「これから意見箱に入っていた提案を書き出しますので、文化祭に相応しい企画を皆さんも一緒に考えて下さい」
文化祭企画会議の議長を務める
風紀委員長の僕も会議に参加していた。文化祭の企画を決める話し合いに、風紀委員は関係ないじゃんと思うけど。
風紀委員は文化祭の最中に校内巡回をしなきゃいけないから、打ち合わせ段階から顔を出す必要があるらしい。
「全校生徒参加型のフォークダンス、子供の来場者向けのキャラクターショー、ミス海原コンテスト、ミスター海原コンテスト、スタンプラリー、我が校の王子を崇め讃える集い……っ」
意見箱に入れられた提案を
我が校の王子を崇め讃える集いって、プリ・ユキのメンバーが考えた案だろ。もしくは
当の王子様こと由希は、「この学校に王子なんかいたっけ?」と言いたげな怪訝そうな表情を浮かべている。
ナベがここにいれば、「我が校の姫の間違いじゃね?」とか言ったかもしれないが、ナベは欠席している。
会議を始める前に由希が、「生徒会副会長の
桜木君は思いきり顔をしかめていたから、ナベは会議をサボったんじゃないかと睨んでいる。
倉伎さんは体調を崩したのかもしれない。……僕に会いたくないから、会議に出なかったって事はないよね?
体調を崩したといえば、リン姉は先日再入院した。衰弱や胃潰瘍の併発など、体のあちこちにガタがきていたようなので入院は長引くらしい。
ぐれ兄からリン姉の病状を聞いた春がお見舞いに行ったら、
おかげで男の面会客は、リン姉の病室に入れてもらえなくなってしまった。
それでも1つ、良かった事がある。お見舞いに行った春が、「リンが元気そうで安心した」と言った事だ。
呪いを解く方法が見つからないせいで、リン姉は身体的にも精神的にも追い詰められてしまっていたけど。春が「元気そう」と言ったのなら、午憑きの従姉の心に少し余裕ができたのだろう。
兄さんから聞いた話だと、リン姉は
「キャンプファイヤー……っ、打ち上げ花火100連発……っ、校舎のライトアップ……っ」
実現性の低い提案が立て続けに出たせいか、それを読み上げる桜木君が青筋を立てて怒っている。
校舎のライトアップは僕の提案だ。
僕の本命の子供向けキャラクターショーの提案は通ったので、良しとしよう。
▼△
「では、これからシンデレラの配役を決めたいと思いまーす。投票で決めるから、配った用紙の役名の下に相応しい人の名前を書いて下さいねー。自薦・他薦は問いませーん」
クラス委員長の由希は生徒会の方に顔を出していて不在のため、副委員長の
劇の主役となるシンデレラに、誰を推薦するべきか。僕は考えに考えた末、配役の投票用紙に
最初に浮かんだのは本田さんだけど、ハマリ役すぎてちょっとどうかと思ったんだ。
花島さんはシンデレラというキャラじゃないけど、男子に密かに人気があるから選ばれるかもしれない。
投票用紙は後ろの席から集められて、高橋さんと有志数人が協力して集計している。集計の真っ最中に、由希が教室にやってきた。
「ごめん……っ、遅れたね……っ」
「由希君、おつかれさま~♡」
プリ・ユキの2年代表の
「ホントだったら王子役は由希君に決定だったのに、断られて残念~っ」
続いて由希に声をかけた
「今からでもOKしない~?」
同じくプリ・ユキのメンバーの
「さすがにやる事多すぎて、対処しきれないと言うか……俺が王子なんてハマってないよ」
