神様と十二支と猫と盃と《完結》   作:モロイ牛乳

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44「建視の面談ですか?」

 今日は本田(ほんだ)さんの三者面談の日だ。

 本田さんの保護者代理として来るぐれ兄に悪ふざけするなと釘を刺すため、僕は本田さんと一緒に校門の前で待ち構えていたのだが。

 

「あれぇ? けーくんも僕のお出迎え?」

 

 タクシーから降りたぐれ兄はチャコールグレーのシングルスーツを着て、ブルーのネクタイをきっちり締めていた。スタイリング剤を用いて、黒灰色の髪をかっちりとしたセンター分けにしている。

 ……とても折り目正しい格好なのに、ぐれ兄の胡散臭さが増して見える。

 ぐれ兄がまともな大人の対応をしてくれるなら、多少の胡散臭さには目を瞑るけど。(いぬ)憑きの従兄が着ている仕立てのいいスーツは、見覚えがあったので捨て置けない。

 

「そのスーツ、兄さんのだろ」

「ビンゴ! 借りてきちゃった。すごいねぇ、よくわかったねぇ。さすがブラコン」

「ぐれ兄は自分のスーツを持っていたじゃないか。なんで、わざわざ兄さんから借りたんだ」

 

 何となく見当つくけどな。

 兄さんのスーツを着るぐれ兄を見ていると、敵に重要なアイテムを奪われて歯噛みするヒーローみたいな気分になるから、繭子(まゆこ)先生にも同じ気持ちを味あわせようと企んでいるんだろう。

 

「僕のスーツはクリーニングに出すのを忘れちゃったから、シワシワのヨレヨレで着れたもんじゃないんだよ。(とおる)君の三者面談なんだから、ちゃんとした格好をしないとね」

紫呉(しぐれ)さん……っ。お気遣い頂き、本当にありがとうございますっ!」

 

 深々と頭を下げてお礼を述べる本田さんを見て、僕は叫びたくなった。

 やめて! 本田さん、ぐれ兄なんかに頭を下げないで! むしろぐれ兄が本田さんに土下座して、今までやらかした事をきっちり謝れ!!

 

「本田さん。僕はぐれ兄と少し話があるから、先に進路相談室に行っててくれる?」

「あ、あの……」

「透君、ごめんね。けーくんは頑固だから、1度こうって言い出したら聞かないんだよ」

 

 確かに僕は頑固な処があるけど、不安材料そのものであるぐれ兄には言われたくない。心配そうな本田さんが校舎に戻るのを見ながら、僕は用件を切り出す。

 

「ぐれ兄……三者面談中に、本田さんや繭子先生をからかうような言動は取らないでよ」

「はーさんにも同じ事を言われたよ。僕は困っている透君を見かねて、保護者代理を善意から申し出たっていうのに。ぶーぶーですよ」

 

 ぐれ兄が善意から申し出るとか、白々しすぎてツッコむ気も起きないよ。それでも兄さんが警告したなら、悪ふざけはしないはずだ。多分しないと思う。しないんじゃないかな……。

 

 ……ぐれ兄が本田さんの三者面談を台無しにしたら、(めぐみ)君に報告すればいいか。

 

 僕がドキドキハラハラしている内に、本田さんの三者面談が終わった。進路指導室から出てきたのは、本田さん1人。

 ぐれ兄と繭子先生は、サシで話しているようだ。2人の動向は気になるけど、それよりも、だ。

 廊下を歩く本田さんの体が、ピサの斜塔のように傾いている。ぐれ兄が三者面談でやらかしたのではという嫌な予感に駆られ、様子がおかしい本田さんに声をかける。

 

「本田さん、大丈夫? ぐれ兄が何かしたのか?」

「えっ? あ、いいえ……紫呉さんはきちんと付き添って下さいましたよ。少しだけ……ダイヤモンドダストも見えたような……」

 

 本田さんの発言の後半は意味がよく解らなかったけど、言いたい事は何となく伝わった。

 ぐれ兄と繭子先生は本田さんの前でぶっちゃけた話をする訳にはいかないから、冷気が吹き荒ぶような嫌味合戦をしたのだろう。やっぱり、綾兄に代理を頼めばよかったか。

 

「普通の三者面談にならなかったようだけど、本田さんの進路の話はちゃんとできた?」

「……はいっ。当初の希望通り、高校を無事に卒業して働きたいと話す事ができました」

 

 殊更柔らかく微笑む本田さんは、何かを押し隠しているようにも見えたけど。その何かが本田さんにとっての地雷である可能性もあったので、迂闊な事は言えない。

 

