「会場の盛り上がりとは対照的にテンションが下がっていく王子でしたが、満を持してシンデレラがやってきました」
ろっしーのナレーションと同時に、純黒のドレスに身を包んだ
「ここが舞踏会場……」
観客がどよめく。シンデレラが喪服のようなドレスを着ている事に、驚いた人が多そうだ。
着飾った花島さんはとっても綺麗だけど、ドレスの背中が大きく開いている事がちょっと気になる。
「うわぁ……っ。お母様、見て下さい。綺麗でステキな方ですねっ」
「黒っ……くっろー!!」
観客の心の声を代弁するように、
「おいおい、上玉の登場じゃーん。誘ってこいや」
「それでは、僕が手本を見せてやろう」
僕は台本通りのセリフを言いながら夾に王笏を託し、テーブルの近くにいる花島さんに近寄る。
「美しいお嬢さん。どうかダンスのお相手を」
僕が右手を差し出して誘うと、花島さんはこちらを見ずに「取り込み中……」と答えた。
割り箸と取り皿を持った花島さんの視線は、ホットプレートの上でじゅうじゅう焼ける牛肉に釘付けだ。
「国王である僕とのダンスより、食事を優先するとは……貴女のように大胆不敵で無欲な令嬢は、今まで会った事がない。貴女が僕の側にいてくれれば、僕は王ではなく1人の男になれるだろう。貴女を我が妃として迎え入れたい」
僕がセリフを言い切った瞬間、観客席から女の子達の「いやーっ!」という悲鳴が響いた。ステージにいるドレス姿のキン・ケンのメンバーも、この世の終わりのように項垂れている。
いや、あのね。これ、劇だからね。その証拠に、花島さんは普段通りの無表情だよ。
実際に僕が結婚を申し込んだとしても、彼女は無表情でいる可能性が高いけど、それについては考えない。
「息子である王子のお嫁さん捜しの舞踏会で、国王がまさかのプロポーズ! 実はこの国王、10年以上前に正妃を喪ってから、後添えを迎えず独身を貫いていました。国王に見初められたシンデレラは、どのような返事をするのでしょうか!?」
シンデレラが年の離れた国王の側室になるという、乙女の夢を打ち砕く展開を否定するため、ろっしーが国王の
「でも……こんなに大きい子供を持つのは、不安だわ……」
夾をちらりと見遣った花島さんは、演技じゃなくて本音を口にしているように思える。花島さんの不安は解消してあげたいけど、この問題に関しては力になってあげられない。
「王子は既に結婚を許されている年齢だから、貴女に迷惑はかけないよ」
「それじゃ試しに……ママって呼んでもいいのよ……?」
花島さんから毒々しさを感じる微笑みを向けられ、夾は顔色が悪くなっていた。花島さんが師匠に恋焦がれている事を思い出して、危機感を覚えたのだろう。
「王子はシンデレラの事をママと呼べませんでした。何故なら王子は、シンデレラの美しさに一目で恋に落ちたからです」
ろっしーがナレーションを入れると、夾が即座に「落ちてねぇよ!!」と否定する。
「王子は父である国王にシンデレラを奪われまいと、ダンスの誘いをするのでした」
「なんでだよっ」
「ダンスの誘いをしないと、愛しのシンデレラをママと呼ぶ事になりますよ」
ろっしーにそう告げられた夾は、悲愴な覚悟を決めた面持ちになって花島さんに近寄る。
「俺と……踊れ!!!」
命令口調で誘いをかけた夾は、喧嘩を挑むように拳を掲げた。
夾は王子様っぽい演技が求められていないとはいえ、これは酷い。花島さんが「ハッ」と鼻で笑うのも当然だ。
「おお王子よ、断られてしまうとは情けない」
「てめぇも断られていただろうが!」
「再チャレンジです、王子」
「
「うっせぇなぁ、さっさと行けよっ」
魚谷さんにせっつかれた夾が再び花島さんの処へ行こうとした時、ゴーンと夜中の12時を告げる鐘の音が響いた。
