オールマイト「マイワイフは女子高生」 作:ワイフマン教授
今回やっとクラスメイトとの交流らしい交流ができました。
入学式の翌日。僕は前日と同じように、俊典さんより早く起きて朝食と弁当を用意し、俊典さんに弁当を持たせて、それを見送ってから自分も家を出た。そして昨日と同じ道を通って登校する。
ルーティンのようなものだ。
僕は徒歩ですぐの場所に家があって時間の調節がしやすいので、交通機関の定刻に左右される他の生徒よりも遅めに登校できる。昨日と同じく教室には既に多くの生徒がいて賑わっていた。
教室に入ると、手前から3列目の最前列に座っている耳郎ちゃんと目が合った。ちょうど教室に入って一番最初に目が行くあたりだ。こちらが会釈すると、向こうも口元を綻ばせて小さく手を挙げてくれた。
「あ、おはよ! 昨日はどったの?」
そんな僕に、一番ドアに近い席に座っているピンク色の髪と肌の黒目少女、芦戸三奈が話しかけてくる。
耳郎ちゃん以外のクラスメイトとは昨日個性把握テストの後に別れて以来だ。「どう」とは、僕が連行された件についてのことだろう。
「おはようございます。提出した書類に不備があったみたいです。注意されちゃいました」
昨日何の話をしたのかは流石に言えないので、少しぼかして当たり障りない返事をした。実際、僕が出した書類(個性届)に不備があるのは事実だった。
「えー! 初日からついてないねー」
「相澤先生容赦なさそうだしな。ドンマイ。 …あ、俺 上鳴電気。よろしくな!」
「よろしくお願いします」
芦戸さんの隣の席の金髪の少年、上鳴君も話に混ざってくる。
…知識があるから知ってるつもりになっているけど、僕はまだ女子としか自己紹介もしていなかった。
それから芦戸さんの後ろの席の梅雨ちゃんさんと、上鳴君の後ろの席の切島君を交えて少しその場で話をしていると、地味な雰囲気を纏いながら地味な感じの継承者、緑谷少年が教室に入ってくる。
「おはようございます」
「…お、おはようございます…!!」
緑谷少年は僕が挨拶すると何やらあたふたとしながらオウム返しの挨拶をくれた。
…少年。初対面の女子と笑顔でシェイクハンドできるくらいじゃないと平和の象徴にはなれないぞ!
そんなこんなで時間は経ち、朝のホームルームが始まる時間になったところで僕は自分の席についた。
そして、ふいに気が付いた。
あ、僕が来て押し出されたの、青山だ。
僕は原作A組で出席番号1番…つまり今芦戸さんが座っている場所に座っていたはずの男を思い出した。
ごめんねムッシュ青山。今どうしているか分からないけれど、どうか達者に暮らしてくれ…
昨日の今日だけど、今日からは早速みっちり授業がある。
それも初回の授業にありがちな自己紹介や授業内容の説明などで時間を潰すものではなく、教科書とノートを開いてのちゃんとした授業だった。
本当は昨日のガイダンスの中で施設紹介や諸々の説明があって学校への導入がされる筈だったんだけれども、それはイカ澤先生の趣味によって「紙面にて説明」に変わってしまったので、そのクッションもない。おかげでA組の生徒からしてみると本当に何もかもが急に感じる日程だ。
まあ、今はあわただしく感じてもそのうち慣れるんだろうけどね。
そんなこんなで僕たちは昼休みを迎えた。
雄英高校では生徒は掃除をしないらしく、昼の時間はひたすら昼食のためにあるらしい。
本日の昼食は、女子全員と食堂でとることになった。八百万さんなどは弁当を持参していたけれど、弁当を食堂で食べても一向に問題は無い。
ちなみに僕も今朝弁当を作ったけれど、学食を利用してみたかったので作ったのは俊典さんの分だけだ。
弁当はこれからも作りたいと思っているけれど、リカバリーガールの補習の状況によっては断念することになる。というか、多分高確率で続けられなくなるだろうと予測している。
俊典さんは4月1日から正式に雄英高校に勤め始めて、それから僕は弁当を作ってあげていたわけだけど、下手したらそれはもう来週には終わる可能性があった。だからそれまでは俊典さんには僕の弁当を食べて欲しいという僕の我儘だ。
という訳で、学食に到着した僕は、他の皆に遅れないよう手早く日替わり定食(サバ味噌だった)とラーメンとカツカレーをそれぞれ大盛で注文した。
これでも量はいつもより少なめだ。今日の午後はヒーロー基礎学の授業だし、帰ってからする日課のトレーニングの事を考えてもエネルギーは大量に摂取しておくべきだけど、僕が食べている間に他の人を待たせるわけにはいかない。
しかしそれでも皆には大層驚かれた。
「え、それ全部食べるん…!?」
僕が両手に持ってきたトレー2つに満載された料理を見て、麗日さんが目を丸くしながら聞いてきた。
