オールマイト「マイワイフは女子高生」 作:ワイフマン教授
A組がこの段階でどの程度互いの個性を把握していのかは正直わかりませんが、互いに全然知らないという状況ではあんまり作戦らしい作戦が成り立たない(戦闘に強い個性の持ち主が単純に勝利してしまう)と思ったので、このSSでは少なくとも男子は男子同士、女子は女子同士で個性の内容が共有されているのだという設定にしております。
(爆発さん太郎や初期ろき君などの協調性の無いメンバーは除く)
・Gコンビ(切島 轟)がヒーロー、Dコンビ(爆豪 八木)がヴィラン
入学二日目にして行われた対人戦闘訓練。クラスメイト達の試合は中々見ごたえのあるものだった。
原作とは違うチーム分けだったから「緑谷少年VS爆発さん太郎」みたいな派手な戦闘は無いけど、生徒達の工夫が随所に見られて面白かった。
中でも、まさか八百万さんがああもアッサリ負けるとはこの場の誰が予想できただろうか。
芦戸さんたちのチームの個性はトラップ作成に向いている。それに対して、身体能力はというと格別に優れているわけじゃない。
芦戸さんは常人の範疇では運動神経がいいようだけど、峰田なんかはフィジカル最弱だ。それなのに迷わず敵の前に躍り出て戦ったその決断力は中々並じゃないと思った。
結局この世界は異能バトルだ。力が強ければ有利だけど、何より大事なのは工夫や作戦なのだ。
と、僕は思ったのに。
「………」
「………」
僕と爆発さん太郎の間に流れる空気は最悪だった。
準備のためにヒーロー組より先に建物に入って、核兵器の設置されている初期位置まで来た。その道中、二人の間に会話は一つもなかった。
彼は相手チームよりもむしろ僕に対して敵意丸出しで、とても話しかけられる状態ではなかった。これでは作戦もクソもない。
なぜ僕は彼にこんなに嫌われているのか?
僕は入学までに彼との面識は一度もない。入試の会場も違った筈だから本当に恨まれる筋合いはどこにもないだろう。だとしたら、やっぱり理由は一つしか思いつかない。
あれだ。今までなんでも一番だった男が、ここに来て一番になれなかったせいで拗ねてるわけだ。…いい歳こいて駄々っ子か!!
内心で頭を抱えている僕をよそに、爆発さん太郎は核兵器の周囲をざっと確認すると、すぐに踵を返した。
「ちょっと、どこいくんですか」
「あ? よろしくするつもりはねーっつったろが!」
「………」
「俺は勝手にやる。お前も好きにやれや」
目も合わせずに言い捨てて去っていこうとする。
これにはさすがにいくら何でも少し頭に来た。こいつ何様のつもりだ。
ちょっとぶん殴ってやろうと思って、その背中を追いかけて拳を振り上げる。
「ふんっ」
「…ッ…!!」
しかし、爆発さん太郎はぎりぎりの所で気付いて身をかわした。
流石に才能マンと呼ばれた男だ。本気で当てるつもりじゃないパンチを食らってはくれなかった。
「何しやがる!!!」
そして鬼の形相で振り向いて僕の胸倉を掴んできた。もう片手も肩口に構えていて、掌の上で小規模な爆発が起こっている。
この人、女相手でも全然容赦ないな。
「何はこっちの台詞です。そっちこそどういうつもりですか。やる気が無いなら迷惑なので早退してください」
「誰がんなこと言ったゴラァ!? 俺は一人で十分だっつってんだろうが!!」
「…相手が何者だか知っててそんなこと言ってるんですか?」
「ああ!!? 知るか! 誰が相手だろーが関係ねんだよ!!」
流石は初期出荷分の爆発さん太郎クソ下水煮込み味だった。全く話にならない。至近距離から唾を飛ばして叫んでくるのが鬱陶しくて、つい胸倉を掴んでくる手を強く握りしめてしまった。
「関係あるよ。ふざけんなよ」
