オールマイト「マイワイフは女子高生」   作:ワイフマン教授

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今回は実験的にヒーロー基礎学の模擬戦をクラス全員分描写することにしました。全員の個性をいちいち解説していると冗長なので省略しており、ある程度原作を読んだ方でないと楽しめない可能性があるのでご注意ください。
原作の1年ヒーロー科対抗戦を読んだとき確信しましたが、40人のキャラクターを操って模擬戦闘を描ききった原作者は天才ですね。
 
※こちらは改稿前は5話分となっておりましたが、長い戦闘描写は本SSの趣旨に反するので2話の閑話といたしました。


閑話1 対人戦闘訓練①

 ヒーロー科の生徒は、サポートアイテムのメーカーに自分の個性と要望を伝えてコスチュームを作ってもらうことができる。

 僕のコスチュームは黒いワイシャツとベストに赤いネクタイ、そして黒いスラックスを合わせたもので、ちょっとした服屋に行けば揃いそうな、ヒーローとしては滅多に見られない地味なコーディネートだ。

 これは「日常的に着ていても違和感がない形で、血塗られてもそれと分かりにくい配色」という僕が提示した条件のもと会社がデザインしたものだった。

 目立つつもりは全く無く、ひたすら動きやすさと着やすさ、あとついでに洗いやすさに重点を置いた形だ。鋼鉄製のガントレットとブーツと、腰に差した大型サバイバルナイフ2本がかろうじてヒーローらしさを演出している。

 

「わっ、ヤギモモ格好いいねー!」

「八木さんのイメージとちょっと違うけど、仕事人って感じ?」

 

 まさしくヒーローといった感じのコスチュームを身にまとった女子たちは、僕の格好をそう評した。

 

 仕事人という感想は、僕にとってはあたらずとも遠からずと言ったところだろうか。これは僕が「自己再生という個性を持つヒーロー」として設計したコスチュームだった。

 作るにあたって一番注目したポイントは耐久性だ。

 個性の都合上、僕は戦闘となれば負傷が前提の立ち回りもすることになるだろうけれど、そのたびに服が破損していたのでは困る。なので僕は「再生するコスチューム」という要望を最重要項目として申請書に書いて提出した。幸いにも、何度かの協議の末にそれは実現した。

 このコスチュームは僕が身にまとっている限り、僕の身体の一部として再生することができる。

 原作でルミリオンが自分の毛髪を素材にすることで自分の個性による悪影響を受けないコスチュームを作っていたけれど、これはそれと似ている。下着まで含め、僕のコスチュームに使われている繊維は全て僕の髪の毛を加工したものだった。

 髪の毛なんてものを使っているわりに、生地は伸縮性があるし体毛らしい光沢もない。着心地も良く、僕はその出来栄えに十分満足していた。

 

 …材料を送る時、大量に束ねられた髪を見て俊典さんが怯えていた。

 平気で物理法則を超越してくるくせに、俊典さんはホラーが得意じゃない。

 

 

 

 女子たちとの食事の後、ついに数ある専門科目の中でも最も新入生からの注目度の高い「ヒーロー基礎学」の時間がやってきた。

 生徒達の期待に満ちた雰囲気の中、科目担当である俊典さんは、「わーたーしーがー、普通にドアから来た!!!」の言葉と共に、言うほど普通ではない姿勢で教室に突入してきた。

 僕はすっかり見慣れているけれど、他の生徒達からすればオールマイトはまだまだ画面の向こう側の人だ。彼の登場と共に教室は一気に浮足立った。1年間直接師事したはずの緑谷少年もなぜかその中の一員に含まれていた。

 

 そんなこんなで始まった第一回目のヒーロー基礎学はさっそく実習だった。それも、クラス内で2人組を作り、他の2人組とシチュエーション形式で模擬戦闘を行うという実践的なものだ。

 つまり原作通りというわけだ。

 ただ、僕と言う異物が含まれたせいか、その班分けは全く原作通りではなかった。

 

 

A:上鳴 緑谷

B:口田 八百万

C:砂藤 葉隠

D:爆豪 八木

E:障子 常闇

F:蛙吹 瀬呂

G:切島 轟

H:芦戸 峰田

I:飯田 耳郎

J:麗日 尾白

 

 