「それなら良かった。明日は僕と(きょう)の三者面談があるんだよな」

 

 ここ最近の慊人(あきと)は体調が良さそうだから、兄さんは予定通り学校に来てくれるだろう。

 

「あ、あの……っ。三者面談は自分の……自分の道を、自分の未来を考えるためにするものですから……ですから、建視(けんし)さん、がんばって下さい……」

 

 本田さんは別荘で慊人に直接告げられたから、物の怪憑き(僕たち)の未来が明るいものではない事を知っている。それでも諦めないで、自分の望む未来を勝ち取ってほしいと訴えているのだろう。

 

 ……望む未来か。

 海原高校に入学する前だったら兄さんと平穏に暮らしたいと即答できたのに、今は1つに絞りきれないほど望みがある。

 僕の未来には無数の選択肢があると思ってしまいそうになるけど、勘違いしてはいけない。

 敷かれたレールの上しか歩けない人生から外れたらどうなるか、先代の盃の付喪神憑きが証明している。

 

「ありがとう、本田さん」

 

 僕の陰鬱な気持ちを察したのか、本田さんの表情に一瞬翳りが生じた。

 けれど、本田さんはそれを吹き消すように顔をキリッと引き締め……たのだが、気合いが入りすぎて強張った面持ちになっている。

 

「わ、私も……がんばって出しゃばります……!!」

「え?」

「いっ、今のは、その、深い意味はなくてですね……。がんばってばかりでは疲れてしまうので、たまには一休みして皆さんと素麺を食べましょう……っ」

 

 急に話題転換されると深い意味があったんじゃと勘繰りたくなるけど、皆で素麺を食べるという提案に惹かれた。

 近日中にぐれ兄の家で素麺パーティーを開催しようと話し合ってから、僕は本田さんと別れたのだった。

 

 

 

「やっほー。はーさん、スーツ返しに来たよー」

 

 僕が帰宅してから程無くして、兄さんのスーツを着たぐれ兄が家にやってきた。兄さんはぐれ兄とサシで話がしたかったようで、僕は2人がいる客間から締め出されてしまう。

 30分ほど話し込んで家から出ていったぐれ兄は、兄さんのスーツを着たままだった。借りたスーツをクリーニングに出してから返せと、要求したのかと思ったのだが。

 

「あのスーツはもう着たくない。燃やして捨てろと言ってやった」

 

 吐き捨てるように言い切った兄さんは、不愉快をありありと顔に出していた。

 人を苛立たせる事にかけては天才的なぐれ兄は、兄さんの神経を逆撫でるような事を言ったのだろう。恩を仇で返すとは正にこの事。

 ぐれ兄が繭子先生に何を言ったのか気になったけど、兄さんに聞ける雰囲気じゃなかった。

 繭子先生にも聞かないでおこう。三者面談で忙しい担任に嫌な事を思い出させて、精神的負担を与えるような真似はしたくない。

 

 

 

▼△

 

 

 

 そして僕の三者面談の当日。慊人が急に高熱を出すといったアクシデントはなく、兄さんは面談開始時刻の10分前に海原高校に来てくれた。

 

「兄さん……普段と雰囲気が違うね」

「まだ残暑が厳しいから、暑苦しい見た目の装いを避けたんだ」

 

 そう答えた兄さんは、サックスブルーのワイシャツの上にライトグレーのシングルベストを着て、ベージュのネクタイを締め、ベストと共布のトラウザーズを穿き、ライトブラウンの革靴で足元を飾っている。

 かっちりとしたスーツ姿で本田さんの面談に臨んだ、ぐれ兄との共通点を少なくしようと考えたんじゃないかと思うのは穿ちすぎかな。

 

「きゃーっ! 建視君のお兄さん、めちゃくちゃカッコいい!!」

「結婚指輪をつけてないって事は、独身なの!? 私にもチャンスあるかな?」

「あんなにカッコいいんだもん、恋人ぐらいいるって」

「恋人がいても狙いたくなるよね~。繭ちゃん先生、惚れちゃったりしてー!!」

 

 兄さんを見て大騒ぎする女子生徒達の歓声を聞きながら、校内を進んでいると。

 

魚谷(うおたに)、てめぇ、上履きなんざ投げやがってムチャクチャ俺に当てる気だったろ?」

 

 先に面談を終えた夾が廊下で声を上げた。夾の隣には、和服を着た師範が佇んでいる。下校支度を終えた、魚谷さんと本田さんと花島(はなじま)さんの姿もあった。

 