苦笑した由希がそう言った瞬間、クラスの女子の大半がギラリと目を光らせる。そんなこたぁないですよ!! という彼女達の心の声が聞こえた気がした。
おっ。集計が終わったみたいだ。遅れたお詫びか、由希が集計結果を黒板に書き出している。
シンデレラ 花島咲
王子 草摩夾
国王 草摩建視
継母 木之下南
継姉 本田透
魔法使い 草摩由希
「一応メインキャストのみ、これで決定とさせて頂きまーす。他の配役、大道具等は改めて決めたいと思いまーす」
「ちょっと待て!!!」
勢いよく立ち上がって叫んだ
「いーじゃん、いーじゃん、きょん王子」
「けっこうサマになるかもよ、きょん王子。あははー」
ろっしーとすけっちが、生温かい笑みを浮かべて励ました。
「あははじゃねーよ!! そもそも、俺に演技なんてモンができると思ってんのか!?」
「笑いがとれそうじゃん」
「この話に“笑い”は必要ねーだろが!! それぐらいはわかってんだぞ!!」
「夾は女の子向けの童話に詳しくないから知らないだろうけど、シンデレラの物語には世襲君主制に異論を唱える風刺が隠されているんだ。それを権力者に知られないようにするため、シンデレラの物語はコメディ要素が含まれた喜劇になったという背景があるんだよ」
僕が喉から手が出るほど欲しい花島さんの相手役を掴み取ったくせに、全力で嫌がる夾がムカついたから嘘を教えた。
「そ……うなのか?」
信じた。夾は単純だなと思っていたら、由希がクズを見るような目を僕に向けてきた。
一方、本田さんは感涙で目を潤ませながら夾に声をかけている。
「夾君……っ。
「教えんなよ、ぜってー教えんなよ。建視もだ。師匠にチクったら殺すぞ」
「わかったわかった、師範には言わないよ」
師範の弟子兼秘書のみつ先輩には言うけど。本田さんの親友の花島さんが、
それにしても本田さんが意地悪な継姉役なんて、どう考えてもミスキャストだ。大方プリ・ユキのメンバーが嫌がらせで、組織票を入れたんだろう。
意地悪な継母役に木之下さんが選ばれた事は、自業自得としか言いようがない。
キン・ケンのメンバーは、嫌がらせの組織票に関与していないよな?
うちのクラスにいるキン・ケンのメンバーに視線で問いかけると、彼女達は慌てて首を左右に振って関与を否定した。ならば良し。
「落ち着いてよく考えろや、こんな配役ミスだらけの……主役が花島って時点で、すでに間違ってんだよ!!」
夾が花島さんを指差して、暴言を吐いた。
それを聞いた瞬間、僕の口から笑い声が溢れる。人は怒りすぎると笑ってしまうって聞いた事があるけど、本当だったよ。
「夾がシンデレラの劇をそんなに完璧にやりたいなら、ぐれ兄の家で仮稽古をしよう。シンデレラ役は……そうだな、綾兄に頼むか。綾兄は高校時代に『ロミオとジュリエット』のジュリエットを演じた事があるらしいから、問題なく女役を演じられるよ」
夾に振られた
ろっしーやすけっちは恐れをなしたように、「魔王降臨……っ!」とか言っている。
「……お手柔らかに……王子様……」
夾に呼びかけた花島さんは、邪悪な薄笑いを浮かべた。それを見た野郎どもがゴクリと喉を鳴らす。
花島さんが演じるシンデレラは、従来のイメージとは正反対のキャラになりそうだ。ドレスは水色じゃなくて、漆黒を希望する!
