動を共にする予定だから、その時はたまに校内で会うこともある筈だよ」

 

 その言葉と同時に先生たちの目つきが真剣なものに変わり、そこに込められた興味の色もさらに深くなった。

 

 リカバリーガールは「保健室にいる」ことではなく「リカバリーガールに付く」ことを強調した。単なる臨時のお手伝いさんなら、こんな紹介の仕方はしない。これは実質自分のサイドキックであると宣言したも同然。 

 即ち、先生たちはこの『フィーネ』という人物をリカバリーガールの後継者候補として認識した筈だ。

 

 身が引き締まる思いだ。

 

 

 

 というわけで、僕の雄英高校 初勤務である。

 実際は職場体験なんだけど、体面的には勤務だ。教職員も含めて殆どの人たちが僕の事をプロヒーローだと認識している以上は勤務だ。

 僕がこうして身分を偽って活動するのは入学前からリカバリーガールとの取り決めで決まっていたことだ。

 リカバリーガールがヒーロー公安委員会と交渉してくれた内容によると、公安委員会の保有する公式の記録上、フィーネは飽くまで八木桃香であり、今も高校生がヒーロー名を名乗りながら職場体験をしている状態に過ぎないらしい。

 しかし、市民がインターン生をプロのサイドキックヒーローと勘違いするのと同じで、敢えて職場体験と宣言しなければフィーネは誰の目からもプロのヒーローとしか映らない。

 事情を知らない先生たちの反応の通り、現状フィーネは「いつの間にか現れた治癒の個性を持つプロヒーロー」とみなされていて、公安委員会までもがそれを黙認している以上、誰かがボロを出さない限りはこの勘違いが正される事は無い。

 こうして合法的に架空のヒーローが実体化し、高校生の八木桃香と謎のプロヒーロー フィーネは別の人間として存在することになった。

 このフィーネが僕自身だということを公表するかどうかは、僕が正式にプロとして活動することになってから決めるという約束だ。

 

 

 職員室での挨拶を終えリカバリーガールと連れ立って保健室に戻った僕は、ひとまず急須でお茶を淹れた。助手として働くにあたって、医療の知識だけじゃなく、この保健室のどこに何が置いてあるかも説明されている。

 リカバリーガールは「ありがとうね」と言って僕の淹れたお茶を一口啜ると、ふぅ、と一息ついた。

 

「さて…取りあえず悪くない滑り出しだね」

「はい。あとはどんな生徒達が来るか、少し緊張します」

「そんなに突飛な理由で来るやつは滅多に居ないよ」

 

 改めて気合を入れている僕に、リカバリーガールは優しく微笑んでくれた。

 今回僕が保健室に勤務するにあたって、2週間足らずの準備期間で、普段の学校生活や体育祭で保健室への来室件数が多かった事例をひたすら詰め込んだ。

 擦り傷、打撲、捻挫、切り傷、骨折、頭痛、発熱、鼻血、生理痛、咳、めまい、倦怠感、虫刺され。さらに、この学校の生徒達の持つ特殊な個性と、それにより発生し得る特異な症状。ありとあらゆるケースと、その模範的な処置方法、そして僕の個性を利用した場合の対処の仕方を教わった。おかげで実践的な知識量はかなりのものになったと思う。

 リカバリーガールの言う通り、確かにこの学校で保健室に来る程度の症状ならほぼ解決できると思えるだけの自信はあった。

 

「簡単な処置は任せるからね。今のうちに薬の準備をしておきなよ」

「はい」

 

 僕は答えながら、白衣の下、コスチュームのワンピースの腰の横に装着した装置に目をやった。

 ここで言う薬というのは、ありていに言えば僕の血である。ただ、血液そのままというわけではない。

 そもそも僕の個性は僕の体液を媒介にするわけなんだけど、常識的に考えて、患者の前で一々自傷して血を絞り出してみせたり、舐めときゃ治るとばかりに人さまの傷に唾液をつけたりするわけにはいかない。この問題を解決するのがこのサポートアイテムであり、僕のヒーローコスチュームの肝だ。

