オールマイト「マイワイフは女子高生」 作:ワイフマン教授
僕の個性は「自他を再生させる能力」、すなわち癒しだ。
具体的に言うと、僕の体液には生物のダメージを自他問わず回復させる能力がある。これは「自己再生」という個性を持っていた父と、水系統の個性を持っていたという母から受け継いだものだ。
僕は10歳の時に父を亡くし、それからは父の友人だったヒーロー、オールマイトに後見されて暮らしてきた。彼が自ら僕を目にかけてくれたのは、それだけ父との友情と、僕の個性と、父を救えなかったという事実を重く見ていたからだろう。
そんな中で、僕は、自分が他者を癒すことのできる個性を持っていることと、オールマイトと触れ合える立場にいることの意味を考えた。
交流を深めるにつれて彼の人柄に惹かれつつあった僕は、さほど迷うことなく答えを定めた。
AFOことオール・フォー・ワンとの決戦で致命傷を負うオールマイトを癒し、ひいては彼を苛むものから救い、彼を支える。それこそが自分という意識がこの世界に生まれた意味なのだと僕は確信した。
それから僕は紆余曲折を経て、身体と個性を鍛え、オールマイトが決戦を終えてからは何年もかけて彼の傷を治療した。
そして彼の傷が癒えてからは本格的に恋慕して、いくつかの段階を経て16歳の結婚可能年齢になったタイミングで彼と入籍することになり、さらに高校に進学していなかったところを同年齢の子供達より1年遅れで雄英高校に入学することに決めた。
かなり省略した部分があるけれど、取りあえずそうして僕はこの場所にたどり着いた。
4月8日水曜日。よく晴れた麗らかな日差しの中で、僕は国立雄英高等学校の入学式を迎えることができた。
僕は特に緊張などすることも無く、いつも通りの時間に起床し、朝食と夫の弁当を用意した。
国内最高峰のヒーロー養成校へ通うことへの緊張感だとか、ましてや新天地への不安なんてものは特に無かった。程度はあれど、社会人になれば、知らない場所に行って知らない人と会話して未知の作業をすることは、さほど珍しいことではない。いわばこれはその延長だ。
僕の主観年齢は社会人だった前世を合わせればいい加減40歳ほどになるのだ。
俊典さんが3倍近く年の離れた僕と交際する気になってくれたのも、精神年齢がそんなに離れていないからこそだ。
16歳の少女と結婚した俊典さんはそれを知る大人たちから白い目で見られていたけれど、みなさんどうか夫を責めないであげてください。
さて、それから起きてきた俊典さんと朝食をとり、式の準備や打ち合わせのために早くに家を出る俊典さんを見送り、僕も一息ついてから家を出た。(彼は「制服似合ってるぞ!」という、妻に対するものとして考えるといささか怪しいコメントを残して爽やかに出勤していった)
僕の家は雄英高校の立地する丘のふもとにある。ヒーローの巣窟である雄英高校の周囲は治安が良く、地価の高い住宅街になっていて、その中の一つが僕の家なのだ。
雄英高校の校舎は丘の下からでも十分見えるほどに巨大で、多数の生徒達が通学するのにふさわしく、きちんと道も整備されている。入試の時に一度通ったし、今更迷うことはなかった。
浮足立った新入生たちに囲まれながら坂道を上がって、校門の巨大なゲートをくぐり、四本の棟が渡り廊下でつながっているようなお洒落な校舎に入る。
不安はなくとも新鮮な気持ちは感じるものだ。このころになると、僕も流石に高揚感を覚えた。家で一度履いてみただけの上履きを鞄から取り出して、周囲の子供達の期待に満ちた表情を見ると、僕も嬉しい気分になった。
そうして校舎内を移動し、ヒーロー科のエリアにたどり着いた。いっそう気分が上がる。
今年の雄英高校一年生は、まさに原作の主人公達の学年だ。
ひとつ言い訳しておくと、僕が高校に入学するまで1年のブランクを作ったのは原作キャラクター達に交ざりたいという下心があってのことでは決してない。