夾は助かったとばかりに小さくガッツポーズを取っているが、劇はまだ終わってないぞ。
「あら……大変……私はもう帰らなくては……」
そう言いながら花島さんは、履いていたビニール素材のパンプスを脱いでテーブルの上に載せ、使っていた割り箸をパンプスの中に入れた。
「じゃあ……確かに置いていったわよ……」
「……俺が言うのもなんだが、情緒無ぇなオイ……」
夾の脱力した呟きと同時に、ステージを照らしていたボーダーライトが消えた。出番を終えた僕と招待客役の生徒達は退場して、入れ替わりに裏方の生徒達がテーブルを素早く片付ける。
「12時の鐘が鳴り終えると魔法が解けてしまうシンデレラは、身の裂ける想いを胸に城から立ち去りました」
「もう少し食べたかった……肉……」
スポットライトに照らされた花島さんは、本音が混じっていそうなセリフを言いつつ退場した。お次はステージに残っていた、夾と魚谷さんにスポットライトが当てられる。
「国王より先に、彼女のガラスの靴を手に入れてやったぞ。コレを手がかりに、捜しに行けよ」
「そのクツを壊しちまえば、手がかりは無くなるって事だな。よし、今すぐ壊しt」
魚谷さんは持っていたビニール素材のパンプス――もといガラスの靴のヒール部分で、夾の顔面を殴りつけた。夾が尻餅をついたから、本気で殴ったっぽい。
「せっかく会えるチャンスが手元にあんのに、ムダにするってか!! それで、男の看板背負ってるつもりか?」
「おい……」
「そんなんじゃ会いたくても会えない奴は、どーすりゃいい!! 会いたいのに、会いたいのに……っ、会いに来いコラー!!!」
両手を振り上げた魚谷さんの雄叫びには、
台本にはないセリフだけど、
「
衣装係の女の子に急かされて、舞台袖から魚谷さんの様子を窺っていた本田さんは「は、はい……っ」と返事をして、衝立の方に向かった。
「友人王子の少し私情入った説得に、王子も今度は揺れ動かされました。そう……大切な事に気がつくのです。ああ、もう1度あの
ろっしーは王子の心情を代弁するように、情感を込めて後半のセリフを言ったけど。
ステージにいる夾は、もう1度会いたいなんて言ってねぇよと言わんばかりの顔をしている。
「それから王子は、街中の娘達にガラスの靴を履かせまくります。ガチンコでサイズの合った
ろっしーがナレーションを入れている間、裏方の生徒達が薄暗いステージで舞台転換の作業に取り掛かっていた。大広間の背景やビロードの垂れ幕を撤去して、シンデレラの家の客間の背景を設置している。
「本田さん、まだなのっ?」
着替え終わった木之下さんが焦りと苛立ちを込めて呼び掛けると、本田さんは「あ、あと少しです」と答えた。
「そして遂に、シンデレラの家に辿り着きました」
ろっしーのナレーションと同時に、ボーダーライトが光を放つ。
町娘風のドレスに大急ぎで着替えた本田さんは息切れしながらも、木之下さんと一緒にステージへと向かう。
彼女たちに続いて、ガラスの靴を乗せたビロードのクッションを片手で持つ従者役のすけっちと、ふて腐れた面持ちの夾がステージに登場する。
「突然お邪魔して申し訳ありません。我が国の王子が、このガラスの靴の持ち主を捜しているのです。ご協力お願いします」
「捜してねぇっての」
嫌そうな顔で否定する夾に、すけっちは苦笑を浮かべて応じる。
「王子ィ、真面目に捜した方がいいですよ。でないと王様が先に漆黒の君を見つけ出して、正妃として迎え入れちゃいますよ」
「なんだよ、漆黒の君って……」
「またまた、王子ったら惚けちゃって。漆黒のドレスを着た、王子の想い人の事ですよ」
「想い人じゃねぇ!!」