 原作では緑谷少年と麗日さんのペア、爆発さん太郎と飯田君のペアという組み合わせで最初の模擬戦が行われた。しかし、この4人は今回それぞれ別の人とくじ引きでペアになり、爆発さん太郎に至っては僕とペアという有様だった。

 

「てめェ、入試で1位だったって言う…」

「八木桃香と申します。よろしくお願いします」

「…誰がよろしくするか!俺はテメェの上をいくんだよ…!」

「………」

 

 一応と思って挨拶したけどもこの対応である。なんか敵視されていた。

 

 爆発さん太郎の個性把握テストの順位は、八百万さん、僕、轟君に次いでの4位。そして、こっそりと学内で公開されている入試実技の順位でも彼は僕の次点で2位の成績を修めていた。いずれも僕が入ってきた影響で順位が下がっただけで、彼は原作通りの力量を持っていると考えていいだろう。それを思えば、個々の能力的に僕たちはだいたいどの組と当たっても負けることは無いはず。

 でも、この実習の評価点は勝敗だけではない。

 あんまり俊典さんの前で無様な真似はしたくないんだけど、どうなることやら……

 そんな不安を抱えつつも授業は始まった。

 

 

 

 

_________________________________

 

 

 

 

 

 制限時間15分間で、生徒達はヒーロー組とヴィラン組に分かれて屋内での模擬戦を行う。

 ヴィラン組は「核兵器」と仮想設定されたオブジェクトを最後まで守り切ること、ヒーロー組はそれを奪取することがそれぞれの勝利条件だ。また、相手を専用のテープで「捕獲」することでも勝利したという判定を得ることができる。

 

 ヴィラン組には5分の準備時間が与えられ、さらに時間切れでも勝利となる。

 それに対して、ヒーロー組は突入後、5階建てにもなる建物を探索しながらヴィラン組と相対することになる。

 この条件ではヴィラン側に有利で不公平だという意見も出た。しかし、オールマイトが「ヒーローはヴィランより不利な立場で戦わなければならない。それはプロの現場でも同じだ」と語ると、その不満の声も消えていった。

 

 対戦するペアの組み合わせと、そのどちらがヒーロー役、ヴィラン役を務めるのかはくじで決められた。

 まずオールマイトが引き当てたのはFとIの組だった。

 

 

 

・Fコンビ(蛙吹 瀬呂)がヒーロー、Iコンビ(飯田 耳郎)がヴィラン

 

「…どうしよっか。ウチ、音で探知はできるけど…」

「ううむ…それを頼って俺が先手を打って出るという作戦が有効かと思うが、蛙吹君と瀬呂君は捕縛に有利な個性だったはず。一人で特攻して捕らわれたとなれば取り返しがつかない…!」

「そうなんだよね…」

 

 状況設定はヴィランにとって有利とはいえ、それで優位に立てるとは限らない。

 前日の個性把握テストと二日間の交流で、生徒達はある程度互いの個性を把握していた。その情報が彼らを逆に悩ませた。

 

 飯田の個性は特に瀬呂の個性と相性が悪かった。飯田は足のエンジンによって高速で移動することができるが、そのぶん小回りはきかないし大きな音も出る。瀬呂がうまく対処すれば、飯田はほとんど何もできないまま捕獲されてしまうだろう。

 悩んだ末に結局、飯田・耳郎のヴィラン組は無難に最上階の一室に核を配置し、その場でヒーロー組を待ち受けることにした。

 ヴィラン組の二人はいずれもヒーロー組の二人より打撃力に優れた個性を持っている。その上で、耳郎の個性があればひとまず先手は取れるはず。そう判断した故の作戦だった。

 ただ、その判断は完全に裏目に出た。

 

 模擬戦開始から10分以上も経った頃だろうか。ふいに、バリバリバリ、という大きな音が耳郎のイヤホンジャックに響いた。

 その音は、長い時間息を潜めながら静寂の中で神経を張りつめさせていた耳郎にとってひときわ大きな音に聞こえた。

 

「ッた……!!」

「耳郎君…!?」

 

 反射的に耳を抑える耳郎と、それに驚く飯田。

 そんな二人の背後で、窓ガラスを突き破りながら瀬呂が外から部屋に突入してきた。

 

 

 

 