「……ッ!!」
あとさっきからお前の手の甲が僕の胸に触れてるんだよ。そこに触っていいのは俊典さんだけなんだよ。…なんか真面目に腹が立ってきたぞ。
「……クソが…放しやがれ!!!」
爆発さん太郎の手からミシミシと音がなる。反射的に左右に振って逃げようとされたが、個性の恩恵を受けてない常人の腕力で振り払われるほど僕の力は弱くない。
むしろ、その手ごと押して彼の身体を壁際まで押し付け、その顔を下から覗き込む。
「国立雄英高等学校 推薦選抜合格者、轟焦凍」
僕が掴んでいる手が小さく爆発を繰り返す。意図してのことか知らないけど、そんな猫騙しが再生能力者に効くか。
「一般選抜 実技第3位、切島鋭児郎」
「…何を…ッ!」
「1位の僕のことしか見えてなかったんですか? ねえ、第2位、爆豪勝己君」
「ッ!!!」
「彼らは決してモブなんかじゃない。あなたと紙一重のライバルです。それに他のクラスメイトだって、油断していると足を掬われますよ」
爆発さん太郎は目を見開いた。その目には今まで以上の敵意が込められていた。しかし、それ以外の色も含まれているように見えた。
そうだ。相手はよりにもよって轟君と切島君なんだ。本気でかかっても勝てるか分からない相手なんだぞ。お前も真面目にやれ。
僕は補講を受ける以上、普段の授業でも十分な成績をとっておかなきゃならないんだ。それに何より、俊典さんの授業で僕のメンツを潰してくれるんじゃない。
「今までの人生 さぞかしつまらなかったでしょう。判りますよ。僕も中学校、死ぬほどつまんなかったです」
「テメェと一緒にすんなや!」
拘束していた手を放してあげると、肩をドンと強く押された。
その勢いで2歩分ほど下がる。
「でも爆豪君 良かったですね。ここにあなたを脅かすことができそうな人間がこんなに一杯いますよ」
再度顔を覗き込むと、その顔にはたっぷりの凶相が浮かんでいた。
「少しは張り合いが出てきましたか?」
しかし、その口元は笑みの形を作っていた。
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今回の授業では、模擬戦に参加しない生徒達は大量に仕掛けられた監視カメラを通して模擬戦を観戦するのだが、監視カメラは音を拾わないため、会場側の会話はインカムを持っているオールマイトにしか聞こえない。模擬戦前の5分間、観戦する生徒達は会場の動きを見ながら彼らがどんな作戦を練ったのか想像するのだった。
しかしこの最終戦に限って言えば生徒達は他の部分で大きく盛り上がっていた。
ヒーロー組は轟の口数が少ないながらも多少の会話があったようだが、動き自体は殆ど無かった。それに対して、ヴィランチームの映像ときたら。
「後ろから相方に殴りかかった!?」
「ふ、婦女子の胸倉を掴んだだと!!??」
「あの野郎おおおお指が八木ッパイに「峰田お前まだボコられ足りねーのか…」
「逆壁ドンだぁー!!」
「おい、これ止めた方が…爆豪マジでヴィランみたいな顔してるぜ」
爆豪と八木桃香は最初から仲間割れの様相を呈していた。これは今までの模擬戦では無かった流れだ。
生徒達が騒ぐように、オールマイトとしてもこれ以上少しでも暴力が伴うようならすぐにでも実力で止めるつもりだったが、幸いと言うべきか二人の諍いはすぐに収まった。
オールマイトはインカムを通じて二人を注意するに留めた。
「先生、桃香ちゃんは爆豪ちゃんとなんの話をしていたのかしら」
「う、うん。ちょっと過激だったが、八木少女が爆豪少年の協調性のなさを注意していた。爆豪少年も考えを改めたようだね!」
「あ、あのかっちゃんが!?? す、すごい……!!」
