Cosplay × Lover   作:緑茶わいん

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6/30(TUE)‐7/02(THU)

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6/30(TUE) 16:52

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「い、いやいや。待ってください」

 

 復帰するまでに一分くらいかかった気がする。

 その間、先生は辛抱強く待っていてくれた。

 

「先生がMayさんなら、なんで今更俺に告白してるんですか。俺、昨日振られてるんですよ?」

「それは、だから、私があなたに告白したかったから」

「……?」

 

 先生がさっと視線を逸らした。

 

「本当は、由貴くんにコスプレのことは知られたくなかったの。だから、素の私として付き合いたかった」

「子供ですか」

「し、仕方ないでしょ……!」

 

 っていうか、札木先生の口からコスプレって単語が出るとは。

 

「え、あの、まさか本当にMayさんなんですか?」

「どう言ったら信じてくれる……?」

「一番最近したコスプレは?」

「英雄大戦の紫式部」

「つぶやいたーのアイコンは?」

「メイド・イン・メイドっていう古いゲームのメイド服」

「あれ元作品あったんですか……って、まさか、本当に?」

「『ファニードリーム』に問い合わせればすぐにわかるよ」

 

 嘘だろ……?

 先生がMayさん? 俺はMayさんとプライベートチャットをしてたどころか、週三回、二人っきりでボードゲームやってたのか?

 はっ。この前、先生に膝枕を薦められた時に受け入れていれば、間接的にMayさんに膝枕をしてもらえたってことか……?

 

「……世間が狭すぎませんか」

「運命なんだよ。私と、由貴くんは出会う運命だったの」

「確かに、それくらい凄い偶然ですけど」

 

 なんだこれ。

 

「じゃあ、勤め先関係の好きな人って……」

「私が学校の先生で、好きな人は生徒です、なんて言えないもん」

「あれ俺のことだったんですか……?」

「他にいるわけないでしょ……?」

 

 いや、俺、そいつに何度も何度も嫉妬してたんですよ?

 プレゼントの時もそうでしたけど、実は俺でしたって……俺が送った呪詛が全部俺に返ってきてるんじゃないだろうか。

 

「だったら、もっと早く言ってくれればいいじゃないですか」

「言えないよ。学校の先生なんだよ? 趣味はコスプレです、なんて。男の子には特に言えない。恥ずかしいもん」

 

 顔を赤らめる先生はぶっちゃけ可愛い。

 Mayさんだと知ってから見ると三割増しくらい、というか世界一可愛く見える。

 そりゃまあ、オタク趣味は恥ずかしいかもしれないけど。

 

「コスプレ趣味があったくらいで、先生のこと見損なったりするわけないでしょう」

「そ、そんなのわからないでしょ!」

 

 あ、先生がムキになり始めた。

 色々カミングアウトした反動でよくわからなくなりつつあるらしい。

 頬を膨らませて、至近距離から俺を見て、

 

「もういいの、言っちゃんだから……っ! お願いします、私とお付き合いしてください」

「すいません、無理です」

「どうしてっ!?」

 

 先生はもう完全に涙目だった。

 泣きそうな顔もすごく可愛いんだけど、別にこれが見たくて断ったわけじゃない。俺はそんなドSじゃない。

 

「……俺も、先生に言えない秘密があるんです。きっと言ったら幻滅されるから言えませんし、付き合えません」

「そんなこと……? 私、どんな秘密があっても、由貴くんのこと嫌ったりしないよ?」

「なんでそんなことがわかるんですか」

「さっき由貴くんだって同じこと言ったじゃない……!」

 

 いや、それはそうなんですけど。

 俺の秘密はちょっとインパクトが違う。幾ら心構えをしていようが意味がない。

 

「……でも、Mayさんにだけ言わせるなんて良くないですよね」

「そうだよ。ね? 言って? どんなことでも大丈夫だから」

「そこまで言うなら……。聞いてください、見てください。そして幻滅してください」

 

 なんか主旨が変わってきてる気がするけど、ツッコミ役がいないのと怒涛の展開で頭がやられてるせいか、俺達は気にしていなかった。

 俺はスマホを取り出し、チャットアプリを立ち上げて晒す。

 