もともと僕は高校に進学するつもりはなかった。それは、AFOのことを考えたら、おちおち高校に通っている余裕などないと思っていたからだ。
AFOが原作通りに攻撃を仕掛けてきたならば、俊典さんが怪我を完治させていることにはすぐに気付かれるだろう。その時僕は決して敵側に自分の存在を知られてはならない。強くそう考えていた。
僕の個性は時間こそかかったけれど俊典さんの怪我を治療できた。なら、AFOの傷だって治療できてしまうのだ。
それが今になって姿を現すことを決めたのは、姿を隠す必要が無くなったからだった。
中学校3年の12月ごろのことだった。深刻そうな顔をして現れた俊典さんが、「AFOが瀕死の重傷を負いつつも生きていたらしい。でも1年ほど前に結局死んだらしい」という内容の事を語った。
当然AFOが生きていたことを俊典さんがこの時点で知っているのはおかしいし、そのAFOが死んだというのも原作を逸脱した驚くべき情報だった。
最初、俊典さんはその情報のソースを教えてはくれなかったけれど、僕がしつこく聞き続けると、少しだけ話してくれた。
いわく、AFOの弟子を名乗る男が俊典さんの前に現れ、AFOの生存と死亡を伝えてきたのだという。その時の問答から、その情報は真実だと俊典さんは確信したらしい。
その男の名は死柄木弔というそうだ。
僕は腰を抜かしそうになった。
死柄木弔が語ったことが1から10まで真実かどうかはわからない。AFOが生存している可能性の調査も含めて、厳重な警戒・捜査網が俊典さんのサイドキックであるサー・ナイトアイの主導で今も敷かれている。
でも、少なくともAFOの死亡に関してはかなり信憑性が高いとのことだった。
ナイトアイは彼自身の情報戦能力も優れてるのに加えて「年単位の未来を見通せる予知能力」というすごい個性を持っている。原作でAFOの生存を見抜けなかったあたりが不安だけれど、それでも彼のいう事は一定の信頼がおける。
死柄木弔はその場で俊典さんから逃げおおせたという。そしてその時に「あんたの真似してしばらくは外国にでも行ってみるよ」と言い放ったらしい。
ともあれ、死柄木弔の動向がどうであるにせよ、肝心のAFOが居なくなったのならもう僕が個人的に警戒を続ける意味はほとんど失われたことになる。
信じられないけれど信じたいような気持ちを抱えながら、なぜか萎んでいた俊典さんを慰めているうちに高校受験の時期は過ぎていた。
それから俊典さんと結婚したりしながら、やっとAFOの脅威がもう無いということを受け入れることができた僕は、改めてこの世界で自分のやりたい事は何かないかと探した結果、「ヒーローとしての立身」という選択肢を見つけたのだった。
ちなみにナイトアイは原作では俊典さんと仲たがいしていたけれど、この世界では仲たがいの原因を僕が取り除いてしまったのでいまだに元気にサイドキックをやっている。(ワン・フォー・オール継承者については揉めていたけど)
実は僕と俊典さんが結婚する際に提出した婚姻届けに書かれている僕の保証人はナイトアイだったりする。彼は超熱烈なオールマイトファンなので、僕たち夫婦が彼に結婚の意思の報告をしに行ったときには、いろいろな感情が限界まで混ざりあって800%くらいに膨れ上がったような表情をしていた。
ヒーロー科の新入生は全体に比べてだいぶ少ない。A組の教室に僕がたどり着くころにはすっかり新入生の人波は無くなっていた。
ちょっとした恐竜でも通れそうなくらいの見上げるほどの大きな扉がA組の教室の扉だ。僕は思い切りよくそれを開いた。
教室の中には既に多くの生徒がいて、その殆どが新たに教室に入ってきたこちらのことを伺っていた。
座席表などは特に掲示されておらず、A組の面々は思い思いの場所に座っているようだった。ざっと教室を見回して顔ぶれを確認してから、軽く会釈して僕も適当に後ろのほうの空いている席に腰を下ろした。