「瀬呂少年の『テープ』は他人にも扱うことができる。初めてのチームアップでよくぞそこに気付いて有効活用した!」

 

 模擬戦後の講評で、オールマイトはそう言ってヒーロー組を出迎えた。

 

「い、一体何が…」

 

 何が何だかわからないうちに瀬呂の「セロテープ」によって簀巻きにされて敗北を喫したヴィラン組の二人は、キツネにつままれたような表情だった。

 

 

 女子同士として耳郎と交流を持っていた蛙吹は、耳郎が個性の「イヤホンジャック」によって聴覚を強化できることを知っていた。しかも彼女は、コスチュームと個性の恩恵によって耳郎の聴覚をすり抜けるほど隠密に行動することができた。

 蛙吹は冷静に、たっぷりと時間を使って外壁を這いながらヴィラン組の居場所を探し当てた。また、それから改めて建物内に進入してその部屋の前に瀬呂から受け取ったテープを大量に敷設し、勢いよく剥がすことで直接床に対して大きな音を発生させ、耳郎の聴覚を攻撃した。

 瀬呂は蛙吹からのインカムによる通信を得て、それと同時に突入したのだ。

 

 

「ある程度時間が経っても相手の気配が見えなければ、インカムもあるんだし耳郎少女を信じて偵察に出るという手もあった。一度決めた方針を守ることは大事だけど、思考は柔軟に保たなくちゃ相手の土俵に立たされることになるぜ!」

 

 オールマイトはそう言って講評を締めた。

 

「くっ……! 猛省します…!!」

「他にもヴィラン側の手は考えられるけど、初っ端からあんまり紹介すると後の組の戦術に差し支えるからこの場では秘密としておこう!」

 

 

 

 

・Cコンビ(砂藤 葉隠)がヒーロー、Aコンビ(上鳴 緑谷)がヴィラン

 

 

 この模擬戦で上鳴と緑谷はとにかく葉隠に注目した。今回のルールでは、体のどこかに専用のテープを巻かれるだけで脱落扱いになる。これは透明人間として抜群の隠密能力を誇る葉隠にとってかなり有利な状況だろう。

 彼女は体内に取り込んだもの、掌の中に隠したものも透明化できるので、比喩ではなく完全に視認不能な状態で襲撃してくる恐れがあった。対して、彼女とコンビを組む砂藤は特にトリッキーなところもない単純な増強型の個性だ。対策の優先順位は低かった。

 

「まずは葉隠をどうするかだよな。今回のルールで透明人間って相当有利だぜ」

 

 ヴィラン側に与えられた準備時間、上鳴はそう切り出した。

 核の配置などもしなけらばならない以上、5分という時間はあっという間に過ぎてしまう。すぐに作戦を練らなければ勝敗にも関わってくるだろう。上鳴はそう考えていた。

 しかし、ヒーロー好きが高じて、他人の個性をヒーローとして役立てる手法を考えるのが趣味(あるいは癖)となっていた緑谷にとって、この5分という時間はまったく十分なものだった。

 

「そのことなんだけど…上鳴君の個性って、"帯電"なんだよね。常に帯電し続けて、人が近くを通った時だけ放電するよう調整できないかな」

「そうか! 静電気みたい反応するようにすりゃ、透明人間でも…!」

 

 上鳴は、合点がいったとばかりに手を叩く。緑谷は頷いて、早口で自分の考えた作戦を語った。

 

「まずは最上階で息を潜めて籠城する。あの二人は探査能力があるようなタイプじゃないから、それだけでそれなりの時間を稼げるはず。最終的には対決は避けられないだろうけど、砂藤君は何とか僕が抑えるから、その間、葉隠さんから核を守って欲しい」

「ああ…任しとけ!」

 

 

 ヴィラン組は十分な自信をもって臨んだ。

 いざ模擬戦が始まると砂藤が全ての扉を開けるのではなく破壊しながら建物を探索し始めて驚かされたが、二人はそれに釣られることなく身を潜め、いざ砂藤が突入してきても我を忘れることなく役割を果たした。

 

 結果はヴィラン組の勝利だった。

 

 

「体格で勝る相手からコンビと核を守り切った緑谷少年、危険が迫ってもコンビを信じてその場を動かなかった上鳴少年、ともに見事だった!」

「はい!」「ッス!!」

 