必死な形相で怒鳴った夾を無視して、すけっちが本田さんに問いかける。
「このガラスの靴は貴女のものですか?」
「あ、あの、すみません……私の靴ではありません」
本田さんが台本通りのセリフを言った瞬間、木之下さんが「ちょっとアンタ!」と言って本田さんの首に腕を回す。
おいおい。台本には、力ずくで継姉を止めるなんて書いてなかったのに……って、あーあ。虎の尾を踏んじゃったよ。
「意地悪な継母には罰が必要だよなぁ。確か焼けた鉄の靴を履いて、踊り狂って死んだんだっけ?」
魚谷さんは青筋を立てて笑っていた。継ぎの当たったエプロンドレスに着替え終えた花島さんは、怒れる親友の言葉に淡々と応じる。
「それは白雪姫の継母の末路よ……焼けた鉄の靴を用意するのは面倒だから、証拠が残らない方法で懲らしめましょう……」
木之下さんの友人の
「おほほほほ、ちょーっとお待ち下さぁい」
そう言いながら木之下さんは目を白黒させている本田さんを引き摺って、呆気に取られた面持ちの夾やすけっちから距離を取る。
「お、お母様。どうされました?」
「バカね、アンタ。見ただけで終わらせたらダメでしょう? いっぺん試しに履いてみなさい。もしかしたら、スポッと入るかもしんないでしょ?!」
「ええっ!? あの、でも、で、できません、そんな……私のものではない訳ですし」
「入りゃいいのよ、入りゃ。そして見事、玉の輿に乗れりゃこっちのもんよ!」
ニヤリと笑う木之下さんは、欲に塗れた継母を見事に演じきっている。アドリブを入れるのはいいけど、劇にかこつけて本田さんをいじめると後で断罪されるぞ。
「全部聞こえているんだけどなぁ……まだですかー?」
すけっちが大声で催促すると、木之下さんは愛想よく「はぁーい、今すぐ!」と返事をする。
「ほら、行くのよ、さっさと!」
「あ、あの、でも」
「ちょーっと、この子に履かせてみて下さい」
しゃがみ込んだ木之下さんは本田さんが履いていたヒールの低い靴を脱がせて、彼女の足にガラスの靴を押し込んだ。
継母らしい行動だけど、こんなのは台本に書いてないぞ。本来ならすけっちが「試しに履いてみて下さい」と言って、本田さんがガラスの靴を試し履きする展開になるはずだった。
「くっ……もう少しで入りそうなのにっ」
「お、お母様、痛いやも……」
本田さんは涙目になっていた。本田さんと花島さんは靴のサイズが同じだと劇の稽古中に判明して、捜索用のガラスの靴はサイズの小さいものを用意したからな。
見かねた夾が制止しようとした矢先、木之下さんが「ひぃっ!」と悲鳴を上げる。
「や、やめてっ! これは劇だから仕方なくぅ! ごめんなさいっ! 謝るから奴らを召喚しないでぇぇっ!!」
遂に、木之下さんに花島さんの制裁が下ったようだ。
須栗さんが「南を回収して」と指示を出す。黒子役の生徒がステージに素早く向かい、喚く木之下さんの肩を支えて舞台袖に下がった。
「えーと……悪い継母に天罰が下ったようです」
ろっしーは、須栗さんがスケッチブックに素早く書いたカンペを読み上げた。
「……帰るぞ」
劇を再開した夾を、本田さんが呼び止める。
「え……っ、お待ち下さい。まだお1人……シンデレラさんが……」
「よ~け~い~な~こ~と~を~っっ」
夾は本田さんの頬を、両手でぎゅむっと挟んだ。ステージでイチャつくなよ、おい。
「え゛ぇぇ、でも、あの、え゛と、その……」
「あっ、ちょっと王子っ。さっきの継姉のセリフは台本通りなんですけどっ」
ろっしーがナレーションで注意した時、花島さんがステージに向かう。
「乱暴はおよしなさい……お姉様に危害を加える者は、私が許さなくってよ……」
「シンデレラさん……っ」