当たり障りなく答えると、それを聞いた継承者が小さな声で驚いていた。
最終的に、ヴィラン組は核兵器を初期配置である三階の一室にそのまま置き、自分たちは二人で階段前に陣取ってヒーロー組を正面から待ち受けることにしたようだった。
「でも、ヤギモモが先制攻撃しかけたのはちょっと意外だったよね」
模擬戦が始まる前、ある女子生徒はこの一連の流れをそのように評していた。
それを聞きながら、オールマイトはその言葉をひそかに否定した。
八木桃香は一見、口調は丁寧で外見も人当たりも柔らかいため、優しい人物であるという第一印象を持たれることが多かった。しかしその実、頭の中ではシビアに物事を考えるタイプの人間なのだということを7年間の付き合いの中でオールマイトはよく知っている。
「ふざけんなよ」。自分の妻が口にした言葉が脳内でリプレイされて、オールマイトは一つ身震いした。
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10歳で前世の記憶に目覚めて以来、僕は再生能力が無い常人だったら100回は死んでるような密度で自分を鍛えてきた。オール・フォー・ワンから最低限逃げ隠れができるようになるためにはそれくらいのことをする必要があると思っていたからだ。(本当にオール・フォー・ワンに目をつけられたら逃げきれる自信はなかったけれど)
AFOが居なくなって、俊典さんのプロポーズを受けてからはあんまりハードなのはやっていないけれど、それでもトレーニング自体は継続している。
だからつい一か月前、僕は自分が入試実技で1位を取ったと知った時も全く驚かなかった。むしろ思い通りの結果で安堵を覚えたくらいだった。
こっちは悪の帝王と戦うために鍛えていたんだ。天才とはいえ中学生の子供なんぞに負けて堪るか。だいたいそうでなくとも1歳年上なんだぞ。僕は心の底からそう思っていたのだ。
でも実際問題、悲しい事に僕の生まれ持った個性は基本的には戦闘向きじゃない。無理やりこじつけるようにして戦闘に応用できるようになりはしたけど、本来の用途は回復以外の何物でもないのだ。
そこに来て今回の相手はなぜか、轟君と切島君という強力な二人組だった。
原作のまだまだ序盤の体育祭編で既に「そこらのプロ以上」と言われた男と、同じく体育祭編で爆発さん太郎の爆撃を食らってよろけもしなかった鉄壁の男。
ダーティーな作戦とか生死にかかわるような攻撃をしていいならまだしも、ただ単に無力化(しかも核に気を配りながら)するという条件下でこのコンビはいくらなんでも手に余る。
もちろん爆発さん太郎だってこの二人を前に一人では為すすべもないはずだ。
轟君と切島君が一緒に行動してくるかは分からなかったけれど、勝利するつもりならば相手と2対1の形になる可能性自体が許容できない。
連携しないまでも、せめて僕と同じ空間で相手を迎え撃って欲しかったからこそ、僕は敢えて爆発さん太郎が嫌がるような事まで言って話を聞かせたのだ。
そして、やはり爆発さん太郎にとっても、みっともなく敗北することは何をおいても避けるべきことなのだろう。彼はあの後、「推薦の轟とかいう野郎は俺がやる」とだけ言って歩き出した。つまり切島君は僕に任せるという事だ。
轟君を相手に選んだのは、取りあえず入試で自分より下位だった切島君よりも推薦合格者の轟君と勝負したかったからだろう。近接しかできない僕は轟君とかなり相性が悪いから、その選択は僕にとってもありがたかった。
僕は爆発さん太郎の後ろをついて歩きながら、昨日の個性把握テストから窺える範囲で相手の二人の大まかな個性を説明し、さらに僕自身の個性が自己再生であるということも語った。返事はくれなかったけれど、話自体はちゃんと聞いていてくれたようで、彼は階段の前で足を止めた。