 勝利し、目を輝かせてオールマイトからの称賛を受けるヴィラン組の二人。

 それに対して、ヒーロー組の砂藤は個性の反動で虚ろな目をしながら悄然としていた。葉隠も姿こそ見えないが似たようなものだろう。

 

「砂藤少年の、扉を破壊するという工夫も面白かった。ただ、葉隠少女の個性を最大限に活用したいなら、もう少し徹底するべきだったな」

「はい…」

「私が砂藤少年だったなら、ある程度目星が付いたら後は全ての部屋に扉ではなく壁を破壊しながら侵入しただろう。そうすれば相手側の混乱も誘えるし、葉隠少女の侵入経路が固定できなくなる。君のパワーなら不可能ではなかったはずだ」

 

 勝った者より負けた者の方が得るものは多いとはよく言うが、それは事実だ。

 雄英高校に入学したばかりの1年生たちはこれから己の個性の長所と短所に向き合っていくが、敗北は生かすべきだった長所と克服すべき短所を浮き彫りにする。オールマイトは勝利した二人をよく褒め、それ以上に敗北した二人にアドバイスを与えていた。

 

 

 模擬戦はのこり三組。ヒーロー基礎学実習はまだまだ続く。

 ただ、ひとまず会場は移動することとなった。瀬呂が窓を1枚割ったくらいのことならばまだしも、砂藤は建物の扉を殆ど破壊してしまった。流石にこれでは状況が変わってきてしまう。

 

 緑谷は思った。

 演習場とはいえ、こんな簡単に備品を壊してしまっていいのだろうか?

 いや、それを言ったら入試などはもっと派手に色んなものを壊していた。だから多分大丈夫なんだろう。多分。

 

 

 

・Bコンビ(口田 八百万)がヒーロー、Hコンビ(芦戸 峰田)がヴィラン

 

 5分の間にヴィラン組が作戦を立てるのと同じように、ヒーロー組も自分たちの個性を伝え合って相手への対策を講じる。模擬戦が始まってからはその時々で臨機応変に対応していくべきだが、特殊な個性を持つ者同士が戦う場合、ここでの読み合いがそのまま勝敗につながる可能性は高い。

 

 

「口田さん。改めてよろしくお願いいたしますわ」

 

 コンビが決まった時にも挨拶はしていたが、八百万は口田にもう一度挨拶をした。

 

 八百万はクラスの女子の中では最も身長が高いが、口田はさらに大きく、見上げるような高身長の男だった。手足も太く、堂々たる体格を持っていたが、不思議と威圧感は無い。きっと彼の控えめで自信なさげな佇まいのせいだろう。

 

「………!」

 

 八百万の挨拶に対して、口田は慌てたように身振り手振りで挨拶を返してきた

 先程挨拶をした時に気付かされたが、個性のせい、あるいはいかなる主義主張があってか、彼は言葉を話さないらしい。

 会話しなくてはインカムでの通信ができない。それは場合によってはかなりのハンデになるのだが…

 

「私の個性は、体の表面から様々な物を創造するというものです。口田さんは?」

 

 少し困った気持ちになりながら、八百万は個性について尋ねた。

 喋らなくてもまあチームは組めるが、流石にこれは教えてもらわなければ話が始まらない。

 

「……! ……!」

 

 口田はしばし、わたわたと身体を動かし視線を左右に巡らせた。

 そして、諦めたように肩を落とし、それから空を見上げた。

 

「空を舞う気高き者達よ、姿を見せるのです…」

 

 喋った。しかもその声は彼の容姿とはかけ離れた、幼い少年のような甲高い声だった。

 唖然とする八百万の耳に、バサバサ、という羽音が聞こえてくる。口田の視線の先を見上げると、そこには何羽かの鳥が居た。

 鳥たちは二人の上を少し旋回した後、口田の肩にとまってリラックスするように首を傾げた。

 

「…鳥を言葉で操る能力ですか?」

「……動物とか、虫も…」

 

 口田はぼそぼそと答えた。どうやら人間相手に話せないわけではなかったらしい。八百万は腑に落ちない気持ちを感じながらも、とりあえずひと安心した。

 

 

 それから八百万は時限式の装置を組み込んだ大量のスタングレネードを用意した。口田が呼び寄せた鳥達に建物内部を探索させた後、問題なければこれらを建物内に設置してもらうという作戦だった。