「これ、なんだかわかりますか?」

「え? チャットのアプリ? あれ、ミウ、って。それにこのスマホ……?」

 

 さすがにすぐに気づいてくれた。

 なにせ、ミウとチャットしている相手は寒ブリ、Mayさん、先生自身だ。

 

「え? あれ、だって、ミウちゃん……」

「なんですか、Mayさん」

「え? え?」

「ミウは俺です。俺、女装の趣味があるんです。それとコスプレにも興味があります。もちろん女装の。Mayさんに友達になってくださいって言ったのも、そうすればもっと話ができると思ったからなんです」

「え……?」

 

 先生が固まった。

 冷静に考えるとドン引きされたら負けなんだけど、そこまで気が回ってない俺はドヤ顔になった。

 どうですか先生、さすがにこれは度量の大きい先生でも無理――。

 

「あれ、秘密ってそんなことなの……?」

「は?」

 

 え、全く効いてない?

 先生はきょとんとした顔で首を傾げて「だから?」って顔をしている。

 

「待ってください。女装ですよ? 男が女のフリしてたんですよ?」

「でも、私と仲良くなるためだったんだよね? 似合ってたし、ミウちゃんとお話できて楽しかったし……。変なことするためじゃないんでしょ? トイレとか――」

「男子トイレ使ったに決まってるじゃないですか」

 

 いくら女装状態でも女子トイレは禁止。

 それくらいのルールは知ってるし、徹底した。イベント会場では人気のないトイレを探して行ったからあんまり恥ずかしくなかったし。

 

「じゃあ問題ないよ」

「いや、彼氏が女装って絶対問題あるでしょう?」

「どうして? 由貴くんも一緒にコスプレしてくれるってことでしょ? 楽しそうだし、コスプレなら私が先輩だから、色々教えてあげられるよ?」

 

 Mayさんから直々にコスプレ指導、だと……?

 

「でも、その、気持ち悪くないですか? 一緒にコスプレなんて」

「ううん。だって恋人同士なんだよ? キスだってしたいし、えっちなことだって……。それを考えたら普通でしょ?」

「え、えっちなこと?」

「うん、いいよ、由貴くんなら。好きなコスプレしてあげるし、もししたいなら着たままだって……いいんだよ?」

「Mayさん、もっと自分を大切にしてください」

「だから、好きな人にしかしないって言ってるの!」

 

 え、あ、そうか、俺が好きな人で彼氏候補なわけだから問題ないのか……?

 やばい、やっぱり相当混乱してる。

 

「ほら、他に何か問題ある?」

 

 同じく混乱魔法を喰らっていそうな先生が、俺の手を取って尋ねてくる。

 

「ええと……ない、ですね」

「じゃあ、いいよね? お付き合いしてくれるよね?」

「いや、それは」

 

 まずい。まずいと思うんだけど、

 

「……何で付き合わないって話になったんでしたっけ?」

「私にわかるわけないじゃない」

「そうですよね」

 

 考えてみると何の問題もなかった。

 札木先生のことは好きだ。Mayさんのことはもっと好きだ。先生がコスプレイヤーだったからって、何の問題もない。むしろポイントが加算されてよりお得だ。

 

「由貴くん?」

「……うう、ああもう、後悔しても知りませんからね!」

 

 良くわからなくなった俺はやけになって頷いた。

 

「好きです、Mayさん。札木先生。こちらこそ、よろしくお願いいします」

「うんっ」

 

 涙を浮かべながら微笑んで先生は、感極まったように俺の身体を拘束し、責め苦を与えてきた。

 もっと簡単に言ってしまえば、いきなり抱きついてきた上にぎゅっと密着してきた。

 

「えへへ。由貴くんっ。私のこと、捨てないでね? 末永く、よろしくお願いしますっ」

「俺が捨てるわけないじゃないですか。捨てられるとしたら俺の方ですよ」

「ふふっ。じゃあ、私達、一生離れられないねっ」

 

 一生、か。

 それこそ、俺としては願ってもないんだけど、

 札木先生の、Mayさんの体温を感じながら、俺は恋人になった女性の顔をじっと見つめた。

 彼女は、俺の視線に気づくと頬を染めて目を閉じる。

 