ヒーロー組は隠密裏に高い階層から侵入できるような個性を持っておらず、さらにこの建物は階層間を移動する階段は各階層に一か所しかない以上、ヒーロー組は必ずこの階段から現れる筈という判断だろう。
試合開始まで残り僅かになったところで、彼は険しい表情で呟いた。
「いずれ全員ブッ倒して、俺が一番だってことを証明してやる…!」
どう答えても怒りだしそうだったので僕は黙ってそれを流した。
『…準備はいいか! それでは、Gコンビ対Dコンビによる屋内対人戦闘訓練、スタート!』
そして、俊典さんの声と共に模擬戦が始まった。
俊典さんの言葉が終わってすぐのことだった。僕は何かが来るという漠然とした感覚を覚えた。それは例えるなら、地震の起こる予兆のような感じだった。
その直後、パキパキという音と共に階段の下から白い冷気が壁と床を浸食してきた。
原作でもあった、開幕と同時の凍結攻撃だ。
「……!!」
浸食されつつある床に立っているのはまずいと本能的に察したのか、爆発さん太郎は咄嗟に飛び上がって両手の爆発で滞空した。僕はそんな便利なことはできないので、ただ片足を上げた。
床についているほうの足は、床に氷が広がるのと一緒にみるみる氷で覆われていく。
どう見ても湿気から発生したにしては氷の量が多い。原作の氷壁を繰り出す技からも想像できるけど、轟君の個性は、冷やすのと、氷を発生させるのと、二種類の能力がある気がする。
僕の足が凍ってるのを見て、爆発さん太郎はぎょっとしたようだった。
「オイてめェなに食らってんだ!!」
「あはは、問題ないですよ」
一通り床の氷の浸食が終わってから浮かせていた足をおろして、凍った方の足を地面から剥がす。靴は僕が全力で蹴る前提の強度で作ってもらっているから、これくらいの事では壊れない。
ガンガンと地面を何度か踏みつけると、まとわりついていた氷も剥げて足も自由に動くようになった。
「この氷、轟君ですね」
「っ建物ごとかよ…!」
浮遊をやめて地面に降り立った爆発さん太郎は顔が引き攣っていた。この威力は予想外だったようだ。
まあ轟君は物心ついたころから日々吐くような訓練をして生きてきた人間だ。いくら才能マンとはいえ悪ガキを侍らせて緑谷少年を虐めて遊んでる暇のあった奴にそうやすやすと負けはしないだろう。そういう意味では彼は僕と少し似ている。
ただ、だからといって手も足も出ないようではコンビの僕が困る。
「是非、ブッ倒してあげてください」
さっき言ってたよね? 寒いけど頑張ってね。
「……上等だァ!!!」
笑いかけてあげると、爆発さん太郎は凶悪に笑った。
その時、ふいに階下から微かに物音が聞こえてきた。
僕たちは同時に息を潜め、その音に耳を澄ませる。それは一人分ではない足音だった。
根拠は無かったけれど僕たちは確信した。相手はこちらに向かってきている。
考えてみれば当然のことだった。僕たちはさっきから大きな声で話して、二人ともそれなりに大きな音をたてていた。正面勝負が好きな切島君と、自信満々な轟君がそれを見逃すはずがない。
何の合図もないまま爆発さん太郎は飛び出した。僕もそれに続く。
素早く階段を駆け下りると、そこには2階の階段を登り切った形で身構える切島君と轟君の姿があった。多分階段を上っている最中にこちらが動き出したのを察して、急いで階段を上がったのだろう。
切島君を巻き込まないようにするためだろうか、轟君のほうが一歩分ほど前に居た。
「正面から…!」
個性を発動させた切島君が緊張した顔でそう言い終えるよりも早く、轟君と爆発さん太郎は殆ど同時に互いに右手を翳した。
