オールマイト「マイワイフは女子高生」   作:ワイフマン教授

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06 夫婦の夜

 本日のヒーロー基礎学は午後のコマ全てを使うどころか通常の時程をはみ出すものだったので、授業が終わったらホームルームもなしに解散だった。

 教室の黒板にはイカ澤先生のものと思しき筆跡で「プリントを各自取って帰ること」とだけ書いてあり、教卓の上にプリントが置かれていた。

 いわく、「オールマイトが雄英高校に赴任したことが昨晩からメディアで話題になっている。まだ今日はちらほらしか居ないが明日あたりからはマスコミが増えてくる筈だ。話しかけられても適当にあしらえ」とのことだった。

 

 そして放課後、半分以上の生徒達が教室に居残って模擬戦の反省会が催された。

 この会には轟君と爆発さん太郎は当然のようにおらず、逆に緑谷少年は負傷していなかったため普通に参加していた。

 緑谷少年は持前のヒーローオタクっぷりを発揮して皆の人気者になっていたけれど、僕の個性の話になった時に目を輝かせて「ポジティブヒーロー"GENKI"と同じ個性だ!」と言われた時にはちょっと反応に困った。

 

 ちなみにこのとき、僕の腕が負傷していたことを後から知ったらしい切島君が謝ってきた。模擬戦中のことだったし模擬戦が終わる頃には既に治っていたから別に構わないんだけれど、彼もまた律儀な人だなぁと思った。

 

 そんなこんなで夕方まで学校に居て、学校から帰ってからはいつもの通り、夕食を準備して、学校から帰ってきた俊典さんと一緒に食べて、トレーニングをした。

 

 

 そして、夜。

 お風呂に浸かりながら、僕はぼんやりと考えごとをしていた。

 思うのは、自分の力についてだ。

 

 僕はAFO・死柄木陣営との戦いを想定して体と個性を鍛えてきた。

 純戦闘タイプの個性じゃないのに脳無とかマスキュラーみたいな強敵と対面しなきゃいけない可能性があると思っていたから、それはもう相当鍛えてきた。

 人生の殆どを鍛錬に費やしてきた。無痛覚なのをいいことに、再生能力を鍛えるためにわざと骨を折ったり指を切断してみたことだってある。一度だけ思いがけずそれを俊典さんに見られてしまった時には今まで見た事ないくらい怒られた。

 それだけやって鍛えてきたからこそ、入試実技で1位をとれたし、切島君や轟君とも十分戦えた。これは僕のひそかなプライドだった。

 でも、なんというか、これは今や自己満足の領域にあるものだった。

 

 AFOはいなくなっちゃったし、戦場に出るようなヒーローになるわけでもないし…リカバリーガールの後継を目指すことを決めた以上、これからの訓練は癒しとしての個性を追求する方向の一本でいいのだ。

 成績を落とすわけにはいかないとはいえ、僕のこれからのキャリアを考えると戦闘能力をこれ以上磨く必要性は薄い。

 

 薄いんだけれど。

 

 でもそれで僕のクラス内順位が下がったら、まるで入学当初に首席だった生徒がだんだん落ちぶれていくみたいでちょっと嫌なんだよなぁ…

 

「………」

 

 僕は湯船に口をつけて、ぶくぶくと泡を出した。

 

 この悩みは雄英高校に入学する前、リカバリーガールの後継を目指すと決めた時からずっと僕の中にあるものだった。

 癒し方面でも個性を鍛えれば多少は戦闘能力も上がるはずだから、他の生徒達にそこまで追いつかれたり追い抜かれたりすることはないだろうとは思ってるんだけれど…

 

 そうやって暫くうだうだしていると、壁の風呂給湯器のモニターについている時計が目に入った。

 湯船に浸かり初めてからもうそれなりの時間が経っていた。

 今日は俊典さんが先に入ったから長風呂しても問題は無いんだけれど、こうしていても特にいいことは無い。

 僕は考えを打ち切って風呂から上がった。

 

 まあ、こんなのは生きるか死ぬかを争点にしていた今までの人生にくらべればそもそもが贅沢な悩みだ。トレーニングはできる範囲でやっていこう…

 いつも結局、そんな月並みな結論で終わるのだった。

 

 

 髪を乾かしてリビングに行くと、俊典さんがソファーに座ってテレビを見ていた。

 

「なにか面白い話はありましたか?」

「ん? 面白くはないが…私が雄英に赴任したことが話題になっているよ」

 

 テレビの画面を見ると、そこには確かに俊典さんの画像と「オールマイト」「雄英高校」の字があった。そういえば、そういう内容のプリントがまさに今日配布されていた。

 

「入学式でサプライズ登場するために秘密だって言ってましたけど、テレビ局の人たちは後からそんな特ダネを知らされて大慌てだったでしょうね」

「HAHAHA そこはご愛敬ってことで! みんなも喜んでくれたよ!」

 

 僕はテレビの画面を見ながら、スリッパを脱いで俊典さんの隣に座った。このソファーは俊典さん(220cm、274kg)サイズなので僕は普通に腰かけられないから、足は床におろさず緩く両ひざを立てる形だ。そして背中は背もたれに、身体の片側は俊典さんにぴったりとくっつける。二人でソファーに座るときは大体この姿勢だ。