「うっせぇ! 帰ンぞ!! おまえらン家に、今日は邪魔させてもらうからな!」

「うおちゃんとはなちゃんも、素麺パーティーに参加してくれる事になりました……っ!」

 

 本田さんの発言を聞いて僕が心の中でガッツポーズを取っていたら、兄さんと師範が挨拶を交わし始める。

 

「お久しぶりです、藉真(かずま)殿。いつも建視がお世話になっています」

「いえいえ。こちらこそ、道場で怪我人が出た時に診てもらって助かっていますよ。はとり君も元気そうで何よりです。これから建視の面談ですか?」

「はい。建視は学校で色々とやらかしているようなので、担任の先生としっかり話し合おうと思っています」

 

 うぅおっとぉ!? 兄さんから予想外の攻撃を受けたよ!?

 

「おやおや、建視はヤンチャですね。夾はすっかり大人しくなったようだが」

 

 穏やかに微笑んだ師匠の言葉を受け、中学時代は手が付けられないほど荒れていた夾は気まずそうにそっぽを向く。

 

「……こんな所で立ち話をしていたら、建視達が面談に遅れっぞ」

「それもそうか。では、私達はこれで」

 

 師範と夾が立ち去った頃合いを見計らって、本田さんが兄さんに挨拶をする。

 

「はとりさん、こんにちは……っ」

「こんにちは」

「……頑張れよ、リンゴ頭」

 

 何故か同情するような表情を浮かべた魚谷さんは、僕の肩をぽんと叩いて励ましてきた。三者面談を頑張れって意味だろうか。

 

「えと、建視さん……また後でお会いしましょうっ」

 

 本田さんも気遣わしげな面持ちだ。花島さんは普段と変わらない無表情で、「後でね……」と言ってくれたけど。

 僕は引っ掛かりを覚えながら、「面談が終わったらすぐ行くよ」と応じた。

 

 『面談中』と書かれた紙が貼られた戸をノックしてから開けて、進路指導室に入る。

 長机に着いて冊子を確認していた繭子先生は、僕と兄さんに気付くと一瞬表情が固まったけど、即座に余所行きの笑顔に切り替えて立ち上がる。

 

「この度はお忙しい中、ご足労いただきありがとうございます。担任の白木(しらき)です。短い時間ではありますが、建視君の進路や学習状況や学校での様子について、建視君本人も交えて話し合いたいと思っています。よろしくお願いします」

「建視は都合の悪い事は隠すから、担任も交えて一度きちんと話し合いたいと思っていた。この場を設けてくれた事に、感謝している」

 

 え?! なにこの空々しい雰囲気。

 

 兄さんと繭子先生が、初めて会った人同士みたいに振る舞っている事にツッコミを入れたいけど、僕を吊し上げる話し合いが始まりそうな予感がするから、下手な発言ができない。

 消化器を持ち出そうとした事が俎上に載せられるのか。それとも春のタトゥーの言い訳に使ったヒイロイッペー教か。もしくは夾のトラウマ捏造か。あるいは全部か。

 内心で冷や汗ダラダラ流す僕をよそに、繭子先生は「どうぞお掛けください」と勧めてくる。僕と兄さんは、用意されたパイプ椅子に腰掛けた。

 

「じゃあ、始めようか」

 

 普段の口調に戻った繭子だが、笑顔は未だに余所行きモードだ。

 兄さんと繭子先生はたまに2人で会っているみたいだから、砕けた感じで話をしたかったのに。

 僕の不満を読み取ったのか、繭子先生は笑みを深めた。繭子大先生様から、「面談に関係ない事言うなよ」という、無言の圧が伝わってくる……。

 

「建視君は就職希望だったな」

「はい。草摩の当主の側近になる事が内定しています」

「……本当に進学はいいのか?」

 

 真剣な面持ちで問いかける繭子先生は、おそらく兄さんから聞いて知っているのだろう。草摩の上層部は、僕の希望を一切聞き入れない事を。

 隣に座る兄さんの気遣わしげな視線を感じながら、僕は笑って答える。

 

「はい。決定事項ですから」

「決めたのは建視君じゃないだろ。今は建視君の希望を聞いているんだけどな」

「俺も建視の希望を聞きたい」

 

 僕が進学したいと言ったら、兄さんは慊人に土下座してでも頼み込むだろう。

 兄さんは草摩の主治医以外の道を選ぶ事を許されなかったのに、兄さんに迷惑かけてばかりな僕のためにそこまでしなくていい。

 

「慊人の側近になって草摩家の中で確固たる地位を築く事が、僕の希望というか目標だよ」

 

 僕の強がりを察したのか、兄さんは悲しそうに眉尻を下げた。なけなしの良心がチクチクするから、その顔はやめてお願い!