 さらに芦戸の酸や峰田の「もぎもぎ」も一応警戒して、身体を覆えるサイズのマントを二人分作った。

 

「そろそろ時間ですわね」

 

 一通りの用意を終え、八百万は会心の笑みを浮かべた。

 その時、ちょうどオールマイトによってインカムの通信で模擬戦の開始が告げられた。

 

『それではBコンビ対Hコンビによる屋内対人戦闘訓練、スタート!』

 

 準備は万端。いざ挑まん。

 八百万は口田と顔を見合わせ、建物に向き直った。

 

 

 その瞬間

 

 

「オラアアアアアアアァ! ヒーロー共やったらああああああ!!!」

「うおー! そこかーっ!!!」

 

 

 あろうことか、鳥たちを突入させるよりも前に、建物の入り口からヴィラン組の二人がそれぞれの個性を乱射しながら飛び出してきた。

 

 

 

 

 

 試合は、意表を突くことに成功したヴィラン組の勝利だった。

 

 模擬戦開始直後、峰田はすぐに八百万に文字通り飛びついて自身の「もぎもぎ」を大量に付着させ、行動を封じた。事前にマントを羽織っていたものの、直接飛びつかれてはさしたる効果も発揮できず、八百万はあえなく戦闘不能となった。 

 そして八百万がほとんど活躍できずに捕縛された時点で勝敗は決していた。

 

 

「様々なアイテムを作り出すことができる八百万少女に対して、籠城は悪手に他ならない。ヴィラン組に勝ち筋があるとすれば、開始の合図と同時に打って出て、アイテムを作り出す暇を与えずに捕縛するという手のみだったろう。よくぞ勝機を見逃さなかった!」

 

 オールマイトの眼前には、膝をついてがっくりと項垂れる八百万と、それを慰める口田と耳郎。

 そして顔面にぼこぼこと凹凸を作って大量の鼻血を垂らしながらも満足げに佇む峰田と、それを冷たい目で見る女子、遠巻きに見守る男子達があった。

 

 峰田の傷は大半が模擬戦が終わってから負ったものだった。

 模擬戦中、峰田は八百万に抱きついた。それだけならばまだ相手の抵抗を妨げることを合理的に追求した行動と解釈することもできたのだが、峰田は明らかに八百万の胸部に触れるような形で過剰に接触していた。そのことが女子たちの逆鱗に触れたのだ。

 

 事態をどう納めたものか困った末に、オールマイトはそれらを無視して講評を始めた。

 峰田が制裁を受けた際、その顔面を殴打していた女子のうち一人は自分の妻だった。それがまたオールマイトにとって対処に苦慮するポイントだった。

 正式に勤務しはじめて数日目にして、オールマイトは教師という仕事の難しさをひしひしと感じ始めていた。

 

 

 

・Eコンビ(障子 常闇)がヒーロー、Jコンビ(麗日 尾白)がヴィラン

 

 気を取り直して、模擬戦は続く。

 授業時間は無限にあるわけではない。4組目の組み合わせが発表されるとただちに次の模擬戦の用意が為された。

 

 この試合ではAクラスでも特に鋭い目つきの持ち主であるEコンビがヒーロー役となった。

 とはいえ、そもそも戦闘に重きを置くヒーローは厳めしい容姿であることが多い。「ヴィランっぽい見た目ヒーローランキング」などというものもあるくらいだ。それを思えば、障子と常闇の容姿はまだまだ一般的と呼んでも差し支えない範疇だった。

 

 逆に、ヴィラン役になったJコンビは悪人には見えない温和な雰囲気を持つ二人だった。

 そんな温和な二人組、麗日と尾白は、互いの個性を手短に紹介し合った後、額を突き合わせて話し合いを始めた。

 しかし、その話し合いはすぐに暗礁に乗り上げた。

 

「障子君と常闇君ってどんな個性なのかな」

「うーん…障子はずば抜けた探知能力と怪力の複椀、常闇はスピードとパワーがある中距離対応の分身って感じかな」

「ええー! そのコンビ死角ないやん!」

「うん…正直、俺たちが正面から当たっても勝ち目は薄いと思う…」

「そんなぁ…」

 