 そして、俺達は初めてのキスをした。

 

 

 

=====

7/02(THU) 17:52

=====

 

「それで? もうセックスしたの?」

「するわけないじゃないですか!」

 

 二日後にバイトへ出勤したら、店長から嬉々としていじられた。

 なんでも「やきもきさせられた分の仕返し」らしい。

 店長と先輩は俺とMayさんの事情をあらかた把握していたそうで、それはもう、大変だったことだろう。そう思うと文句も言いづらいので、俺は甘んじて受けることにした。

 

「どうして? あの子のことだから、君が望めばすぐにでもさせてあげそうだけど」

「だからできないんじゃないですか……。Mayさんのことは大切にしたいんです。そんな玩具みたいに適当に弄ぶなんて絶対できません。ちゃんと時間のある時に、ムードを整えてからにします」

「ふうん? なんか、どっちが乙女なんだかわからないわね。……まあ、あの子から聞いて知ってたけど」

 

 と、店長は聞いておいてしれっと言ってのける。

 考えてみたら当然だ。

 Mayさんとこの人は親友なわけで、俺以上に深い繋がりがある。事の顛末なんて全部聞いてるに決まってる。

 そもそも、今、仕事中だし。

 

「知ってるならもういいですよね?」

「駄目。君の口から聞かせなさい。キスした後どうなったのか」

「……別に、大したことはなかったですよ?」

 

 前置きした上で、俺は店長に答えた。

 俺とMayさんはしばらくしてから、どちらからともなく唇を離した。舌も入れてない。触れるだけの優しいキスだ。

 ぶっちゃけそれでも幸せ過ぎて死にそうなくらいだったけど、そこからの時間も馬鹿みたいに甘い空気が流れていた。

 羞恥心が限界突破した結果、無敵モードに入ったらしいMayさんは俺にくっついたまま離れようとしないので、俺達は揃って床の上に座り込んだまま、これからのことを話した。

 

 まず、学校ではなるべく今まで通りを装うことにした。

 要するにただの教師と生徒。

 名前で呼んでくれるのは嬉しいし笑顔を見せてくれるのも幸せだけど、訴えられたら負けるので隠すに越したことはない。

 例外は『テーブルゲーム研究会』の部室。そこなら鍵もかかるし、どうせ他に誰も来ないので、名前で呼び合うくらいは問題ない。

 これからは部室での話題にも困らない。

 札木先生=Mayさん=寒ブリってことは、彼女は俺=ミウの趣味を全部把握してるってことだ。ゲームもアニメもマンガもラノベもいける口だということが分かってしまった以上、お互いに遠慮する必要がない。

 

「萌花さんには前よりリラックスしてもらえるんじゃないかと」

「萌花さん。萌花さんね」

「いいじゃないですか。彼女なんですから」

 

 部室かプライベート以外では「先生」で統一するし。

 でも「Mayさん」よりも「先生」よりも「萌花さん」って呼ぶ方が喜んでくれるのだ。俺も「由貴くん」って呼ばれるとむず痒い嬉しさがこみ上げてくるから、その気持ちはよくわかる。

 

「女装はどうするの?」

「続けますよ。っていうか、萌花さんの方が乗り気なくらいです」

 

 化粧も裁縫もコスプレも教えてあげる、と、大張り切りだった。

 俺としては知りたかった知識についてまるごと師匠ができた感じ。まあ、Mayさんに近づくために勉強してたのに、そのMayさんに教えてもらうことになってるわけだけど。

 

「ミウとしてならデートもできるんじゃないかって」

「萌花でもMayでも、君があの子とデートするのは問題あるのよね」

「そうなんですよね……」

 

 コスプレイヤーのファンもアイドルや声優のファンと同じく、推しに男がつくのを嫌うことが多い。俺自身、Mayさんの「好きな人がいる」発言に複雑な気持ちになったので、彼らの気持ちは残念ながらよくわかる。

 じゃあ萌花モードでデートすればいいかというと、教師と生徒なのでそれもまずい。Mayモードと萌花モードで化粧や服装をきっちり分けてるとはいえ、気づく人は気づくだろう。俺と違って。……俺と違って。

 そこで、俺がミウになればいい。

 