▼△
文化祭の企画が決まって徐々にお祭りムードが校内に広がっているけど、中間テストがあるから浮かれてはいけない。
クラスの劇で主役を演じる花島さんが追試の補講を受ける事になると、花島さんだけでなくクラス全員が困るので、僕はより綿密な勉強計画を立てた。
「頑張って中間テストをパスしようね」
「
無気力を標準装備している花島さんの口から、気合という熱血単語が出てくるなんて……。
魂が抜けた僕に、
傷口に塩を塗りこまないで。僕も楽羅姉に似たような事言っちゃったけど。楽羅姉、ホントごめん。
僕のメンタル面はボロボロだったけど、中間テストはどうにか乗り切ったよ。
廊下に貼り出された今回の中間テストの成績上位者リストを見たら、なんとビックリ。僕は中学時代も合わせて初めて、完璧超人の由希を抜いて首位に立っていた。
「けんけん、すげーっ!」
「
褒め称えてくる男友達やキン・ケンのメンバーに、僕は愛想笑いで応じた。
小さい頃の僕だったら、十二支の頂点に座す
中間テストで1位になった事より、花島さんが赤点を取らなかった事の方が嬉しいな。前回より良い点数を取れたみたいだけど、何が彼女をやる気にさせたのか……うっ、頭が……。
ええと、なんだっけ。ああ、そうだ。本田さんも由希に勉強を教えてもらって頑張っていたみたいだから、無事にパスしていたよ。
「やぁやぁ、さ迷いきっている小羊達よ! ボクは来たよ!!」
「来たっスー」
文化祭の準備が本格的に始まったある日のホームルームの最中に、綾兄と
「きゃーっ!! 由希君のお兄さんにまた会えるなんて!」
「なんでメイドさんが
「時は金なりっ。さくさく整列しつつ、ボクの前で総てをさらけ出したまえっ。特に体のサイズをねっ」
綾兄が破廉恥な意味合いを込めて言った訳じゃない事は解るけど、通報されかねない発言は控えてほしい。
「学校は関係者以外、立ち入り禁止なんだけど」
以前の由希なら問答無用で「出て行け!」と言い渡しただろうけど、ナベと親しくなった事で自分とはかけ離れた存在とのコミュニケーション力が育まれたらしい。
「案ずる事はない……愛しあうボクらの前に立ち塞がる壁など、ヒョイとくぐって侵入するのみ……」
由希の顎を指先でクイッと持ち上げた綾兄は、腐った女子達が喜びそうな発言をしている。それはそうと、どうやって壁をくぐるんだ。
「やほー、テンチョの弟君と従弟君っ。校長センセの許可なら、ちゃんともらったよーっ」
丸眼鏡と太めのおさげがチャーミングな美音さんに手を振り返しながら、僕は疑問を抱いた。
美音さんがお召しになっていらっしゃるゴシックナース風のメイド服は素敵だけど、普通の社会人らしい装いかと聞かれたら否と答えざるを得ない。
なんで許可が出たんだろう。もしや、校長先生はメイドマニアだったのか?! なーんて、ね。
校長先生は
「さぁ、由希、神妙に計られたまえっ。ゴージャスかつスレンダーな王子にしてみせようっ」
綾兄はそう言いながら、採寸用のメジャーを取り出した。
「違うよ。王子役は俺じゃなくて、逃げようとしている夾」
「キョン吉がねぇ……そうかい、そうかい、ふぅ~ん、わかったよ。ゴージャスかつスレンダーに、してやらないコトもないがねっ」
はっと鼻で笑った綾兄は、やる気が失せたと示すようにメジャーをぽいと投げ捨てた。
「綾兄。仕事で来たなら、ちゃんとやってよ」
僕が注意すると、綾兄はメジャーを拾いながら「わかっているさっ」と答える。
「ところで、ケンシロウは何の役をやるんだいっ?」
「国王だよ」
「真の王族であるボクを差し置いて、王になるなど生意気なっ! コンソメスープで顔を洗って出直してきたまえっ!」
綾兄の意味不明な発言を聞いて、由希が「味噌汁で顔を洗ってじゃないの?」とツッコミを入れた。綾兄が真の王族である事は認めたのか……って、それどころじゃない。
「うふ……っ、うふうふふ。お着替え……っ。お着替えは好きデスカ……!?」
「あっ。美音さん、お気を確かにっ」