 ヒーローコンビの二人はAクラスでも上位と言える強力な個性を持つ二人だった。

 障子は6本の複椀を持つ異形型だが、昨日の個性把握テストでは片側3本の腕を使って握力測定で540キロという数字を叩きだした剛力の持ち主である。さらに彼はそれぞれの腕の先端に目や耳などの器官を生成することが可能で、それを用いて死角のない探査能力も発揮できる。

 常闇は自分の影から「ダークシャドウ」と名付けられたモンスターを出現させて操ることができる。このダークシャドウは常闇自身の影から伸びるという制約はあるが、空中も含めて広い範囲を自由に素早く移動できるし、何より自立した意思を持っている。

 彼らはいずれも攻撃・探知の両方に秀でた個性の持ち主であり、さらに射程まで兼ね備えていた。この二人が揃ったJコンビは、今回の全組の中でも最も隙の無いコンビだと言っても過言ではない。

 五指で触れた相手を無重力状態にするという麗日の個性も対人制圧能力としてはかなり優秀だが、それだけで勝利を期待できるような相手ではなかった。

 

 麗日達は相手の強力さにいささか悲観的な気持ちになった。だが、当然そんなことで模擬戦を投げ出したりはしない。

 麗日は事前に渡された建物の見取り図を見ながらしばらくうんうんと唸った後、ふいに勢いよく顔を上げて、核の方を見やる。

 

「あの、先生…!」

『ん? どうかしたかい? 麗日少女』

 

 そしてインカムに向かって麗日は話しかけた。

 インカムからはオールマイトの返事がある。

 

「……核、隠しちゃっていいですか!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 5分の準備時間が終わったことをオールマイトが宣言すると、ヒーロー組の二人は満を持して慎重に建物に潜入した。

 障子と常闇はお互いが単独で行動し得る能力を持っていると判断し、今までの生徒達とは違って二手に分かれて行動することを事前に決めていた。常闇が能動的に探索し、障子はゆっくりと移動しながらヴィラン組の動向を探るという役割分担だ。

 

 しかし。

 

「…全く動きがない。籠城を決め込んだか」

 

 障子は一本の腕の先に生成した口で、インカムに向かって囁いた。

 

 彼の残りの腕の先に生成された耳は、静寂に包まれた建物の中にあっては微細な足音でも感知できるはずだったのだが、その足音が一切しなかったため、ヴィラン組の存在を感知できなかった。

 麗日の個性を使えば無重力状態になって足音を消して移動することもできるだろう。しかし、だからといってそのことにさほどの意味があるようには思えなかった。そのような状態で襲撃してきたとして、それを見逃すようなヒーロー組ではない。

 

『こちらもまだ発見できない』

 

 インカムの先の常闇が応答した。彼も相手を補足できてはいないらしかった。

 

 それからまた暫く探索を続け、模擬戦開始から5分が経過した段階で二人は最上階である5階の探索に着手した。

 残り時間は10分。対して、未探索の領域は僅か。ヒーロー組にはかなり余裕がある筈だった。しかし、この状況を障子はどこか快く感じていなかった。

 このクラスに所属する生徒達は、すべてが国内最高のヒーロー養成校である雄英高校に合格した猛者たちなのだ。ヴィラン組の二人が籠城していたとして、無策で待っているなどという事態は考えにくい。

 障子たちの思いもよらぬ必殺の布陣で手ぐすねを引いて待っているのだとしたら、と考えると決して油断はできなかった。

 

 そうして5階の探索を続け………ヒーロー組の二人は5階の探索を終えた。

 核兵器はおろか、ヴィラン組の姿すらそこには見つけられなかった。

 

 

 

「どうなっている…!!」

 

 探索を終えてすぐ、障子は常闇と合流していた。

 二人は困惑した。

 ステージの見取り図を見て二人は互いに担当する領域を決めた。その全ての探索を終えたのに標的が見つからないのはなぜか。

 一番考えやすいのはどこかに探索漏れがあったという場合だが、そんな下らないミスをするはずがなかった。しかし、そうでないとしたら、一体…

 

「まさか…」

 

 そんな中、ふと常闇が呟いた。

 

「籠城ではなく、移動しているのか…?」

「……!!」

 