爆発音と共に、地震のような揺れが起こる。
一瞬のうちに階段を埋め尽くすような氷壁がせり立ち、ほとんど崩壊しながらも爆発は受け止められていた。
反発の爆風を受けながら爆発さん太郎が「チッ!」と大きな舌打ちをするのを横目に、僕はスピードを緩めずに突っ込んで氷壁の残骸を蹴り砕き、相手チームに肉薄した。
氷のつぶてが相手側に飛んだけれど、一瞬氷の壁で見えなくなった間に切島君が前に出ていて全て受け止められた。それどころか、それらを無視して彼は既に拳を振り上げていた。
邂逅からここまでわずか数秒だったのになかなか判断が早い。ただ全身に気合を込めているせいか、パワーはともかくその動きは多少のぎこちなさがあった。
軽く拳を躱し、クロスカウンターの形で切島君の顎を掴んでそのまま2階の廊下へ駆ける。
轟君がこちらを見て右手をかざしたけど、それは無視して走り続けた。背後で「てめェはこっちだ!!!」という雄たけびと共に爆発音が響いた。
「うおおっ!? 放ッ…」
「いいですよ」
爆発さん太郎が活躍してくれることを祈りつつこちらも、もがき始めた切島君を廊下の突き当りの壁に思い切り叩きつけた。大して厚さのないコンクリートの壁と切島君とでは、切島君の方が硬かったらしい。切島君は壁を突き破ってその向こう側の部屋に転がった。
部屋の中は「THE・廃ビルの一室」といった感じで謎の木材や壊れた机などが無造作に配置されているのが見えた。
切島君で空けた穴を通って室内に入ると、彼は素早く起き上がって構えた。ダメージは殆どないらしい。知ってはいたけどやはり関心するほどの頑丈さだ。
「…くそっ! 分断か!」
「はい。爆豪君が一対一を希望したので」
「タイマンだと!? 漢らしいじゃねえか」
爆発さん太郎のあれに関しては、男らしいと呼ぶべきか、子供っぽいと言うべきか。
彼らの戦闘は順調に続いているようで、背後からまた大きな爆発音が聞こえた。
「っていうか、こんな話してる場合じゃねえ!」
「うーん、僕はもう少し話しててもいいんですけど」
「いやここは普通戦って勝った方がコンビ助けに行く流れだろ!? 急げって!」
「爆豪君は轟君と勝負したいって言ってたんですよ。その邪魔はしないつもりです」
「熱い心意気…! でもそれ授業的にありなのか?」
「負けても死なないで済む授業だからこそですよ。まあ、そうでなくてもあの二人の戦いは派手だから僕が居ても邪魔でしょう」
本気を出せば介入できないこともないけど、そうなるとどうしても再生怪人じみた戦闘を披露することになるだろう。流石にこんな授業でクラスメイトにそんな傷を負わせて平気なほど彼らの根性も据わってはいないだろうし、下手したら模擬戦自体が中断してしまう。
…というのは表向きの理由だ。
個人的には、一対一を邪魔して爆発さん太郎から怒られるのはまっぴら御免だったし、ここで一回 思う存分同格(格上)と戦ってもらって天狗の鼻を折っておいた方が彼自身のためにも良いと思っている。
僕はひたすら切島君の相手に専念して、もし爆発さん太郎が負けるようだったら轟君を相手にするつもりだった。
ただ、やはりというか切島君は意見が違うらしい。
「そうかよ…でも、少なくとも俺は邪魔にはならねえ自信があるぜ」
さりげなく延長した話にも律儀に付き合ってくれたけれど、これ以上は待ってくれないようだ。切島君は強気な表情を浮かべて、個性を発動して全身を硬化させた。
「それにやっぱヒーローなら仲間を助けねえとな。ここは通してもらうぜ!」
「二人が戦ってる間に核を探しに行くのもオススメですよ」
「その手もあったか! って、敵にアドバイスしてどうすんだ!?」
「あはは」