慌てる本田さんを見かねてか、魚谷さんと花島さんが美音さんに挨拶した。
あ、まずい……。元ヤンだけどモデル並みの容姿の魚谷さんと、神秘的な美貌を誇る花島さんを前にして、美音さんが平静でいられる訳がない。
「わーおっ。これまた初めまして。お着替えは好きデスカ!?」
興奮した美音さんの頬は紅潮して、丸眼鏡がきらーんと光っていた。
言動が怪しい美音さんを前にして、魚谷さんは怪訝そうに「は?」と声を発する。本田さんがうろたえながら、「あ、あのっ」と間を取り持とうとしていた。
「あたし、今回みんなの衣装を作らせてもらうんだよっ」
「え、そーなんスか?」
良かった。普通に会話が成り立っている。
「まぁ……ドレスは是非、純黒で……」
花島さんの申し出を聞いたクラスの女子達は遠い目になったが、美音さんは満面の笑みで受けている。
「純黒……純黒かぁ……いい響きっスねぇ……オッケー……」
純白という言葉は聞くけど、純黒って初めて聞いたよ。花島さんらしくて良いよね。紅葉にうちのクラスの劇の撮影を頼んでおこう。
▼△
「ちょっとシンデレラ! さっさとドレスを仕上げてちょーだいっ。お城で開かれる舞踏会は、もう明日なのよっ。まぁったく、ウスノロなんだから……っ」
意地悪な木之下さんが、か弱い花島さんをいじめている……というのは冗談で。ただいま、シンデレラの劇の練習真っ最中だ。
「可愛い私の娘よ、おまえからも何とか言っておあげっ」
「はい……っ。はっ、早く仕上げてしまわれなっ、ないと……ゆっ、夕飯……っ、夕飯を……ぬ……っ、ぬかざるをえません……っ」
食べる事が大好きな花島さんに飯抜きの罰を言い渡すのは、演技でも辛いのか。両手を床について項垂れた本田さんは、涙声で台詞を読み上げる。
台本に書いてある継姉の台詞は、「早く仕上げないと夕飯を抜くわよ、この役立たず!」なんだけど、本田さんが罵声を飛ばすなんて無理だろう。
「嬉しい……私の為に泣いてくれるのね……」
「なに抱きしめてんねーん!!!」
関西人風のツッコミを入れた木之下さんは、苛立ちに任せて文句を言う。
「
「は……はいっ」
「じゃあ、イジメろ、イジメぬけ、再起不能になるまでいたぶれ!!」
木之下さんが過激な演技指導をすると、出番待ちをしていた魚谷さんが「うるせぇ女だな」と呟いた。
ちなみに魚谷さんの役は、きょん王子の友人ポジションとなる隣国の王子だ。
そう! 国王は、シンデレラときょん王子の恋愛結婚に反対する悪役なのだ。花島さんと敵対するのは嫌だけど、シンデレラの引き立て役になるために頑張るぞ!
「すごいなぁ、木之下さん……熱入っているね」
教室にやってきた由希が爽やかに笑いながら、木之下さんに大ダメージを与える称賛の言葉を放った。皮肉とか仕返しとか、一切含んでないからな。天然こっわ。
「いやぁぁっ! 見ないでぇ、由希くぅぅんっ!」
悲劇のヒロインっぽく涙を流した木之下さんは、教室から走り去る。乙女心がズタズタになった木之下さんが回復するまで、劇の練習は一旦中止になった。
「すみません……私……御迷惑ばかり……っ」
「ンな事ないって、がんばっているって。ある意味、キャラ立ってるし」
涙ぐんで謝罪する本田さんに、魚谷さんが慰めの言葉をかけている。キャラ立ってると聞いて、僕はぴこーんと閃いた。
「ねぇ、
脚本係になった文芸部員の須栗さんは、僕の意見を聞くなり持っていた台本を豪快に破る。
「その手があったか……っ! 建視君、ありがとう!」
「話を変えていいんか?」
魚谷さんが疑問を口に出すと、須栗さんは原稿用紙を取り出しながら「いいのよ」と答えた。
水戸黄門をやるクラスは、“黄門様もスケさんもカクさんも、実は女だった”という設定で、悪を相手に大立ち回りをやる内容に変えたらしい。
衝撃を受けた魚谷さんが言ったように、和製チャーリーズ・エンジェルといった感じの話になっているようだ。見てみたい。