「Mayとミウちゃんが一緒にいる分には、後輩のレイヤーと仲良くしてるようにしか見えないか。なんなら『デート』って表現しても問題ないし」

「女の子同士で出かけるのを『デート』っていう文化は割とありますし、ガチだとしても百合なら許容されやすいですからね」

 

 男と付き合うのは駄目だけど女同士でいちゃいちゃするならOK、という層は割といる。

 俺だって、萌花さんが他の男と付き合うのと先輩と付き合うのだったら、後者の方が許せる。いや、悔しいのは悔しいんだけど。

 

「じゃあ、君はあの子とミウちゃんモードで買い物に行ったり、ご飯食べたり、映画見たり、お茶したり、水族館に行ったりするわけね」

「そうですね。それはそれで楽しいんじゃないかと」

「あの子の家行ったりもするわけね」

「さすがにちょっと緊張しますけど、ミウの状態なら見られても問題ないですよね」

「なんか、普通に化粧とか裁縫の話して、一緒のベッドで寝て帰ってきそう」

「ありそうですね」

「ありそうですねじゃない」

「あいたっ!?」

 

 頬をつつかれた。

 

「いいじゃないですか。俺達が満足してるならそれで」

「あの子から『彼が全然手を出してくれない』とか相談されそうな気がするのよ」

「そしたら教えてください」

「他力本願か」

「痛い」

 

 頬をつねられた。

 良い意味で遠慮がなくなってきたというか、惚気を聞かされてる鬱憤を晴らされてる気がする。教えろって言ったの店長なんだけど。

 

「まあ、なんでもいいけどね」

 

 言って店長は何やらスマホを操作して見せてくれる。

 詳しいやり取りまでは読み取れなかったけど、昨日今日とグループチャットの履歴がずらっとあるのはわかった。

 

「あの子、滅茶苦茶嬉しそうだし」

「俺も惚気ていいですか?」

「止めて」

「はい」

 

 目がマジだった。

 店長は深いため息をついて、

 

「とにかく。あの子のこと大事にしなさい。簡単に別れるのだけはナシ。本気で自殺しかねないから」

「あはは、それはさすがに大袈裟――」

「君、あの子に『実は遊びだったの』って捨てられたらどうする?」

「死にます」

「似た者同士じゃない」

 

 いやまあ、死ぬは言いすぎだけど、死ぬほど落ち込むのは確かだろうなあ……。

 

「大丈夫です。俺、Mayさんのこと大好きですから」

「知ってる」

「Mayさんからも一生一緒にいようって言われましたし」

「でしょうね」

「なんか適当じゃないですか?」

「そんなことないよー」

 

 適当だった。

 店長は聞きたいことは聞いたのか、俺の傍から離れて事務所の方に戻っていく。

 離れ際「あの子も難儀な恋ばっかりするわよね」とか聞こえたけど、意味はよくわからなかった。萌花さんのことだとしたら、うまくいったんだからいいような気もするんだけど……。

 あ。店長にシフトの相談するの忘れた。

 萌花さんは土曜も仕事をしていることが多くて、休日は日曜だけになりやすい。それならデートより休んだ方がいいんじゃ、とも言ったんだけど「デートしたいの……!」と言われた。彼女がそう言うなら俺だってデートしたい。

 なので、土曜出勤にできないか早めに相談しないといけない。

 退勤前にするか。店長を追いかけたら店に誰もいなくなるし、今話しても「また惚気か」ってげんなりされる気がする。

 デート費用を稼ぐためにも、バイトを頑張らないと。

 

 デート。

 Mayさんと付き合えることになったのは、今でも信じられない部分がある。

 何しろ一度は振られてるわけで、あの部室での出来事が実は夢か何かだったんじゃないか、って思ってしまったりするのだ。

 でも。

 これが現実だっていう証拠はちゃんとある。

 

 スマホが震えて、チャットの着信を知らせてくれる。

 

寒ブリ 大好き♡

 

 愛しい恋人からのメッセージに、俺はすぐに返信した。

 

ミウ 私もです♡

 

 俺と萌花さんが、店長や先輩から「バカップル」とか呼ばれるようになるまで、あまり時間はかからなかった。

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