頬を解放された本田さんが嬉しそうに呼ぶ。反対に夾は青ざめた。木之下さんが制裁を受けたばかりだからな。
ちなみに花島さんは軽いお仕置き程度の毒電波を浴びせたようで、木之下さんは発狂には至らなかった。それでも彼女は充分に心胆寒からしめられたようで、「ごめんなさい、ごめんなさい」と謝罪を繰り返している。本田さんに謝らないと意味ないと思うけど。
「そろそろ来る頃だと思っていたわ、王子……その靴は確かに私があの夜置いていったモノ……返しなさい」
「ここへ来た理由もわかっていてよ……お姉様に結婚を申し込みに来たのでしょう……?」
花島さんは台本Bのセリフを読み上げた。クライマックスのセリフが一部異なる台本Bは、夾と本田さんには配られていないので、本田さんは素で驚いて「え」と声を上げる。
「なん……っ、なんで、そ……っ。バカか、そんなわきゃねーだろ!!!」
顔を真っ赤にした夾は素で動揺している。大根役者な夾に
「いえ、一応そんな理由ですよ、王子。ここに来たの」
すけっちが当初の目的を思い出させると、夾は戸惑いながら「ちっ、違……っ、俺は、その……っ、そうじゃなくてっ」と言い繕った。
「じゃあ、まさか私と……? 悪夢だわ……」
「悪夢通りこして、地獄だコッチはー!! メーワクそーな顔してんじゃねー!!」
「貴方、一体何がしたいの……」
連続で声を張り上げて疲れたのか、夾は息を吐きながら「おまえこそ、何がしたいんだ……っ」と言い返した。
「ずぅっと……そうやって自分を誤魔化しながら……生きていくつもり……? お城の中で……お城の中に閉じ込められて……死ぬまで……」
花島さんがアドリブで付け足した後半のセリフを聞いて、僕は顔から血の気が引く思いがした。……花島さんは夾の行く末を、電波で察知したのか?
「――だったら何だよ。それで誰かに迷惑かけんのかよ。どうなろうが、俺の勝……」
夾の言葉を遮るように、1歩前に出た本田さんが切羽詰まった声を出す。
「私はっ、私はそんなの……そんな……の……」
台本Aには(ついでに台本Bにも)、この場面で継姉が言うセリフは一切記されていない。本田さんが本心から語っているのだろう。
「す……っ、すみません。なんでも……っ、なんでもないです。あの、お邪魔しました。どうぞ進めて、お話を進めて下さい……っ。すみませんでした……っ」
途中で我に返った本田さんは、謝りながら定位置に下がった。口元に手を宛がった本田さんは頬を赤らめ、そんな彼女を見つめる夾の頬も若干赤い。
なんだか甘酸っぱい雰囲気になっているけど、台本通りに進めなきゃいけないからな。
僕と由希が揃ってステージに登場すると、またしても歓声が響いた。
はいはい、これから僕がセリフを言うから静かにね。と言う代わりに僕が王笏を掲げた途端、水を打ったように静かになった。プリ・ユキのメンバーも口を閉じるとは思っていなかったな。劇に集中できるからいいけど。
「話は聞かせてもらった。王子のプロポーズは失敗したようだな」
僕が嘲笑しながら言うと、夾は怒りで口元を引きつらせながら「最初からプロポーズなんざする気は無かったんだがな」と言い返した。
「この魔法使いから、貴女の境遇を聞いたよ。貴女は辛い境遇にありながらも、健気に謙虚に暮らしていたらしいね」
多くの観客が「辛い境遇……? 健気に謙虚……?」と言いたげな表情を浮かべているけど、僕はそれを見なかった事にしてセリフを続ける。
「僕なら貴女に苦労はさせない。欲しいものは何でも贈ろう。どうか僕の妃になってほしい」
「ごめんなさい……」
ぐっはぁ!! ……台本通りのセリフだと解っていても、ダメージでかいな。
すけっちとろっしーが、憐れみの視線を僕に送ってくる。そんな目で見るなよ、余計辛くなるだろ!