 その言葉の意味を理解した瞬間、障子は驚愕した。

 ヴィラン組が籠城ではなく、無重力による浮遊で無音のまま核と共に移動していたとしたら。それはあまりに運頼みな作戦だったが、時間稼ぎとしてはそれなりに功を奏するだろう。

 一つ頷き合って、二人は駆けだした。

 

 障子は焦る自分の心をなだめた。まだ時間はある。

 足音すら聞き分ける障子の聴覚によれば、これまで扉の開閉音はヒーロー組の二人がたてたものしかなかった。だとすれば、ヴィラン組は廊下を移動しているはず。ならば全力で捜索すれば見つけることは容易いはずだった。

 

 それから障子と常闇は息を切らしてすべての階の廊下をくまなく捜索した。時折すでに探索し終えた部屋も確認した。

 だが、ヴィラン組を発見することはできず、無情にも時間は過ぎた。

 

 そして、ついに「もしや麗日と尾白のどちらかが、葉隠のように視認不能になる個性の持ち主だったのでは?」という疑念が障子の脳裏を支配し始めたころ、オールマイトはタイムアップを告げた。

 

 こうして今回の授業で屈指の能力を発揮するはずだったJコンビは、自らの敗因すら理解できないまま敗北を喫した。

 

 

 

「…男らしくねえ試合だったなぁ」

 

 観戦していた生徒の一人、切島はこの模擬戦をそう評した。

 八木桃香が心の中で"爆発さん太郎"と呼んでいる少年などは「くそつまんね」とすら言っていたが、それは流石にあんまりだったので切島は聞かなかったことにした。

 

 それより、と切島は気を引き締めた。四組目が決定した時点で最終戦の組み合わせも決定している。切島と轟、そして爆豪と八木だ。

 切島は自分以外の三名の個性を良くは知らなかったが、彼らが相当の実力者であるということは知っていた。

 轟と爆豪の個性が攻撃的で非常に強力なものだということは昨日の個性把握テストで見ただけでも十分理解できる。そして八木は他の追随を許さない程の身体強化。しかも彼女は入試実技一位だというクラス内の噂を切島は聞いていた。

 

 最終戦は、四組目の地味な戦いとは打って変わって今日一番の熱くタフな戦いになる筈なのだから。

 

 

 

 EコンビとJコンビの模擬戦において、ヴィラン組であるJコンビがとった作戦は簡単なものだった。

 麗日は尾白と協力し、無重力の個性で自分たちと核を屋上へ運び、そのままそこでタイムアップまでじっと息を潜めていたのだ。

 障子たちがそれを発見できなかったのは、模擬戦の前に配られた建物の見取り図に「5階から屋上へ続く階段」が表記されておらず、また実際そのような階段が存在しなかったためだった。

 

 今回用いられたステージはあくまで演習用に作られた建物で、実際に町中に存在する建物のように人の生活を想定して作られたものではなかった。内装は無機質で、屋上にも給水塔を模したハリボテが置かれているだけという有様である。

 ヒーロー組は無意識のうちに屋上の存在を除外し、核もヴィラン組も存在しない建物内部を右往左往することになったのだった。

 これは本来ならばレギュレーション違反として模擬戦が中断するような案件だったが、ヴィラン組は事前にオールマイトに確認を取って、移動は試合開始後にするという条件付きで許可を得ていた。

 障子はクラス内でも最高峰に探知に優れており、常闇ならば特に労力もなくダークシャドウを屋上に送り込んで探索ができたことから、致命的なまでの不利にはならないとオールマイトは判断したのだ。

 

 ヴィラン組の作戦はある種クレバーなものだったと言える。ただ、戦闘を完全に放棄して逃亡を図るかのような所業は、「屋内戦闘訓練」としては大きな疑問が残るものだった。

 

 

 試合後、生徒達は微妙な空気に包まれていた。

 

「まず前置きをしておこう。この一戦、勝利こそしたが、ヴィラン組の取った作戦は模擬戦として考えるとあまり評価できないものだった。…だが、授業としては素晴らしい示唆に富んでいた!」

 

 しかし、そんな生徒達にオールマイト胸を張ってそう言った。その言葉に、気後れするように俯いていた麗日と尾白が顔を上げた。

 

「私は麗日少女と尾白少年に感謝しよう。ありがとう!」

「ど…どういたしまして…?」

 