「つまり、おギンさん以外にもお風呂シーンがあるという事デスカ!? みっ、みのがせねえっ」
くわっと目を見開いたろっしーが欲望を口走ると、由希が「
「夢の無い事言うなよ、生徒会長。水着を着用した上での水浴びシーンならOKだろ」
僕が妥協案を述べると、冷ややかな目付きになった由希は「水着も駄目に決まってるだろ」と却下した。
「え゛ぇぇ、そんなぁ。たたかってよ、生徒会長ォ」
我が盟友のろっしーが頼み込むと、由希は困り顔で「水着のために……?」と呟いた。おうおう、僕とろっしーで対応が随分違うじゃないか。由希は内弁慶だな。
僕達が水浴びシーンを巡って交渉する一方で、台本を新たに書こうとしていた須栗さんに、本田さんが「あの……」と話しかけている。
「書き直されるのでしたらば、少し……王子様の雰囲気も変えてみるのは如何でしょう……? えと……夾君が演じやすいような……王子様に。そうしましたら、夾君……練習にも参加して下さる……かも」
腕まくりをした須栗さんは、「あ゛ー、そうねぇ」と言いながら頷いた。夾不在の席を見遣ったろっしーは、「キョンキョン、またどっか逃げちゃったもんねぇ」と苦笑いする。
「あいつの演技もみてぇのになあ」
魚谷さんの言葉に、僕とろっしーは同時に頷いてから言う。
「「「腹抱えて笑えそうなのに……」」」
「それが嫌で、逃げてるって話もあるんじゃないかなぁ」
乾いた笑みを浮かべた由希がツッコミを入れた時、本田さんが「あの、私……っ、捜……」と言いかけた。
「……生徒会に戻るから、ついでに捜してくるよ」
由希は本田さんの肩を軽く叩いて、そう告げた。それを聞いた僕は思う処があったので、廊下に出た由希の肩を掴んで待ったをかける。
「僕が夾を捜してくるよ」
「じゃあ、手分けして捜そう」
1つ屋根の下で暮らしているのに、由希は夾の態度の変化に気付いてないのか?
「ここ最近、夾は由希を露骨に避けているだろ。由希が捜しに行くと、夾は躍起になって逃げるんじゃないか?」
「いつまでも逃げていられないだろ。そろそろ、あいつにもしっかりしてもらわなくちゃ」
は? 今まで夾がどうなろうと知ったこっちゃないってスタンスを取っていたくせに、なんで急に兄貴ヅラするんだよ。
「……夾の精神面を鍛えた上で、逃げられないと思い知らせるのか? 随分とまぁ、残酷な事をするんだな」
僕の刺々しい口調から猫憑きの行く末を示している事を察したのか、由希の表情が一瞬凍った。
気持ちをリセットするように両目を閉じた由希は瞼をゆっくりと持ち上げ、迷いのない透き通った眼差しを向けてくる。
「夾は倖せになれないと決まった訳じゃない」
「猫憑きが幽閉される事は、草摩家の総意による決定事項だ。由希が
「最初からできないと決めつけて何もしないのは、現実逃避だよ」
……いいよな、リスクを背負っていないやつは。好き放題言えて。
「ご高説わざわざどうも。もっと早い段階で言ってくれたら心に響いたかもしれないけど、今さら言われてもね」
今になって夾の待遇を変えようとしても、夾を迫害した過去が帳消しになる訳じゃない。失意のうちに亡くなった
「そう、“今さら”だ……どう言い繕っても。だからこそ、もっとシンプルに考えよう。倖せになるために、何をすべきか」
――僕が倖せになるのは難しいと思うけど……努力をしてみるから、兄さんもそうして。
正月に兄さんと交わした会話を思い出したせいか、後ろめたさを感じてしまった。同時に屈辱を覚える。言葉の応酬では由希に負けた事はなかったのに。
返す言葉がなくなった僕をしばらく無言で見つめてから、由希は離れていった。……やっぱり僕は、由希が嫌いだ。そう再認識した。
由希とのやり取りのせいで夾に会うのが気まずいから、猫憑きの従弟を捜しに行けない。僕は深呼吸して気分を切り替えてから、教室に戻った。
今回出てきたプリ・ユキの岩田舞とチエは、アニメで名前が判明したので登場してもらいました。
副委員長と脚本係の女子生徒の名前は、独自設定です。