 機能は大まかに分けて2つで、僕の血を採取することと、採取した血をパッケージして冷蔵保管すること。

 僕の体液の治癒力は熱を加えても変化しないけれど、密閉して冷蔵しておかないと時間が経つごとにだんだん劣化していく性質がある。イメージ的には食材が悪くなっていく感じだ。だから、料理に混ぜるみたいな使い方ならまだしも、薬として医療行為に使うならちゃんと管理できるこういうアイテムが必要になるのだ。

 

 装置のボタンを押すと、白衣の中で僕の上腕に巻かれたバンドから出てきた注射針が腕に刺さり、血液を機械の中に吸入し始めた。僕自身もその血液に意識をやり、治癒のエネルギーを濃く注ぎ込んでいく。

 そして規定量を採取し終えると針が抜ける。

 これから機械の内部で血液は遠心分離され、薄く色のついた透明な液状成分と赤い固形成分に分かれる。その後、液状成分はアンプルに充填されて冷蔵保存される。これをそのまま塗り薬として使ったり専用の注射器に装填して注射したりすることができるという寸法だ。

 そして残った固形成分はカプセルに封入されて経口摂取用になる。僕の治癒の個性は基本的に液状成分のほうに宿るんだけれど、こちらにも少しは治癒能力が残るので有効活用だ。

 

 これで薬の用意は十分。

 それから、僕は与えられた席に座りタブレット端末を起動した。

 これは教科書兼ノートであり、僕は来室者を待つ間はこれを使ってリカバリーガールに口頭での指導を受けて過ごすことになる。

 この職場体験は休憩として与えられた時間以外に暇な時間は一切ない、みっちりの12日間になる予定だ。

 ちなみにタブレットを使うのは入室してきた人に見られた時のことを考えて「勉強してます感」を無くすためだったりする。

 

 

………

 

 

 僕の勉強が始まってからしばらく時間が経ち、気付くといつの間にか昼飯時も近くなっていた。

 それなりに長いこと机に向かっていたことに気づいた僕たちは、休憩のために改めてお茶を淹れなおして一息ついた。

 

「まだ誰も来ないですね…」

「今日は静かだねぇ」

 

 保健室には未だ、用があってやってくる教職員以外は誰も訪れていなかった。

 

 このまま誰も来ずに一日目が終わるのかという考えがよぎって少し気が抜けそうになるのを、それではいけないと思い直す。

 保健室に誰も来ないというのは平和で良いことだが、ここは天下の雄英高校なのだ。

 

 雄英高校のヒーロー科はだいたい週に2回実習をするようだけど、3学年6クラスあるから平均すると毎日どこか2クラス以上のヒーロー科が実習をしていることになる。ましてや今は体育祭直前。ヒーロー科の実習は災害救助などではなく、戦闘や個性鍛錬といった怪我人が出やすい内容を集中的にやっている。このままずっと来室者なしで一日が終わるというのは考えにくい。

 それにサポート科の実習も偶に怪我をする人が出る。ちょっとした火傷や切り傷などがメインだけど、ごく稀に高いところから落ちたり指をプレスしたりするなどの大怪我もあるという。

 

「昨日も1年の女子が何か爆発させたって言って目をまわして運ばれてきたねぇ」

「それは大事無くて良かったですね…」

 

 サポート科の実習は爆発する。要チェックだ。

 

 リカバリーガールは、やれやれと苦笑した。

 

「まあ、不思議なものだけど、波ってやつがあるんだよ。来ない時はちっともなくて、かと思えばいきなり何人も来たりする。私達は患者がいつ来ても迎えられるよう準備しておかなきゃいけない」

 

 と、そんなことを話していたのが呼び水になったのか、突然保健室の扉がドンドンと力強くノックされた。

 僕たちの目が扉へ向かう。

 そして僕たちの返事を待たずに扉が開き、1年B組担任のヒーロー、ブラドキング先生が姿を現した。

 彼は熱血な指導が持ち味の先生で、A組のイカ澤先生とは正反対のタイプだ。

 

「失礼します! 実習中に怪我した生徒を連れてきました。切り傷です」

 

 そう言いながら入室してくるブラドキング先生。ちらりと僕の方を見た。そして彼の後から、肩と腕を露出したヒーローコスチュームを身にまとった男子生徒が赤く染まったタオルで前腕を抑えながら入ってくる。それは何度か見た事のある顔だった。

 

「1年B組、鉄哲徹鐡、失礼しまァす!」

 

 





てつてつてつてつが現れた!
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