 オールマイトはニカッと笑いながらヴィラン組の二人に親指を立てて見せる。その姿に生徒達も次第に姿勢を正した。オールマイトは講評を始めた。

 

「今回、ヴィラン組はヒーロー組と相性の悪さを感じて徹底的に交戦を避けるという手を選んだわけだが…切島少年!」

「お、俺っスか?」

「ああ。例えば君が同じ状況に置かれたとしたらどうした?」

「……俺なら、何とかして勝つ方法を探しました」

 

 講評が始まってすぐに突然指名された切島は、僅かに考えてから答えた。

 

「ゲームみたいにパラメーターがあるわけじゃなし、勝ち負けなんてやってみなきゃわかんねーじゃないっスか。逃げ腰じゃ勝てるものも勝てなくなる」

「うんうん。その考えもまた正しい」

 

 オールマイトはその答えに頷く。そして言葉を続けた。

 

「じゃあ、例えば今回はヴィランが兵器を守っているという設定だった。これが逆に、ヒーローが民間人を守っているという設定だったら?」

「…っ!」

 

 生徒達の雰囲気が変わった。

 

「不退転の意思で戦いに挑む。格好いいな! だが、ヒーローの本分は『守ること』なんだぜ。守るために必要ならば、敵に背を向けることは決して恥ではない。そのことを血気盛んな年頃の皆には覚えておいてほしい」

 

 これこそがこの組の模擬戦を通してオールマイトが生徒達に伝えたいと思った事だ。

 生徒達は真剣な目をして頷いた。一部、頷かない者も居たが、それでもちゃんと話は自分なりに咀嚼しているようだった。

 

「ヒーロー組の二人。思いもよらない状況に焦っただろう。その焦りを覚えておけ! そして、ヴィラン組の二人。次は戦って勝てるともっといいな!」

『はい!』

 

 ヒーロー組の障子と常闇、ヴィラン組の麗日と尾白が大きくうなずいた。

 

「個性同士での戦いは何が起こるかわからない。常にあらゆる可能性を頭の中に巡らせておくんだ。そしてそれは自らの個性に関しても同じことが言える。常に新たな一手を探し続けろ! それが君たちに更なる進化をもたらすはずだ!」

 

 オールマイトは生徒達を見回し、拳を握った。

 

「ウチの校訓、もちろん知ってるだろ? せーのっ!」

 

 

『Plus Ultra!!』

 

 

 生徒達の合唱を聞きながらオールマイトは密かに、我ながら若人たちに良い話ができたのではないかと内心自画自賛した。

 あと、生徒に対する発問が成功したことにも喜んでいた。今回の模擬戦を切島が「男らしくない」と評したのをオールマイトは聞いていて、彼ならば好戦的な解答をくれるのではないかと予想したのだ。

 ヒーロー科の生徒達は大概素直だし物怖じしないから発問がしやすいが、迂闊な聞き方をすれば正答を全て言われて指導側の喋る余地が無くなってしまう。欲しい答えを言ってくれそうな生徒を選んで指名するというテクニックをオールマイトは習得した。

 

 私も先生として日々、Plus Ultraだな!

 

 

 

 

「…先生、なんかエンディングみたいな雰囲気出てるけど、まだ一組残ってるっスよ」

「………そうだったね…!」

 

 オールマイトは現実逃避を強制終了された。

 

 

 残された4名は、八木桃香、爆豪勝己、切島鋭児郎、轟焦凍。

 

 よりによって、この4名。

 その顔ぶれを思い、オールマイトは身震いした。

 

(……この組み合わせは…ッ!!)

 

 日本最高のヒーロー養成校である雄英高校の、入試実技の上位3名と推薦合格者だった。

 

 敢えて乱暴な表現が許されるならば、これはすなわち、この年度における日本最強の高校1年生4名が一堂に会するということだった。

 会場は無事で済むのか? 他の生徒と共に建物の地下から観戦していて大丈夫なのか?

 

 何より、そのメンバーの中に妻が含まれているという事態は、オールマイトの心臓にとって少々よろしくないものがあった。

 

 




 
ちなみにこのたび用意しましたコンビと、ヒーロー・ヴィラン組、そして模擬戦の順番は全てランダムで決めました(主人公のコンビとその対戦相手は除く)
 
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