「私はお姉様と、焼肉屋を経営するという夢があるの……」
「わかった。貴女が継姉と共に焼肉屋を経営できるよう、僕がサポートしよう」
「ありがとう、王様……」
花島さんは微笑んでお礼を言ってくれたけど、さっきのダメージが大きすぎて素直に嬉しいと思えない。燃え尽きた僕に代わって、由希がセリフを言う。
「では、王子も焼肉屋の経営をサポートしてあげなさい」
「なんで俺もやらなきゃいけないんだよ! おまえがサポートしてやりゃいいだろ」
「俺はシンデレラの願いは叶えてあげたけど、王子、おまえの願いはきかない。自分の力で叶えてみせろ」
後半のセリフは由希のアドリブだ。夾は眉を吊り上げて「……なっ」と言いかけたけど。
「「「「厳しくも優しい魔法使い様、素敵……っ!!」」」」」
由希を賞賛する声が、体育館のあちこちで響いた。ステージに出てきた2‐Dのプリ・ユキのメンバーと、観客席にいたプリ・ユキのメンバーと由希の信奉者とかだ。感涙を浮かべる木之下さんは、花島さんの制裁からもう立ち直ったらしい。
「こうして国王や王子とは別の道を生きる事になってしまいましたが、焼肉屋は大繁盛。結婚に依存せずとも女は強く生きられる事を証明したシンデレラは、いつまでも倖せに暮らしたそうです」
ろっしーが物語を締め括るナレーションをする中、演出役の生徒が大団円を盛り上げるようにステージに紙吹雪を降らして、緞帳が下りていく。
ステージと観客席にいるプリ・ユキのメンバーが、「まほーつかいさまぁぁ」と黄色い声を上げたせいで最後がグダグダになったけど、『シンデレラっぽいもの』は終幕した。
▼△
舞台袖に下がった僕は劇が終わった余韻に浸るはずだったけど、それどころじゃなくなった。
なんで、師範が
「初めまして……
「はい、そうです。貴女は夾の相手役の……」
「はい……あ……紹介が遅れました。花島咲です、どうぞよろしく……」
自己紹介しながら師範を見上げる花島さんは、見た事がないほど可憐な微笑みを浮かべていた。おまけに上品で愛想のいい話し方をしている。普段の淡々とした無愛想な口調は、どこへ行ったんだろう。
「
「ししょ……っ、ど……っ、な……っ」
衣装を脱ぎかけた夾が、よろけながら師範と花島さんの処に近づく。
和服姿の師範はにこやかに、「やぁ、夾。お疲れ様」と声をかけた。師範……夾がよろけているのは、劇で疲れたからじゃないよ。
「お疲れ様……」
は、花島さんが優しげな笑顔で夾を労った……だと? HAHAHA、そんなバカな。目の錯覚に決まっているさ。
「私……今日の舞台は相手役が彼だったから、成功したと思うんです。
これは悪夢だ、そうに違いない。僕の花島さんは「夾君」なんて呼んだりしないし、夾に対してお礼なんて言わないし、良妻スマイルなんか浮かべなぁぁぁい!!!
「それでは着替えに戻りますので……ご縁がありましたら……また」
「ええ……また。可愛らしい同級生だね」
もしかして師範はロリコンか……と思った時、足を止めた花島さんに睨まれた。ごめんなさい冗談です。
「師匠……っ、結婚しないでくれ……っ」
よく言った、夾! 師範はほんわかした笑みを浮かべて、夾のオレンジ頭をよしよしと撫でながら話しかける。
「なんだい? 突然そんな事言って……夾もまだまだ子供だね、あはは」
「あ゛ー、もうボケボケだ、このオヤジはー!! 喜ぶ場面じゃねぇーっっ!!」
怒鳴りながらも、夾は照れて顔が赤くなっている。
親バカ子バカを眺めていたら、ろっしーとすけっちが僕のマントを軽く引っ張って小声で聞いてくる。
「あの人がカズマさん?」
「そーだよ」
「……けんけん、頑張れ。けんけんの方が年齢的に有利だよ」
「……けんけん、ファイト。けんけんの方が……えーと、とにかくファイト」
僕と師範を見比べたろっしーとすけっちは、励ましの言葉をかけてくる。すけっちの言葉は、励ましになっていなかったけどな。