荷物を整えてから改めて教室を見渡すと、その横顔や後ろ姿はどれも僕の知識にあるものと同じだった。どうやらA組の中にイレギュラーは無さそうだった。
席は原作通り20個しかなかったから、僕が追加された影響で誰かがはじき出されていることにはなるけれど…
そんなことを考えていると、ふいに一つ席を挟んで隣の生徒からじっと見つめられていることに気付いた。
ショートボブで、前髪を斜めにカットした黒髪の少女。耳元からイヤホンジャックらしきものが出ている。僕の見立てが正しければ、彼女は耳郎響香だ。
「………」
「……?」
彼女はなぜか驚きと戸惑いを混ぜたかのような表情をしていた。
しばし見つめ合うと、彼女は意を決したかのように席を立ちあがり、こちらに近づいてきた。
「……あ、あのさ…」
耳に心地よいボーイッシュな声だ。僕がそれに応えようとすると…
「おい、そこの君!!」
ちょうどその時、真面目そうな長身眼鏡の生徒とツンツン頭のヤンキー…飯田天哉と爆豪勝己が教室の前方で言い争いを始めた。これは原作でもあったイベントだ。気付けば教室内の空席はのこり二つだった。
少しそちらに視線を奪われたが、気を取り直して僕と少女は向き直った。
「…えっと、ウチは、耳郎響香」
「八木桃香と申します」
まずは挨拶。挨拶は大事だ。
僕が答えると、耳郎ちゃんは何かに納得したような表情をした。
「年明けに木椰区のショッピングモールで会ったお姉さん…えっと、ですよね…?」
「…?」
「木椰区のショッピングモール」というのは、このあたりから数駅ほど離れた場所にある大型ショッピングセンターだ。僕もたまに変身した俊典さんと買い物に行っている。この冬は受験があったからあまり外を出歩いていないけど、確かに年明けには一度そこを訪れた。
しかしその時に耳郎ちゃんと接触していたのだとしたら間違いなく僕自身が覚えているはずだけど…
「ほら、ナンパされてた…」
耳郎ちゃんのその言葉で、僕も思い出した。
「……あっ、もしかして、あの時の格好いい女の子?」
「かっ、格好いいかはわかんないけど…とにかくそれ!」
俊典さんが女性下着売り場に同行するのを嫌がったので別行動していたところ、二人組の男たちからナンパと思しき声かけを受けたことがあった。その時、どう対応したものかと困っていたところを知らない少女がサッと助けてくれたのだ。
少女は上着のフードを被っていたから髪型もイヤホンジャックも見えなかったけれど、確かに目つきや声は耳郎ちゃんと似ていた気がする。
まさかそんなところでA組の生徒と出会っていたとは…
「お友達ごっこがしたいなら他所へ行け…」
そこまで考えたところで、張り上げたわけでもないのによく通る声が聞こえて、またしても僕たちの会話が遮られた。
寝袋を纏って転がる不審者が廊下にいた。そのあんまりな風体に教室の全員が注目したところで、彼は自分が担任の相澤消太であると語り、体操服に着替えてグラウンドに集合するようにと指示して去っていった。
我らが担任相澤イカレイザーヘッド先生(略してイカ澤先生。親愛を込めて心の中でそう呼ぼう)はそれ以外本当に何も言わずに消えてしまったので、男どもは取りあえず教室で着替えることになり、女子は、長身の女子…八百万さんがたまたま女子更衣室の場所を知っていたから、そこで着替えることになった。
女子は7人しかいないので、その場で自己紹介もすませた。
「ねえ、よくわかんないけど、早よ着替えたほうがいいよっ」
「うう…その、また後でっ」
耳郎ちゃんは僕と話したそうにしていたけれど、可能な限り早くグラウンドに集合したほうがいいという雰囲気があったので後回しになった。
ちなみに僕は自分のバストが普通くらいにはあると思っていたけれど、このクラスでは下から二番目だった。このクラスおっぱい大きい子多すぎでしょ。
そもそもあの世界おっぱい大きい人多いですよね