 

「まぁ、まだ時間はある。様々な事にチャレンジして経験を積めば、考えが変わるかもしれない」

 

 話を変えてくれた繭子先生から、後光が差しているように見える。

 

「それと……教師を騙すような真似はもうするなよ?」

 

 繭子先生はキラキラとした笑顔で、がっつり釘を刺してきた。

 悲哀を帯びた表情を一変させた兄さんは、厳しい視線を僕に送ってくる。夏休み中に1時間も説教したのに……いえ、なんでもありません。ごめんなさい。もうしません。

 

 

 

 三者面談が終わった後、僕は兄さんが運転する車に乗ってぐれ兄の家に向かう。

 兄さんも素麺パーティーに参加しようよと声をかけたら、兄さんは「悪いが、しばらく紫呉の顔は見たくない」と答えた。ぐれ兄、兄さんに何を言ったんだよ……。

 そんなやり取りを経て、ぐれ兄の家に到着。

 

「建視さん、いらっしゃいですっ」

「リンゴ頭も来た事だし、素麺をゆでっか」

 

 出迎えてくれた本田さんと魚谷さんに、「三者面談、頑張ったよ」と報告した。

 本田さんは嬉しそうに笑いながら「お疲れ様です……っ」と労ってくれたけど、魚谷さんは残念なものを見るような視線を僕に投げかけてくる。

 

「三者面談を頑張れって言ったンじゃねぇよ」

「じゃあ、なにを頑張れって?」

 

 なにやら考え込んだ魚谷さんは、「明日、学校で話すわ」と告げて台所へと足を向けた。

 ここでは言えない事なのかな。僕がモヤモヤした気持ちを抱えたまま台所に向かうと、木箱入りの素麺を持った紅葉(もみじ)がはしゃぎながら提案する。

 

「ねぇねぇ、ナガシそうめんにしようよっ!」

「今日は流し台を用意してないから無理だ」

 

 僕が即座に却下すると、紅葉は良い事を思いついたとばかりに茶色の目を輝かせる。

 

「じゃあ、ボクたちでナガシダイを作ろーよっ! あれって竹があれば作れるでしょ。シーちゃんの家のまわりには竹があるよねっ」

「俺達だけで作るとなると大変だと思うよ。竹って固いし」

「それに、紅葉がまた変なモンを流すかもしんねぇからな。却下だ」

 

 由希と夾も反対派に回ると、紅葉は涙ぐんで「そんなぁ〜っ」と落胆をあらわにした。見かねた本田さんが、「それでは……」と代案を出す。

 

「温かいつけ麺にするというのは、いかがですか? 流し素麺のような面白さは無いかもしれませんが、炒めたお肉や野菜を入れた温かいつけ汁でいただくのも、また一味違うかもですよ!」

「肉……いいね」

「つけ汁に入れるのは豚肉がいいわ……豚肉に含まれるビタミンBは疲労回復の効果があるから、夏バテ対策には最適よ……」

 

 春と花島さんが真っ先に賛成し、紅葉は機嫌を直して「ツケメン食べたいー!」と言ったので、危険要素が多い流し素麺は回避された。

 

 つけ汁を作るのに必要な食材がなかったので、由希と春がスーパーに買いに行く。そのあいだ、僕と紅葉と夾は会場設営をする。

 居間の座卓は9人で使うにはスペースが足りないので、物置にしまわれていた予備の座卓を持ってきてそれを綺麗にしてから、居間にあった座卓とくっつける。2つの座卓の高さが違うけど、物を置く場所に気を付ければ大丈夫だろ。

 台所では本田さんと花島さんと魚谷さんが、素麺をゆでたりデザートのフルーツポンチを作ったりしている。

 

「ただいま……」

「あっ、お帰りなさいです、潑春(はつはる)さんっ」

「ハル、おかえりーっ」

「お帰り。由希は一緒じゃないのか?」

 

 僕が問いかけると、スーパーの袋を持って廊下に立っていた春は少し間を置いてから答える。

 

「……由希は畑に寄ってる」

「意外だな。春も一緒に畑に行かなかったのか?」

「2人の愛の巣にお邪魔するほど、ヤボじゃないよ……」

 