 この家の家具は僕のもの以外はだいたい俊典さんに合わせて作ってあるので、どれもこれも僕にとっては大きい。ソファーの座面はちょっとしたシングルベッドくらいの大きさだし、お風呂の浴槽もバタ足の練習ができるくらいの広さがある。

 

「しかし、A組は入学式がなかったのは残念だったな」

「新入生の代表挨拶が僕でも爆豪君でも轟君でもなかったから、相澤先生はもとからそのつもりで話を通してたんですよね?」

「今にして思えばそうだったんだろうけど、私は昨日の朝知らされたよ…」

「あはは」

 

 僕たちはテレビを見るともなしに眺めながら、たわいのない会話を交わした。

 

 

 それから暫く、僕たちはだいたい同じ姿勢で過ごした。

 そして時刻が22時をまわって、テレビが明日の天気の情報を流し始めたところで、おもむろに俊典さんが立ち上がった。

 

「…さて、今日はそろそろ寝ておこうかな!」

「え、明日は何かあるんですか?」

 

 僕はそれを見上げて思わず言った。

 この家での就寝時間は、僕がだいたい23時ごろ、俊典さんは23~0時の間だ。それを考えるとまだだいぶ早い時間だった。

 

「いや、何があるわけでもないんだが…」

 

 問うてみると俊典さんは口ごもった。これは何かがある時の反応だ。

 この人は本当に隠し事ができない人だな。

 

「なんですか、もしかして、したくなっちゃったんですか?」

「んんんっ!!? いやいや、むしろ今日はそんな気分ではないっていうか…!」

「………」

 

 冗談半分につつくと、俊典さんは強く否定してきた。

 僕はちょっとむっとした。 そんな言い方はちょっと失礼じゃないか?

 

 だからというわけではないけれど、本格的に追及する気になって、僕はソファーの上に立ち上がって目線を合わせた。

 まだ俊典さんの方が目線が高いけど、流石にこうすればだいぶ近づける。

 

「何かあるなら言ってください」

 

 改めて問いかけると、しばし目を泳がせた後、すぐに俊典さんは観念した。

 

「…今日、君が同年代の生徒達と触れ合っているのを見て、改めて年が離れているんだなぁと思ってね。理解していたつもりだったんだが」

 

 そして語った内容は、交際を意識した瞬間からずっと考え続けていた筈のことだった。

 

「そんなことが今更ショックだったんですか…」

「『そんなこと』て!!」

 

 僕が冷めた反応をすると俊典さんは「ガーン」という感じのリアクションをしたけれど、事実、いくら考えたところで年齢差は覆ったりしない。

 

「あと3年したら僕も社会人になるんだから気にならなくなりますよ」

「しかし…」

「しかしもカカシもないです」

 

 煮え切らない感じの俊典さんに、僕はぴしゃりと言った。

 

 彼は結婚しちゃうくらいに僕の人格を認めてくれているわけだけど、やっぱり僕の人生経験の少なさは気になるんだろう。確かにその気持ちは判る。僕が前世の記憶を持っているということは伝えていないし、もし自分が彼と同じ立場だったら僕も同じことが気になったと思う。

 でも、だからといって僕と彼との婚姻が正解だったかだなんて、そんなことは証明するどころか僕自身にだってわからない事だ。

 

 だいたい、その話をするなら、僕のほうが強く不安に思っている自信がある。

 僕は中学校に入ったくらいの頃からずっと一方的に俊典さんに対してモーションをかけていたんだけど、いざこうなってみると僕みたいな人間がなんで彼に好かれたのか分からないし、僕なんかよりも彼の配偶者にふさわしい人は絶対居る。

 それでも、そんなことは考えても仕方のないことだから、そういう気持ちには蓋をして生きているのだ。

 

「この話題は僕も気分が良くないので、あんまりあれこれは言いません」

 

 僕は俊典さんの両頬に手を添えた。

 

「もしどうしても気になるようだったら、もう仕方ないので不安なままでいてください」

「ええ!!?」

 

 驚かれても仕方ないものは仕方ない。

 僕はひとつ息を吸って、俊典さんと目と目を合わせて言った。

 

「僕はずっとあなたと一緒に居ますから、いつの間にか不安でなくなってください」

 

 少し恥ずかしかったけれど、これは大事なことだった。

 どうやら僕の気持ちは良いように伝わってくれたらしい。俊典さんは感極まった様子だった。

 

「桃香…」

 

 

 少し無言で見つめ合った後、僕たちはどちらからともなく無言でハグをした。

 

 

 考えても暗くなるだけの話はこれでおしまい。一件落着!

 

 そう思って僕が満足していると、俊典さんが僕の耳元で小さく呟いた。

 

「…やっぱり君で良かった」

 

 そういうことを本気のトーンで至近距離で言うのはやめてほしい。

 

 

 

 

 …というか、さっきからずっとくっついていた上にこんな話をしていたせいか、なんだかすごくムラムラしてきた。

 

 10秒だか20秒が経ち、頃合いだと思ったのか俊典さんが僕の背中から手を放したけれど、僕は放さなかった。

 俊典さんが少し曲げていた背中を戻すと、僕の足がソファーから浮いた。

 

「も、桃香?」

「………」

 

 無言のままぶら下がる僕に、俊典さんは戸惑っていた。

 この人は頭はいいのにこういう察しはすごく悪い。

 

 僕は黙って床に降りて、夫を寝室に誘った。

 

 この期に及んでそんな気分じゃないとか言わせないぞ。

 

 

 

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