この人も素直だから話していて楽しいなぁ。
それに、倒しても不貞腐れたりしないでいてくれそうだから、すごくやりやすい。
「どっちにしろ僕に勝てたらの話ですから」
「…負ける気はねえってかよ!」
緊張した表情にわずかに笑みを浮かべ、切島君は改めて構えた。僕もそれに合わせて静かに構える。
ごめんね切島君。僕の個性、多分君の個性とすごく相性がいいんだ。
そこからの僕と切島君との闘いはだいぶ一方的だった。
鉄壁の防御力とまあまあの攻撃力、スピードは変化なし。それが切島君の個性だ。それに対して、僕は防御力こそないけど超人的な攻撃力とスピードを発揮できる。
僕は彼を相手取るにあたって、個性によって身体の潜在能力を40%ほど開放するだけで十分な有利を確保できた。
誰かの前衛だったとしたらかなりの脅威だった筈の切島君は、一対一の状況ではサンドバッグと化した。
そして…
1、2分くらい経っただろうか。散発的に反撃しながらもこちらに一発も当てられないまま、何十、何百発もの攻撃を浴び続け、切島君は呻いた。
「クソ、手も足も出ねえ…!」
「こういう時、本来なら相手の息切れまで耐えて勝機を探すんでしょうね」
「分析すんな! っつーか全然息、切れてねーじゃねーか!!」
彼の言う通りだった。
格闘というのはかなり体力を消耗するものだけれど、僕は全く疲れていなかった。
普通の人間はエネルギーを化学物質という形で体内に蓄えている。それに対して、僕はエネルギーを「エネルギーという概念」として体液中に貯蔵している。化学物質は酸素と反応させてエネルギーを取り出さないといけないけれど、僕の謎エネルギーはそのまま使うことができる。この差は大きい。
常人でもヒーローでも関係なく、人間はある程度以上運動すれば息が切れてパフォーマンスが落ちてくるのに、僕はそれがないのだ。極端なことを言えば、僕は体内のエネルギーが底をつくその瞬間まで呼吸をしないで活動できる。
再生能力があるから怪我や筋肉の疲労による機能低下も無いし、僕の個性はかなり長期戦に向いている。それに対して、切島君の個性はそんなに長持ちするものじゃない。
僕は、主導権を渡さないようにしながら彼のタイムリミットを待っていた。
「個性の相性ですね」
ダメージこそ無いけど反撃不可能な身体能力差に、自分にだけある時間制限。彼からしてみれば僕は最高に相性が悪い相手だ。正直にそう指摘する。
すると、切島君はきっ と目を見開いて大きく拳を振りかぶった。
「個性なんて関係ねェ!!」
叫びながら振るってきた拳を避けながら、その語気の強さに僕は思わず手を止めた。
「誰が相手でもヒーローは戦うんだよ…勝てねえのは俺の漢気が足りてねえってだけの話だ!!」
僕は驚いた。彼の口から出てきたのは一種の、巷でたまに囁かれることがあるヒーロー原理主義の一側面だった。
「例えどんな敵が相手でも守るためならば歯を食いしばって戦うのがヒーローの本懐」という主張。これは理屈は理解できるものだが、普段それが匿名の場所以外で声高に唱えられることは殆どない。
勝てない相手と戦うっていうのはつまり死ぬって事だ。他人にそんなことを真顔で言えるのはステインさんくらいだ。
「この際勝てねえのは仕方ねえけど、せめて轟がカタつけるまでは時間稼いでやるぜ!!」
僕の目を正面から見ながら、切島君は拳を硬く握って宣言した。
「………」
その姿を見て、僕は少し不安になった。
この熱い男が本当にあと1分やそこらで個性を切らすだろうか。
僕が彼を倒す前に爆発さん太郎が負けてしまう可能性を考えたら、これ以上時間を稼がれるのは大きなリスクだった。