「はい。僕は個性の都合上、たくさんエネルギーが必要なので」
「毎日それくらい食べてるの? すごーい!」
個性の種類によっては大食いの人も居るだろうけれど、やはり異形型ではなく普通の外見の人間がこれくらい食べているのは珍しいんだろう。なにやら葉隠さんは喜んでいた。
全員で手を合わせて「いただきます」をして食べ始めるけれど、会話は止まらない。
僕はまず麺が伸びないうちにラーメンを食べきってしまうことにした。湯気のたつラーメンを一切冷まさずにすすり始めたのを見て、耳郎ちゃんが驚いた顔をした。
「ちょっ、ちょっと熱くないの?」
「僕は熱いの平気なので」
僕は熱いのも冷たいのも平気な体質だ。
梅雨ちゃんさんが「羨ましいわ」と呟いた。彼女は人間らしい容姿をしているけれど実質的にはカエルがモチーフの異形型だ。熱いのも冷たいのも得意ではないんだろう。
「私も個性のために多めに頂くようにしてますが、健啖でいらっしゃるのね」
「ヤオモモは体から道具を作り出す個性だもんね」
「ヤオモモ…!?」
「そうそう。八百万百だからヤオモモ。ちょっと慣れ慣れしかった?」
「い、いえ…! そんなことはございません。 私、あだ名というものに憧れていましたの!」
そんな話をしている横で、八百万さんのあだ名が成立していた。
「ヤオモモ」の命名者である芦戸さんは、ぶん、とこちらを振り向く。
「そういえば八木は八木桃香っていうんだよね。ヤギモモって呼んでいい?」
「それじゃあ僕は芦戸さんをあしどんって呼びますね」
「あしどん!? いいよ!」
「えーそれ私も呼ぶー!」
いいのか。
そして僕のあだ名も決まってしまった。
「ヤオモモとヤギモモ…お揃いですね」
まあ、八百万さんが嬉しそうにしているから良いという事にしよう。
「ねーねー、ヤギモモも個性把握テストすごかったけど、どんな個性持ってるの? 食事関係?」
早速ヤギモモを使いだした葉隠さんが尋ねてくる。この世界で人に個性を聞くのは支持政党を聞くのと同じくらい微妙な行為だけれども、この学校では個性を使用して切磋琢磨するのが前提なんだから別に隠すこともなかろうという判断なのだろう。
「僕の個性は自己再生です」
僕は先生たちとの事前の取り決め通りの答えを言った。
「自己再生? 凄そうだけど…」
「でも、それって運動とは関係ないわ」
他の子達も個性把握テストで2番手だった僕の個性には興味があったらしい。もぐもぐと口を動かしながらこちらの様子を伺っていた。
「身体の再生に使うエネルギーを操作して、運動に使っているんですよ」
「え、何それ! それじゃあ自己再生じゃなくてエネルギー操作の個性じゃん」
「いえ、やっぱり本来の使い方ではないので燃費は良くないんですよ」
「へー、だからいっぱい食べて貯めとくんやね」
一通り語って、僕は常人では火傷する温度のラーメンをそのまま啜った。
うん。専門店レベルの味だ…
僕の口の中は一瞬爛れて、すぐに治った。
再生能力者として熟達したからだろうか。僕の身体には痛覚が無い。痛みは身体の不調を示すシグナルだけれど、僕の身体は壊れてもすぐ治るからそれが必要なくなったのだ。
僕の父も、完全な無痛覚ではないけれど痛みにはかなり強かったらしい。
先程女の子たちにさらっと説明した身体強化の原理も、実際にはこれを前提とした血なまぐさいものだ。
常人なら働くはずの自己防衛反応(脳のリミッタ―)を無視してエネルギーを込め、身体が崩壊するほどの強度で筋肉を使うことで僕の超人的な身体能力は実現している。
これは痛みを感じる人間ならば一瞬の行使でも悶絶するであろう無茶であって、正常な能力の派生などでは決してない。筋肉に込めるのにも崩壊した体の組織をリアルタイムで修復するのにも大量のエネルギーを要するからこそ、僕は沢山の食事をとってエネルギーを溜めておく必要があった。
医学的には、人間は潜在的な身体能力の20%程度しか発揮できていないらしい。
僕は今のところ、なりふり構わなければ120%くらいの力を出せる。
この話を書くにあたって原作を改めて隅々まで眺めたつもりですが、ヤオモモがいかにしてヤオモモと呼ばれるようになったのかは分かりませんでした。
なのでこのSSではここであしどんによって名付けられたということにしたいと思います。
あと、主人公の個性説明で「人間は身体能力の20%くらいしか使えていない」と書きましたが、原作の緑谷少年が腕を壊したシーンで医者が「80%」と言っているシーンがありました。
原作を最大限重視していきたいとは思っていますが、あんまり数字が大きくなると派手になっていくので取りあえず本SSでは「20%」ということで進めてまいりますのでよろしくお願いいたします。