 春が紛らわしい言い方をしたから混乱したけど、由希の畑は本田さんしか立ち入れないという意味らしい。

 程無くして、薬味の野菜を畑から収穫してきた由希が帰ってきた。

 

「ただいま」

「お帰りなさいです、由希君っ」

「ごめん、遅くなっちゃったね」

「いいえー。フルーツポンチに入れる白玉団子を作っていたトコロなので、ちょうど良いタイミングです!」

 

 最初に作った白玉団子は、花島さんが味見と称してほとんど食べてしまったらしい。花島さん、お団子に目がないからね。

 素麺パーティーの支度があらかた整った頃合いを見計らったように、ぐれ兄が書斎兼仕事場から出てくる。

 

「なんだか賑やかだねぇ。僕も仲間にい〜れて」

「紫呉……何も手伝わずに、美味しいとこ取りしようとするな」

「ぐれ兄に手伝わせると台無しになりそうだから、放っておけよ」

「くっすん……由希君とけーくんが冷たい……っ!」

 

 泣き真似をしたぐれ兄は被害者ぶっているけど、ぐれ兄が夏休みの間にやらかした数々の所業は、僕の閻魔帳にがっつり書き込まれているからな。

 素麺が盛られた大皿と薬味が盛られた小皿、お椀や箸やグラスなどが置かれた2つの座卓に皆が着席してから、「いただきまーす!」と声を揃えて挨拶する。

 

「つけ汁のお代わりが欲しい方は、いつでもお声がけ下さいねっ」

「お代わり……肉多めで……」

「私も……肉たっぷりで…」

「春も花島も、他のやつの取り分を考えろよ」

「俺がお代わりを受け持つから、本田さんも食べなよ」

「ボクがトールの分のそうめんを取ってあげるーっ」

「けーくん、つけ汁にチョコレートを入れなくていいのかい?」

「つけ汁にチョコレートを入れるなんて、リンゴ頭の味覚はおかしいんじゃねぇか?」

「魚谷さん、これには深い事情があるんだ。このつけ汁はこれで完成しているから、余計なものは入れないよ」

 

 素麺パーティーは終始にぎやかで楽しくて、将来の事を考えて暗くなっていた気持ちを軽くしてくれた。

 

 

 

 その翌日、魚谷さんに呼び出されて体育館裏へと向かった。体育館裏にヤンキーという組み合わせは、恐喝を連想してしまう。

 

「リンゴ頭に話すべきかどうか迷ったんだが、話のついでにこの話題が出たらショックがデカイだろうと思ったから、一応言っとく」

「……僕がショックを受ける話題って何?」

「花島が、きょんの親父さんに一目惚れした」

 

 

 ◎※△卍惚レ驚☆↑↓$終%♯〜!?!?

 

 

「え……待って、ちょっと待って。夾の父親って……三者面談に来た方の?」

「そっ。和服を着た年齢不詳の美形な」

「師範は40歳近いんだよ!? 花島さんとは歳が離れすぎているんじゃないかな?」

 

 僕が現実的な意見を出すと、魚谷さんは「そっかー? 年の差なんて恋愛にあんま関係ないと思うけどな」と言った。

 

「今は関係なくても、結婚して10年20年経ったら意識せざるを得なくなるって」

「まだ付き合ってもいねぇのに、結婚を意識するとか先走りすぎだろ」

 

 呆れ顔になった魚谷さんの指摘を受け、僕は「確かにそうだけど」と言葉を続ける。

 

「師範は……夾の親父さんは、草摩家でも指折りの人格者なんだよ。僕が師範に勝てる処といったら、若さと正確な味覚しかない……っ」

「まぁ、なんだ。花島はまだ片思いだから、ガンバレ」

 

 そんな他人事みたいに。でも魚谷さんは、付き合いの長い花島さんの恋を応援するか。

 じゃあ、僕は? 花島さんの友達なら、彼女と師範の仲を取り持ってあげるべきだけど……無理だ。

 師範は味オンチで不器用なところ以外は理想的な男だけど、花島さんと結ばれてほしいとは思えない。

 

 ここまで至ってしまったら認めるしかない。僕は花島さんの事が好きだ。

 

 似たような精神感応系の力を持つ同志としてではなく、仲のいい友達としてでもなく。異性として特別に想っている。

 自分の気持ちに薄々気付いていたのに二の足を踏んでいたせいで、自覚するのが遅すぎた。いま告白しても、花島さんに振られる可能性が高い。

 時を戻す術があったなら、過去の自分を説得しに行きたい……っ。

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