それに、そのひたむきな姿勢を見ていると、彼が隙を見せるのを高みの見物よろしく待っているというのは彼に対してちょっと失礼な気もする。
しばしの静寂が僕たちの間を包んだ。遠くの方からはまだまだ元気な爆発音が聞こえてきた。
「…なんだよ?」
彼の言葉を聞いてから無言のまま考え事を始めた僕を見て、切島君は戸惑いの表情を浮かべたけれど、その問いを無視して僕はひとつ息をついてから頷いた。
「それなら、ここからは少しやり方を変えていきますね」
「やり方…?」
僕が必殺技かなにかを繰り出すと思ったのか、切島君は今までよりもいっそう硬く身構えた。その判断は正しい。
潜在開放80%。 僕は心の中で唱えて、全身のエネルギーを活性化させた。
「絶対に個性を解かないで下さい。生身で当たれば『痛い』じゃ済まないので」
言い終えると同時に床を蹴って接近する。切島君は僕の動きに全く反応できていなかった。
20%が全力。今まではその倍の40%。そしてここからはさらにその倍だ。
全身の軋みを感じながら強く拳を握りしめ、常人ならどこに当てても致命傷になる力で僕は切島君の腹部を思い切り殴った。
「がッ……!!」
切島君は呻き声をあげ、倒れこそしなかったものの10歩分くらいは吹き飛んだ。僕の攻撃は硬化を貫いてダメージを与えているようだった。
彼が姿勢を持ちなおす前に再度接近し、すれ違うようにしてその片足を蹴り上げ、つんのめった背中に肘を落とす。僕のスーツは肘にプロテクターがついてないから少し肘が壊れたけれど、それはすぐ治るから問題ない。
僕は勢いよく地面に叩きつけられて僅かに跳ねた切島君の背中に馬乗りになり、スーツのポケットから確保用のテープを取り出した。
「ぐっ…ま、待てよ…!!」
「待ちません」
ダメージは多少あるようだけど抵抗は激しく、何とか逃げようと身をよじるのを抑えつける。意識してやってるのか知らないけれど、切島君の身体は硬化すると鋭利に尖るので彼の身体を抑えつけている僕の腕も傷ついていく。痛くは無いけど血が出るからやめてほしい。
そうこうしていると、ひときわ大きな爆発音がまた響く。これは近いように感じた。天井から埃が落ちてくるのを感じながら、態勢を整えて、片手でテープを切島君の腕にあてようとし…
次の瞬間、駆け足の音が聞こえてきた。
まさかと思い顔を上げると、所々煤けて体に霜を張りつかせた轟君が僕たちが明けた穴から息せきき切って部屋の中に飛び込んでくるのが見えた。その背後でもう一度爆発が起きて部屋の中に煙が舞い込む。
轟君は左半身を覆うコスチュームの頭部分が戦闘中に壊れたのか無くなっていたけれど、まだ余力があるように見えた。
「…!」
彼は僕たちの態勢を見て、反射的に右手を差し出し、そしてわずかに表情を歪めた。
彼が何を考えているのか僕にはすぐ理解できた。僕を攻撃すれば切島君も巻き込む。彼はそれを躊躇したのだ。しかし、僕も動くことはできなかった。テープを巻こうにも、その隙を見せるわけにはいかなかった。
一瞬の膠着。
そして、それを破るように僕の下から声が聞こえた。
「やれ…」
切島君は顔を上げ、轟君の方をまっすぐ見ていた。
「俺ごとやれ!! 轟!!!」
その言葉に、轟君の瞳から躊躇が消える。
どうするべきか。
僕の思考が硬直した時、ふいに轟君が背後を振り返った。
「こ っ ち 見 ろ や !!!!!!!!」
轟君が入ってきた穴から部屋に飛び込んできた爆風が轟君を吹き飛ばした。
そしてそれを追うようにして足音が聞こえ、鬼のような顔をした爆発さん太郎が全身から湯気を立ち昇らせながら現れる。
「…二度目だ半分野郎…俺との勝負は飽きたかよ…?」
肩で息をする爆発さん太郎は、こちらに目もくれずに爆煙の中にいる轟君を睨み付けた。
すんでのところで防御して直撃を避けていた轟君は、油断なく構えてそれと相対する。爆発さん太郎はそれを見て、狂気的に笑って片手を構えた。
「まあこっちもちまちましたやり方じゃ埒があかねえと思ってた所だ…ここらで決着付けようぜ…」
そして手榴弾をモチーフにしたガントレットのレバーを引き、ギミックから現れたピンに指をかける。
教えてもらってはいないけど、僕は知っている。それは彼の全力の攻撃の構えだ。その証拠に、インカムからは俊典さんの声が聞こえた。
『…ちょっと爆豪少年、そいつはストップだ!!』
しかし、その制止はもう爆発さん太郎には届いていなかった。
「大技か? おい、ここ屋内だぞ!」
「知るかよ防ぎゃあいいだろが!!!!!!」
轟君も声を荒げたけれど、当然彼はそれで止まるような男ではない。
流石にもう模擬戦どころではなかった。
僕は咄嗟に切島君の身体を放し、その上に覆いかぶさるように伏せた。
しかしその直後、切島君は僕の身体ごと素早く膝立ちに起き上がり、僕を背に庇った。
その肩越しに、右手から極大の冷気を発する轟君と、ガントレットのピンを抜く爆発さん太郎の姿が見えた。
「後ろにいろ! 何する気か知らねえけど危ねえ!」
「あっ」
そして今日一番の大爆発が起こった。
それから数秒、轟音で働かなくなっていた耳が回復してきた頃。
意外にも衝撃が少ないと思いながら目を開けると、そこには両手でそれぞれ轟君と爆発さん太郎の手を掴み、天に向けさせている俊典さんの姿があった。
見上げてみると、上には三階層あったはずなのに青空が見えた。
「ゴホッゴホッ…そこまで! この試合は中止だ!!」
粉塵にむせながらも、俊典さんは宣言した。
「さ、流石オールマイト…それにしてもあいつら無茶苦茶しやがって…」
俊典さんの言葉と同時に、僕の前で構えていた切島君が尻もちをつくように座り込んだ。
僕を庇って怪我でもしていたら、と思って軽く確認してみたけれど、特に怪我はないらしかった。
僕が彼の負傷を確認しようとしているのに気付いたのか、切島君は得意げに親指を立ててみせてくれた。
「これくらいどーってことねえよ!」
ギザギザの歯を覗かせて笑みを浮かべる。その姿は、誰か僕の知っているヒーローと似ている気がした。
それを見て、僕も自分の頬が弛むのを感じた。
「切島君の『漢気』、見せてもらいました。すごく格好良かったですよ」
「…へっ、あんがとな!」
放心していた爆発さん太郎が我に返って俊典さんに食って掛かっているのを横目に、僕たちは撤収の準備を始めた。
その後は場所を移して軽く講評が行われた。
でも、この模擬戦はどちらのチームもさしたる戦術もなく戦ってるだけだったので、あまりどうこう言うポイントも無かった。
評価ポイントとしては、全員戦闘能力が優れていたと言われた。まあそうだろう。
ただ、轟君と特に爆発さん太郎は厳重に注意されていた。
最後の攻撃がぶつかれば、おそらく3階に置いてある核兵器も吹っ飛んでいただろうとのことだった。
建物が崩壊するような攻撃を繰り出した爆発さん太郎もそうだし、それを避けたり受け流したりせずに正面から受けて立ってしまった轟君も今回の模擬戦の設定的に減点は大きいと言われていた。
切島君は最後まで僕に確保されなかったファイティングスピリットと、爆発の際に僕を庇った行動が高く評価されていた。
僕は特に見せ場は無かったけれど、切島君と一対一に持ち込んだときの手際と、爆発さん太郎にチームプレイをさせた事を「方法はさておき」という前置きつきで褒められた。
こうして初めてのヒーロー基礎学実習の時間は終わったのだった。
次に戦闘らしい戦闘を描写するとしたら体育祭となります。